2012年6月16日土曜日

書評: 「IT断食」のすすめ

Windowsが全盛期の時代にいたっても、スペインのアパレルメーカー、ZARAはDOS(旧世代のパソコンのオペレーティングシステム)のPOSシステムを使っていたと言う。

DOSはシンプルで安定していた。パソコンに疎い人でも、マニュアル通りに設定すれば、すぐにセッティングができた。IT部門の人間がわざわざ現地に出向かなくても、現場の人だけで十分・・・その日からすぐに使えた、などのメリットがあったためだ。

これは、わたしがMBAの授業中に知った事例だ。当時、IT信奉者だった私には、”目から鱗”だった。以後、「ビジネスに本当に役立つもの」、という確信を持てない限り、不用意な投資はすまい、そう誓った。事実、今の会社を立ち上げる際にも無駄と思えるITへの投資は一切しなかった。

そして、わたしにとってのこのZARAの事例を彷彿とさせる本がある。それが、この「IT断食」のすすめ、だ。


■ITにコントロールされる側から、コントロールする側に戻ろう

「ITにコントロールされる側から、ITをコントロールする側に戻ろう。そのためには、まず断食をしてみよう」・・・というのが、この本の趣旨である。

ITは確かに便利で我々の生活を一変させたが、「IT中毒」という大きな副作用をもたらしている、と著者は説く。銀行の資金決済処理に代表されるように、単純作業を大量にこなす・・・この自動化を実現させたITの威力には、確かに目を見張るものがある。しかし、高機能PCが安価で誰にでも手に入るようになったあたりから・・・そう、メールやファイルサーバ、ウェブサーバといった、いわゆる情報系システムが登場したあたりから、おかしくなりはじめた、というのだ。我々が行なっているデスクワークの多くが、ITにより効率化されている、というよりはむしろ、ITにより非効率化されている、というわけだ。

「あるメーカーの調査によれば、1日に受取るメールの55%が何のアクションも必要のないメールだったことが分かった」

「インターネット上などにある情報を”何も考えずに”コピペし、提出する・・・そこには自身の考えなど微塵も反映されていない。無駄な資料に基づき、無駄な資料がさらに作られていく。」

「パソコンの前に座ってキーボードをたたいて仕事をしているフリをしやすくなった。仕事ができない人間の隠れ蓑に使われるようになった。」

■”なんとなく”だった課題と解を浮き彫りに

実は、この本が主張する内容は、ものすごく斬新であるかというとそんなことはない。ITの中毒性は”なんとなく”ではあるが、ずっと叫ばれ続けてきたテーマだ。

「ITをビジネスの中心に押し上げるようなCIOといった役職などは不要だ!」

といった著者の主張も一見、斬新に聞こえるが、「CIOが必要だ!」と叫ぶ人たちと、実は目指すところは一緒なのではないかと感じた。

とは言え、今まで”なんとなく”であった問題を明確に浮き彫りにさせ、具体的な解を示しているところにこの本の良さがあると思う。

著者の二人は、コンサルタントや経営の実践を経験してきた人たちだ。だからだろう。本の説明は論理的で、ポイントが明快・・・正直、とても読みやすいし、わかりやすい。

特に印象的なのは、我々ビジネスマンの課題を浮き彫りにするために、ところどころ出てくる小説仕立ての話。

入社3年目、草処くんの1日

「昨夜はつい、ネットのゲームとツイッター、フェイスブックに没頭して夜更かしをしてしまい、今朝は起きるのがつらかった。SNSの”友達”は200人を超えた。一度会っただけの人とも、お互いSNS友達になることにしている・・・。」

「おー、これは今の自分じゃん・・・」というように、我々が、いかに「IT中毒に陥っているか」を、まざまざと見せつけられる感じだ。

経営者、そしてPCにかじりつくビジネスマンに必見の書

読み終えて素直に思う。自分にも自分の会社にも「IT断食」が必要だと。お世辞抜きで、実践的で良いアドバイスだと思う。

効率化を目指す経営者・・・そして、PCの前に向かっている時間が長いビジネスマンには必見の書だ。


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