2011年3月28日月曜日

書評: Tipping Point (ティッピング・ポイント)

ルービックキューブ、たまごっち、ウォークマン、ツイッター、池上彰氏、iPhone...

このような言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか?

そう・・・これらは全て、いわゆる”ブレークしたもの”である。これらは、いったい何をきっかけに大きなブレークを果たしたのか? そこに共通性は見いだせないのだろうか?

人気、売上、視聴率、学力、犯罪率、喫煙率・・・いわゆる”ブレークするタイミング”(本の言葉では”Tipping Point”「ティッピングポイント:転換点」と言っている)は、「どんなきっかけで起きるものなのか」・・・というテーマについて、様々な事実・データから考察をまとめた本がある。それがこれだ。

Tipping Point - How little things can make a big difference
ティッピング・ポイント-いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか
著者: マルコムグラッドウェル、 翻訳:高橋啓

(※私が読んだ版は原文ですが、邦訳版も単行本で出版されているようです)

きっかけは6年前・・・クラスメートからの推薦

著者マルコムグラッドウェル氏はカナダ出身者であり、この本は彼が2000年に出版したものである。私が知ったのは2005年の冬、イギリスの大学院で経営修士学を学んでいたときのことだ。クラスメートの一人が「これ、面白いよ」と進めてくれた。パっとみて、(英語版ではあったが)分厚くもないし、平易な言葉で説明されており、どうも読みやすそうな本だな・・・と思い、影響されやすい私は、すぐに書店に足を運んで8ポンド(当時のレートで1,600円)で購入した。

情けない話であるが、それから6年近く経過がした。今年はじめ、書斎の本棚に読まずに放ったらかしになっていたこの本を見つけたのである。

「よし、今度こそ読んでやろう」

【買ったときのレシートが本にはさんであった!】


おそるおそる開けたその結果はいかに・・・

買ったのは6年前、出版自体はもう11年前・・・「今読んでも新鮮味は、ないのではないか」とびくびくしながら読んだ。しかし、確固たる分析・論理に裏付けられた優秀な主張は、時間が経過しても風化しないものである。今にいたっても、著者の考えは通用するものだと思った。

Tipping Pointが起こる理由は、一概に”一つの原因”におしつけて説明することはできない、と著者は言う。たいていの場合は、いくつかの原因の組み合わせでおこるというのだ。

本で大きくとりあげている原因の一つが”Word of mouth(口コミ)”の力だ。もちろん、著者は”口コミ”という一言で片付けていない。口コミといっても、伝播させる条件が揃っていなければいけない、と主張する。具体的には、Connector(幅広ネットワークを持っている人)、Maven(いわゆる”おタク”であり、かつ、お節介好きな人)、 Salesman(メリットをわかりやすい言葉に置きかえて説得する人)の三者のいずれか、ないし、複数の存在がカギになるというのだ。

また、”Power of Context(とりおかれる環境)”がもたらす力も見逃せない、と言う。1980年~1990年、ニューヨークの犯罪率は史上最悪と言われる状態に陥った。私も覚えているが「ニューヨークは地下鉄に一人で乗るのは大変に危険な都市だ」と言われていたと記憶している。ところが1990年代に入り、状況は一変、犯罪が激減しはじめた。ジュリアーニ市長の功績だと言う人が少なくないが、犯罪率減少のTipping Pointは何か?著者は、その原因をDavid Gunn氏が推進した「地下鉄の落書きを徹底的に消し去る」運動、ならびに、「(それまでに(無賃乗車など見逃してきたような)軽犯罪を絶対に見逃さない運動」の成果だと述べている。警察の姿勢、街の雰囲気の変化が、犯罪者の精神的変化を生むことに大きく貢献し、犯罪率のTipping Pointを生んだというのだ。面白い視点だ。

こうした”口コミ””取りおかれる環境”がもたらす力のほかにも、”遺伝””情報そのものが惹きつける力(粘着性;魅力)”など、Tipping Pointのトリガーとなるうる事象について、豊富な事例を取りあげ、様々な角度から考察を述べている。

なるほどの心理

「この本が面白い」と思えるのは、豊富な事例もさることながら、その多くが、誰もが日常感じる”人間の心理”について触れているからではなかろうか、と思う。

たとえば、著者はニューヨークでの刺殺事件を例にとり、人間心理の興味深い面について言及している。1964年のニューヨークで、Kitty Genoveseという若い女性が「刺された。助けて!」という声を挙げたが、その声を聞き、または、刺されて横たわっているという姿に気がついた人が何十人もいた(当時の新聞では38人・・・と言われていたが、実際はそれよりは少なかったようである)にも関わらず、誰も行動を起こさなかったため、死亡してしまったという有名な事件がある。

