2014年1月18日土曜日

世界地図の下書き

彼を初めて知ったのは、情熱大陸という番組でのことだ。平成生まれの直木賞作家であり、サラリーマン。会社員生活の合間を縫って”リアル”を描き続ける作家がそこにいた。早朝に出勤して、近くの喫茶店でパソコンをカタカタたたく。小説を書く。素直に、かっこいいし、うらやましい、と思った。自分がそういう生活にあこがれていたからだ。そんなやつの本ならぜひ読んで見たいと思った。

世界地図の下書き
著者: 朝井リョウ
出版社: 集英社



■懸命に居場所を見つける子供たちの物語

本作品はフィクション小説だ。

舞台は、児童養護施設「青葉おひさまの家」。主役は、その施設に、昨日やってきたばかりの小三、大輔。そして大輔が入った一班の仲間、4人。5人のまとめ役、中三の佐緒里。淳也(小三)とその妹、泣き虫だけどいつも元気いっぱいの小一、麻利。ちょっと大人びた小二、美保子。大輔をはじめ、みんなそれぞれの事情があって外の世界に自分の居場所を失い、この施設にやってきた子供たちだ。この5人は本当に仲が良かった。そこに自分たちの居場所を見つけたのだ。

しかし、時は流れる。状況は、変化する。居場所も、変わる。そのとき、5人は・・・。

■何気ない物語に秘められた圧倒的パワー

この本は、まるで小宇宙(コスモ)だ。我々の生きるということの本質が、ものの見事に、この本一冊に凝縮されている。子供の世界を描いた物語だから、大人の自分とは縁遠い話と思ったのだが、いやいやどうして。この本に描かれている子供の世界観は、実は、そっくりそのまま自分たち大人の世界にピッタリと当てはまる。

そして、本書を読み終えて感じるのは”勇気”。淡々と進む物語の中に、明確なメッセージが埋め込まれており、読み終えたときにそれを実感するのだ。

■リラックスして読めて、そして元気になりたい方に

力まずリラックスして読める本が欲しい。そして、勇気づけられる、元気になる本が欲しい・・・という大人には、本書がおすすめだ。

それにしても、私は彼の本はまだ一冊目だが、本作品に朝井リョウの流儀を垣間見た気がした。いや、朝井リョウの生き様そのものが、本作品の作風と重なった・・・というべきだろうか。サラリーマンという平凡な人間を装いながら、直木賞をとるというとんでもないことをやってのけるヤツ。淡々と進む何気ない物語のように描いておきながら、そこに”生きることの本質”の全てを凝縮させてしまおうとしているヤツ。”何気なさに秘める凄さ”。彼の美徳感なのかもしれない。

わたしの朝井リョウに対する興味は続く。ぜひ、他の作品も読んで見たい。

2014年1月13日月曜日

書評: 巨大災害のリスク・コミュニケーション

「生き残る判断、生き残れない判断」の著者、アマンダ・リプリー氏は、その著書の中で、次のように述べている。

『911では生存者の少なくとも70パーセントが退去しようとする前に、他の人と言葉を交わしていたことが連邦政府の調査で分かった。生存者は何千本もの電話をかけ、テレビやインターネットのニュースサイトを確かめ、友人や家族にメールを送った。』

良い・悪いは別にして(おそらくこれがために避難が遅れ多数の死者が出た、という意味では良くなかっただろうが)、災害時のコミュニケーションが人の生死を分けるといっても過言ではない


巨大災害のリスク・コミュニケーション ~災害情報の新しいかたち~
発行元: ミネルヴァ書房


■東日本大震災以後の災害時のコミュニケーションのあり方を考える

本のタイトルは「巨大災害のリスク・コミュニケーション」。「巨大災害」とは、地震と水害のことを指している。そして「リスク・コミュニケーション」とは、防災情報の伝達内容やタイミング、伝達手段のことだが、ここには2つの意味が込められている。1つは、災害が発生する前、または災害が発生したときに、とるべき人の命を守るためのコミュニケーションのことだ。もう1つは、それらコミュニケーション自体がもたらす弊害(コミュニケーション・リスク)のことだ。

あらためてまとめると、地震や水害が起きる前、または、起きた直後にとる、人の命を守るためのコミュニケーションの功罪を認識し、課題を特定し、解決策を追求したもの・・・それが本書である。

具体的にはたとえば、以下に示すようなテーマがカバーされている。

「なぜ、逃げないのか?」
「なぜ、逃げるのが遅れるのか?」
「なぜ、悲惨な体験が風化してしまうのか?」
「なぜ、ヒヤリハットが生かされないのか?」
「なぜ、想定外は起こるのか?」

■意外と曖昧にされがちな課題に立ち向かう

本書最大の特徴は、「人の命を守るためのコミュニケーション」という、重要ではあるが、そう簡単に答えが見つからない・・・いや、誰も答えを持ち得ない”重いテーマ”に関して、逃げずに、掘り下げようと努めている点だ。たとえば、従来であれば、以下に示すような平易な答えに落としどころを求めるような本が多かったのではないかと思う。

「色々あるけど、要するにもっと避難基準を明確にして周知徹底しておくことだよね」
「避難指示の語気をもっと強めに変えるべきだよね」
「いやいや、結局は継続的な避難訓練につきるんじゃないかな」

著者は、そこからさらに一歩踏み込む。

『さて,たとえば,”昨夜からの大雨で,XX側は破堤の危険があります。早めに指定の避難所に避難してください”という情報を考えてみよう。このメッセージは,以下のような,さまざまなメタ・メッセージ(意図しない別の意味)を随伴しうるし,実際に伴っていると著者は考える。一つには,”避難というものは,このようなメッセージを受け取ってから,言い換えれば,メッセージを待ってするものだ”というメタ・メッセージ(意図しない別の意味)である。言うまでもなく,これが,”情報待ち”として指摘される問題群の元凶であろう。』(本書 「第Ⅰ災害情報の理論」より引用)

