2013年1月3日木曜日

書評: 墜落の夏

何のためにこの本を読むのか?

自分のふとした好奇心から手に取っておきながら、読み終わった後、暫くの間、茫然自失・・・深く考えこんでしまった。

墜落の夏 ~日航123便事故全記録~
著者: 吉岡 忍
出版社: 新潮文庫



たまたま何かの雑誌で過去の事件・事故の特集を扱っていて、その1つが日航機墜落事故のことだった。記事を読んでいるうちに自分が「日航機墜落は悲惨な事故だった」ということ以外、何一つ知らないことに気がついた。そこで、今さらではあるが、当時の事故を記した本の中でも比較的有名なこの本を読むことにした。

本書は、1985年8月12日(月曜日)(当時、私は13歳)に起きた日航機墜落事故の発生、及び、それに翻弄された家族やJALの現場スタッフ、消防・警察や医療関係者の状況を、克明に記したノンフィクション小説である。現場に深く入り込み丹念に調査した結果を反映したものである。いたるところで、その内容が引用されていることからも、その信頼性の高さをうかがい知ることができる。

とりわけ注目されるのは、乗客524人の中で奇跡的に助かった4人の生存者のうちの1人・・・落合由美さんの証言だ。著者吉岡忍氏は、事故発生から4ヶ月後、彼女に総計7時間のインタビューを敢行し、墜落までの32分を明らかにした。その後も彼女本人による入念なチェックを繰り返し、仕上げたとされる。それだけに、落合さんの証言が描かれている第二章「32分間の真実」を読んだときには、自分自身があたかもその場にいたかのような錯覚に陥るほどで・・・本当に心が凍りついた。

『そして、すぐに急降下がはじまったのです。まったくの急降下です。まっさかさまです。髪の毛が逆立つくらいの感じです。頭の両わきの髪がうしろにひっぱられるような感じ。ほんとうはそんなふうにはなっていないのでしょうが、そうなっていると感じるほどでした。怖いです。怖かったです。思い出させないでください、もう。思い出したくない恐怖です・・・』(本書第二章より)

きっかけは自分の好奇心からだったが、この本を読み終わった後は、正直に言うと、ただただ混乱するばかりだった。というのも「この本には何が書かれているか?」を伝えることは比較的容易にできるが、この本を「何ために読むのか?」「誰が読むべきなのか?」・・・その答えが見つからなかったからだ。

本を読み終えて最初に頭に浮かんだ一言は「矛盾」という言葉だけだ。絶対に生きてやる、という人の意志の強さとは無関係に一瞬で命が奪われる矛盾、有機物なのに無機物のように扱われる・・・いや扱わざるをえない矛盾、家族のために身を粉にして働くことこそが自分の使命・意思と思って生きてきたはずの多くの男性陣にこそ多くの未練が残ってしまった(であろう)という矛盾、その悲しみの大きさを到底受け入れられないとわかっているにも関わらず人は飛行機に乗り続けてしまうという矛盾、家族やJALの現場など一部の人にのみ苦しみが偏るという矛盾、技術革新は人にすら均質化を求める一方で均質でないことが人の救いになりうるという矛盾・・・。

矛盾・・・矛盾・・・矛盾・・・。

この本を読む意義はどこにあるのだろうか?単に人の好奇心を満たすだけなのだろうか?現実と向き合って何を得るのか? 悲劇を繰り返さないようにするために・・・それを忘れないために?・・・そうかもしれない。でも人は飛行機に乗り続ける。自分もそう。ある意味、原発問題にも通ずるところがある。私自身がかろうじて絞り出した答えは「たとえ明日死ぬことになったとしても後悔しないように、一瞬一瞬を精一杯生きるんだ!」ということだ。でも、それは他の人には当てはまらないことかもしれない。

答えは読む人、一人ひとりが見いだす・・・きっと、そういうことなのだろう。


2013年1月2日水曜日

書評: 2014年、中国は崩壊する

日経ビジネスで「ちょっと過激だけど・・・」と紹介されていた本だ。

2014年、中国は崩壊する
著者: 宇田川敬介
出版社: 扶桑社新書


確かにそんな印象を持たせるタイトルだが、全くあり得ない話でもないだろう。むしろ、こうした極端な視点で書かれた本を読むことで新しい発見があるかもしれない・・・そんな気持ちから手にとった。

