著者: 齊藤了文、中村光世
発行元: 晃書房
エリヤフ・ゴールドラット氏の「ザ・ゴール2」を読んでいて触発され、ロジカルシンキングの深淵を覗いてみようと意気込んで、Amazonで適当に探して買ったのがこの本だ。
■”議論”を語るアカデミックな解説本
「正しい議論へのアプローチの方法」をアカデミックに解説した本である。本書で紹介されているアプローチは大きく「演繹的な議論」「帰納的な議論」「非演繹的な議論」「因果的な議論」の4つだ。
ここで”アカデミック”と比喩したのは、上に述べたアプローチの解説にあたって、著者は文章をいくつかの部品に分解して・・・そうそれは、あたかも中学時代に習った英語の五文型(例:SVOC)のように・・・その組み合わせを詳しく考察しているからである。
たとえば「真・偽」「前提・結論」「P・¬P」(¬は論理学で使われる否定記号らしい)といった言葉や記号が頻繁に出てくるが、「不景気が続く」をPという記号で表し、「不景気が続かない」を¬Pを表すことにしよう・・・といった具合いだ。
■読者のスキルアップを促す練習問題
本書は読者が「正しい議論をできる」または「議論を正しく理解できる」ようにすることを狙いとしており、一方的な解説にとどまらず、練習問題を数多く用意している。たとえば次のような感じだ。
【練習問題(一部抜粋)】
以下の議論が妥当かどうかを決定しなさい。また、どのように決定したのかを説明しなさい。
1.ナルミの母は、チェーホフの『桜の園』を何度も繰り返し読んだ。シズカはチェーホフの作品を読んだことがない。それだから、シズカはナルミの母ではない・・・。
2.・・・
ちなみに、上の練習問題1の回答は「この議論は妥当ではない」だ。
■”大学で使う教科書”といった表現がぴったり当てはまる
この本で書いていることは至極正論だ。ただ、正論であることと理解しやすいか、は別問題だ。正直、わたしの本書に対するファーストインプレッションは
「これ、大学時代に教授から読まされていたあまり面白くない教科書にそっくりだなぁ」
といったものだ。後半になると、A(p, q, r, s, t, u, v)といったような感じで、いよいよ記号が増えてくる。すなわち、簡単なことを難しく説明し、眠りの世界に誘う・・・わたしの地頭が悪く忍耐力がないせいだろうが、そんな印象を持った。
こうした類の本にアレルギーがある人は、本書を読むのはまず無理だろう。正直、大学時代のトラウマが残っているせいか、わたしも本書を読了するのはキツかった。
■どんな人に向いている本か
先述したように決して”万人受けする本ではない”が、「正しい議論をする力」、「議論を正しく理解する力」を身につけたがっている人にとっては、有効な手段の1つになりうるものだとは思う。なぜなら「やれ、記号が多い」「やれアカデミックだ」などと揶揄したが、ロジカルにモノを考えるということは、合理的・・・いや、数学的に考えることと非常に似ているからだ。
人を説得する仕事についている人、ディベートをする仕事についている人、論文を書くような仕事についている人
そういったことが日頃から求められており、スキルに伸び悩んでいる人達には、文章をシンボリックな記号におきかえて、よりロジカルにアプローチできるような意識を持つ訓練は大きな助けになる。
「おまえはどうなんだ!?コンサルだろ!?」
という質問が飛んできそうだが、この本を読んだ後は、人の主張を聞いたときに以前にも増して、数学的な目で見つめるようになった、ということは¬(否定)しない。
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