この事件について、実験によれば、ある人が”自分以外に周りに誰もいない”と気がついている場合、「助けて!」という声を聞いて(助けるための)行動を起こす確率は85%だそうである。逆に”自分以外に周りに誰かいる”と知っている場合、声を聞いて行動を起こす確率は31%まで激減するそうである。これは どういうことなのか?つまり「自分が行動を起こさなくても、誰かほかの人間が行動を起こしてくれるだろう・・・」という勝手な推測が働くために、むしろマイナスの結果がもたらされるという人間心理である。

「なるほど」と思う心理学ではないだろうか?(事件そのものは凄惨なものであり繰り返されるべきものではないが)こうしたウラにある人間の行動心理は、身近なことでありながら、意外性があり面白い。

FacebookのTipping Pointを説明できるか?

さて、「なるほど」とうなずかされることの多い内容ではあるが、11年経過した今でも通用する考えなのだろうか?

最近世の中を席巻した事象で言うとFacebook(フェイスブック)のTipping Pointが気になるところである。Facebookが世に出たのは、2004年。今や、会員の数は5億人を超えると言われる。(もちろん、この本が出版されたのは2000年であるので、SNSは事例として取りあげられてはいない)


Facebookの存在が私の耳に入った2005年(大学院在学)当時、Facebookのようなソーシャルネットワーキングサービス(SNS)は、実は既に飽和状態に近かった。授業中のディスカッションテーマとして取りあげた1つに”SNSの将来”なるものがあったが「SNSサービスは飽和しており、今から起業してもその地位を確立するのは難しい」という主張が目立ったように記憶している。事実、当時は既にSixDegrees.com(1997年)、 LinkedIn(2003年)、 MySpace(2003年)、 Orkat(2004年)、 Facebook(2004年)、Gree(2004年)、 Mixi(2004年)が乱立しており、どれも市場を奪い合っていた。ましてIT業界は、一位と二位の間に著しい差が生まれる世界である。その登場が決して早くなかったはずのFacebookが、今や5億人を超えるユーザを会員を擁するようになるなど私自身も思いもよらなかった。

しかしFacebookは突き抜けた。どのようにしてここまで飛び抜けたのか?Tipping Pointは何か?この事象を説明するのに、この著者の考えを当てはめて考えてみると面白いことが見えてくるかもしれない。あえてここで細かい分析を書くことは避けるが、少なくとも言えるのは、”Word of mouth(口コミ)”の力だけではここまで大きくならなかったはず、ということだ。なぜなら、そうであれば、他のSNSももっと流行っていいはずだからだ。Facebookは、当初ハーバード大学やアイビーリーグといった有名大学の関係者にその利用を限定させていた。くわえて、匿名会員が多かった他のSNSに比べ、実名利用を基本としていた。こうした差は、著者が本で述べる”Stickiness(粘着性;惹きつける力)”として作用したことに間違いはないだろう。もちろん、ほかにもいくつかの要因が考えられるが、いずれにしても、このように「Tipping Point」の考えは、今にいたっても様々な事象を説明できることが分かる。

マーケティングのヒントがつまっている本

この本は、実際の事例を頭に描きながら、楽しみながら、心理学を学べる(私自身は、きちんとした心理学を専攻したことはないが)・・・そんな本だと思う。ビジネスの観点で見れば、すなわち「どのように、誰に、どうやって訴えれば商品・サービスが売れるのか?」を考える上でのヒントを与えてくれる本とも言える。当然のことながら、マーケティングや経営企画の近い立場にいる人たちには読み応えのある本だろう。

