2016年7月21日木曜日

書評: 人間の分際

最近、日本はいろいろなことが窮屈になってきている気がする。いろいろなことが100:0の社会になってきている。そんなに世の中って、シロクロはっきりしてるものだろうか。できるものだろうか。そんな疑問に答えてくれる。こうした世の中の変な偏り方に気づかせてくれる。それが曽野綾子だと思う。彼女の作品「人間の基本」では、次のようなことを述べている。

『以前、人に進められてある宗教団体の教祖の自伝を読みかけましたが「とにかく自分は哀れな人を救うのが好きで、幼い時から自分は食べなくても人には食べさせた」というような記述が延々と続いて、どうしてもついていけませんでした・・・(中略)・・・良いことは結構だが、良いことだけでもやってはいけない、という気がしてしまいます。周りを見渡してみても、自分を含めて皆いいかげんで、おもいつきで悪いことをしたり、ずるをしたりする。でも、いいこともしたいんです。その両方の情熱が矛盾していない。それが人間性だと思うのです。』(曽野綾子 人間基本より)

曽野綾子氏の本を読むと、こうした変な偏りに気づかせてくれる。補正してくれる。まさにこの理由で次の作品を読んだ。

人間の分際
出版社:幻冬舎文庫



人生観。過去の作品のとりまとめ集。過去作品の中で曽野綾子氏自らが語ったことを、「人間が自分の分際をわきまえていると思えるもの、思えないもの」というテーマでまとめなおしたものだ。冒頭でも触れたが、世の中に「それはシロだ!」「それはクロだ!」と主張する人がたくさんいるが、「人生はそんなシロクロで分けられないことばかり。それを認めた上で世の中を見直すと、自分の人生がより幸せになるのでは?」と教えてくれるのが本書だ。

『女子バレーを率いて金メダルをとらせた大松監督が「為せば成る」と言ったことが、世間に大ヒットした...(中略)...しかし「私は騙されないぞ」と思った。「為せば成る」なら、どうして多くの日本人が命をかけて戦ったあの大東亜戦争に負けたのか。』(人間の分際より)

曽野綾子氏は言う。「為せば成らない」と受け止めることで、悲劇が避けられるかもしれないし、もし何かやって失敗しても、仕方がなかったと受け止めて心が楽になれる。」と。

ところで、本書の巻末を見ると出典元の本・コラムの数だけでも優に60を超えてそうだ。どんだけ書いてるのだ!? この人は? とびっくりする。逆に言えば、この本1冊にどれだけのものが凝縮されているかがわかるわけで、それだけ本書のお得感を感じさせる。

ちなみに、曽野綾子は敬虔なカトリック信者だが、文中の引用の中にそういった影響も垣間見える。かと思えば宗教色が全面に出ているわけでもなく、むしろ彼女が学んできた人生観を解説する際にカトリックの教え一部が自然に重なってきた...とそんな印象を受ける。宗教の凄さを感じるとともにカトリック教も悪くないな、と思った(入信する予定はないけど)。また、宗教の意義についても、ハっと気が付かされることがあった。神の存在がなければ、この世界には自分と他人しかいないわけで、そうなると「あいつのほうが恵まれている」「私のほうが恵まれている」といった常に二者の比較になる。その比較は不幸・不満を生む。ところが、そこに神という第三者がいるだけで、「神が決めたことだから」「神が私に与えたつらさなのだ」という考え方も生まれる。なるほどな、と思う。

さて、本書は、次のような人たちが読むべきものだろう。

  • 不公平に怒りを感じてる人 → もう少し上手な生き方を学べます
  • 自分は本当に不幸だと感じている人 → 逃げ道を見つけられます
  • 年配者 → 自分がそういう罠に陥ってないか、ハッとさせられます
  • 若者・バリバリの勤労マン → 勝つことがすべて、正しいことが全て、と思いがちな自分に喝を入れられます

【類書】


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