2018年3月31日土曜日

記事評: 永守重の働き方改革

今週号の日経ビジネス特集は、働き方改革。日本電産創業者の永守重信氏が表紙を飾る。

『「そうは言われても残業手当が減るんです」みたいな話に戻るわけ。鶏が先か卵が先かの話になっちゃって、まず収入増やしてくれ、そうすれば残業は辞めますと。それでは会社は業績が一気に悪化する。だから両方とも大事なので同時進行しかない。「結局、これはトップが強い信念でやらないといけないわけです。(作業手当が減っても)年収は減らしませんよと言う信念、必ずこの運動を成功させると言う信念。みんなの意識がそんなにころっと変わるもんじゃないし、お金もずいぶんかかる』(日経ビジネス2018年4月2日号より)

結局働いてるのは人間だし、生活がかかっているし、正論だけでは物事が前に進まない。ステークホルダーのニーズを汲み取り、どうやってみんなが納得できる落としどころを見つけ、前に進めることができるのか。それにはアイデアとお金と時間がかかる。お金と時間がかかる場合、中長期的視点が持てるトップこそが積極関与していくしかない。これは、やってもすぐに結果が出ない、お金に直結しないリスクマネジメントと一緒だと思う。

では、そのトップの意識を変えるためにはどうすればいいのか。永守重信氏の場合は買収を通じて海外の成功企業の文化を勉強する中で、生産性を上げることが重要だということに気づけたそうだ。生の成功事例がトリガーだ。私が携わるリスクマネジメントの世界においても、いかにたくさんの成功事例を作れるかが鍵というわけだ。難題だが、チャレンジしていきたい。

記事評: 非科学的な批判に食品企業はどう対峙するのか

WEDGE2018年4月号の“非科学的な批判に対峙する食品企業。SNS時代に必要な「顔の見える広報」”の記事は2ページという簡単なものだが、具体的な事例が掲載されていて非常に勉強になる。

論点はこうだ。「根拠の薄い論文が科学雑誌などに掲載されることが少なくなく、それがSNSを介して一気に広がり企業にダメージをもたらす。それがどんどん加速されている。企業はこれにどう対峙すべきか」というものだ。

個人的に風評被害対策でパッと思いつくことは、以下の3点だ。
  • モニタリング(すぐに風評被害が起きているという情報キャッチができる体制)整備
  • 情報発信体制(すぐに適切な情報を流せる体制)整備
    (※情報発信ができるよう各種SNS上にアカウントを持ち、フォローワーを作っておく必要がある)
  • 上記2点の訓練
おそらくこれは当然のこととして・・・ということだろうが、記事では次のように述べている。

『味の素、モンサント(2つの事例)に共通するのは、科学的根拠に基づき、経営陣が顔を見せて堂々と主張し、情報発信する姿勢こそが大事だ、という確信だ。』
『・・・その前に、トラストビルディングが必要だ、と言う。企業の姿勢や理念を理解してもらい、社会からの信頼感を勝ち取り、そのうえで、すばやくフェイクニュースに対応する。』(WEDGE2018年4月号より)

キーワードとしては、「科学的根拠」、「トップのプレゼンス」、「スピード」、「コミュニケーション」といったところか。記事はあくまでも企業が被害者となったときの対応事例を取り扱っているが、企業不祥事の対応でも同じことが当てはまるだろう。

2018年3月25日日曜日

記事評:動中の工夫は静中に勝ること百千億倍

何の雑誌についてきたんだか、付録にダイヤモンドクォータリー特別編集号「CEOアジェンダ2018」というのがあり、斜め読みをしていた。その際に、いい文句があったので書き留めておきたい。


『動中の工夫は静中に勝ること百千億倍』
朝田 伊藤忠取締役会長が、「100点満点だと思う筋書きを書いて、お客様に提案書をもっていったときにはすでに80点か75点の提案書を他の競争相手が持ってきている」を説明するのに引用した白隠禅師の言葉だ。白隠禅師とは、Wikipediaによれば、白隠慧鶴(はくいんえかく)のことであり、臨済宗の祖であり、禅僧だ。1686年に生まれ1769年に没している。似たようなことを色々な表現で語る人が多いが、こんなことを言っていた人が大昔にいたとは・・・感銘を受ける。