簡単に言えば、ここで著者が指摘しているのは「指示を出す側が頑張って、立派で明確な指示を出すように努力すればするほど、指示を受ける側がその指示なしでは動けないようになってしまう」ということだ。そしてそれが大きなリスクになるのだ、と。想定どおりの事態が起こってくれればまだマシだが、そうとは限らないし、常に想定通りに指示を受け取れるとは限らないのだから。もちろん、避難指示を出す人や警報装置、避難基準を示した防災マニュアルなどの一切を否定するわけではないが、こうした災害時のコミュニケーションがもたらすデメリットについて理解しておかないと、結局は、真の対応力の向上につながらない・・・そういうことらしい。

そして、そういったデメリットを穴埋めするにはどうしたらいいか・・・。著者は、深掘りをすすめていく。ちなみに、著者が出している答えの一つは「指示を出される側・・・に、ホンモノの防災活動をさせること」だそうだ。常に「誰かが~してくれる。してもらえる。」という意識をなくす活動をしていかなければ、どんなに立派なハードをそろえても、効果が半減する、ということなのだろう。

■あるべきコミュニケーションを具現化するのは読者自身

本書を読んでいて感じるのは、前段で述べたように”深掘り”をしているだけに、人の命を守るための本質に迫った本である、ということだ。逆に言えば、”これ”といった答えがない。「○○のツールを入れればいい」とか、「○○訓練をすればいい」とか、「○○マニュアルを作ればいい」・・・といったような、分かりやすい答えは、どこにもない。

むろん、こうした活動に通り一遍の答えがあるほうがおかしいのだから、当然といえば当然だとは思うが、それにしたって「やはり、具体的な、解答例が欲しい」という方には、本書は向いていないだろう。本書が向いているのは、あくまでも、人の命を守るための本質を理解した上で、みずからの発想で、自分なりの答えを見つける用意がある人だ。


【防災という観点での類書】
生き残る判断生き残れない行動(アマンダ・リプリー著)
地域防災力を高める(山崎登著)

2014年1月5日日曜日

気になる著名人の言葉


日経ビジネス2014年1月6日号の特集は、THE 100 〜2014 日本の主役〜。以下、備忘録的な感じになって恐縮だが、著名人たちの言葉の中にいくつも印象的なものがあったので(一部、雑誌の趣旨とは異なるが)、ぜひ挙げておきたい。

【稲盛和夫】
いったんこの世に生を受けた以上、世のため人のためになるようなことをしようじゃありませんか。私たちは、皆、何かをなすために生を受けています。それに気がつかないのは、虚しいじゃありませんか。

【柳井正】
優れた経営者の本質は、世界で変わることはありません。つまり、それらを追及すれば、皆さんの会社も世界的な企業になる可能性がある。

【大木聖子(地震学者、慶應義塾大学准教授)】
津波は50センチでも人は歩けなくなる。LEDライトとホイッスル、枕元に置くスニーカーが命を守る。

【シェリル・サンドバーグ(Facebook CEO)】
完璧を目指すより、まず終わらせろ。

【児玉清】
人間は人生の終わりが見える年になると努力をしなくなる。だから50歳から努力した者が伸びるのだ。

【南場智子(ディー・エヌ・エー創業者)】
空気を読んで周囲の人に合わせる時代は終わっています。解答欄に正しい答えを書く、質問に対し期待されている回答をする。日本ではそういう「間違わない達人」が多いですが、それで世界で勝つことはできないのです。


さぁて、2014年はこうした心に残る言葉を大事にしつつあった「情熱と思いやり」を自分のキーワードにしてがんばるぞー。

2014年1月2日木曜日

書評: 住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち

妻がイギリスの市民病院で妊娠・出産したときのこと。日本では妊娠8週目から出産間際まで頻繁にエコー写真を撮るが、イギリスでは出産までに3回程度しか撮らない。日本では出産後1週間近く入院しているが、イギリスでは翌日に退院するというのは珍しくない。イギリスの医療はなんてひどいサービスなんだ、と思ったものである。その後、現地在住の日本人医師とこの件について意見を交わしたとき、彼はこういった。「イギリスの方が合理性という点では理にかなっている(つまりそんな頻繁に写真撮っても出産の成否には影響しない、という意味だ)。それに出産は”病気”じゃないんだから、1週間も滞在している必要はないのさ」と。どちらの国が良い・悪いは別にして、なるほど「外国に住むと見識が広がる」ってこういうことなのか・・・と実感した瞬間だった。こんな感じで日本にいながらにして、そんな見識の広がりを持つことのできる本がある。

住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち
著者: 川口マーン恵美
発行元: 講談社プラスアルファ新書



■ドイツと日本の良い面・悪い面を比較紹介した本

本書は、ドイツ在住30年の日本人が、ドイツと日本の良い面・悪い面を比較紹介した本だ。著者は川口マーン恵美氏。彼女は大阪で生まれたれっきとした日本人女性であり、これまでにドイツに関わる書籍を何冊も書いている作家さんだ。彼女のことを知らない人は「いったい何者?」「徒然なるままに書いた生活エッセイ?」「そんな人が書いた本がおもしろいの?」と思うかもしれない。事実、私もそのような懐疑心を持ちながら本書を手に取った一人だ。が、これがなかなか・・・いや、かなり読み応えがある。

日本の学校にはクラブ活動があるが、ドイツには教師のやる気の問題もあって存在しない、という話。日本では何事も選択肢試験が多いが、ドイツでは筆記試験など丸暗記では太刀打ちできない試験が圧倒的に多い、という話。日本では、年配者がスーパーの駐車場の前で車の誘導をしている姿を良く見かけるが、ドイツではそのようなことをするドイツ人を絶対に見かけない、という話、等々・・・その違いを読んでいるだけでも、驚きの連続である。

■幅広い分野における比較と鋭い考察が本書の魅力

比較は特定分野にとどまらない。教育分野を皮切りに、政治、社会、ビジネス、経済、生活へと話は広がる。たとえば、政治では領土問題の話が登場する。日本の「尖閣諸島」のような話がドイツにもあるのだ。また、社会では原発問題が取り上げられている。ドイツは日本のフクシマ事故にいち早く反応した国の一つである。距離は10,000キロ近く離れているが、原発問題への認識の高さは日本のそれに近い。さらに、ビジネスにおいては勤務時間に対する意識の違いについて言及されている。「日本の常識がドイツの非常識」と言える典型がそこには存在する。そのほか、経済では関税の話、生活では公共交通機関の話など、テーマは多方面にわたる。

