2015年8月11日火曜日

書評: 孫正義の焦燥

“焦燥”を読んで、やや“安心感”を覚えた。

孫正義の焦燥
著者: 大西孝弘
出版社: 日経BP社


ソフトバンク社長孫正義氏の2014-2015の動向にフォーカスし、そのときの背景や孫正義氏本人の心情について描いた本だ。孫正義氏本人へのインタビューはもちろんのこと、本人が尊敬しているという数少ない経営者の一人、ファーストリテイリング柳井正会長兼社長や、日本電産永守重信会長兼社長、その他、ソフトバンクグループを支える主要関係者へのインタビュー内容が反映されている。

そもそもなぜ私が本書に手を出したかと言うと、最近、孫正義氏のプレゼンスが少なくなったなと感じていたからだ。スプリント買収以後、アメリカの方にずっと行っていることが多いせいかもしれない。以前は「そんな時間どこにあるんだ!?」と思ってしまうほど、ツイッターでもつぶやいていた孫正義氏だが、最近はめっきりといった感じ。日本随一の経営者が今は何を考えて行動してるんだろうかと気になっていたところに本書の次のような帯が目に飛び込んできたのでつい買った。

・アメリカから撤退するのか
・脱原発なのに東京電力と連携のワケ
・ニケシュは孫正義2.0になれるのか
・ロボット「ペッパー」発売延期の深層
・ヤフー「爆速経営」失速の主因
・足取りが重いのには理由がある
・「五番街のマリーへ」に込めた思い

で、早速読んで見たわけだが、「おー、孫さんの生き急ぎ姿勢はまだまだ変わってないなー」というのが第一印象。年取って、なお、攻め続ける姿勢に安心したと同時に敬服の念を抱いた。私が安心した・・・というのも変な表現だが、やはり、日本を代表する経営者に、世界を代表する経営者になって欲しいという勝手な期待をのせているからだろう。

この意味で、本書を買って一番良かったと思えることは、孫さんや柳井さんなど、全速力で疾走するパワーに触れられたこと。経営手法だとか、新規事業立ち上げのノウハウだとか、そういったヒントは別にないが、ビジネスの先頭の方を走る経営者の息吹に触れることができて、自分も頑張らなきゃと・・・そこだけは強く思わされた。さすがに全く同じマネはできないが、自分の人生のゴールをもう少し高めに設定しないといけないかな。

ただし、やや冷静に本書を見返してみると、知らなかった情報が満載・・・というものでもない。たとえば、本の帯には「アメリカから撤退するのか」とあったが、その問いかけに対し、本書を読んでみても結論が出ているようで出ていない感がある。それは本を読む前に抱いていた感情と一緒だ。また、「ヤフー「爆速経営」失速の主因は?」という問いかけに対しても、特にはっきりした答えが書かれているようには感じなかった。もちろん、知らなかったことも書かれているが、本の帯に書いてある真相全てに迫れると思うのは過度な期待だ。

自分の人生観が、孫正義とどれだけ違うのか、それを埋めるためにはどれだけのスピード感が必要なのか・・・そのギャップを知りたい人、あるいは私のように少しでもやる気をもらいたい人に向いた本だと思う。


【孫正義氏に関係ある類書】
あんぽん ~孫正義伝~
爆速経営 新生ヤフーの500日

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