『発信するだけではなく、人の言うことをよく聴くことも必要です。コミュニケーションを大切にしなければなりません。相手の言うことをよく聴かないと、本当に聴きたいこと、特に耳の痛いような悪い情報は入ってこない。知りたい情報を的確に得るためには、人の言うことをよく聴くことです』
同じく、朝田 伊藤忠取締役会長の言葉だ。「耳の痛い情報」は不愉快だし、耳に入ってきたときにどうしても不機嫌になる。そのときの態度のあり方で、そうした貴重な情報が以後入ってこなくなるかもしれない・・・というのは納得だ。わたしはまだ人間がでてきないので、態度に出てしまうに違いない。心に留めておきたい。

書評: 実践!タイムマネジメント研修

働き方改革が叫ばれて久しい。「残業しなかった人には報奨金を出す」「副業を認める」など、一生懸命に工夫をする組織が増えた。だが、「働く時間は減っても、仕事が減るわけじゃない」と言う声もよく聞く。どうすればいいのか。

その答えを指し示すのが本書である。

書評: 実践、タイムマネジメント 研究
より少ない時間で高い成果を出すために
著者: 坂本健

きっかけはアマゾンKindleプライムだった。本書が、あまりに直接的なタイトル、いや、面白くなさそうなタイトルで気が引けたが、「無料」だし、たまにはこう言うのもよかろうというノリだった。だからなのか、実際に本書を開いたのは買ってから2ヶ月後。私がいかに本書に期待していなかったがお分かりいただけると思う。

開いてみると、あら、読みやすい。小説形式なのだ。「さては、エリヤフ・ゴールドラット氏のザ・ゴールを真似して書いたな」。だが、「イコール悪い」という意味ではない。二番煎じ的な印象が否めなかったが、読み進めてみても、なかなかどうして。質は悪くない。

 * 無駄な時間の使い方がどこで生まれているのか
 * どうして生まれているのか
 * どうやったら解決できるのか

それが講義のテーマだ。最初の2章程度を読んで、「そう言えば」と思ったことがある。

自分で言うのも(本当に)なんだが、ここ数年の仕事のスピードが倍以上速くなった実感を持っている。なぜなのだろう・・・と自らに問いかけたところ、出てきた答えの一つは、隙間時間の有効活用だった。昨年末に出版した自著「世界一わかりやすい リスクマネジメント集中講座」 にしても隙間時間で書き上げた本だ。電車移動中に携帯電話などを使って書き溜め、最後にパソコンでとりまとめた。

そう、本書の講義の一つ目のテーマはまさにその隙間時間だった。ストンと落ちる・・・とはこう言うことを言うのだろう。まさに腑に落ちた瞬間だった。こうした「隙間時間の有効活用」のほか、「コミュニケーション時の罠」「目的に立ち返ることの重要性」など、企業で誰もが陥る罠について、紐解いている。ちなみに、個人的に印象に残ったものの一つは、「指示出しの際の禁句」だ。禁句にすべき文句の中身そのものが、ではなく、「禁句」という手段そのものが、だ。なるほど、このように禁句(たとえば、「とりあえず・・・してみて」)を命じするとお互いが強く意識するようになるので実効性が高い。いい方法だと思う。

本書をまずは自分で読んでみる。私同様にいい本だと思たら、次は自分が講師にたって本に書いてある内容をミドルマネジメントクラスに教育するのもいいだろう。もっと簡単に済ませたければ、本書を買ってミドルマネジメントに配るというのもありかもしれない。この本を手に取った経緯が経緯だけに、この本の良質さに驚いた。意外な良書というのはこういう本を言うのだろう。


記事評:意思決定が早すぎる(HBR2018年3月号)

ハーバード・ビジネス・レビュー2018年3月号を読んで、印象に残った記事。

『特に(スタッフの不満の声で)多かったのは、「山口についていけない」という声です。「意思決定が早すぎる。説明が全くないから、何のためになやっているのかわからない。』
(マザーハウスが架け橋となり国と国との距離感を縮めたい: マザーハウス山口絵理子社長)

