そんな話をきっかけに読んだのが次の本だ。
戦国の軍隊 ~現代軍事学から見た戦国大名の軍勢~
著者: 西股 総生
出版社: 学研
■学校では習わなかった歴史
戦国史の欠落を埋める最新の歴史研究本だ。主に、東国・・・小田原に居城を構えていた北条氏や甲斐の武田信玄、越後の上杉謙信など、東国の戦国大名の軍隊について著者の考察を、素人でもわかる言葉で紹介している。
本の帯には「眼からウロコの新解釈が満載!!」とあるが、具体的には例えば次のようなものだ。
- 長篠の戦いの勝利の鍵は、本当に”銃三千丁三段打ち”なのか
- 戦国の兵士は、本当に半農半士(農業と兵士業を兼務)だったのか
- 侍、足軽・雑兵にはどんな立場の者がなっていたのか
- 実際に、どうやって兵を募集したのか、など
そこには確かに学校で習ったことのない内容・・・あまり聞いたことのない話ばかりが紹介されている。
たとえば、冒頭でも触れた「長篠の戦いにおける銃三千丁三段打ち」だが、多くの人は、わたし同様に「信長はこの見事な戦術で戦(いくさ)に勝利した」と信じていることだろう。
しかし、これに対して著者は次のような疑問を呈する。
「長篠の戦いは、実は織田軍のための戦いではなく、徳川軍+織田軍の戦い・・・もっと言えば、徳川軍のための戦いだったはず。あたかも”三段打ち”が、勝利の鍵であったかのようにとらえられているが、戦(いくさ)の背景や書物を改めて観察してみると、そうでなかったことが見えてくる」と。
本書では、当時の布陣を図示しながら、その核心に迫っている。
※ちなみに、著者によれば、この主張の論拠については学者の間で違いがあるものの、銃が主役ではなかった、という考え方は今ではだいぶ通説になってきているようだ。
■視点を変えることによる大きな発見
ところで・・・「何人もの歴史学者が何年も研究してきた分野において、今更どうしてこのように新しい見解がワンサカ出てくるのか?」
そんな疑問もわいてくる。
これについては、西股氏が”城郭研究の専門家”であることが大きく貢献しているようだ。事実、著者は次のように述べている。
『著者はずっと城郭研究の場に身をおいてきた・・・(中略)・・・生物の世界と同様、人間の創りだす構造物やシステムの場合も進化とは単純なものが複雑化してゆく課程ではなく、変遷する環境への適応ではなかろうか。だとしたら、城郭構造の進化とは、城郭をとりまく環境の変化への対応として生じたのではなかったか。城郭の本質が軍事的構造物であるのだとしたら、城郭の構造が進化するという現象の背後には、それを構築し使用する人間集団、つまりは軍隊の変化があるのではないか』(本書”あとがき”より)
「ハーバード白熱日本史教室」の北川智子氏を彷彿とさせるが、北川氏が戦国時代の侍(サムライ)を当時の女性・・・妻の視点から観察することで新たな発見を得たように、西股氏も従来とは異なる切り口・・・すなわち、当時の城郭のあり方から、戦国の軍隊を観察した結果、新解釈をしなければ説明できない事項がたくさんでてきた、ということだ。
これにはある程度の納得感がある。
■好奇心旺盛な人におすすめ
ただ、間違ってはいけないのは、本書で紹介されている内容は、あくまでも西股氏が紹介する新解釈であるということだ。考察は確かに丁寧で、論理的だが、仮説や推測も少なくない。
また、仮に西股氏の解釈が正しいとして、これまでの歴史解釈の間違いを発見できたからといって、それが「自分の人生にどういう意味をもつのか?」ということはイメージしづらい。
したがって、単に「正しい歴史の知識を得たいんだ」とか「何らかの自己啓発のきっかけとしたい」という想いで本書を読むと期待を裏切られることになる。事実、著者自身もそのように明言している。
わたし自身は、本書を通じて
・我々が知る歴史は、決して正確なものではないということ
・何ごとも切り口を変えて見ることが大切であるということ
といったことを実感できたという点で、それなりの意義があったと考えているが、そんなに深く構えず、純粋に「世の中ことを、もっともっとたくさん知りたい」・・・そういう気持ちがある人であれば、きっと楽しめる本だと思う。
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