私も、さっそく我がビジネスにこの考えを転用できないか、既に悩みはじめているところである。


2011年3月21日月曜日

今年初めて約束を守れなかった

今年は、「毎週1冊本を読んでその感想文をこのブログに書く」という目標を立てて、これまで守ってきたが、今回はその約束を守れない可能性が高まってきた。

原因は2つある。1つは地震騒動でドタバタしてしまったことと、もう1つは選んだ本が英語の本であったことだ。

それなりに読むスピードに自信はあったが、やはり日本語に比べるとスピードが落ちるらしい。非常に悔しいが日々の鍛錬が足りないせいだと思う。

今読んでいる本は、Tipping Pointという本だ。

頑張って今週中には読んで、週末に感想文をかけるようにしたい・・・と思う。く、くやしい・・・。

2011年3月18日金曜日

東日本大地震発生から1週間経って思うこと

東日本大地震に絡んで思うことを、いくつか徒然なるままに・・・。

日本のメディアと海外のメディアのスタンスの違い
昨日17日、福島原発3号機の消火活動のためヘリコプター4機が大量の水を空中から投下する作業を行った。東京電力は「一定の効果があった」と発表した。日本のメディア各社の報道を見ると「まずまず」とか「現時点で評価をすることは難しい」という発言が目立った。ただし、いずれの場合も否定的なコメントは少なかった、というのが私の印象だ。その後、CNNのレポートを見た。ここでは「4機投下したが、そのうちの1機の投下しか、水が的に当たっていなかった」と何度も強調して報道していた。ヘリコプターが水を投下シーンを何度も見て、実は自分も「なぁんか、的に当たってないよなぁ・・・意味なさそう」と思っていたので、ある意味、CNNの報道の方が納得感があった。勘ぐりになってしまうが、日本のメディアは不用意に国民の不安を煽りたくなかったのではないだろうか。ただ、メディア全てが一様に同じスタンスで報道する姿勢は、あまり納得できない。


意外に機能している新耐震基準
まだ人づてに聞いた話に基づいてしか推測できないが、とにかく新耐震基準で建てられた建物(つまり、1981年以降のもの)は、地震によって物理的に倒壊したという話は、ほとんどないそうだ。たとえ直撃した気仙沼であっても。これは阪神大震災の被災者に聞いた話と似ている。むしろ、建物の中のモノが倒れてきたり落ちてきたりして頭を打って亡くなったりとか、津波で流されて亡くなったりした方が多いのではないかと思う。その意味では、これから地震に対する予防を考えられる方は、建物の耐震性補強(新耐震基準以前の建物の場合)にくわえて、タンスや電化製品が落ちてこないように固定しておくことが、なによりも効果的・効率的だと考える。


不要不急でありながら電力を使うビジネスの事業継続が心配
今回、物理的に被害を受けた地域も、受けてない地域も、とにかく電気喪失の影響は計り知れないと考える。昨日18日は、気温が下がったため、計算上では夜には東日本の電力が足りなくなる・・・と東京電力が発表し、節電を呼びかけた。鉄道が間引き運転されると報道されるや、自分を含め、オフィスを出て一斉に自宅へ向かう人が増えたが、午後5時前にもかかわらず、ホームは人で一杯だった。私のケースでは、午後6時頃に自宅近辺の駅に到着した。しかし、計画停電の影響で例によって、この時間帯お店はほとんど閉まっていた。ポールやミスタードーナッツはまだ空いていたかな。まぁ、それはいいのだが、なんといっても、とにかく街全体の雰囲気が暗い。飲食店は節電の影響で、人も少ないし、店も電気をあまり使えないしで、大打撃だろう。個人的には、東京ディズニーランドを経営するオリエンタルランドだって、ものすごい打撃を受けているのではないかと思う。今のままだと、春はエアコン利用が少ないので電力不足をしのげたとしても、夏にまた不足する懸念があると噂されており、こういったときに不要不急でなおかつ電力を多く使うビジネスは事業を継続でいないのではないかと・・・。


サプライ-チェーンリスク、恐るべし
東北地方の交通が遮断されていることが影響して、日本の物流に著しい支障がでているようだ。サプライチェーンのインパクトは計り知れない。風評とあいまって、東北地方にある食品やその他メーカーの工場の倒壊で、関東のコンビニでも品不足が続いている。コンビニに行っても、食べ物(スナック菓子ですら・・・)がない。そしてガソリンもない。(ちなみに、今日出社するときにコンビニに行ったら、一人で10個も20個もカップラーメンを買っている馬鹿者がいました。困ったものだ。)うちの父は水を売る商売をしているが、皮肉にも水不足で注文が殺到している一方で、キャップの製造工場が壊れたため、出荷できないとのこと。そのようなことがいたるところでおきている。