比較に加え、著者の鋭い考察も本書を魅力的なものにしている要因の一つと言えるだろう。たとえば、ビジネスマンがとる有給休暇について次のような話が登場する。「日本人は1回あたりせいぜい数日間の休みをとる程度だが、ドイツでは3週間まとめてとる人が多い。しかも病欠=有給消化にはならない。」

単純に比較すればどう考えてもドイツの圧勝だが、コトはそう単純ではないらしい。ドイツ人のきまじめ気質がアダとなって休暇と言えど、みっちり休暇プログラムを組むため、休暇はリラックスにもリフレッシュにもなっていない。昨今、ドイツ人の間に燃え尽き症候群が広まっているらしいが、実はこの休暇が原因になっているのではないか、とは著者独自の見解。納得感のある鋭い指摘だと思う。

■グローバル力を身につけるための良書

ドイツと日本の違いを理解することで、”いいとこどり”をできるのが、本書が我々にもたらす意義の1つだと思う。著者曰く、ドイツでは小学校のときからペンで書かせるのだそうだが、これは文章を書く良い訓練になる、と言う。消しゴムを使えないということは、頭の中であらかじめ文章がまとまっていなくては書き始めることさえできないからだ。ならば、我が子にそういった機会を与えることを考えてみても良いかもしれない。

本書のもう1つの意義は、グローバル力を身につけるためのインプットになりえるという点だろう。わたしは真のグローバル力とは、世界の人とコミュニケーションができる力だと思う。そしてコミュニケーション力の中には、自分の国の良さを海外の人に伝えられる力も多分に含まれていると考える。本書を読めば、まさに日本にいながらにして日本の良さを理解できるのだ。本書のタイトルにもあるように、ドイツと日本を同じように深く知る著者が冷静・客観的に比較して出した答えが「8勝2敗で日本の勝ち」というのだから、日本の良さを知るのにこれほどうってつけの本はないのではなかろうか。


【海外から見た日本という観点での類書】
イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!(渡辺幸一著)

2014年1月1日水曜日

2013年に読んだ本を振り返る

あけましておめでとうございます!

ちょっと遅れたが、2013年に読んだ本を軽く振り返っておきたい。2013年に読んだ本は全部で42冊。いま、はじめて知ったが、昨年とほぼ同数(2012年は43冊読んでいた)だ。

○ 2014年、中国は崩壊する(宇田川啓介著)
墜落の夏 ~日航123便事故全記録(吉岡忍著) ★3
現実を視よ(柳井 正著)
地図から読む歴史(足利健亮著) ★4
結果を出すリーダーはみな非情である(冨山和彦著)
医者が患者をだますとき(ロバート・メンデルソン著)
戦略の本質(野中郁次郎ほか著)
カンブリア宮殿 村上龍×経済人 変化はチャンス(村上龍著)
MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み(若林計志著)
ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~(今野晴貴著)
間抜けの構造(ビートたけし著)
リスク、不確実性、そして想定外(植村修一著)
学び続ける力(池上彰著)
運脳神経のつくり方(深代千之著)
決断の条件(P.F.ドラッカー著)
感じる科学(さくら剛著) ★1
あんぽん ~孫正義伝~(佐野眞一著) ★7
はじめての積み立て投資1年生(竹内弘樹著)
忙しいビジネスマンでも続けられる毎月5万円で7000万円つくる投資術(カン・チュンド著)
実践 日本人の英語(マーク・ピーターセン著) ★6
中学受験という選択(おおたとしまさ著)
学校では教えてくれない日本史の授業2天皇編(井沢元彦著)
聞く力(阿川佐和子著)
プラチナデータ(東野圭吾著)
成功学のすすめ(神野博史著)
中学受験に失敗しない(高濱正伸著)
信念を貫く(松井秀喜著)
モンスター(百田尚樹著)
奇跡の営業(山本正明著)
日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方(北山公一著)
マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書(大嶋祥誉著)
井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業3悪人英雄論(井沢元彦著)
静かなるイノベーション(ビバリー・シュワルツ著)
選択の科学(シーナ・アイエンガー著) ★5
死の淵を見た男(門田正隆著)
戦略プロフェッショナル(三枝匡著)
不格好経営(南場知子著) ★2
爆速経営 新生ヤフーの500日(蛯谷敏著) ★8
イシューからはじめよ(安宅和人著)
消費税のカラクリ(斎藤貴男著) ★9
消費税が日本を救う(熊谷亮丸著)
「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法(鈴木博毅著)
※★は全42冊の中でとりわけ印象に残った本。★の横の番号は印象に残った順。

全42冊の内訳は上に示したとおりだが、うち、献本によるものが6冊、知人からのすすめによるものが3冊、ラジオ紹介に影響をうけたものが5冊、残りは雑誌や読んだ本の中で取り上げられていたものだ。

★印をつけたものは特に印象の残ったもの。共通して言えるのは、実生活にとても役に立ったか、あるいは、本当にリアルな追体験をさせてもらえたか・・・といったところだろうか。前者について言えば、たとえば「実践日本人の英語(マーク・ピーターセン著)」。これは自分の英語を磨くのにとても助かった。後者について言えば、たとえば「不格好経営(南場知子著)」。実体験を生々しく語っていて、共感できる部分も多く、かじりついて読んでしまった。ちなみに、献本でめぐりあえてラッキーだと思ったのは「爆速経営 新生ヤフーの500日」。献本してもらえなかったら、自らかって読んでいたかどうか怪しかったと思う。だが、出会えて良かった。

iPad miniも買ったことだし、2014年は、電子書籍などもうまく活用して英語の本などもバンバン読んでいきたい。

・・・というわけで、今年もよろしくお願いします。

【関連リンク】
2012年に読んだ本を振り返る
2011年に読んだ本を振り返る

2013年12月30日月曜日

書評: 「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法

「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法
著者: 鈴木 博毅
発行元: マガジンハウス

レビュープラス様から献本いただきました


■KYにならないためのすすめ

誰しも「KYな人(=空気が読めない人)」とは言われたくない。少なくとも「空気が読める人」くらいにはなりたいもの。本書は「空気を読める人」になりたいという人はもちろん、「空気を変える人」になりたいという人の望みをかなえる指南書である。ところで、そもそも「空気」とは何だろうか。