最近の自分に当てはまるんじゃないかと思い、ハッとした。会議だとか、根回しだとか・・・とにかく思い立ったときにできる人がさっさとやればいい・・・そういうスタンスで日々過ごしてきたが、もしかしたら、周囲をおいてけぼりにしているんじゃないかと思った。


『ソーシャルツールを展開するときは、ナレッジ共有やスキル構築の可能性をマネジャーが明確に強調しない限り -そして社員と発展的な対話をしない限り- 社員はツールを十分につかいこなせずに、場合によっては放棄する結果になるだろう。』
(社内SNSを上手に使いこなす方法: ポール・レオナルディ、セダール・ニーリー)

ここは共感。事実、自社に社内SNS(SLACKなど)を導入した際に、一気に社内に普及し始めたのは、キーとなるマネージャーがその必要性を理解し、積極活用し始めてからだった。でも、これってITツールだけでなく、全てに言えることじゃなかろうか。昨今、高速PDCAやアジャイルという言葉に代表されるように、ツールやインプットが増え、組織でやりたいことが増えている。その一方、その導入プロセスとなる手順やテクニックが追いついていないのではないかと思う。この課題をクリアできた企業こそが、他社との競争に勝てるようになるのではないかとすら思う。


『・・・ずっと以前に上司から重要なポジションに大抜擢されたときのことです。私は、上司に”その職務をまっとうする心構えができていません。自信をつけるために、あと二年研鑽を積ませてください”と申し出ました。後で夫に打ち明けると、”男でも、そんな風に答える思うかい”と聞かれました。私は”そうしなかったでしょうね”と答えて、翌日に昇進を受け入れました。』
(過去にしがみつかず変革の道を歩む バージニア.M.ロメッティ IBM会長兼社長兼CEO)

この言葉は、記者が女性社長のロメッティ氏に、ジェンダー問題(女性がなかなか出世できない問題)についてどう思うかと尋ねたときの答えの一節だ。

そういえば「生物学的に男性は、多少無理なことを言われても、”できる”と答える傾向がある。一方、女性は同じことを言われても、無理な背伸びをしないし、できないことはできないと言う傾向がある。」というのを何かの本で読んだのを思い出した。ハッとした。私の会社にも、いや、チームにも女性が複数人いるが、そこを理解して、付き合えてきたのだろうかと・・・はたと考えた。ジェンダーの違いがもたらす考え方の違いをお互いに勉強していく機会を増やすべきだと感じた。


『良い経営理念を、社員に毎日使わせることです。経営理念に沿って、社員は自主的に判断して仕事をしてもらう。経営理念に基づく決断ならば、結果が悪くても責任を問わない。これを繰り返せば浸透します。(松本晃カルビー会長)』
(経営理念: 入山章栄 ロジックの賢人ほど、”人とは何か”を突き詰める)

あー、これ理想だなぁ・・・と素直に感じた。自分の会社でも実践したいし、お客様にも勧めたい。我が社には、会社単位のみならず、チーム単位でもチームスローガンみたいなものがあるが、毎週朝会で考える機会を設けるようにしている。どんどん色々なことを試みて、どういう方法が一番効果的か・・・私自身、検証してみたい。


あー、40も半ばになるのに、まだまだ知らないことが多すぎる!! 猛省。

2018年3月22日木曜日

記事評: 現場のDNA進化は「ルーティン」で決まる

少し古い記事になるが、ふと読めていなかった雑誌を掘り返して読んでいたら、目から鱗だったのでここに記載しておく。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された入山章栄氏の「現場のDNA進化は「ルーティン」で決まる」だ。

2つある。

マニュアルの意義
『そもそもマニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルを作り上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです(良品計画)』

今回のこの記事以外にも、ちょうど昨日読んだ、遠藤功氏の「生きている会社、死んでいる会社」にも同じ事例が取り上げられていたから、余計に目立った。なにかよっぽど縁があるに違いない(笑)。