何よりも腹立たしいファンド
余震は相変わらず続いている。M9の地震以後も、震度6や震度5強などの地震が発生しているが、困ったことに慣れてきた部分もある。とにかく東北地方で行方不明になっている人、避難生活を送っている人、そして、福島県や茨城県でも避難生活を送っている人・・・のことも気になるし、日本経済の行方も気になる。こういった被災国の貨幣が買われるというのは良くあることだそうだが、昨日は一次1ドル76円・・・。投機的な動きを理由にしないと説明できない数字だ。こういった機会を利用して利益を得ようとする人たちがいるかと思うと、むしろ、政府や電力会社の対応云々よりも、ものすごく腹立たしくなる。

【関連リンク】
ディズニーランドが東日本大震災という苦境を乗り越えた理由

2011年3月14日月曜日

東日本大地震の事例に学ぶ風評被害対応

東京電力の動向が今、色々な意味で全世界に注目されている。

「なんだ、事前の想定の甘さは!?」
「なんだ、原発事故のあの不器用な発表の仕方は!?」
「なんだ、あの計画停電の伝達の不正確さは!?」
「原発神話は終わり、もう今世紀中に原発は建設されない」


メディア(ソーシャルメディアも含む)を見ていると、最前線で命をかけて戦っている人たちを尻目に、そんな声が聞こえてくる。いいも悪いも、常に避難の矛先を向ける相手を探す・・・失敗を決して許容しない・・・そんな日本人の傾向性が少なからず垣間見られる。

怖いのは、こうした声が(事実に即しているかどうかにかかわらず)多くの人の頭の中に、そのまま吸収されてしまう・・・ということである。ツイッターやFacebookなど、ソーシャルメディアが発達した今日では、その傾向がより一層強まる。世間に流れる声が事実と異なる内容であれば、・・・そう、それはつまり、その組織にとっての”風評被害”になる可能性が極めて高い。

こうした”風評被害”に企業はどのように対処したらいいのか? 「そりゃーさ、きちんと対応することだよ。東京電力だって、しっかり対応してれば・・・こんな避難を浴びることにはならなかったはず・・・」というのは簡単である。本当にそうだろうか?

世の中には「”きちんと”対応できない」ことはごまんとある。そうしたときに、どうすればいいのか?・・・こうした観点でも考えておくことが重要だ。これは日本のみならずソーシャルメディアが発達した世界に進出した企業全てに共通する課題でもある。

「対応のしようなんてあるのか!?」と思わず天を仰ぎそうな難題だが、専門家の記事や事例を見ていると、その中に一つのヒントが見えてくる。それは、負の情報発信を打ち消すための、正の情報発信を行うことである。ここで負の情報発信とは、その企業にとって望ましくない(または非好意的な)情報のことを指し、正の情報発信とは、その企業に望ましく(または好意的な)情報発信のことを指す。もちろん正論だがそんな簡単に実施できることではない。

具体的には、抑えるべき3つのポイントがある。

まずは、企業が情報発信できる場を作っておくことだ。いや、そういった場を醸成しておくこと・・・といったほうが正しいかもしれない。ここであえて”醸成”と書いたのは、それなりの意味がある。単にツイッターやFacebookなど有名どころのソーシャルメディア上に企業アカウントを作っておけばいい、という話ではなく、こうしたアカウントを日頃からアクティブに活用して情報発信を行い、その企業の存在をアピールしておくことが重要だ、ということだ。たとえば、ツイッターであれば、フォロワーを増やし、いざというときに流す情報をできる限り多くの人に見てもらえる環境を整えておくことがカギだ。

つぎに、企業のサポーター(賛同者)を増やしておくこと。ポジティブな口コミをしてくれる人たちを日頃から増やしておくことも重要だ。もちろん、これには時間がかかるだろうし、一番大変な作業だ。なお、これについて思い起こされるのは、先日、ブログでも書いたベビーカーで有名なマクラーレン社の事例だ。マクラーレン社は、同社製品のリコール対応について、誠実な対応を進めていたが、予期しない事情で対応が後手後手にまわり世間の非難を浴びた。しかし、そのような事態でもあきらめずに誠実な対応を続けていたのが功を奏して、最後は、同社の賛同者の口コミがどんどん広がり、最後には、信用力がかえって上がったという事例だ。