・空気が読めない
・空気に飲み込まれる
・空気を変える
・空気を支配する

本書では、こうした表現にも使われる「空気」を「ここで”それは検討しません”という暗黙の了解(ルール)のこと」と定義している。つまり、「空気が読めない」とは、「暗黙のルールが何かがわからない」、「空気を変える」とは「暗黙のルールを変更する」となる。本書を読んで「暗黙のルール」を理解し、ひいてはそれを自由自在にコントロールできるようになる術を学ぼう・・・というわけだ。

■空気を支配できれば、全てを支配できる

本書を読みはじめると、とにかく本書・・・いや「空気の動かし方」一つで世の重要なこと全てをカバーできてしまうという気にさせられる。事実、本の帯には「人間関係を新しい視点で捉えられるようになる」、「スポーツや試験で勝負強くなれる」、「会議やプレゼンを段取りよく進められるようになる」、「婚活や合コン、結婚生活がうまくいくようになる」、「リコール対策が迅速にできる組織になれる」・・・などと書かれている。私たちが日々直面する様々なシーンに活用できると本は唄っているのだ。

で、そんな素敵なワザを、どのように指南してくれているのか? 著者は、いわゆる「空気」を4パターンに分けることができるとし、それぞれのパターンについて攻略方法を解説している。なお、そのパターンとは次の4つである。

・問題への「問い」を設定することで生まれる「空気」
・体験的な思い込みに固くこだわることで生まれる「空気」
・検証、測定による偏った理解に固執して生まれる「空気」
・選択肢を限定してしまうために生まれる「空気」

パッと見ると難しく思えるが、この4パターン・・・何か共通点があることに気がつかないだろうか。そう、良く観察してみると・・・「思い込み」・・・という共通キーワードが浮かび上がってくる。つまり私なりに分かりやすくまとめさせていただくと、「空気」は「思い込み」の産物であり、そしてこの「思い込み」は、上記4つのいずれか(たとえば過去体験など)がきっかけで生まれるものであり、そこを特定した上で攻略できれば怖いものなんてない・・・そう著者は言っているのだ。このような論理で攻められると、確かになんとなく「空気を支配できれば、全てを支配できる」という気になってくる。

■好き嫌いが分かれる本

さて、本書に対する率直な感想だが、正直、評価は難しい。どちらかと言えば、私にはあまり感動がなかった。ただ、Amazonをはじめ、結構な数の書評家たちから高評価を得ているような感じなので、きっと好き嫌いが分かれる本なのだろうと思う。

ちなみに、私になぜ感動が少なかったのか。1つには、本を手に取った直後こそ、「空気」という切り口を斬新に感じたものの、読み進めるにつれ、「あれ!?なんか似た切り口の本があったな」と気がついたからだ。そう、書きっぷりこそ異なるが、「間(ま)」をテーマにしたビートたけしの著書「間抜けの構造」と、イメージが重なる部分が少なからずあるように思ったのだ。

また、もう1つには「空気を動かす術を学ぶことで世の中の多くの問題を解決できますよ」という著者のアピールは確かに魅力的だと思ったが、無理に「空気を動かす術」で全てを語ろうとし過ぎた感があり、かえってわかりづらく感じる部分があったからだ。著者が「思い込み」を生じさせる4パターンのうちの1つとして挙げている”問題への「問い」を設定することで生まれる「空気」”が良い例だ。これは「モノゴトの上辺だけを見て課題設定をするのではなく・・・その裏に隠れた真の課題を見つけだそう」・・・と、こういう意図なのだが、この考え方は、いわゆるイシューベースアプローチと呼ばれる有名なものだ。大前研一氏の「質問する力」でも出てくるし、先日読んだ「イシューから始めよ(安宅和人著)」でも言及されている。こうしたテーマをなにも、無理に「空気を動かす術」というテーマのもとに書かなくても・・・という気がしたのだ。

散々な辛口を書かせていただいたが、先述したようにおそらく好き嫌いが分かれる本なのだと思う。つまり、私のようにこういった類の本を何冊も読んでいる人には、向いていないのだろう。逆に、普段からあまりこういった啓発本を手に取ったことがない人であれば、私のようにひねくれた見方をすることもなく素直に楽しめて読めるのだと思う。


2013年12月21日土曜日

書評: 消費税が日本を救う

賛否両論ある話題は、片方の意見だけを聞くと、正しい判断ができない。やはり、両方の意見を聞かないと・・・。そして、賛否両論ある話題の1つと言えば「消費税」だ。先日は「消費税のカラクリ」という反対派の人の本を読んだ。そんなわけで今回は、賛成派の人の本をば・・・。

消費税が日本を救う
著者: 熊谷 亮丸
発行元: 日経プレミアシリーズ


■消費税賛成の理由をとことん語る


内容は、ご推察のとおり。消費税賛成を唄う本だ。著者の熊谷亮丸(くまがいみつまる)氏は、大和総研のチーフエコノミスト。為替アナリストとしてあの有名な「ワールドビジネスラテライト」レギュラーコメンテーターを務めているとのこと。要するに、有名かつ人気あるその道の専門家が書いた本というわけだ。

無謀と知りつつ、著者の主張をあえて一言にまとめさせていただくと「日本の借金は限界に来ているから、税収を増やすのに効率的・効果的な消費税を導入するべき」となる。

日本の借金が限界に来ている理由について、たとえば著者がどんな発言をしているかというと、「日本の借金を背負ってくれている日本国民自体の財布が危険水域に到達しつつあること」、「実際に破綻したギリシャや破綻しそうになったスペイン、ポルトガルに共通する双子の赤字が、日本にも差し迫っているということ」などを述べている。また、消費税を効果的・効率的な手段と考える点については、「実際は比較的、景気変動に左右されにくい税制であるということ」、「若者より裕福といわれながら税を納める機会の少ない高齢者からもお金を徴収できるという点で公平性が強いこと」などを理由に挙げている。これらは一例だが、著者は、こうした発言に対して様々な角度からデータを集め、論拠を用意している。

もちろん、本書の中では、消費税反対派が一般的に取り上げる理由(「益税・損税」や「景気への影響」問題など)に対しても、しっかりと反論を行っている。

■本書の魅力はどこにある?