実は、いま自分が取り組んでいるリスクマネジメント・・・とりわけ、災害時の行動計画や備えであるBCP(事業継続計画)にも同じことを感じていて、コンサルティング時にその考えを取り入れていた。有事の行動計画であるBCP策定の際の大きな問題が、計画策定者とそれを実行する人が異なることだ。文書は副産物でむしろ、BCPを策定するプロセスを経験することのほうがよほど重要と考えたほうが良い・・・そう、言ってきた。今回のこの記事は、それを裏付けるような記事である。私の例の場合は有事に備えた行動計画の話であるが、平時のマニュアルにおいてもそれがあてはまり、なおかつ、それを実践するために良品計画では月1で現場がマニュアルの見直しを行っている点についてはなるほどな、と思った。生きたマニュアルにするための良いヒントだと思う。

新規ビジネスを成功させる要諦
古いビジネスから脱却できず沈没した事例はいくらでもある。コダックと富士フィルムの事例はよくとりあげられる。この記事では、米国新聞社がデジタル化の波に乗れなかった理由を・・・4社8事業を研究した成果について触れている。それが興味深い。

それによれば、4社8事業のうち成功したケースは一つだけだったそうだ。共通していたのは、いずれの会社も、デジタル化の波に合わせてリソース配分をデジタル事業に傾けていたこと。ふむふむ。ここまでだったら誰でも思いつくしやりそうなものだ。だが成功した一社のみが違ったのは、デジタル事業に古いしがらみをもちこまなかったこと。具体的には、事業部を完全に独立させ、トップをシリコンバレーのIT企業の出身者に任せたそうだ。

つまり、新分野で成功させるためにはリソースだけ手当しても駄目で、頭のスイッチも思考プロセスもみんな切り替えなければいけないし、切り替えるような環境を創出しなければならない・・・と、そういうことだ。これはなるほど!である。おおくの企業で、「いやぁ、うちの会社でも新規ビジネスをやらせようと思ってどんどん、いろいろな部門にアイデアを出してこいっていってるんだけれども、みんな成功しないんだよね・・・」という声を聞く。おそらく頭のスイッチの切り替えはおろか、リソース配分も(あわよくば今のリソースを犠牲にしないままで)と甘いやり方をしているのだろう。これでは成功しないはずである。良い勉強になった。

2018年3月21日水曜日

書評:生きている会社、死んでいる会社

「この会社の株だったら買たいな(インサイダーリスクがあるので買えないけど)」
コンサルタントとして様々な企業とお付き合いする中で、そう思う場面が実は何度かある。「この会社は絶対に伸びる」と肌感覚で思う瞬間があるのだ。だが、そう思う・思わないの基準がはっきりしているかといえばそうでもない。これが本書に手を出した理由だ。
 
生きている会社、死んでいる会社 ~創造的新陳代謝をうみだす 10の基本原則~
著者: 遠藤功
出版社: 東洋経済新報社
 
本書には、死んでいる会社・生きている会社に共通した特徴、どうしてそうなるかの理由、どうやったら生きている会社になれるかのヒントが書かれている。なお、ここで言う「生きている会社」とは、「絶え間無く挑戦し、絶え間なく実践し、絶え間なく想像し、絶え間なく代謝する会社」だ、と著者の遠藤功氏は定義する。では、生きている会社の共通点はなんだろうか。遠藤氏によれば、それは次の3つを備えている会社だそうだ。
  • 熱(ほとばしる情熱)
  • 理(徹底した理詰め)
  • 情(社員たちの心の充足)
「なるほどな」と「やっぱりな」という2つの感感情を同時に持った。
 
「やっぱりな」と言う点に関しては、事実、私自身がコンサルをしていて「伸びるな」と思える会社が遠藤氏の言う共通点と重なるからだ。そう言う会社は、そこで働く人からの元気が伝わって来る。まさに「熱」だ。そういう会社は本質的じゃないところに時間を割かない。具体的には例えば、会議ひとつ取っても「それはできない、これはできない、あの人が悪い」などと言った、後ろ向きな発言ではなく、「どうしたらできるのか、あーしてはどうか」という前向きな発言が多い。ポジティブというか、建設的なのだ。また、新しいことも厭わずにどんどん取り込んで行く。
 
