2012年8月11日土曜日

書評: 人を見抜く技術

『私が人生を学ぶのは”できる人”からではなく、”できない人”からだ。”できない人”を見て、「なんでできないんだろう?」と考え、そこから学んでいく。』

面白いことを言う人だな。

そう感じたその人の名は、桜井章一。この桜井氏が、60年間を超える人生で得た学び・・・人の観察眼について語っているのがこの本だ。

人を見抜く技術──20年間無敗、伝説の雀鬼の「人間観察力」
出版社: 
(講談社プラスアルファ新書)
著者: 桜井章一

桜井章一氏は、知る人ぞ知る麻雀棋士だ。1960年代に麻雀の代打ち(ある人間の代理として麻雀を行う者)になり、20年間無敗のまま引退した、という有名な話がある。素人の私が聞いても、「そんな馬鹿な!?」という疑念が頭をもたげるが、そのような噂が広まるほど”強かった”ということなのだと解釈している。

そんな強者の話であれば、ぜひ、聞いてみたい・・・そう思うのが人間心理だ。

■要点が詰め込まれた本

全5章からなるが、章ごとに8~20の要点がまとめられている。たとえば、第一章のテーマは”「癖」は心を丸裸にする”。この章には、次に示す8つの要点が、各1~3ページ程度で語られる。

・癖はその人の真実を表す
・誰も癖からは逃れられない
・精神のメタボ癖がついた現代人
・無駄な力みで両手の親指が反る
・自然に生きる人は癖が少ない
・”酔い癖”が人を愚鈍にする
・対局相手の心理は動き癖で読める
・正確ではなく癖を直す

まるで超短編集を1冊にまとめた本のようでもある。必要と感じるところだけを、かいつまんで読めるような気軽さを持てる本だ。

■果たして「人を見抜く力」は身につくのか

わたしは、この本を通じて「人を観察することの面白さ・大切さ」を学んだ。

興味深いのは、得た”学び”が、観察力そのものではなく、観察することの面白さ・大切さである、ということだ。実は、著者の元々の狙いもそこにあるようだ。

桜井章一氏は”はじめに”にて、次のように語っている。

『この本は俗にいう「自己啓発書」のように、なにかの”答え”を示したものではない。私が読者のみなさんにのぞむのは、答えを簡単に得ようとするのではなく、絶え間なく変化していくモノゴトに対応できる柔軟な観察力を磨いていってほしいということだ。』

もちろん、全く、観察眼に関するノウハウを学べない、というわけではない。ただ、方法論は決して突拍子もないことではなく、むしろ、常識的なものが多い。たとえば、「一方的にしゃべる人は、実はさみしがりやである」とか「やたら謙虚な人ほど、実は要領で生きている」といったように、だ。

ノウハウも大事だが、人に意識を向けることが大事であり、技術は後からついてくる・・・氏はそれが言いたかったのだろう・・・と思う。

■直感的な文章が良くも悪くも個性的

ところで、桜井章一氏が”自然”に対して大きな敬意を払っている、ということが、この本から伝わってくる。彼が語る言葉には、幾度となく「自然(界)」というキーワードが出てくるからだ。

本人も自然体で生きることを務めているからなのだろう。文章の表現も、極めて”自然体”だ。つまり、こう・・・氏が思いつくままを、文章に起こした・・・そんな感じなのだ。

良く言えば文章が直感的。直感力を大事に生きてきた桜井氏ならではである。ただし、悪く言えば、ややまとまり感がなく、読みづらいと感じるときが何度かあった。

■桜井章一氏を知ることから始めてみては?

先述したように気軽に読める本なので、桜井章一氏を知っており、彼の人物像に興味が少しでも持てる人にはオススメだ。彼が何者か知らない人は、本に手を出す前に、とにかく彼が何者かを知ってほしい。テレビやインターネットで勉強し、もし興味があるな・・・と思えるなら、そのときは買いだ。


【人生論という観点での類書】
書評: 40歳からの適応力
書評: 石橋を叩けば渡れない
書評: 人間の基本

===(卓球選手平野早矢香さんの弟子入り 2012年9月4日追記)===
2012年9月2日の安住紳一郎の日曜天国を聞いていたら、そこに卓球選手、平野早矢香さんがゲスト出演。そして彼女の話になんと桜井章一さんが登場した。

なんでも、とにかく強くなれるチャンスは全て吸収したい、という思いで、桜井章一さんに電話・手紙を書いた後、彼女は雀荘に押しかけたらしい。

驚きつつも桜井章一さんは「じゃー、そこで一回素振りをしてごらん」と一言。真面目な平野早矢香さんも素直にその場(雀荘)で素振りをしてみせたとか(想像すると笑える)。それを満た桜井章一さんは「左手が遊んでるんじゃない?」とまた一言。一瞬、「はっ!?」と思うかもしれないが、実はこれは非常に的を得たアドバイスだったらしい。異世界にがむしゃらに飛び込む勇気を持つ平野選手もさすが、全く異業種の選手の突然の訪問にもたじろがず、真面目に彼女の精神に応えてみせた桜井章一さんもさすが・・・。

聞いていて笑わせてもらったが、とっても素敵な話じゃないですか。

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