「この会社の株だったら買たいな(インサイダーリスクがあるので買えないけど)」
コンサルタントとして様々な企業とお付き合いする中で、そう思う場面が実は何度かある。「この会社は絶対に伸びる」と肌感覚で思う瞬間があるのだ。だが、そう思う・思わないの基準がはっきりしているかといえばそうでもない。これが本書に手を出した理由だ。
生きている会社、死んでいる会社 ~創造的新陳代謝をうみだす 10の基本原則~
著者: 遠藤功
出版社: 東洋経済新報社
本書には、死んでいる会社・生きている会社に共通した特徴、どうしてそうなるかの理由、どうやったら生きている会社になれるかのヒントが書かれている。なお、ここで言う「生きている会社」とは、「絶え間無く挑戦し、絶え間なく実践し、絶え間なく想像し、絶え間なく代謝する会社」だ、と著者の遠藤功氏は定義する。では、生きている会社の共通点はなんだろうか。遠藤氏によれば、それは次の3つを備えている会社だそうだ。
- 熱(ほとばしる情熱)
- 理(徹底した理詰め)
- 情(社員たちの心の充足)
「なるほどな」と「やっぱりな」という2つの感感情を同時に持った。
「やっぱりな」と言う点に関しては、事実、私自身がコンサルをしていて「伸びるな」と思える会社が遠藤氏の言う共通点と重なるからだ。そう言う会社は、そこで働く人からの元気が伝わって来る。まさに「熱」だ。そういう会社は本質的じゃないところに時間を割かない。具体的には例えば、会議ひとつ取っても「それはできない、これはできない、あの人が悪い」などと言った、後ろ向きな発言ではなく、「どうしたらできるのか、あーしてはどうか」という前向きな発言が多い。ポジティブというか、建設的なのだ。また、新しいことも厭わずにどんどん取り込んで行く。
もちろん、かと言って、気合だけではどうにもならない。そこには考える力を持つことも必要だ。それは遠藤氏の言う、「理」だ。そして、心の充足感も伴わなければならない。昨今の働き方改革では特にこの点にスポットライトが当たっているように思う。ちなみに余談だが、私の会社のロゴマークには「情熱」「スマート」「グローバル」と言うメッセージを込めている。偶然だが、なんとなく遠藤氏の指摘する「熱」「理」「情」に呼応する部分があるような気がする。
「なるほどな」と言う点に関してもいくつかあるが、その一つは古いものを捨てることも大事だという点だ。すなわち、単に溜め込むだけではなく、古くなり使わなくなったものをどんどん捨てることも意識し実践できるかどうかがキーポイントというわけだ。自分の会社でも理想のレベルで実践できていない。やってきたことに少しでも疑問があれば潔く捨てるべきというのは頭ではわかっていても意外に難しい。
このように学びのある本だが、その特徴は2点ある。1つは、コンサルタントの遠藤功氏らしく、ロジカル・・・体系的に考え方を整理して道筋を示してくれている。先に挙げた「熱」「理」「情」もそうだが、会社の要素を「経済体」「共同体」「生命体」という言葉で表現するなど、ともすれば複雑に見える企業経営を、シンプルな言葉で紐解いてくれている。そして、もう1つは、テーマごとに取り上げる事例の質がいい。たとえば、「熱」の実現を上手くできなかった事例として、次のような引用をしている。
『ビジョン、ミッションは言わずもがな、日々の運営でサイト訪問者数の話はしても、重要で当たり前なことは言葉にしなくなり、ずれていってしましました(南場智子)』
松下幸之助が言ったという「本社なんかない方がいいんだよ」という話。「うちには思想と人しかない」という良品計画の話。「通年の改善件数は40万件を超える」というデンソーの話。「一つのチームはピザ2枚で足りるくらいの規模にとどめなければならない」というジェフ・ベゾスの話・・・などなど、ためになるキーフレーズがたくさん登場する。
さてまとめよう。本書を読んでなによりも感じたのは、「生きている会社」になるための処方箋は、実は昔からすでに明らかになっていたのだということ。そして、必要なのは経営者がそれを腹の底から理解し、覚悟を持って実践できるかということだ。前段で言及したとおり、あるいは遠藤氏自身も「おわりに」で述べているとおり、本書に書かれていることは決して目新しいことではない。昔から偉人が述べてきたことが当てはまる。
経営はそもそも複雑なはずだし、経営を語る多くの書で難解なものが多い。それを体系的かつシンプルに、最新の事例を交えて、整理分類し、解説してくれているところに本書の意義があると言えるだろう。
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