2012年6月2日土曜日

書評: 歪笑小説

「この本面白い! 早速、続編を買ってしまった!」

そんな発言をする友人に進められて読んだのがこの本である。


タイトル: 歪笑小説
著者: 東野圭吾
出版社: 集英社文庫

■30ページごとに切り替わる場面と主人公

主人公は・・・とある出版社をとりまく編集者や作家さん。”愉快な仲間たち”と評したくなる登場人物には、編集部に就職したての若手、青山くん、業界きってのやり手、獅子取編集長、才能があるんだかないんだかわからない作家、熱海圭介などなど、個性ある人たちがたくさん。それぞれが主人公になり、脇役になり話を盛り上げる。

本は約30ページごとに場面や主役が入れ替わる構成になっている。

■何と言っても”読み心地”がいい

東野圭吾氏の本は「容疑者Xの献身」をはじめ、これまでに何作品か読んだことがある。次から次と売れる作品を出し続けている人だ。ただし、作品をポンポン出しているだけに「浅く広く」という印象がどうしても拭えない。そんな彼の作品に今更、大きな感動なんて・・・。

ところがどっこい、ほれきたもんだ。

東野圭吾の才能に改めて驚かされた・・・それがこの本を読んで最初に感じたことである。

とにかく、とても読み心地がいいのだ。そう思える理由はなんだろうか。

まず第一にストーリーのテンポが軽快で、各章の出だしが常にキャッチーだ。場面や主役が頻繁に入れ替わると普通は、読み手に負担がかかり、話についていくのがつらくなる。しかし、この本では「おっ、次は何をやらかそうとしているのか?」と気になる出だしにすぐに引き込まれる。

第二にオチがピリリと効いている。各章の物語の最後にかならず「お!?」とか「え!?」、「おおぉ」とつぶやきたくなるようなオチがある。それがまさにタイトルよろしく読み手の歪笑を誘うのである。

第三にほどよい現実感がいい。小説なのでフィクションではあろうが、何と言っても舞台は出版業界。おそらくは著者自身の実体験が数多く反映されているのでは?と思えるようなリアルさが漂う。たとえば、自社で出版してもらうために売れっ子の作家先生の「カバン争奪戦」なる話が出てくるが、その下りを読むと「おいおい、ありえねぇー」という思いと「いや、ありえそう」という思いがもたげるのだが、それがまた本の魅力を引き上げている。

■続編を読みたい

なるほど、知人の言う「続きが読みたくなる」は、わたしにも当てはまるようだ。

この”心地よさ”を引き続き味わいたい。

そんな気持ちにさせてくれる本である。東野圭吾氏に脱帽。








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