本書の魅力は3点ある。1つ目は、消費税賛成派の意図のほぼ全てを、おそらくはこれ一冊読めばカバーできるという点だ。本書が、消費税に賛成の理由、また、消費税反対派に与しない理由・・・について幅広く触れていることは既に述べたとおりだ。

2つ目は、この本が2012年6月に出版された本であるという点だ。そう、自民党への政権交代が行われたのは2012年12月なので、6月と言えばまだ民主党政権下の時期。暗いニュースばかりが広がり、野田前首相は消費税アップに躍起になり・・・そんな時期だ。安倍首相になり、円安が進み、株価が15000円を超え、東京オリンピック開催が決まり・・・さて、政権交代前に書かれた予想が、この状況下にいたってどこまで当たっているのか・・・そう考えると、おもしろく読める。ちなみに、わたしは、結構当たっているように思うのだが。

3つ目は、消費税の本にしては、そこそこ分かりやすいという点だ。私にはちょうどいいレベル感だ。大事な箇所は太字+下線が引かれており目立つような配慮がなされている。各章のおわりには、必ず「その章で訴えたかったこと・重要なこと」を約1ページの中にまとめてくれている。ただし、わかりやすいと言っても、池上彰さんほどのレベルではないので、そこはご注意いただきたい。

■本書を持ってして読者なりの答えが導き出せるか?

本書の意義はなんだろうか。至極一般的な結論で恐縮だが、いろいろな物事をより深く考えられるようになった・・・という点だろう。ただし、「消費税増税の是非」に関しては、自分なりの答えを導き出す・・・というところまでにはいたらなかった。

いろいろな物事を深く考えられるようになった・・・一例を挙げよう。たとえば本書読了後に、たまたま読売新聞に掲載されていた消費税増税に関する論説を目にしたときのことだ。そこでは確か、経済学者(飯田泰之氏)が「消費税を上げると景気に影響がでるから、このタイミングでの消費税増税は望ましくない」という発言をされていた。ところが前出のとおり、本書では「消費税アップは景気に影響が出るという証拠はない(=景気への影響はほぼない)」と唄っている。というわけで消費税増税賛成派と反対派の意見のすれ違いの1つはここにあるのだな・・・と改めて気づいたわけだ。どっちが正しい・正しくない云々は別にしても、まず、こうした専門家の発言に、少なからず、自分の脳みそが反応できるようになれた・・・というのはまことに本書のお陰である。

では、本書を読むことで「消費税増税の是非」に関して自分なりの答えが出たか?・・・というと、正直、そうは言えない。前の段落で取り上げた一例「景気への影響のあるなし問題」に代表されるように、賛成派・反対派・・・どっちの主張にもまだ疑問がいっぱいあるからだ。ちなみに、「消費税増税の是非」についての答えはまだ出せないが、「消費税の是非」については是だと改めて思った次第だ。「消費税のカラクリ」の主張はもっともだが、やっぱり得られるメリットのほうが大きいように思う。

さて、このように本書を読めば、自分の納得できる答えが必ずしも見つかるわけではないが、少なくとも、その答えを見つけるための最初の一歩として一役買ってくれる本であることに間違いないだろう。


【消費税という観点での類書】

2013年12月13日金曜日

書評: 消費税のカラクリ

2014年4月から消費税が8%になる。その後、順当にいけば、すぐに10%になる。無関心ではいられないハズだ。

消費税のカラクリ
著者: 斎藤 貴男
発行元: 講談社現代新書



■消費税アップ、いや、消費税そのものに反旗を翻す本

「(消費税について)訳知り顔の講釈が、街のあちこちから聞こえてくる。問題は、そう語りたがる人々が、消費税という税制の本質を少しでも理解できているのかどうか、という点だ。一人一人に問いただすことはできないが、一般の主要な情報源であるマスコミが、いつの間にか消費税増税派ばかりになっていた事実だけは明白である。」

そんな書き出しからも容易に推察されるように、本書は消費税アップに強く異を唱える本だ。消費税のアップ・・・いや、アップどころか消費税そのものの悪い部分・・・それも世間一般にはあまり広く知られていない負の側面に対して、スポットライトを当てている。

■税収アップの手段としての有効性に疑問を投げかける


「視界が開けた感じがする」・・・それが本書を読み終えたときのわたしの素直な感想だ。それは本書の論点が、今まで目にしてきたメディアのそれとは大きく異なるからだ。

メディアのそれと、どう異なるのか。一般的な消費税の論点は、税率や税率アップのタイミングに終始する。とりわけ、ここ最近は「消費税アップは必要不可欠だ。問題はそのタイミングだ」というように時期を問題にした論戦が多い。2014年度からの消費税アップに賛成する人たちの多くは「このままでは現在の福祉水準を維持することができなくなるから」とか「日本の世界に対する信用問題につながるから」とかといったものだ。逆に消費税アップに賛成しない人たちの多くは「長いデフレからようやく脱却する足がかりをつかみ始めたのに、その芽を摘み取るなんてありえない」というものだろう。しかし、本書の論点はそこではない。本書は、税収アップの手段としての消費税の有効性に疑問を投じているのである。消費税の有効性・・・これこそが著者が本書の中で首尾一貫して掲げている論点であり、本書最大の特徴でもある。

なお、著者が消費税を「ダウト!」と叫ぶ理由にはおもに2つある。1つには、そもそも消費税は、税率アップ=税収アップとは言いづらい、極めて非効率な手段であることを挙げている。「消費税は、国税のあらゆる税目の中で、最も滞納が多い税金なのである」というクダリを読んだときに、私自身少なからずびっくりしてしまった。そして2つ目には、消費税は、大企業を保護し中小企業をイジメる不公平な環境を生み出すものであることを理由に挙げている。なるほど、中小企業は日本の強さの源だ。日本国全体の企業数の99.7%、従業者数の7割、付加価値額(製造業)の5割強を占めており「日本経済の基盤そのものを形成している存在」といっても過言ではない。消費税が、そんな中小企業イジメにつながっているという点は決して見過ごせるものではない。

