日本で一番社員満足度が高い会社の非常識な働き方
山本敏行著(ソフトバンク クリエイティブ社)
いきなりだが、みなさんは”マインドマップ”ってご存じだろうか。頭の中で考えている(文章や声の形でアウトプットしづらい)ことを、そのままの直感的な図解の形ではきだすことで、整理や発想、理解力の向上を助けてくれる思考方法だ。
以前、どこぞの若手社長が、この手法を製品化した「マインドマネージャー」というIT製品を動画で紹介していたのを見たことがある。その紹介が、単に「この製品はいいですぜ」というものではなく、どういう場面で、どうやって活用することで、日々の生産性を高めることができるのかについて、懇切丁寧に説いていた。その内容が面白く、またそのマーケティング手法に感心して、印象に残っていた。実際に、それ以後、自身もその製品を使うようになった。そして、この動画を見て以後も、ツイッターや日経コンピュータ、ワールドビジネスサテライトなどで、その若手社長をちょくちょく見かけるようになった。それでその存在が気になって仕方がなかったのかもしれない。その社長が、この本の著者である。
彼が運営する会社、EC-Studioは、日本で100社ほどが毎年受けているという「社員満足度診断(Employee Motivation Survey)」で2年連続一位に選ばれたそうだ。満足度一位・・・すなわち、彼の会社が急成長してきた理由を具体的に紹介した本である。
「全社員にiPhone支給」「顧客に会わない」「電話を受けない」「社員をクビにしない」「売上げ目標に固執しない」「21時に強制退勤」「社長とランチ」「プレイステーションでテレビ会議」・・・本にはこれまでに彼が会社で実践してきたユニークなアイデアが全て紹介されている。
これらの中には、明日からすぐにでも自分の組織で実践できそうなものもたくさんある。わたしが気に入ったのは「ランチトーク制度」だ。組織が大きくなりはじめると、部下となかなかコミュケーションをする機会を持つことが難しくなる。実は、私の会社でもそうだ。そんなコミュニケーション不足を解消するため、ランチを部下と一緒に食べよう、ただし、費用は会社持ちで・・・というのものだ。部下とランチを食べる・・・この考えはありがちだが、”コミュニケーションを図るために”という大義名分で部下をランチに誘う以上はそれは会社として費用を負担すべきだ、というのは至極もっともである。
この本は、「どうやったら会社を良くできるか悩んでいる人」や「これから会社を起業しようけど、どういった会社作りを目指そうか」と考えている人に、非常にタメになる本だと思う。実際、私自身が起業家だが、気になって折り目をつけた箇所が11カ所もあった。自分の会社でいくつかは実践できたらな、と思っている。
ただし、この本に載っているテクニックをコピーするだけでは、本当の意味での良い会社を作ることはできないと思う。著者が、自分の会社で役だったもの・実際に実践しているもの、をあますところなく、紹介していること自体がそれを裏付けているのではないかと考える。つまり、そのように広く公開できるのは、それ(テクニック)自体が会社のコアコンピタンス(強み)ではないからだ。テクニックは、強みから生まれてきたものにしか過ぎない。EC-Studioの強みは、このようなテクニックを醸成することができる文化であり、人・組織を持っていることだ。その文化の醸成は、一朝一夕でできるものではないし、既にある一定の文化を形成してしまっている大きな組織では、取り入れることは難しいだろう。
しかし、この本にヒントは提示されている。「この提示を受けてどうするか」・・・その大きな課題解決は、私を含め、実際に現場に立ち向かう経営者自身に託されている。
【類書】
・ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社(岩崎裕美子著)
1 件のコメント:
たまたま読んでいたVOICE2月号にて、坂本光司氏が「浪花節経営が奇跡の会社を作る」という記事の中で、この経営者と同じようなことに価値を見いだしていることが興味深かった。記事中、決して成長市場とはいえない寒天業界で50年近く増収増益を果たしてきた奇跡の会社、伊那食品工業株式会社を紹介している。この会社の社是が面白いらしい。
「いい会社を作りましょう」・・・それだけだそうだ。「いい会社とは単に経営上の数字ではなく、会社を取り巻く全ての人々がいい会社だね、といってくださるような会社のことです。そこにいい会社を作る真の意味があるのです。」との補足がつくらしいが。
いいかえると「企業は企業のためにあるのではなく、企業で働く社員の幸せのためにある」ということだ。
いよいよ自分も自分の会社のあり方についてもう少し考えなおさなければいけないなぁ・・・と感じる今日この頃。
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