2013年1月6日日曜日

書評: 現実を視よ

「成長しなければ、即死する・・・Xデーは早ければ三年後にやってくる・・・」

のっけから読者の喉元に刃をつきつけてくるこの本はいったい・・・。

現実を視よ
著者: 柳井 正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)
出版社: PHP研究所 

発行日: 2012年10月4日


■柳井流の”愛のムチ”

日本が”超”危機的状況に陥ってしまっている事実、こうなってしまった元凶、そして、この状況から脱する数少ない残された手段について、ユニクロの社長がやけどするほどの熱を持って”熱く”、語っている本である。

「マネーゲームに興じた某IT起業家」「”消えた年金問題”は国家犯罪」「常軌を逸した”国土強靭化基本法案”」・・・このように、本書の特徴は”柳井氏の今の日本に対する想いの丈”を、堰を切ったように、何1つオブラートに包むことなく、最初から最後の1ページにいたるまで、ただひたすらに語り続けていることだろう。それは世間によくある「海外をカジった人間がその影響を受け、単に日本を蔑んでいる」といった構図ではない。氏が、純粋に日本のことを誇りに思っている(氏は、それを”大和魂”と呼んでいる)からこそ何とかしたい・・・その想いから「みんな気づけ!立ち上がるんだ!」と必死に叫んでいる・・・そういった構図である。

■日本人よ、今こそ”肉食”たれ

遠藤功氏は、著書「日本企業にいま大切なこと」の中で、「エコノミックアニマルになって何が悪い。今こそエコノミックアニマルに立ち戻れ※」と訴えている。要するに「日本国内では通用するかもしれないがボーダレスになった今日の世界では、草食じゃでは生き残れないよ。肉食にならなきゃ。」ということだが、柳井氏の主張もこれと通ずるものがある。
※エコノミックアニマル: 元は経済的利潤の追求を第一として活動する人を批判した言葉

わたしも柳井氏の主張には概ね賛同できる。たとえば「産業は”保護すべき”との価値観を捨てよ」の章では、柳井氏は「行政が保護したことで伸びた産業などはない」と息を巻く。本では国の保護がJALに破綻をもたらしたことを例に挙げているが、「”誰かに依存し続けねばならないシステム”は最後に破綻する」というのは、私もかねてから感じていたことだ(エコポイントは結果的に今家電業界を苦しめているようだし、本人が納めた以上のお金を若い世代に負担させる年金は事実上の破綻をしているし、言わずもがな過保護に育てられた子供はいつまでたっても独り立ちできなくなるし・・・。こういった真理が誰の目から見ても明らかなのに国は、誤った政策を取り続けるのには腹が立つ・・・)。

■人間の幸せ=継続的成長・繁栄!?

しかしながら一方で、この本は、一部の層からは嫌悪感を持って迎えられるかもしれない。ここで”一部の層”とは”人間のミッション(幸せ)=継続的成長・繁栄”といった考えに同意できない人たちのことだ。というのも、本書は全て次に示す前提に立って書かれたものだからである。

「資本主義がベストではないがベターであることは事実。これに鑑みれば、その基本精神である”継続的成長・繁栄の追求”を止めてしまっては、生きるのをやめることと一緒だ。今の日本は気付かないうちに死に向かっている”湯でガエル”と一緒だ。みんな、成長を止めてはならない。」

柳井氏は62歳。第一次ベビーブーム・・・いわゆる団塊の世代の人間だ。わたしはその世代の子供・・・すなわち、第二次ベビーブーム世代の人間で「競争社会で生きる親」を見て育ち、そして自らもある程度競争社会というものを経験してきた人間だ。だから、柳井氏の言う資本主義の基本精神というものにある程度、共感できる。が、果たして今の若い世代が、この前提に素直に賛同できるのかどうなのか・・・それには疑問符がつく。

■これからの日本を支える若い世代の人たちに

とは言え、柳井氏は決して難しいことを根拠無くだらだらと主張しているわけではない。そこには日本・・・いや世界の第一線で戦ってきた者だからこそ感じる想いを、自身の経験から、至極まっとうに語っているだけである。

日本は借金が増えている。生活に窮する者が増えている。旧来のワザだけでは、お金を得る術が限られてきている。日本は何かを変える必要がある。これらは全て反論しようのない事実だと思う。

「現状をしっかりと把握し、危機感を共有し、逃げずに立ち向かうべし。」

ただそれだけである。私のような年代や年配の方には熱く響きそうな本だが、本当は(前提条件に疑問符を持つかもしれないが)特にこれから社会人になる若い世代こそ読み、何かを感じ取るべき本だと思う。全てに同意はできなくとも、何か学びはきっとあるハズだ。


【関連書籍】

===経済的繁栄を追求する理由(大前研一氏)(2013年1月11日追記)===
大前研一氏が、経済的繁栄を追求する理由について語っていたので、取り上げておきたい。氏によれば

『サイバー化が進んだグローバル経済の世界では、「勝ち組」が国境を越えて「負け組」からどんどん富を奪い、しかもその構造が固定化される恐れがあるからだ』

===大学1年生のうちから内々定を出す意図(2013年1月11日追記)===
日経新聞2013年1月11日朝刊によれば、ファーストリテイリング傘下のユニクロで昨年の採用選考から大学1年製でも内々定を出す制度を始めたそうだ。その裏には、大学のあり方を変えなければ「日本が沈んでしまう」という危機感があるからだという。

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