もちろん、かと言って、気合だけではどうにもならない。そこには考える力を持つことも必要だ。それは遠藤氏の言う、「理」だ。そして、心の充足感も伴わなければならない。昨今の働き方改革では特にこの点にスポットライトが当たっているように思う。ちなみに余談だが、私の会社のロゴマークには「情熱」「スマート」「グローバル」と言うメッセージを込めている。偶然だが、なんとなく遠藤氏の指摘する「熱」「理」「情」に呼応する部分があるような気がする。
 
「なるほどな」と言う点に関してもいくつかあるが、その一つは古いものを捨てることも大事だという点だ。すなわち、単に溜め込むだけではなく、古くなり使わなくなったものをどんどん捨てることも意識し実践できるかどうかがキーポイントというわけだ。自分の会社でも理想のレベルで実践できていない。やってきたことに少しでも疑問があれば潔く捨てるべきというのは頭ではわかっていても意外に難しい。
 
このように学びのある本だが、その特徴は2点ある。1つは、コンサルタントの遠藤功氏らしく、ロジカル・・・体系的に考え方を整理して道筋を示してくれている。先に挙げた「熱」「理」「情」もそうだが、会社の要素を「経済体」「共同体」「生命体」という言葉で表現するなど、ともすれば複雑に見える企業経営を、シンプルな言葉で紐解いてくれている。そして、もう1つは、テーマごとに取り上げる事例の質がいい。たとえば、「熱」の実現を上手くできなかった事例として、次のような引用をしている。
 
ビジョン、ミッションは言わずもがな、日々の運営でサイト訪問者数の話はしても、重要で当たり前なことは言葉にしなくなり、ずれていってしましました(南場智子)』
 
松下幸之助が言ったという「本社なんかない方がいいんだよ」という話。「うちには思想と人しかない」という良品計画の話。「通年の改善件数は40万件を超える」というデンソーの話。「一つのチームはピザ2枚で足りるくらいの規模にとどめなければならない」というジェフ・ベゾスの話・・・などなど、ためになるキーフレーズがたくさん登場する。
 
さてまとめよう。本書を読んでなによりも感じたのは、「生きている会社」になるための処方箋は、実は昔からすでに明らかになっていたのだということ。そして、必要なのは経営者がそれを腹の底から理解し、覚悟を持って実践できるかということだ。前段で言及したとおり、あるいは遠藤氏自身も「おわりに」で述べているとおり、本書に書かれていることは決して目新しいことではない。昔から偉人が述べてきたことが当てはまる。
 
経営はそもそも複雑なはずだし、経営を語る多くの書で難解なものが多い。それを体系的かつシンプルに、最新の事例を交えて、整理分類し、解説してくれているところに本書の意義があると言えるだろう。
 

 

2018年3月20日火曜日

記事評:取締役会の新たな役割:イノベーションを統治する(HBR2018年2月号)を読んで

久々にハーバード・ビジネス・レビュー(2018年2月号)を読んだ。最近、企業の役員の方にお会いすることが多いので、コーポレート・ガバナンスのことが気になっており、この記事が琴線に触れた。

記事の趣旨を大胆にまとめるならば、「企業にイノベーションが足りない足りない・・・と言われているが、実は、その責任の一旦は取締役会にもある」というものだ。

ただし、取締役会はせいぜい月1回。数時間程度である。普通に考えれば、議論する時間などない。事前に根回しをされた内容を追認する。つまり、ワイガヤのディスカッションなどほとんど行われていない・・・それが一般的な(私の)イメージだ。