最後のポイントとしては、負の情報が発信されたことにすぐに気づけるモニタリング態勢を整備しておくことだ。企業にとって正しくないネガティブな情報が噂されているにもかかわらず、これを放置しておけば、「あぁ、この噂は事実だからあの企業は、噂をうちけそうとしないんだな・・・」と思われて、手遅れになる可能性がある。こういった事態を回避するためには、常日頃から企業がどのような噂をされているか、アンテナを張っておく必要がある。これについては、今回の東日本大地震の際に流れたデマメールへの素早い対応を見せたコスモ石油の事例が思い起こされる。この事例では、携帯メールや電話で、工場勤務の方から情報として「コスモ石油の爆発により有害物質が雨などといっしょに降る」というような風評が流れた。これをいち早く察知したコスモ石油側は「そのような事実はない」という情報を発信し、すぐに噂は鎮火されたと言うケースだ。

そんなところだ。

さて、ところで、今回の東北地方太平洋沖地震(東日本大地震)における東京電力の対応だが・・・反省すべき点は多々あるだろう。しかし、今は誰が悪いと非難するのではなく、みんな一丸となって解決に向けて動くときだ。”頑張る”・・・抽象的な言葉で嫌いだが、今こそ声を大にして言いたい。今こそ一致団結して頑張ろう!

書評: 一勝九敗

一勝九敗 (ユニクロ失敗しても勝つ経営) 著者:柳井正  新潮社

先週読んだのは、この本だ。特に誰かの評論を聞いたから・・・ではなく、何とはなしにオンライン書店のAmazonで適当に”良い本はないかな”と、漁っていて見つけたものだ。

なにせ、そのタイトルが気になるではないか。「一勝九敗」。自分自身が「人は失敗から、一番多くのことを学ぶ」ということを信条としていたわけで、あの1兆円規模の売上に迫る勢いのユニクロを作った柳井会長(兼社長)が、同じ哲学を持っている・・・ぜひ、彼の考えを詳しく知りたいと思った。

我々を叱咤激励する本・・・と思いたい

この本は、ユニクロ・・・もとい、ファーストリテイリングの柳井会長(当時54歳)が、大学卒業直後からこの本を発行する2003年にいたるまでの約30年間のその半生を振り返り、まとめた本である。

ところで、柳井氏によれば「本を書くのは経営の第一線を退いてから」と考えいたそうだ。それを翻して書くことに決めたのは、どうやら彼は、ファーストリテイリングの社員に現状(2003年)に対する危機感を訴えたかったようである。意志決定の速度が緩慢、社員一人一人に「自分たちがやるんだ」という気概が感じられない、新しい発想が出てこない・・・など大企業病になりつつある現状を危惧していたに違いない。

そういうわけで、文中、ファーストリテイリングの社員に対して話しかけているような言い回しが出てくる・・・。ただ、私がこの本を読んで感じたのは、柳井氏がファーストリテイリングの社員を向いて話しかけているように見えつつも、実は、そのまま我々日本国民全員に対して強く訴えかけているのではないか、ということだ。

日本国民よ、「頑張れ」と・・・。

思いのほか、内容の濃い本

正直、誰かの評判を聞いて買った本ではないので、もしかしたら「ハズレかな・・・ハズレだったらどうしよう・・・」など、多少不安な心持ちで読み進めた。が、200頁というありきたりの本の厚さ(薄さ?)からは想像できないほど、中身が濃いと思える本だった。何度も読み返したくなる本の一冊だ。

うぅむ、何で強い興味を引きつけられたのだろうか。

彼の豊富な経験(失敗談や成功談)が、リアルで鮮明に語られていたからだと思う。一部(?)彼の経験の中で、自分の人生と重なる部分(大学四年間はぶらぶらしていたなど・・・;まぁ、たいていのみなさん、同じようであったとは思うが・・・(苦笑))があったことも後押ししたのかもしれない。一応、自分も企業人のはしくれとして、彼の人生を自分の人生に重ねて、どこが重なるのか、重ならないのか、どこが足りないのか、どこが学べるのかなど、非常に興味がわいた。

心に響くいくつもの言葉

たとえば今、自分は「どうやっていい人材をより多く確保できるか」で悩んでいる。ネームバリューもお金も大企業には遠く及ばない・・・そのような会社で、どのように対処していけばいいのか、日々悩む。自分に才能がないのでは・・・と思うことすらある。

この点につき「会社が小さい頃は、とにかく人が集まらなかった。だから、仕入れから販売まで全て自分でやったが、おかげで色々と学ぶこともできた」と柳井氏自身が同じような経験をしたことに触れている。これを読むと、なんとなく勇気がわいてくる。

