2015年8月17日月曜日

書評: プロフェッショナルシンキング 未来を通す思考力

ビジネスマンの知的好奇心をくすぐる本だ。

プロフェッショナルシンキング
~未来を見通す思考力~
監修:大前研一、編:ビジネスブレークスルー大学、著:宇田左近、平野敦士カール、菅野誠二
出版社:東洋経済新報社

※レビュープラスさまからの献本です

一企業のみならず、日本人全体が“戦略的思考力”に弱いとは、私自身、日々感じるところだ。たとえばISOマネジメントシステム規格(ISO9001、ISO14001、ISO27001など)は、ほとんどがイギリス発だ。ところが、その規格を最もとりこんで使っている国は日本だ。欧米はルール作りにたけており、日本はルールの運用にたけている・・・そう言うこともできるが、悪く言えば、日本はルールを作ろうとするのではなく、(どんなに不利なルールであっても)与えられたルールの中で戦おうとばかりする・・・。野中郁次郎氏が著書「失敗の本質」の中で、先の大戦において日本の戦略は無きに等しかった・・・と結論づけたが、悲しいかな、その傾向は70年経つ今もそれほど変わっていないように見える。

だからこそ、私は“戦略”について、日本人みんなが、もっと勉強し、もっと考えるようになればいいと思っている。

そして、まさにその“戦略”について語った一冊が本書である。これは事業戦略を考えるのに有効な思考方法について、ポイントを解説している本だ。但し、厳密には戦略立案そのものというよりも、その土台となる未来予測・・・この捉え方に焦点をおいている。大前研一氏が「大前研一 日本の論点2015-2016」をはじめ、数々の著書の中で、これからの日本社会の進むべき道について考えを共有してくれているが、まさにああいった際の未来予測につながるテクニックを紹介している本と言えるだろう。

戦略・・・というとすぐにフレームワークという言葉を思いつく人もいるだろうが、本書は、役立つフレームワークを「いかに数多く提供できるか」に力点をおいたものではない。また、著者が経験から編み出した一つの確固たるアプローチをステップバイステップで紹介する本も良くあるが、そういった類いのものでもない。ある意味、その中間に位置する本と言えるだろう。「未来予測」に役立つ特に役立つであろう代表的なフレームワークをとりあげ、実際の企業を使った分析を披露しつつ、フレームワークの活用方法や有効性について解説してくれている。

フレームワークがたくさん紹介されていても、実際にはそれを使えるようになることが重要なわけで、その点を考えれば、本当に使えそうないくつかに焦点を絞ってくれている点には実は有り難い。ちなみに本書には6C分析というフレームワークが登場するが、これは私はあまり使ったことがないものだったので、参考になった。

ところで、編者のところにビジネスブレークスルー大学とあることから、プロモーション(勧誘)本ということになるわけだが、世の大半はそういったことを目的としたものばかりだし、仮に、それが目的だとしても、役に立つかどうかが重要なハズだ。その点では、本書においては勧誘するようなウザったい文言はほぼ皆無だし、かつ、解説も上辺だけの薄っぺらい内容で終わっていないので、それなりに評価できる。

総じて、難解すぎず、オタク過ぎず、分量多すぎず・・・適度にバランスがとれている本だ。そのためか、読み終えった後は、なんか役立ちそうなことを学べたな・・・という適度な高揚感があった。今自らが携わっているいくつかの事業について、再度、見直しをかけてみようかな・・・とか、今後、新規に企画しようとしている事業を企画する際に、本書のことを少しは思い出してみようかな・・・と感じた事実は正直に認めておきたい。冒頭で触れたように日本人は戦略的思考に弱い。過去に似た本を読んだことがあっても、こうした類いの本はバンバン読んでおきたい。


【戦略という観点での類書】
失敗の本質(野中郁次郎ほか)
戦略の本質(野中郁次郎ほか)
戦略プロフェッショナル(三枝匡)

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