■消費税に少しでももの申したいなら・・・

ユニークさが際立つ本書だが、決して奇をてらった的外れな本ではない。論拠がしっかりしており説得力がある。そんなわけで、社会問題に興味がある人は言わずもがな、消費税アップの是非に何らかの意見を持つ人であれば、その意見の誤りをただすためにも、意見の質を上げるためにも、ぜひ、読んでおきたいところだ。

なお、誤解のないように言っておくが、別にわたしは本書の宣伝を通じて世の皆さんに消費税に反対してほしいという考えを持っているわけではない。実際のところ、わたし個人的には、本書を読み終えた今でも「消費税アップはやむなしかな」という考えを持っているくらいなのだから。

ただ、本質を知らずして意見するのはあまり健全でないように感じてしまうわけで・・・本質を理解し、それに基づいて自分の意見を持つ人が増えれば、それだけで社会は少しずつ良くなっていくような気がするのだ。いかがだろうか。


2013年12月4日水曜日

書評: イシューからはじめよ

「マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書」「ハーバード、マッキンゼーで知った一流にみせる仕事術」「マッキンゼー式 世界最強の仕事術」「マッキンゼー流プレゼンテーションの技術」等々、最近、マッキンゼーを冠にした出版が急激に増えてきた。マッキンゼーブランドここに極まれり・・・といった感がある。正直言うと、同じような性質の本をやや見せ方を変えて発売しお金をとるやり方に反抗心を覚える一方で、商売が上手だなとも思う。こんなこといいながら私も結局、複数の本を買っちゃってきたわけだし・・・。 

イシューからはじめよ
著者: 安宅和人(あたかかずと)
発行元:英治出版 



■コンサルタントの王道ワザ、イシューベースアプローチの伝授本

本書は、超一流コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーにプロのコンサルティング流儀を学んだ著者が、そのノウハウを懇切丁寧に解説している本だ。ここで言う「プロのコンサルティング流儀」とは、イシューベースアプローチとも呼ばれるものだ。今までに経験がない、情報がない、そんな未知の問題に直面したときでも、効果的効率的に最善のアウトプットを出すためのワザだ。

このアプローチを使えば「日本にマンホールはいくつあるか?」「日本に走っている電車の数は?」など!!!???と思える質問でも、論理的に・・・しかも高速に、制約条件下での最適解を求めることができる。これらはもちろん極端な例だが、「シカゴで売っているピザの枚数は?」などといった突拍子もない質問に答えられるようにしよう!ということではなく、イシューベースアプローチをビジネスシーンに適用して仕事の生産性を上げようじゃないか・・・というのが、このワザの・・・いや、本書の狙いである。

■イシューベースアプローチ講座があればテキストになり得る!

講義を受けているような感じで読み進めることができる・・・というのが本書最大の特徴と言えるだろう。もしイシューベースアプローチという名の講座が大学にあるならば、この本を教科書にしてもいいかもしれない。プロのコンサルタントが書いた本ということもあり、章構成はきわめて合理的な建て付けになっているから、章1つ1つがちょうど講座一回分になるイメージだ。

序章: この本の考え方 ~脱「犬の道」
1章: イシュードリブン ~「解く」前に「見極める」~
2章: 仮説ドリブン① ~イシューを分解し、ストーリーラインを立てる~
3章: 仮説ドリブン② ~ストーリーを絵コンテにする~
4章: アウトプットドリブン ~実際の分析を進める
5章: メッセージドリブン ~「伝えるもの」をまとめる~

加えて、本書が講座教科書に適しているように見えるのは、著者がイェール大学の脳神経科学で博士号(PhD)をとった背景が寄与している面もあるだろう。ほぼ全ての講義ポイントにおいて、著者の主張を裏付けするため、何らかの事例が引き合いに出されているが、マッキンゼー時代や、大学院時代に学んだ脳科学の知識・経験に基づくものが少なくない。ややもすると、多少アカデミック色が色濃く出る場面があり、抵抗感を生じさせる場面があるかもしれないが、多くの場面において、そうした事例が極めて明快かつ論理的であり、説得力がある。

『インパクトがあるイシューは、何らかの本質的な選択肢に関わっている。「右なのか左なのかというその結論によって大きく意味合いが変わるものでなければイシューとは言えない。すなわち、「本質的な選択肢=カギとなる質問」なのだ。 科学分野の場合、大きなイシューはある程度明確になっていることが多い。僕の専門である脳神経科学の場合、19世紀末における大きなイシューのひとつは「脳神経とはネットワークのようにつながった巨大な構造なのか、それともある長さをもつ単位の集合体なのか」というものだった。』(本書 イシュードリブンより)

■多くの類書・・・さてどれを選ぶ?

さて、こんな特徴を持つ本だが、どういった人向きだろうかとハタと考えてしまう。というのも、冒頭で触れたように、イシューベースアプローチを解いた本は、タイトルこそ違えど、たくさんあるからだ。

結論を言えば、もし、イシューベースアプローチを解いた類いの本をこれまでに読んだことがなくて、「上記特徴を持った本が自分は好きだ」という人なら、買い!だろう。言い換えると、イシューベースアプローチを解いた本は、本書を含め、コンサルティングのプロが書いた本ならどれか一冊を読めばそれで十分なのではないかと思う。なぜなら、技術の習得において、文字から得られるレベルには限界があるからだ。本書評の最後は著者自身の次の言葉で締めくくりたい。

『結局のところ、食べたこともないものの味はいくら本を読み、映像を見てもわからない。自転車に乗ったことのない人に乗ったときの感覚はわからない。恋をしたことのない人に恋する気持ちはわからない。イシューの探究もこれらと同じだ。「何らかの問題を本当に解決しなければならない」という局面で、論理だけでなく、それまでの背景や状況も踏まえ、「見極めるべきは何か」「けりをつけるべきは何か」を自分の目と耳と頭を頼りにして、自力で、あるいはチームで見つけていく。この経験を1つひとつ繰り返し、身につけていく以外の方法はないのだ』(本書 おわりに より)