今の時代、それでは駄目だろう・・・というのだ。そのためには、時間的制約の壁を乗り越える必要があるし、どのような人材を巻き込むべきかという論点がある。前者について工夫している組織では、たとえば取締役会のテーマを変えて、年に2種類の戦略会議を開いていると言う。1つは自社の組織能力と市場におけるポジションについて話し合うもので、学びに重点をおく会議であり、もう一つは意思決定を下す会議だそうだ。そして後者については、取締役会メンバーの多様性に工夫をするという。その会社の専門分野に精通した人材を招くよりも、会社に足りない視点を持っているプロを招聘するというのだ。最近、私も仕事で社外取締役や社内取締役の双方に面談する機会があるが、上手く言っているなと思える企業は、足りない視点を補う社外取締役を呼べている。

納得感がある。どうせ時間とお金をかけて外部の人材を招聘するならそれくらいの工夫はしたいし、成果を期待したいところだ。


ところで、最後に次の一文も心に響いたので掲載しておく。

『フォーチュン100に入る小売企業のCEOは、「他社のCEOや取締役会を見て、取締役会が枝葉末節にとらわれる過ぎると命取りになることを学びました」と我々に語った。こうした問題を避けるには、取締役会に対して何を求めているかを最初に明言することである』

当たり前だが、意外に実践できている企業は少ないのではなかろうか。いまの時代、誰か一人がイノベーションをかんがえるのではなく、全階層、全組織的な取り組みが、企業のイノベーションを促進していくのだろう。

2018年3月17日土曜日

記事評:特集 銀行淘汰が始まった 銀行員がどんどん辞めている

文藝春秋2018年4月にあった「特集 銀行淘汰が始まった 銀行員がどんどん辞めている」が、印象に残った。

昨年末には「三菱UFJ銀行が1万人削減」といった記事や「みずほ銀行10年間で約2万人の削減」といった記事がニュースを飾った。要するに、どうしてこういった事態が起きていて、これからどういうことが予想されるのか・・・ということを書いている記事だ。

みんな銀行の窓口に行かなくなっているし、フィンテックは流行っているし、お金の処理みたいな正確なやりとりにこそITが力を発揮するだろうからどんどんマニュアルオペレーションはなくなっていくだろうし・・・まぁ、素人でもなんとなく世の中の流れは想像がつく。

そんな中で当該記事は銀行の融資ビジネスの利益率がどんどん下がっているという話をしているが、その低さに驚いた。1億円を融資してリターンが49万円しか稼げない(利ざや0.49%)という。そんなもんなのか!?

仮想通貨に投資したほうが、リスクは高いがよっぽど儲けられそう(笑)。

記事評:サイバーエージェント、ネットテレビの「賭け」

日経ビジネス2018年3月19日号に「サイバーエージェント」ネットテレビの「賭け」とある。AbemaTVで数百億円の赤字をだしながらも、10年計画で黒字化を目指して突き進む。



3つ感じたことがある。

1つは、数百億円の赤字を出しながらも企業経営をつづけられる・・・これはすごいなと。それだけの体力を持っているところに敬意を抱く

2つは、いくら数百億円の赤字を出せる体力があるとはいえ、10年というスパンでそれだけのコストを覚悟しながら、信じた道を突き進める藤田社長はすごいなと。なかなか真似のできることではない。

3つは、逆に言えばそれだけ藤田社長がワンマンな会社であることを証明しているのかなと。実際、ブログ事業など過去の事業含め、相当、藤田社長が現場に入ってテコ入れをしているとある。それだけの覚悟とオーナーシップを発揮するところはすごいと素直に思う一方で、完全に信頼して任せられる人材がいないのかなと思ってしまった。

どう転がるにせよ、3年後5年後にこの記事を読んで、サイバーエージェントがどう変わっているか、振り返りをするのが楽しみでたまらない。もちろん、いい意味で。

サイバーエージェント:セグメント別営業利益の見通し
【出典:サイバーエージェント2018アニュアルレポート】


2018年3月15日木曜日

書評: 「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」

「生かされているが、生きてもいるんだなぁ」 本書を読んで、そう思った。

「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 (講談社現代新書)
著者: 鴻上 尚史

特攻を命じられ、生きて帰ってきた、、、しかも7回。精神的・肉体的にも逃げ場のない世界、そんなイメージしか湧かない戦時中に、何をどうしたらそんなことが起きるのか? 「お国のために死ぬのは当然」という考え方に染まらなかったのか、いずれにせよどうして生きて帰ってこれたのか、とにかく疑問ばかりだ。

