2013年1月2日水曜日

書評: 2014年、中国は崩壊する

日経ビジネスで「ちょっと過激だけど・・・」と紹介されていた本だ。

2014年、中国は崩壊する
著者: 宇田川敬介
出版社: 扶桑社新書


確かにそんな印象を持たせるタイトルだが、全くあり得ない話でもないだろう。むしろ、こうした極端な視点で書かれた本を読むことで新しい発見があるかもしれない・・・そんな気持ちから手にとった。

■中国の現状と著者の実体験から、中国の今後を予測

この本は中国を思想、文化、政治・経済の体制面から掘り下げ、向こう数年間の中国がどうなってゆくかを予測したものである。

中国のGDP7兆2,980億ドルは世界第2位。日本、いや、世界を語るのに米国・欧州同様に無視できない存在になっている。ここ数年、GDPわずか3,000億ドル(世界第35位)のギリシャ一国に振り回される世界経済を見ればそれも強く実感できる。著者はそんな中国が近い将来・・・2014年に崩壊すると予言する。著者は中国の体制、中国人のメンタル、中国ビジネスでの実体験、政府交官から得た数々の情報を根拠に、この予言は決して大げさなものではないと主張する。

※2011年の実績です

■”過激”かつ”マクロ”な視点で中国を理解できる

本書の魅力は、先述したように、その過激とも言える視点により読者に新たな発見を提供してくれる(かもしれない)ということもあるが、それ以上に中国というものを深く理解するのに大いに役だってくれるという点にあると思う。

たとえば、巷の専門家は良く「中国は50以上もある民族が、共産党体制の下でなんとか1つにまとまっている・・・実は不安定な状態。だからこそ、強力なコントロールをかけなければいけないのです。」と言うが、本書は"なんとか1つにまとまっている"と一言で片付けることはしない。著者は、中国の中華人民共和国憲法前文に記述された中国の長期ヴィジョンや体制に触れた上で・・・次のように語る。

『・・・現在では、社会主義的と言いながら資本主義化し、力をつけた下層民衆をいかに制御するのかという点にかかっている。市場経済を導入してしまったがゆえに、下層社会の不満を解消する方法は、通貨を流入させインフレに導いて景気循環させ、裕福になったという物質的な満足感を与えることでしかない。』(本書より)

なお、「中国を理解する」という観点では以前読んだ「中国人は、本当にそんなに日本人が嫌いなのか」(加藤嘉一著)も同類だが、これはどちらかと言えば私生活から見える中国人の性格にスポットライトを当てた・・・そうミクロ的な視点での考察だったものであるのに対し「2014年、中国は崩壊する」は、(ミクロ的な視点もあるが)マクロ的な視点が強いと言えるだろう。

■中国リスクを測るための一冊として・・・

2014年、中国は崩壊するゾ!・・・

さて、このようにやや偉そうに語る著者はいったい何者だろうか。著者の宇田川敬介氏は、ワーナー・マイカルの運営に携わり、中国でマイカル大連の出展にこぎつけた経歴を持つ。現在は、国会新聞社で編集次長としてペンをふるっているとのことだ。

大連でのビジネス経験を持つということから、本書で語られる事例の多くが、実は大連のものばかりである。大連での経験がそのまま中国全土に当てはまるとは思えないので、そのあたりは差し引いて読みたいところだ。

ただ一方で、著者ほど中国に精通している人もなかなかいないのだろうと思う。そもそもあの広大な中国で、複雑な民族、文化、体制・・・その全てを理解し”客観的に”考察できる人なんて、中国人の中にもいるのだろうか。自らにビジネスでの実体験を持ち、かつ、中国の各界にそれなりの太いパイプを持っており、普通の人では入手できない貴重な情報を入手できる著者は、稀有な立場にあることには間違いない。

このように”それなりに信ぴょう性がある本”という前提を鑑みれば、本書は、特に政治家をはじめ、中国に進出している企業の経営陣、経営企画部の方、リスク管理部の方向けの警鐘本として役立つだろう。


【”中国を知る”という観点での類書】
中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか(加藤嘉一著)

====2015/01/25追記====
さて、年が開け2015年になった。「不動産に買い手がつかず、価格が値下がりしている。」「習近平国家主席は、腐敗を取り除く取り締まりを強化しているが、派閥強化の道具に利用されている。」・・・などなど、中国の危うさに関する報道は、常になされているが、本のタイトルどおり「崩壊」とは、ならなかった。実は、バブルがはじける、崩壊する、ハードラインディングする・・・などと言われているうちは、大丈夫で、「あれ、何も起こらないな?」と油断したときに起こる・・・そんなものなのかもしれない。

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