そのほか、本を読んで印象に残った部分として(ほんの一部分だが)いくつか挙げておくと、

・銀行からは上場承認が出るギリギリまで連帯保証人からはずしてもらえなかった
・ブレークスルーポイントがあり、ある店舗数を超えると売上がバーンと伸びるときがある
・ユニクロの悪口言って100万円というキャンペーンをやった
・社員一人一人が経営者マインドでビジネスに望むことが必要である、など

「ユニクロの悪口言って100万円」は、なんとなく記憶に残っている。これは実はなかなかできそうでできない勇気ある取組ではなかろうか。柳井氏の哲学がそのまま形となってあらわれた成果の一つだろうと思う。

柳井氏の夢は現在進行形

「僕は社員に”高い志や目標を持て”と良く言う。高い目標を掲げて、それに向かって実行努力することこそ重要である。」

「僕はユニクロをアメリカのリミテッド、ギャップ、イギリスのネクストなどに比肩できるその国を代表するようなファッションのチェーンストアあるいはSPA(製造小売業)にしたいと願っていた。それは会社が小さかった頃からの夢だ。」

いずれも柳井氏の言葉である。

この本は2003年に書かれたものだが8年が経過した2011年の今、ファーストリテイリング社のホームページを見ると、その後、ファーストリテイリングの大企業病化を防ごうと手を尽くした彼の意志の結果、そして、彼の掲げる大きな目標を追い求めた結果・・・その一端を見ることができる。

http://www.fastretailing.com/jp/ir/direction/

ファーストリテイリングのIR情報(投資家に向けた情報)は、経営者の意志が素直に見やすい形で反映されているな、という印象を持った。とりわけ「業界でのポジション」と銘打って出している「世界の主なアパレル製造小売企業との比較」は、彼の夢である「ギャップやリミテッドなどに比肩できる企業にしたい」の意志が現れた結果に思える。あまりこのような業界比較グラフを見せている企業を(個人的には)知らない。


ユニクロに勤める人もそうでない人も

かのピーター・ドラッカーは言う。『知識労働者は、全て企業家として行動しなければならない』と。柳井氏も言う。「全ての人たちが、一人ずつ”自営業者”としてその会社にコミットする。そういう組織を目指すべきだと思う」と。

人に目標や指示を与えられるのを待っているのではなく、自分で考えて行動する・・・このマインドは、経営者だけが持てばいいというものではなく、企業で働く者全員が持つべきものなのだということだろう。

企業家マインドを持つこと・・・失敗や成功から学ぶこと・・・この本に書かれたいくつもの主張は、ユニクロがユニクロたるゆえんかもしれないが、グローバル化が進む激しい競争社会の中で日本の企業みんなが勝ち抜いていくために必要な極意であるように思う。

その意味で、これから(ユニクロであるかどうかにかかわらず)就職しようとしている人、会社で働いている人、起業家の人・・・みんなが対象となる本だ。

一年後にもう一度読んでみたい

この本からは色々なヒントや勇気をもらった。できれば、一年後にもう一度読み返してみて、自分が今回”気づき”としてもらったことに、自分がどれだけ対応できているのか、それを知ることができればと思う。


【経営者が自らの体験を語るという観点での類書】
不格好経営(南場智子著)
セブン-イレブンの終わりなき革新(鈴木敏文著)


=====2011年5月8日(追記)=====
同じユニクロ関連の書籍ということで横田増生著『ユニクロ帝国の光と影』を読み、その書評をアップした。

2011年3月9日水曜日

最悪のタイミングで最悪のドライバーのタクシーに乗車

今日のお昼・・・前の打ち合わせがおしたため、次の打ち合わせに間に合うかギリギリの時間だった。

打ち合わせ開始まで残り15分。手元のスマートフォンで計算すると電車移動だと5分遅刻と出る。迷わず、てを挙げタクシーをつかまえた。

1台のタクシーが止まり、おもむろに乗り込む。

わたし「新日本橋駅まで行ってください!」
ドライバー「ごめんなさい。新人なので、行き方分かりません」
わたし「・・・・」


今、思えばこの時点ですぐにタクシーを飛び降りておけば良かった。しかし、運転手の左横を見ると、ナビゲーションシステムがついている。「今更、タクシーを乗り換えるのも時間がかかるし、まぁ、なんとかなるだろう」と思い、「とにかく出してください」と指示を出す自分。

