2013年1月3日木曜日

書評: 墜落の夏

何のためにこの本を読むのか?

自分のふとした好奇心から手に取っておきながら、読み終わった後、暫くの間、茫然自失・・・深く考えこんでしまった。

墜落の夏 ~日航123便事故全記録~
著者: 吉岡 忍
出版社: 新潮文庫



たまたま何かの雑誌で過去の事件・事故の特集を扱っていて、その1つが日航機墜落事故のことだった。記事を読んでいるうちに自分が「日航機墜落は悲惨な事故だった」ということ以外、何一つ知らないことに気がついた。そこで、今さらではあるが、当時の事故を記した本の中でも比較的有名なこの本を読むことにした。

本書は、1985年8月12日(月曜日)(当時、私は13歳)に起きた日航機墜落事故の発生、及び、それに翻弄された家族やJALの現場スタッフ、消防・警察や医療関係者の状況を、克明に記したノンフィクション小説である。現場に深く入り込み丹念に調査した結果を反映したものである。いたるところで、その内容が引用されていることからも、その信頼性の高さをうかがい知ることができる。

とりわけ注目されるのは、乗客524人の中で奇跡的に助かった4人の生存者のうちの1人・・・落合由美さんの証言だ。著者吉岡忍氏は、事故発生から4ヶ月後、彼女に総計7時間のインタビューを敢行し、墜落までの32分を明らかにした。その後も彼女本人による入念なチェックを繰り返し、仕上げたとされる。それだけに、落合さんの証言が描かれている第二章「32分間の真実」を読んだときには、自分自身があたかもその場にいたかのような錯覚に陥るほどで・・・本当に心が凍りついた。

『そして、すぐに急降下がはじまったのです。まったくの急降下です。まっさかさまです。髪の毛が逆立つくらいの感じです。頭の両わきの髪がうしろにひっぱられるような感じ。ほんとうはそんなふうにはなっていないのでしょうが、そうなっていると感じるほどでした。怖いです。怖かったです。思い出させないでください、もう。思い出したくない恐怖です・・・』(本書第二章より)

きっかけは自分の好奇心からだったが、この本を読み終わった後は、正直に言うと、ただただ混乱するばかりだった。というのも「この本には何が書かれているか?」を伝えることは比較的容易にできるが、この本を「何ために読むのか?」「誰が読むべきなのか?」・・・その答えが見つからなかったからだ。

本を読み終えて最初に頭に浮かんだ一言は「矛盾」という言葉だけだ。絶対に生きてやる、という人の意志の強さとは無関係に一瞬で命が奪われる矛盾、有機物なのに無機物のように扱われる・・・いや扱わざるをえない矛盾、家族のために身を粉にして働くことこそが自分の使命・意思と思って生きてきたはずの多くの男性陣にこそ多くの未練が残ってしまった(であろう)という矛盾、その悲しみの大きさを到底受け入れられないとわかっているにも関わらず人は飛行機に乗り続けてしまうという矛盾、家族やJALの現場など一部の人にのみ苦しみが偏るという矛盾、技術革新は人にすら均質化を求める一方で均質でないことが人の救いになりうるという矛盾・・・。

矛盾・・・矛盾・・・矛盾・・・。

この本を読む意義はどこにあるのだろうか?単に人の好奇心を満たすだけなのだろうか?現実と向き合って何を得るのか? 悲劇を繰り返さないようにするために・・・それを忘れないために?・・・そうかもしれない。でも人は飛行機に乗り続ける。自分もそう。ある意味、原発問題にも通ずるところがある。私自身がかろうじて絞り出した答えは「たとえ明日死ぬことになったとしても後悔しないように、一瞬一瞬を精一杯生きるんだ!」ということだ。でも、それは他の人には当てはまらないことかもしれない。

答えは読む人、一人ひとりが見いだす・・・きっと、そういうことなのだろう。


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