池上彰氏のこの優れた能力にはワケがあった。
それを知りたいなら、次の本がオススメだ。
伝える力
著者: 池上彰
発行元: PHPビジネス新書
価格: 800円
■「話す」、「書く」、「聞く」を極めて伝える力をパワーアップ
本書は、コミュニケーション能力を高める秘訣を紹介したものだ。コミュニケーション能力とはすなわち、インプット(聞く)の仕方とアウトプット(伝える)の仕方・・・のことである。
中身は「まず、自分が”知らないこと”を知ろう」といった姿勢の持ち方に始まり、「会話や文章の”出だし”に力を入れよう」「カタカナ用語はできるだけ使わないようにしよう」といったモノゴトを人に伝える際の注意事項の紹介、そして「ブログを書くことを通じて他者に刺激を受ける努力をしよう」といった文章力を効果的・効率的に高める方法にいたるまで、幅広くカバーしている。
読んでみてまず「さすが、池上彰さん。1つ1つのポイントの説明がわかりやすいかった」という印象を持った。
ただし、「やや本の全体感を微妙に掴みづらかったかな」・・・といった感もある。そう感じたのは、この本を読んだ後に「コミュニケーション能力を高めるには、つまり、どうしたらいいのか?」を自分の中で一言でまとめてみようとすると、意外にすんなりできなかったからだ。そりゃー、おまえの能力が低いからだ、と言われればそれまでだが。
※本書の「おわりに」を読んでいて、その謎が解けた。この本は、編集部が取材と称し何回かに分けて池上彰氏に口頭でインタビューした内容をベースに本にまとめたもの、とある。最初に本全体のフォーマットを決めて、論理的に積み上げて書いた、というよりも、池上彰氏の頭の中にあるものを吐き出した後、それらをいくつかのテーマごとに分類整理した・・・そんな感じだ。
■”なるほど”の多さに、いたく感動
池上彰さんの本を読んでいて、いつも感じることだが、今回も”共感できること”、”なるほど”と思えることが多かった。
「わかりやすく伝える役割を持つ教科書こそ、最も専門用語を散りばめており、一番わかりにくくしている元凶だ」とか、「30秒あれば、起承転結を含めたちょっとしたストーリーを人に伝えることができるんだ、ということをキャスター時代に学んだ」といった話。わかりやすい文章を書くためには、「仮タイトル、ねらい、構成要素、結論など、最初にフォーマットを決めておくこと」、「書いた後に音読して読み返してみること」など、「へぇー、ほぉー」の連続だ。
中でも、私が「おぉっ!」と関心したのは次の話。
『知り合いのアナウンサーが放送でニュース原稿を読んでいるのを何気なく聞いていると、ある一箇所で突然、その内容が頭に入らなくなったのです。放送が終わった後で、その人に聞いてみました。「今の放送で、意味がわからないまま読んだところ、なかった?」と。思ったとおりでした。原稿を読んでいるとき、突然フッと集中力が途切れ、その部分の原稿の意味がとれなくなったそうです。意味が分からないまま読んだり話したりすると、それを聞いている相手も意味がわからない。そのことを、私はこのとき初めて知りました。』(本書より)
ドキッとした。読み上げている内容を自分でも実はそこまで理解できていないのに、相手に無理に説明していた過去が、私にもあった。この話を読んで「あー、聞いていた人は、あのとき頷いていたけど、きっと分かっていなかったんだろうな」と。
■技術者にこそ読んでもらいたい
先に挙げたいくつかの例を見て、お分かりいただけたと思うが、書かれている内容は、明日からでもすぐに実践できるものばかりだ。分厚い本ではないし、軽い気持ちで、読めるものだ。
ビジネスの世界では、コミュニケーションは何よりも大事なツールなので、ビジネスマンなら誰でも一読しておきたい本だ。
特に「君の話はわかりにくい」と良く言われる人や、テクニカルな内容を人にわかりやすく伝えなければいけない立場の人・・・そう、たとえばITエンジニアなど、には強くオススメしたい本である。
【これまでに読んだ池上彰氏の他の著書】
・書評: 「14歳からの世界金融恐慌」と「14歳からの世界恐慌入門」
・書評: 日銀を知れば経済が分かる