ドライバー「どこらへんですかね・・・。まっすぐ行けばいいですか?」
わたし「あの・・・住所は、新日本橋室町・・・・です」


ドライバーは、手元にあった地図を開いて私が告げた住所がどこかを調べ始めた。「んっ!? ナビは!?」・・・と内心思う私の疑問をよそに、該当場所を見つけたらしく、

ドライバー「こ、このあたりですかね? その住所は?」

と私に地図に指を指しながらたずねた。正直、地図を見て私がわかるはずがない。番地があってるのなら、きっとそのとおりだし、あってないのなら間違っているだろう。「そんなことを聞くな」そう思いつつ、とにかく向かってくれと再度お願いする。時計の針は、乗車してから既に5分が経過していた。

うなずいて車を発進させるドライバー。5分ほど運転して、また私に道を尋ね始める。

ドライバー「こっち、右に曲がる感じですかね!?」

「こっち」ってなんじゃ「こっち」って・・・。

わたし「・・・っていうか、ナビは?おじさん、ナビは?使わないの?」
ドライバー「はい、えー、ついてるんですが・・・。」

と言いつつ、再び手元にある紙の地図をめくり始める。開いた口がふさがらなかった。このおじさんは、タクシードライバーとして新人なばかりか、ナビに対しても新人だったのだ・・・。使い方が分からないのだ。

口をあんぐり開けたまま、結局、スマートフォンを取り出して、私も自分で現在地を確認して、行き方を調べる羽目に。手元にある携帯電話に出る地図と現在地を確認しながら、ドライバーに、右へ行ってください、左へ行ってください、と指示。

結局、目的地に着いたのは、打ち合わせ時間を15分過ぎてからのことだった。

23インチ液晶ディスプレイを奮発して購入した結果は・・・


1週間ほど悩んだあげく、23インチの液晶ディスプレイを購入した。普段使っている我がラップトップのためだ。

このラップトップ・・・画面の解像度は高いのだが(1920×1080)、実は物理的なサイズが小さい。このため、ものすごく目が疲れる。この問題を解決するために液晶ディスプレイを買うことにした、というわけだ。

こういった電子機器は買うと高いのかな、と不安に思いつつ調べてみれば、およっ、今や23インチであれば2万円を切る価格で購入することができる。2万円・・・と言っても、もちろん気軽に出せる値段ではないが、自分の目の健康と作業の生産性を考えるとリターンの大きい投資だと結論づけた。

価格ドットコムを使って評判の良さげな品物をリサーチ。そしてターゲットを、三菱電機の

Diamondcrysta WIDE RDT233WLM-D [23インチ ブラック]

に絞った。びっくりしたのは一番安く卸していたのがAmazon.co.jpだったこと。Amazonなら、これ安心と、すぐにオンライン決済。

次の日・・・箱が家に届いた・・・。

おー、感動。画面がでかい。資料を複数開いても一つの画面で一度に見ることができる!

いやー、使い始めてまだ2日ほどしか経ってないが、自室の机に向かうのが楽しい。今のところ、買って良かったと思える今年のベストアイテムである。



2011年3月7日月曜日

書籍: 「デフレの正体」

今週読んだ本は次の本だ。

「デフレの正体」~経済は「人口の波」で動く~ 藻谷浩介著 角川書店

とあるラジオ番組にゲスト出演されていたジャーナリストの池上彰氏が「最近、お薦めしている本」として取り上げた一冊がこの本だった。その時は「いつか機会があれば買って読んでみよう」そう思ったものだ。そして、先日、書店をぶらぶらしていたら、入り口近くに天高く積まれていた”とても目立つ”本があった。それが、この本だった。ちなみにたしか、管総理もこの本を買っていた記憶がある。

”デフレ”という言葉を聞くと「なんだ、経済の本か」「難しそう」という印象を持つだろうが、経済学者の出す難しい専門書ではない。「日本は、なぜ不景気なのか」「なぜ好景気を実感できなかったのか」といった日本人であれば誰もが気になるテーマに対して、明快に著者としての回答を出してくれている本だ。

最近、買う本はページ数としても内容的にも、さほど濃厚でもないのに、みんな2,000円近くの値段がする中、この本はなんと724円!・・・本から得られるものを考えると、読む価値の高い本である。