【一流のコンサルタントが使うワザを学べるという観点での類書】
マッキンゼー流入社1年目 問題解決の教科書(大嶋祥誉著)
質問する力(大前研一著)
マッキンゼー流 図解の技術ワークブック


2013年12月1日日曜日

書評: 爆速経営 新生ヤフーの500日

最近の話だが、本当に偶然、ヤフージャパンの本社を訪れる機会があった。受付を通り抜けると、眼前に現れるる会議室のガラス窓には大きく”爆速”と書かれていた。それがとても印象的だった。ヤフージャパンは老舗とはいえない会社だが、創業は1996年。昨日今日に、立ち上がった企業ではない。にもかかわらず一歩足を踏み入れると、とてつもない活力を感じる。最近、 ヤフオクの出店無料化をブチあげるなど、メディアをもにぎわせている。この会社に、一体何が起こっていると言うのだろうか?

そんな疑問を持った矢先に、これまた偶然、手元に届いた一冊の本・・・。

爆速経営 新生ヤフーの500日
著者: 蛯谷 敏
出版社: 日経BP社
レビュープラスさまからいただきました

■ヤフー生まれ変わりの謎に迫った本

本書は、宮坂社長率いる若手経営陣達が、決して悪くはない・・・いや、むしろ立派な経営状態だった組織に、何を理由にどんな大胆なメスを入れ、どうやって大きな変革を起こし、そして、結果を出したかを、描いたものだ。著者の蛯谷氏が、2012年4月の宮坂氏のCEO就任から2013年末頃までの約1年半にわたって続けた取材に基づいている。

ところで、このようないわゆる”経営者物語”には、 2種類ある。1つは、経営者本人が書くもの。柳井正ファーストリテイリング会長兼社長が書いた「一勝九敗」DeNAの元社長、南場智子氏の「不恰好経営」などはこれにあたる。もう一つは、本人以外の者が第三者目線で描いたもの。先日読んだソフトバンク孫正義社長の「あんぽん」ローソン社長の新浪剛史氏を描いた「個を動かす」がそうだ。本書は後者だ。

■スーパーマンではないがスーパーな結果を残す宮坂社長が読者にもたらすもの


DeNAの南場智子氏の本は素晴らしかったが、本書も負けず劣らず秀逸だ。第三者目線で書かれているにもかかわらず、経営陣たちの熱気がムンムンと伝わってくる。紙の上に書かれた文字を追っているだけなのに、情熱を感じた。学びもたくさんあった。

私にとって最も興味深かったことは、印象に残った言葉の多くが、実は主人公の宮坂社長自身が発したものではなく、宮坂社長が他の経営者からもらい、感銘を受けたものばかりであるという事実だ。思うに、これは宮坂社長の立場が、私のような凡人とシンクロしやすかったからではなかろうか。本書を読むに、宮坂社長の前任者である井上前社長は、一言で言えば天才でありスーパーマン的存在であったようだ。これに対して著者は、宮坂社長を「実直さ」と「親しみやすさ」、そして「執着心」の3つの言葉で表現している。宮坂社長の存在を私たち読者の立場に近い、と公言するのはおこがましいとは思うが、少なくとも柳井ファーストリテイリング会長や、南場DeNA元社長、あるいはヤフー井上前社長に比べると、むしろ我々読者に近い親しみのおける存在と言えるのだ。

だからなのか、本書を読んでいると、いつも以上に、自分にもできそうだ。自分でもやってみるべきだ、やってやろう!という気にさせられる。幾つか例をあげておきたい。

新生ヤフーの経営陣をどうするかで宮坂社長が悩んでいた時に、仲間が名著「ビジョナリーカンパニー」から引っ張ってきた言葉・・・「大事なのは、誰をバスに乗せるかである」そして、宮坂社長が現場にできるだけ権限を与えるようになったきっかけとして挙げた言葉・・・「永守さんは、経営者には2つの要素しかないと言うのです。 1つは、いかに多くの意思決定をするかということ。もう一つは、いかに早く挫折を経験するかと言うことです」いずれも単純だが含蓄のある言葉だと思った。言い換えれば、当たり前に聞こえるほどシンプルだが、実は私も含め、実践できていない人が多いというふうに感じたのだ。

さらに、ヤフージャパンの新しい”信条”を組織に定着化させることを考える場面で登場した言葉・・・「Facebookから良いアドバイスをもらったのは、会社の価値観を作るんだったら、人事評価にそれを持ってこないと定着しないということでしたちょうど自分も会社で信条を作り上げ定着化させようとしていたところでだったので、本当にハっとさせられた。単純と思われるかもしれないが、早速自分の会社でもこれを実践しようと試みているところだ。

■経営に携わる人たち、経営の立場を目指す人たちに

さて、最後に、冷静に本書の評価をまとめたおきたい。他の類書にも言えることだが、本書は決して奇抜なことを紹介してあるわけではない。新生ヤフーの経営陣達に、何かとてつもないユニークさを期待して読むとがっかりするだろう。

ただ、先に挙げた私自身の例からおわかりいただけるように、ヤフー経営陣たちと、立場がぴったりと当てはまる読者であれば、間違いなく、とても面白く読める本だ。すなわち、会社の経営、もしくは経営になる幹部の立場にある人、また、これから起業しようとしている人・・・には、強くおすすめしたい本である。

「巨漢だったヤフーがたった500日で、ここまで変われたんだ、だから僕らも変われるはずだ。」

きっとこう思わせてくれるハズだ。それが本書最大の価値である。


【一定の成功を収めた経営者を・が描いた本という観点での類書】
セブン-イレブン終わりなき革新(田中陽著)
個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~(池田信太朗著)
不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~(南場智子著)
ユニクロ帝国の光と影(横田増夫著)
一勝九敗(柳井正著)
あんぽん ~孫正義伝~(佐野眞一著)


2013年11月17日日曜日

書評: 不格好経営

本書を読んで、南場智子という人間に惚れた。はっきり言うが、これまで色々な本を何冊も読んできたが、このように感じることは滅多にないゾ。

不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~
著者: 南場 智子(なんば ともこ)
発行元: 日本経済新聞出版社


