2012年8月4日土曜日

書評: ルポ若者ホームレス

「ホームレスだなんて・・・自己責任だよ、全部」

そう一蹴する人もいるだろう。

確かに、その側面はある。何よりも、本人たちがそう自覚しているようなのだから。何をやっても長続きしない。やる前から、諦めてしまう。ギャンブル中毒である・・・等々。

しかし、そうではない側面もある。

誰にでも起こりうる、ちょっとしたことが”きっかけ”で、正社員として働いていた会社を追われる。

・上司や同僚とそりが合わず退職
・突然、病気を患いクビ
・会社が倒産・・・

その後、腰掛けのつもりで期間工になる。期間工が派遣になり、派遣が日雇い派遣に。そして、飯場(はんば)になり、最後は路上生活に。

一端、路上生活に入ると、そこから抜け出すのは容易ではない。住所が定まらないと定職につけないが、定職につけないとお金を稼げず、定住することもままならない。にっちもさっちもいかない状況に陥る。その日暮らしが続く。

驚くべきは、この話は、一昔前であれば50~60代の人に当てはまるものだったが、今や20~30代の人にも当てはまる話だという。若者ホームレスの急増は、もはや日本社会が抱える大きな社会問題の1つなのだ。

飯場(はんば)とは、鉱山労働者や大規模な土木工事や建築現場での作業員用の給食および宿泊施設のこと。(Wikipediaより抜粋)

■若者ホームレスの実態に迫る本

ルポ若者ホームレス
著者: 飯島裕子
出版社: ちくま新書


著者は、若者ホームレスの実態を知るため、50人の若者ホームレスに対してインタビューを敢行した。2008年から10年にかけて、東京都大阪で調査を実施し、1名あたり3時間を費やして、生育環境、仕事経験、現在の生活、今後の展望について、詳細な聞き取り調査を行ったそうである。

本書は、この調査結果をまとめたものだ。

■実態を知って、何を感じ取るかはあなた次第

この本に、若者ホームレス問題を解決するための処方箋が書かれているわけではない。もちろん、問題の複雑さを考えると、そのような処方箋など書きようもないだろうが。

つまり、若者ホームレスの実態を知って、そこに何を感じ、どんな主張を持つか、どのような行動につなげるかは、読者次第である。

この本を読むことで・・・

社会人、あるいはこれから社会人になろうとする人であれば、若者ホームレスにならないためのヒントを得ることができるかもしれない。

子を持つ親や教育者であれば、子供が若者ホームレスの負のサイクルに乗らないようにするためのヒントを見つけることができるかもしれない。

政治家であれば、若者ホームレスを救うための現行のセーフティーネットの何が機能して、何が機能していないのか、あるいは、実効性あるセーフティーネットはどうあるべきか、といったことに対するヒントを得ることができるかもしれない。

ホームレスを支援している(あるいはしたいと考えている)人たちであれば、数ある支援の中で、どのような方法に効果を期待できるかについて知ることができるかもしれない。

ホームレスの人であれば、ホームレスから抜け出せるヒントを得ることができるかもしれない。ただし、本書では抜け出せた成功事例について、数多くは触れていないので注意が必要だ。


さて、私は・・・と言うと、子を持つ親として、子供がもう少し成長して大人になったら、本人に「この本を読め!」って言うかもしれないな、と思った。また、その頃は世の中がどう変わっているかわからないが・・・。

みなさんは、いかがでしょうか。


【関連書籍】
ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~(今野晴貴著)


===ファーストジョブ(最初の仕事)の喪失(2013年3月24日追記)===
日経新聞2013年3月24日朝刊に、次のようなことが載っていた。

『”日本でもファーストジョブの喪失は深刻な問題になる”。一橋大学准教授の神林龍は危惧する。終身雇用を旨としてきた日本企業が人材を育成する余裕を失いつつあるように見えるからだ。従来に比べ転職が広がり、外国人の採用にもためらいは薄れている。いったん就職に失敗した場合、若者を待つ境遇は米国同様に厳しい。職業訓練などの公的支援が整っていないのは共通している。1桁台の若年失業率など見かけの数字を欧州と比べ、安心していては将来に禍根を残す。』

記事は、日本だけでなく米国におけるファーストジョブ喪失の問題を取り上げたものだが、ますます若者への風当たりは強くなっているようだ・・・。

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