読んでみてどうだろう。最初に感じたのは、自分の学んできた歴史、いや私の考えにいかに偏見があったかという驚きだ。今日まで、次のように考えていたのだ。
  • 特攻は絶対に逃げられないもの
  • だから選ばれたら最後、悲しくもみな往生際よく突撃して言った
  • 当時の情報統制は酷いと言っても今の北朝鮮ほどではないと思ってた
  • リーダーこそ死を積極的に受け入れ、見本を示して行動した
  • 特攻の効果は低かったと言ってもそれなりに戦果はあった
  • 当時の上層部のだからこそ、特攻を強く推進していた
  • 敗戦確定後は政府も国民も兵隊さんに優しかった
これら全てがひっくり返った。

ここまでするのか。情報統制の酷さには開いた口が塞がらなかった。本書の主人公、佐々木友次氏は、第一回目の特攻で、めぼしい戦果を得られず、しかも(上層部の期待に反して)生きて帰ってきたにもかかわらず、当時の新聞には「見事な成果、見事に死んだ」といった類いの見出しが躍っていたのだった。家族も死んだと思い葬式をあげたとある。以後に特攻を行った際にも、前回の死亡記事はまるでなかったかのように佐々木友次氏の名前を取り上げて「見事に、、、」と言った見出しが踊る。佐々木氏は内緒で実家に生存を匂わす手紙を送っていたというし、茶番も茶番である。

 佐々木氏はいう。「人には、みなそれぞれに【寿命】がある。だから(自分で死のうとしない限り)簡単には死なない。自分が生き延びてこれたのは、きっと自分がそういう【寿命】だったからだ」と。これが佐々木氏の持つ死生観だ。

しかし、この言葉を受けて、次に私が考えたのは「生き延びたのは偶然か必然か」という点だ。全てが偶然であるはずがない、と。私が出した答えは、必然が5割、偶然が5割。(ちなみにこれは私の勝手な推測なので「お前は戦争というものを全くわかってない」という方がいるであろうことは百も承知している)

具体的には、佐々木氏に限って言えば、彼の生死を分けたのは、先の「死生観」と「(生き死ににかかわらず)役に立ちたいという意思」と「故障や不意の攻撃に見舞われなかった運」の3つが要素としてあったと思う。自分でコントロールしにくい要素ばかりだが、実はその根底にあった要素「本人が鍛錬して得た技量」が、大きなウェイトを占めていたのではなかろうかと、ふと、そんな考えを持った。技量があったからこそ、特攻の効果がいかに小さいがわかったし、技量があったからこそ、直感も手伝って生きて帰って来れたのではないか。

それは次のように言い換えられないか。一見、世の中「これはあの人のせい」「あれは環境のせい」「自分ではどうしようもなかった」ということばかりに見えて、実は意外に自分自身がコントロールを握っている場面が少なくないと。

先日、息子が来ていたTシャツにこんな英語の文句が書かれていたのをふと思い出す。Life is a journey. The good news is you are the pilot. (人生は旅だ。いいニュースは、あなた自身がパイロットということだ。)

と、まぁ、色々な気づきを与えてくれた本書だが、この本がいいなと思ったのは、主観と客観のバランスの良さだ。

「(逃亡したも同然の)当時の特攻を命令した上司を憎んでないのか?」著者は聞く。佐々木氏は答える「いや、そんなことは思ってませんよ」と...。

著者は明らかに(多くの人同様)特攻に対する嫌悪感を抱いているが、では当の本人はどう思っていたのかというところを、脚色せず、インタビューした内容そのままに掲載してくれている。

戦争は悲劇だし、特攻は最悪だ。2度とあってはならない。そういう学びも当然ある。だがそう結論づけるのは簡単だから、私はプラスアルファを読み取りたかった。その内容は先に書いた通りだ。皆さんも皆さんなりの結論を出すために、読んで見てはいかがだろうか。

 
 

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...