2011年3月7日月曜日

書籍: 「デフレの正体」

今週読んだ本は次の本だ。

「デフレの正体」~経済は「人口の波」で動く~ 藻谷浩介著 角川書店

とあるラジオ番組にゲスト出演されていたジャーナリストの池上彰氏が「最近、お薦めしている本」として取り上げた一冊がこの本だった。その時は「いつか機会があれば買って読んでみよう」そう思ったものだ。そして、先日、書店をぶらぶらしていたら、入り口近くに天高く積まれていた”とても目立つ”本があった。それが、この本だった。ちなみにたしか、管総理もこの本を買っていた記憶がある。

”デフレ”という言葉を聞くと「なんだ、経済の本か」「難しそう」という印象を持つだろうが、経済学者の出す難しい専門書ではない。「日本は、なぜ不景気なのか」「なぜ好景気を実感できなかったのか」といった日本人であれば誰もが気になるテーマに対して、明快に著者としての回答を出してくれている本だ。

最近、買う本はページ数としても内容的にも、さほど濃厚でもないのに、みんな2,000円近くの値段がする中、この本はなんと724円!・・・本から得られるものを考えると、読む価値の高い本である。

この本の一番凄いところは、こと経済の話になると経済専門家が、こぞって偉そうに難しい言葉を並べての主張に終始してしまいがちなのに対し、著者は、明確な論拠を持って、極めて明確にわかりやすく、読んだ人が納得しやすい主張をしていることにあると、思う。だからこそ、”あの教えるのが大得意”の池上彰氏も推薦したのだろう。実際、私自身(たいていは読み終わった後に、印象に残っているものなど少ない中)読み終わった後にたくさんの事が頭の中に残っていた。読んでいて気持ちがいいので、後2~3回くらいは繰り返し読んでみてもいいな、とも思った。

”問題”は「景気が悪い、景気が良くても実感ができない」ということであり、その”原因”は「内需が伸びないからだ」というのが著者の主張である。そして”原因の原因”すなわち”根本原因”は「労働生産人口の減少」にある、と言う。著者は、これら”問題”と”原因”の因果関係や「労働生産人口の減少」といったことについて、これでもかという程のデータを用いて、詳しく、かつ、易しく説明している。

【問題】 景気が悪い、景気が良くても実感できない
【原因】 内需が伸びない
【根本原因】 労働生産人口の減少


彼の主張に説得力があるのは、データ数や説明方法だけではないかもしれない。著者のプロフィールを見ると「平成合併前の市町村99.9%、海外59カ国を概ね私費で訪問した経験を持つ」とある。文章の節々にも見てとれるが、徹底的な現場至上主義は、著者に親近感すら覚えさせる。

ところで、一つ興味深かったのは、本のところどころで主張する「統計データでは、確率ばかりではなく、絶対数を見よ。実は、多くの経済専門家がこういった確率(例えば、有効求人倍率等)だけを見て持論を展開していることが多い。」という意見だ。以前読んだ「リスク・リテラシーが身につく統計的思考法の著者」ゲルト・ゲーゲレンツァー氏は、「数字を扱う専門家になればなるほど、実は、専門家自身が間違った解釈をして説明したり、説明相手に対して不正確な情報を発信していることが多い」と言っていた。勝間和代氏だったか別の方も、「主張者が確率を持ち出してきたときには、その分母を確認しなさい」と言っていたと記憶している。

この本は、”みんな”が読むべき本だと思う。景気はみんなの生活に直結する関心事であるはずだ。「知ったところで何ができる?」と反論する人がいるかもしれないが、国民みんなの経済リテラシーが上がることは、日本の将来を良くするのに、とても重要なことではないだろうか。経済専門家の方々・・・私がどうのこうの言わずとも、当然こういった本には目を通されていると思うが、一応・・・やはり読んで欲しいと思う。色々な方の主張は知るべきだし、また、個人的に藻谷氏のようなレベルでの明快さを持って、持論を展開して欲しいと思う。ビジネスマン・・・将来の企業戦略を考える上で、この本の主張内容を知っていて損はないように思う。(もちろん、「経済なんてはなっから興味ありませんっ!」という人は無理して読むべき本ではないだろうが)

藻谷氏の主張は、先に述べたとおりだが、加えて「しっかりと数字を見て客観的に判断して意見を述べよ」とも言っている。意に従うのならば、この「デフレの正体」を読んで、全てを鵜呑みにするのではなく、自分自身でもデータを求めたり、見解を異にする他の専門家の本を読んだりして、藻谷氏に対する検証も怠らない・・・そういった姿勢が大事だと感じる。

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