■DeNA(ディー・エヌ・エー)の起業物語

本書は、オークションサイトやショッピングサイトを運営する株式会社DeNA(ディー・エヌ・エー)の創設者にして元社長、現在は同社取締役を担う南場智子氏が書いた、言わば”会社起業振り返り物語”だ。彼女が1999年に起業を決心してから、ディー・エヌ・エーを立ち上げ、社長の立場で東奔西走・活躍し、諸事情により役職を退くまでの密度の濃い10年間を振り返っている。

コンサルティング会社マッキンゼーを辞めて、ディー・エヌ・エー社立ち上げにいたった経緯や、資金集め・社名決めですったもんだした話、システム開発での大トラブル、競合他社に自社の広告を載せてしまった話、モバイルビジネスへのシフト、野球チーム買収、コンプライアンス問題、旦那の病気など、テーマはわんさかある。著者本人も認めているが、よくもまぁ10年の間に、これだけ色々な経験を詰め込んだものだ・・・と関心するほどだ。

■南場智子の言葉には勢いがある

本書の特徴は、2点ある。1点目は著者自身が述べている”とりわけ失敗体験に焦点を当てて書いた本である”ということだ。

『私はビジネス書をほとんど読まない。こうやって成功しました、と秘訣を語る本や話はすべて結果論に聞こえる。まったく同じことをして失敗する人がゴマンといる現実をどう説明してくれるのか。だから本書の執筆にあたっては、誰か遠い他人の仕業とおもいたいほど恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴ることにした。』(本書 まえがきより)

ただしこの点については、特徴の1つではあるが本書最大の魅力とは言い難い・・・ということを付け加えておく。わたしの読書経験から言えば、たとえば柳井会長の「一勝九敗」や、渡邉美紀(ワタミ創設者)さんの「青年社長」、鈴木敏文セブン-イレブン創業者の「セブン-イレブン終わりなき革新・・・あるいは孫社長の半生を描いた「あんぽん」など・・・実は成功体験より苦労体験に触れている本の方が多いといったからだ。

2点目の特徴・・・これこそが本書最大の魅力だと思うが・・・「他人の仕業とおもいたい」と彼女が形容するほどの失敗に対する彼女なりの総括が、気持ちいいくらい”単純明快”であることだ。これは、南場さんのバックグラウンドが超一流会社のコンサルタントであったことも寄与しているのだろう。彼女の発言はロジカルなだけでなく、哲学というか魂というか信念というか、生き様に何かこうしっかりとした一本の筋がとおっており、感じたこと・思ったことを、常にブレない視点で、シンプルな言葉を使って、はっきりと言い切っているのだ。

『しかし、DeNAを立ち上げてすぐに、会社はロジカルな人間だけでは少しも前に進まないことがわかってくる。事実、マッキンゼーのエース(自称)3人が1年で黒字化させますと宣言して会社をつくり、実際は4年も赤字を垂れ流したわけだ。コンサルタントの言うことは信用しないほうがいい。』

『ビジネススクールに行くことで人脈ができるのでは、ともよく訊かれるが、そうも思わない。逃げずに壁に立ち向かう仕事ぶりを見せ合うなかで気づいた人脈意外は、仕事で早くに立たないと痛感している。』(第七章 人と組織より)

■偶然の一致か必然の一致か

そんな本書だが、個人的感想を言わしてもらうと”ひさしぶりに気分が高揚した”感がある。また、冒頭で触れたように著者の南場智子氏をとても魅力的な人物だと思った。

その理由は先述したとおりだ。加えて、起業時に経験している内容がわたしのものとすごく似ていたから、という理由もある。やや余談になるが、たとえば、南場さんがコンサルタント出身であり、MBA経験者であるということ。格は全然異なるが、私もそうだ。また、南場さんが起業してまだ間もない頃、寝起きする真横にサーバをおいていつでも再起動できる体制をとって寝ていたということ。わたしも、奈良でISP起業に参画したときは同じ経験をしている。さらに、社内で過激なダイエット競争を繰り広げていたという話。実は自分自身がダイエット競争に参加してたわけではないのだが、同僚が目の前で、全く同様の”やり過ぎ!”とも思える熾烈なダイエットバトルを行っていた。最後に、人の採用に関して、とある大きな誤解から、大切な人との間に大きな摩擦を生じさせてしまったという話。これも全く一緒の経験がある。

質と規模において南場氏のそれと比べるべくもないが、自分と驚くほど似た経験を持つことに、ものすごく親近感を覚えてしまうのだ。そのせいで本書については客観的な評価ができていないかもしれないので、その分は差し引いて評価していただいて構わない。

■失敗を追体験できる貴重な教科書

本書は当然、会社の経営者・・・とりわけ起業に興味がある人なら読むべきだ。起業について学びたければ、さっさと起業して自らが失敗経験をするのが一番いいわけだが、人生には終わりがあり、失敗を重ねられる回数にも限りがある。だからこそ、こうした先人たちの体験をフル活用すべきだと思うのだ。だから、読むことをお勧めする。

なお、時間に余裕があるのなら、他の起業家たちの本との読み比べをしてみてはいかがだろうか。そのほうが、起業家たちの特徴が際立つし、そこに新たな”気づき”が生まれることも少なくないからだ。たとえば、ファーストリテイリングの柳井さんの本を読んでいたときは、良くワンマン経営と揶揄されるように、柳井さんばかりが読者の視野に入る印象だった。が、南場さんの本では、南場さん本人だけでなく、固有名詞で語られる強く頼もしい仲間が頻繁に登場する。両起業人の信条の違い、アプローチの違いの現れなのだと感じる。かと思えば、起業時の金銭面での苦労や、人の採用における苦労なんかは、両者ともに非常に似ていたりする・・・。このように色々な気づきを得ることができる。

とにもかくにも、まずは失敗の追体験本として、南場智子氏のディー・エヌ・エー起業物語を対象に選んでみてはいかがだろうか。わたしのイチオシ本だ。


【著名な経営者の体験を描いた本という観点での類書】

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...