2016年7月26日火曜日

書評: これならわかるコーポレートガバナンスの教科書


2015年はコーポレートガバナンス元年と呼ばれた。そう呼ぶ一つのきっかけとなるコーポレートガバナンスコードなるものも同年に発行された。コーポレートガバナンスの強化はアベノミクスの「第三の矢」を支える重要な施策の一つにもなっている。日経新聞でコーポレートガバナンスという文字を見かけない日はほとんどない。さて、この「コーポレートガバナンス」とは一体、何ものなのだろうか?

著者: 松田千恵子
出版社: 日経BP社


私が本書に手をだしたのには2つの理由がある。1つ目は、Kindle版があったためだ。得てしてこういう本は大きく・分厚く、持ち歩くのに不便だからだ。2つ目は、もともと扱うテーマ自体が難しく面白くないものなので、分かりやすさが何よりも大事だと思ったからだ。タイトルが決め手になった。

⚫️コーポレートガバナンスのイロハ
本書には、コーポレートガバナンスのイロハが書かれている。イロハとは、具体的には次のようなものだ。
  • コーポレートガバナンスとは
  • コーポレートガバナンスが必要な背景
  • コーポレートガバナンスに関する要求事項と対応の要諦
  • グループ会社へのコーポレートガバナンスの効かせ方と要諦
なお、コーポレートガバナンスの要求事項とは、コーポレートガバナンスにおいて企業がどう取り組むべきかを示した法規制やガイドラインなどのことを指す。本書では、この点について冒頭でも触れたコーポレートガバナンスコードにスポットライトを当てている。

※コーポレートガバナンスコードとは、2015年6月1日に施行されたもので、上場企業がコーポレート・ガバナンスにおいて、遵守すべき事項を規定した行動規範だ。

⚫️入門書ながら、痒いところにも手が届く本
本書の特徴は、分かりやすさだ。良くタイトルだけ「わかりやすい」とか、「入門」とか書いてありながら、中身は実は「わかりづらい」という本も無数に存在するが、本書はその類ではない。難しい言葉を噛み砕いて説明している。分かりやすいって具体的にどんな感じだろうか?例えば、コーポレートガバナンスという用語の解説を次のように行っている。

『この 「ガバナンス 」を 、企業について考えた場合が 「コ ーポレ ートガバナンス 」です 。企業の舵取りを 、関係者間でいろいろと考えていこうよ 、ということです 。 「企業統治 」などと訳されるコ ーポレ ートガバナンスですが 、単に 「株主の言うことを聞け 」という上意下達的な支配をさすのではなく 、関係者の間で企業の舵取りをどうするかを考えるということなのですね 。』(出典: これなら分かるコーポレートガバナンスの教科書より)

また、意外に痒いところに手が届く内容にもなっている。なんていうか、こう、昨今、企業経営をするにあたり、ありがちな壁や悩みについて、触れてくれている。「社外取締役を入れても、時間の限られた取締役会にもにすごく議題を詰め込みすぎてうわべだけの議論で終わってしまう」という話。「中計の策定と言いながら、実際は数字合わせや調整だけで終わっている」という話。「海外子会社を管理するにあたりついつい、海外事業統括に任せてしまう」という話。どれもありがちで、実際に企業が抱えている課題である。本書がアカデミックの書ではないことの証明でもある。

ただし、一点、課題解決のヒントは書かれているが、課題解決のステップを事細かに書いてくれているわけではないという点にだけ留意が必要だ。

⚫️会社勤め人なら知っておきたい世の中の仕組みの1つ
著者曰く、本書のコンセプトは「難しそうな論議ばかりが満載されているようにみえるガバナンス分野について 、法律や規則の詳細にこだわらず 、専門的な見地にも立たず 、社外役員などの経験も踏まえながら 、実務において直面する様々な課題を 、企業のミドル層と一緒に考える 」といったものだそうだ。まさにその通りの印象を受けた。

コーポレートガバナンスを知っておくべき立場の人、すなわち、経営コンサル、会社経営者、その候補者、監査役・社外取締役になる人、買収のブレインになる部門の人(経営企画部や財務部など)、海外駐在する人などは、ぜひ目を通しておいたほうがいいだろう。いや、本当は会社勤めをするなら、会社の仕組みくらい知っておきたいものだ。


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