2012年2月8日水曜日

書評: It's Not Luck (ザ・ゴール2)

タイトル: It's Not Luck (日本名タイトル: ザ・ゴール2)
著者: Euyahu M. Goldratt (エリヤフ・ゴールドラット)
発行元: The North River Press
発行年: 1994年

前作「ザ・ゴール」のあまりの素晴らしさに感動して、迷うことなく買った本だ(ちなみに英語力を向上させたいという目的もあったため私は英語版を購入して読みました)。

■小説型ケーススタディ再び!

本書は著者エリヤフ・ゴールドラット氏が提唱する「制約理論」の小説型ケーススタディだ。

前作「ザ・ゴール」では、主人公アレックスが工場長として自分の工場再建に立ち向かう話だったが、今作では彼は同会社の副社長として会社全体の再建に立ち向かう話だ。工場長時代のアレックスの活躍もありいくつかの事業は回復基調にあるものの、投資家が求めるレベル・スピードとはまだ程遠い状態。物語はそこからスタートする。取締役は収益に期待するほど貢献していない事業を売却するとまで言及しはじめる始末。事業がなくなれば自分のポジションもなくなる。そんな窮地に追い込まれたアレックスはどう立ち向かうのか・・・。

なお「制約理論」は、もとはサプライチェーン(SCM)を強化するための実証された管理手法であり、製造業などで特に注目されてきたものだが、その本質をついた考え方は、金融をはじめ、教育やサービス業など業界の垣根を超えて成功事例を納めてきた。続編では、理論の有用性を証明するかのごとく、経営やマーケティング・・・果ては、家庭問題の解決にいたるまで幅広いテーマに迫ってゆく。

■”読書によるOJT”を実感させてくれる本

読み終わって感じたのは、主人公同様の疲労感と達成感。それはあたかも1つのOJTをし終えたかのような感じである。さしずめOBT (On the Book Training)とでもいったところか。

その魅力は前作に負けていない。この本の良さについて、大きく3つのポイントを挙げることができる。

1つ目は読みやすさ。ケーススタディでありながら、物語形式をとっているという点だ。二人の子供を抱えるサラリーマン家庭。会社のみならず自宅で直面する苦労話には、ついつい自分の身を重ね、苦笑すらしてしまう。

2つ目はケーススタディそのものの質の高さだ。ゴールドラット氏は前作「ザ・ゴール」の反響が大きかったせいもあるのだろう。読者を通じて、その後も数えきれないほど多くの事例に接する機会を得られたに違いない。時間も援助も限られた中で次から次への振りかかる無理難題の連続は、そうした実際に現場で起こった事実が数多く採用されており、真実味に溢れている。

3つ目は”制約理論”の汎用性の高さだ。先にも触れたが、ケーススタディが取り扱うテーマは、会社の話にとどまらない。アレックスは師ジョナから習得したテクニックを(前作ほど深刻な話題ではないが)一般的な家庭で父親が直面するちょっとした問題解決に対しても使ってみせる。

一般的な父親が直面するちょっとした問題とは、具体的にはたとえば「自分(アレックス)が出張している間に、その間だけ車を使いたいと子供が突然言ってきた。しかし、自分は感覚的になんとなくあまりノリ気がしない。」・・・こんなシーンで自分は子供にどう接するか?といったようなものだ。普通であれば「適当に理由をつけて断る」か「やや不機嫌な面持ちで貸すことに合意する」か・・・そのどちらかだろうが、本ではお互いがしっかりと納得できる形の解決をさぐる。

■原点回帰できる本

「~理論」と言っているが、その内容は決して難しい話ではない。現状整理の仕方や根本原因の追及の仕方は、コンサルタントが普段行なっているそれと同じようなものだ。ただ、コンサルタントのみならず仕事の経験値が増えてくると、ついつい、基本的なことを忘れてしまいがちなのが人間だ。

たとえば「お客様にどうやって商品を売るか?」というテーマを抱えた時、みなさんはどのようにアプローチするだろうか? 多くの人が「どのお客様が興味を示しそうか?」「いくらだったら買いそうか?」「商品の付加価値を理解してもらえるだろうか?」そんな問いかけをする人も少なくないのではなかろうか。もちろんそういったことも大事だが、それよりも前に「そもそもお客様は何に困っているのか? 我々はどうやったらお客様のその悩みを解決してあげられるのか?」といった視点を持つことが大事である。

「そんなの当然!」と一蹴する人も多いだろうが、意外にそういったことを忘れて供給者側の視点で物事を追及しようとしている人は少なくないように思う。そういった意味で、原点に回帰させてくれる本だ、と思う。

■社員の教育本として・・・

私の会社はコンサルティング会社であるので当然の話だが、どのような組織に務めていても、この本に書かれているような考え方は身につけていて決して損のないものだ。いや、身につけているべきものだ。

しかし、一方で”当然”と思える知識を教育することは意外に難しいのではないかと思う。OJTなどで身につけさせるのが一番の近道だが、場合によっては学習に適当な案件がないときもある。また、我社のように若く、教育スタイルが確立されていない会社は、教育の質にもばらつきが出る可能性がある。

こういった問題を解決する手段として、この本を配って読ませるというのも一興だと感じている。もしそれを行った際には、後日談としてその効果をここに記載させていただく。


【コーチングという観点での関連リンク】
 ・書評: ザ・ゴール(The Goal)
 ・書評:子どもの心のコーチング 
 ・書評:この1冊ですべてわかるコーチングの基本

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