先週読んだのは、この本だ。特に誰かの評論を聞いたから・・・ではなく、何とはなしにオンライン書店のAmazonで適当に”良い本はないかな”と、漁っていて見つけたものだ。
なにせ、そのタイトルが気になるではないか。「一勝九敗」。自分自身が「人は失敗から、一番多くのことを学ぶ」ということを信条としていたわけで、あの1兆円規模の売上に迫る勢いのユニクロを作った柳井会長(兼社長)が、同じ哲学を持っている・・・ぜひ、彼の考えを詳しく知りたいと思った。
我々を叱咤激励する本・・・と思いたい
この本は、ユニクロ・・・もとい、ファーストリテイリングの柳井会長(当時54歳)が、大学卒業直後からこの本を発行する2003年にいたるまでの約30年間のその半生を振り返り、まとめた本である。
ところで、柳井氏によれば「本を書くのは経営の第一線を退いてから」と考えいたそうだ。それを翻して書くことに決めたのは、どうやら彼は、ファーストリテイリングの社員に現状(2003年)に対する危機感を訴えたかったようである。意志決定の速度が緩慢、社員一人一人に「自分たちがやるんだ」という気概が感じられない、新しい発想が出てこない・・・など大企業病になりつつある現状を危惧していたに違いない。
そういうわけで、文中、ファーストリテイリングの社員に対して話しかけているような言い回しが出てくる・・・。ただ、私がこの本を読んで感じたのは、柳井氏がファーストリテイリングの社員を向いて話しかけているように見えつつも、実は、そのまま我々日本国民全員に対して強く訴えかけているのではないか、ということだ。
日本国民よ、「頑張れ」と・・・。
思いのほか、内容の濃い本
正直、誰かの評判を聞いて買った本ではないので、もしかしたら「ハズレかな・・・ハズレだったらどうしよう・・・」など、多少不安な心持ちで読み進めた。が、200頁というありきたりの本の厚さ(薄さ?)からは想像できないほど、中身が濃いと思える本だった。何度も読み返したくなる本の一冊だ。
うぅむ、何で強い興味を引きつけられたのだろうか。
彼の豊富な経験(失敗談や成功談)が、リアルで鮮明に語られていたからだと思う。一部(?)彼の経験の中で、自分の人生と重なる部分(大学四年間はぶらぶらしていたなど・・・;まぁ、たいていのみなさん、同じようであったとは思うが・・・(苦笑))があったことも後押ししたのかもしれない。一応、自分も企業人のはしくれとして、彼の人生を自分の人生に重ねて、どこが重なるのか、重ならないのか、どこが足りないのか、どこが学べるのかなど、非常に興味がわいた。
心に響くいくつもの言葉
たとえば今、自分は「どうやっていい人材をより多く確保できるか」で悩んでいる。ネームバリューもお金も大企業には遠く及ばない・・・そのような会社で、どのように対処していけばいいのか、日々悩む。自分に才能がないのでは・・・と思うことすらある。
この点につき「会社が小さい頃は、とにかく人が集まらなかった。だから、仕入れから販売まで全て自分でやったが、おかげで色々と学ぶこともできた」と柳井氏自身が同じような経験をしたことに触れている。これを読むと、なんとなく勇気がわいてくる。
そのほか、本を読んで印象に残った部分として(ほんの一部分だが)いくつか挙げておくと、
・銀行からは上場承認が出るギリギリまで連帯保証人からはずしてもらえなかった
・ブレークスルーポイントがあり、ある店舗数を超えると売上がバーンと伸びるときがある
・ユニクロの悪口言って100万円というキャンペーンをやった
・社員一人一人が経営者マインドでビジネスに望むことが必要である、など
「ユニクロの悪口言って100万円」は、なんとなく記憶に残っている。これは実はなかなかできそうでできない勇気ある取組ではなかろうか。柳井氏の哲学がそのまま形となってあらわれた成果の一つだろうと思う。
柳井氏の夢は現在進行形
「僕は社員に”高い志や目標を持て”と良く言う。高い目標を掲げて、それに向かって実行努力することこそ重要である。」
「僕はユニクロをアメリカのリミテッド、ギャップ、イギリスのネクストなどに比肩できるその国を代表するようなファッションのチェーンストアあるいはSPA(製造小売業)にしたいと願っていた。それは会社が小さかった頃からの夢だ。」
いずれも柳井氏の言葉である。
この本は2003年に書かれたものだが8年が経過した2011年の今、ファーストリテイリング社のホームページを見ると、その後、ファーストリテイリングの大企業病化を防ごうと手を尽くした彼の意志の結果、そして、彼の掲げる大きな目標を追い求めた結果・・・その一端を見ることができる。
http://www.fastretailing.com/jp/ir/direction/
ファーストリテイリングのIR情報(投資家に向けた情報)は、経営者の意志が素直に見やすい形で反映されているな、という印象を持った。とりわけ「業界でのポジション」と銘打って出している「世界の主なアパレル製造小売企業との比較」は、彼の夢である「ギャップやリミテッドなどに比肩できる企業にしたい」の意志が現れた結果に思える。あまりこのような業界比較グラフを見せている企業を(個人的には)知らない。
ユニクロに勤める人もそうでない人も
かのピーター・ドラッカーは言う。『知識労働者は、全て企業家として行動しなければならない』と。柳井氏も言う。「全ての人たちが、一人ずつ”自営業者”としてその会社にコミットする。そういう組織を目指すべきだと思う」と。
人に目標や指示を与えられるのを待っているのではなく、自分で考えて行動する・・・このマインドは、経営者だけが持てばいいというものではなく、企業で働く者全員が持つべきものなのだということだろう。
企業家マインドを持つこと・・・失敗や成功から学ぶこと・・・この本に書かれたいくつもの主張は、ユニクロがユニクロたるゆえんかもしれないが、グローバル化が進む激しい競争社会の中で日本の企業みんなが勝ち抜いていくために必要な極意であるように思う。
その意味で、これから(ユニクロであるかどうかにかかわらず)就職しようとしている人、会社で働いている人、起業家の人・・・みんなが対象となる本だ。
一年後にもう一度読んでみたい
この本からは色々なヒントや勇気をもらった。できれば、一年後にもう一度読み返してみて、自分が今回”気づき”としてもらったことに、自分がどれだけ対応できているのか、それを知ることができればと思う。
【経営者が自らの体験を語るという観点での類書】
・不格好経営(南場智子著)
・セブン-イレブンの終わりなき革新(鈴木敏文著)
=====2011年5月8日(追記)=====
同じユニクロ関連の書籍ということで横田増生著『ユニクロ帝国の光と影』を読み、その書評をアップした。
1 件のコメント:
「東北地方太平洋沖地震」を受けて、ファーストリテイリングが動きを見せた模様。
報道によれば、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは14日、 東日本大震災の発生を受け、特に被害が大きい宮城、岩手、福島、青森、茨城の計5県に対し、「ユニクロ」や「ジーユー」などファストリのグループ会社全体で義援金3億円と、全世界の同社グループの従業員からの義援金計1億円を拠出すると発表した。同社の柳井正会長兼社長も個人で義援金10億円を送るという。日本赤十字社などを通じて寄贈され、同社の義援金総額は14億円となる。
はぁ~、凄い。
コメントを投稿