この本の一番凄いところは、こと経済の話になると経済専門家が、こぞって偉そうに難しい言葉を並べての主張に終始してしまいがちなのに対し、著者は、明確な論拠を持って、極めて明確にわかりやすく、読んだ人が納得しやすい主張をしていることにあると、思う。だからこそ、”あの教えるのが大得意”の池上彰氏も推薦したのだろう。実際、私自身(たいていは読み終わった後に、印象に残っているものなど少ない中)読み終わった後にたくさんの事が頭の中に残っていた。読んでいて気持ちがいいので、後2~3回くらいは繰り返し読んでみてもいいな、とも思った。

”問題”は「景気が悪い、景気が良くても実感ができない」ということであり、その”原因”は「内需が伸びないからだ」というのが著者の主張である。そして”原因の原因”すなわち”根本原因”は「労働生産人口の減少」にある、と言う。著者は、これら”問題”と”原因”の因果関係や「労働生産人口の減少」といったことについて、これでもかという程のデータを用いて、詳しく、かつ、易しく説明している。

【問題】 景気が悪い、景気が良くても実感できない
【原因】 内需が伸びない
【根本原因】 労働生産人口の減少


彼の主張に説得力があるのは、データ数や説明方法だけではないかもしれない。著者のプロフィールを見ると「平成合併前の市町村99.9%、海外59カ国を概ね私費で訪問した経験を持つ」とある。文章の節々にも見てとれるが、徹底的な現場至上主義は、著者に親近感すら覚えさせる。

ところで、一つ興味深かったのは、本のところどころで主張する「統計データでは、確率ばかりではなく、絶対数を見よ。実は、多くの経済専門家がこういった確率(例えば、有効求人倍率等)だけを見て持論を展開していることが多い。」という意見だ。以前読んだ「リスク・リテラシーが身につく統計的思考法の著者」ゲルト・ゲーゲレンツァー氏は、「数字を扱う専門家になればなるほど、実は、専門家自身が間違った解釈をして説明したり、説明相手に対して不正確な情報を発信していることが多い」と言っていた。勝間和代氏だったか別の方も、「主張者が確率を持ち出してきたときには、その分母を確認しなさい」と言っていたと記憶している。

この本は、”みんな”が読むべき本だと思う。景気はみんなの生活に直結する関心事であるはずだ。「知ったところで何ができる?」と反論する人がいるかもしれないが、国民みんなの経済リテラシーが上がることは、日本の将来を良くするのに、とても重要なことではないだろうか。経済専門家の方々・・・私がどうのこうの言わずとも、当然こういった本には目を通されていると思うが、一応・・・やはり読んで欲しいと思う。色々な方の主張は知るべきだし、また、個人的に藻谷氏のようなレベルでの明快さを持って、持論を展開して欲しいと思う。ビジネスマン・・・将来の企業戦略を考える上で、この本の主張内容を知っていて損はないように思う。(もちろん、「経済なんてはなっから興味ありませんっ!」という人は無理して読むべき本ではないだろうが)

藻谷氏の主張は、先に述べたとおりだが、加えて「しっかりと数字を見て客観的に判断して意見を述べよ」とも言っている。意に従うのならば、この「デフレの正体」を読んで、全てを鵜呑みにするのではなく、自分自身でもデータを求めたり、見解を異にする他の専門家の本を読んだりして、藻谷氏に対する検証も怠らない・・・そういった姿勢が大事だと感じる。

息子の気持ち

先日、子供達のおじいちゃんが奈良からやってきた。子供達二人は大興奮。

娘は、おじいちゃんが帰るまでの二日間、ベッタリだった。息子は、まだ幼稚園に通っている身だが、帰宅後、自室で仕事をしていた私には目もくれず、おじいちゃんのところへ一目散。その日は、そのまま私をおいて家族が一泊旅行ででかけたので、結局、丸二日間、息子には会えずじまい。

「まぁ、そんなものだ」と思って、本心は何も気にはしてなかったが、その日の夜、電話で一言ぼそっと「今日、家に幼稚園から帰ってきても、パパにただいますらも言わず、一目もくれず、旅行に行ってしまったね。」と話したものだが・・・。

次の日の夜、仕事から自宅に戻ったら、息子から手紙がおいてあった。後から聞くには、旅行から帰宅して、突然、息子が自分の意志で筆を走らせたのだという。

どんな嫌なことでも全て吹っ飛ぶパワーを持ったアイテムになりそうだ。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

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