大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者: 大前研一
出版社: 講談社
■大前流 心理経済学とは
どうしてこうなってしまうのか!?
大前氏は、その理由こそが、ケインズの経済学などでは説明できない”日本人特有の心理”だと言う。
『すべて、「日本人固有の心理」が原因である。強いて言えば、そうした心理を正しく導くことができず、数十年にわたって国民をミスリードしてきた政府の責任である。』(本書より引用)
すなわち、感情が反映されていない数字だけを追いかけて「あーしろ、こーしろ」と主張する経済専門家の話など聞いても全く無駄で、その裏に潜む心理を理解した上で処方箋を考え、実践しよう。
これこそが、まさに”大前流 心理経済学”だ。
■日本人特有の心理と7つの解決策
本書の特徴は、先述のように従来の経済専門家が気にかけてこなかった”日本人の心理”に分析の視点をおいていること、そして、それに基づいて7つの具体的な解決策を示していること・・・この2つにある。
日本人の心理とは、たとえば「汗水たらさず稼ぐカネを良しとしない」「みんな(周り)が、やらなければ手を出さない」「漠然とした不安を自ら明らかにしようとせずなんとなく怯える」といったことだ。日本と世界の違いを理解する大前氏ならではの指摘だ。
たとえば、大前氏は次のような事例を紹介している。
『イザという時に備えて三重の備え(年金、貯蓄、生命保険)をしている「イザという時」とは、いったいどんなときなのか。私は講演などのたびに会場の人々に直接質問しているのだが、きちんと答えられる人はほとんどない。』
これだけが理由ではないが、結果、平均3,500万円もの資産を残して死んでいく、というわけだ。
また、7つの具体的な解決策も大前氏らしい。大局観を捉えた大胆かつユニークな提案が多い。
たとえば、氏は「金利を下げるのではなく、(クリントン政権のときのように世界中からお金を日本に集めるために)金利を上げろ!」と提案する。
おそらく経済専門家の多くが「なんてバカなことを!」と反論するのだろうが、素人の私からすれば、そもそも金利をいくら下げても効果をなしてないのだから、今更その逆をやっても失うものなどないだろう・・・大前氏の言うとおり、やってみればいいじゃん、と思ってしまう。実現可能性はともかく、大局、大胆、ユニーク・・・こういったキーワードに触れる機会が少ない今の日本には、氏のこうした視点・アプローチが必要ではないかと思う。
■リーマン・ショックが大前氏の主張を変えたのか
実は、この本、2007年に出版されたものだ。そう、リーマン・ショック前(正確にはサブプライムローン問題が顕在化した頃)に書かれた本だ。リーマン・ショック以後、世界経済がくすぶりつづけている。アメリカでは、ゼロ金利政策がとられ、お金がじゃぶじゃぶ刷られているが、5年近く経過する今も、景気は一進一退だ。
リーマン・ショックとその後の世の中の状況を受けて、大前氏の見解は変わったのだろうか。
これについては、President Online(2011年10月31日号)での氏の次のようなコメントが参考になる。
『これ(景気刺激策が効果を得ていない状態)は日本だけに見られる特異な現象ではない。今、アメリカは日本とほとんど同じパターンの陥穽に足をとられている。リーマンショック以降、「オバマ・ニューディール」ともいうべきバラマキ総合経済対策を講じてきたが、まったく効果なし。雇用にもつながらず10%近い失業率が続いている。』(2011年10月31日号「劇的な景気回復には心理経済学しか無い」より)
つまり、ケインズでは測れない人間心理に起因する問題がアメリカでも起きている、というわけだ。
リーマン・ショックを受けて、一つ、大前氏の見方に変わった点があるとすれば、「日本人特有だと思っていた心理(細かい心理状況は異なるが)は、必ずしもそうではない」という点だろうか。
ただいずれにしても、大前流心理経済学の適用範囲が日本から世界に広がっただけで、今の問題を説明するのに十分、有益ではありそうだ。
■人生を豊かにするチャンス
景気は停滞。日本の借金は膨らむばかり。国際的な地位は低下する一方。政治は迷走。
本当に暗い話ばかりが続く日本だが、「まだ1人1人の人生を豊かにするチャンスは十分に転がっている」
そんなことを感じさせてくれる一冊だった。
余談だが、影響を受けやすい私は、この本を読んだ後、どうやって自分の資産を有効活用するかを考えるために、さらに投資に関する本を2冊も買ってしまった・・・。影響受けすぎかなぁ。
【類書】
・お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)
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