■中国の現状と著者の実体験から、中国の今後を予測

この本は中国を思想、文化、政治・経済の体制面から掘り下げ、向こう数年間の中国がどうなってゆくかを予測したものである。

中国のGDP7兆2,980億ドルは世界第2位。日本、いや、世界を語るのに米国・欧州同様に無視できない存在になっている。ここ数年、GDPわずか3,000億ドル(世界第35位)のギリシャ一国に振り回される世界経済を見ればそれも強く実感できる。著者はそんな中国が近い将来・・・2014年に崩壊すると予言する。著者は中国の体制、中国人のメンタル、中国ビジネスでの実体験、政府交官から得た数々の情報を根拠に、この予言は決して大げさなものではないと主張する。

※2011年の実績です

■”過激”かつ”マクロ”な視点で中国を理解できる

本書の魅力は、先述したように、その過激とも言える視点により読者に新たな発見を提供してくれる(かもしれない)ということもあるが、それ以上に中国というものを深く理解するのに大いに役だってくれるという点にあると思う。

たとえば、巷の専門家は良く「中国は50以上もある民族が、共産党体制の下でなんとか1つにまとまっている・・・実は不安定な状態。だからこそ、強力なコントロールをかけなければいけないのです。」と言うが、本書は"なんとか1つにまとまっている"と一言で片付けることはしない。著者は、中国の中華人民共和国憲法前文に記述された中国の長期ヴィジョンや体制に触れた上で・・・次のように語る。

『・・・現在では、社会主義的と言いながら資本主義化し、力をつけた下層民衆をいかに制御するのかという点にかかっている。市場経済を導入してしまったがゆえに、下層社会の不満を解消する方法は、通貨を流入させインフレに導いて景気循環させ、裕福になったという物質的な満足感を与えることでしかない。』(本書より)

なお、「中国を理解する」という観点では以前読んだ「中国人は、本当にそんなに日本人が嫌いなのか」(加藤嘉一著)も同類だが、これはどちらかと言えば私生活から見える中国人の性格にスポットライトを当てた・・・そうミクロ的な視点での考察だったものであるのに対し「2014年、中国は崩壊する」は、(ミクロ的な視点もあるが)マクロ的な視点が強いと言えるだろう。

■中国リスクを測るための一冊として・・・

2014年、中国は崩壊するゾ!・・・

さて、このようにやや偉そうに語る著者はいったい何者だろうか。著者の宇田川敬介氏は、ワーナー・マイカルの運営に携わり、中国でマイカル大連の出展にこぎつけた経歴を持つ。現在は、国会新聞社で編集次長としてペンをふるっているとのことだ。

大連でのビジネス経験を持つということから、本書で語られる事例の多くが、実は大連のものばかりである。大連での経験がそのまま中国全土に当てはまるとは思えないので、そのあたりは差し引いて読みたいところだ。

ただ一方で、著者ほど中国に精通している人もなかなかいないのだろうと思う。そもそもあの広大な中国で、複雑な民族、文化、体制・・・その全てを理解し”客観的に”考察できる人なんて、中国人の中にもいるのだろうか。自らにビジネスでの実体験を持ち、かつ、中国の各界にそれなりの太いパイプを持っており、普通の人では入手できない貴重な情報を入手できる著者は、稀有な立場にあることには間違いない。

このように”それなりに信ぴょう性がある本”という前提を鑑みれば、本書は、特に政治家をはじめ、中国に進出している企業の経営陣、経営企画部の方、リスク管理部の方向けの警鐘本として役立つだろう。


【”中国を知る”という観点での類書】
中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか(加藤嘉一著)

====2015/01/25追記====
さて、年が開け2015年になった。「不動産に買い手がつかず、価格が値下がりしている。」「習近平国家主席は、腐敗を取り除く取り締まりを強化しているが、派閥強化の道具に利用されている。」・・・などなど、中国の危うさに関する報道は、常になされているが、本のタイトルどおり「崩壊」とは、ならなかった。実は、バブルがはじける、崩壊する、ハードラインディングする・・・などと言われているうちは、大丈夫で、「あれ、何も起こらないな?」と油断したときに起こる・・・そんなものなのかもしれない。

2013年1月1日火曜日

2012年に読んだ本を振り返る

「2011年に読んだ本を振り返る」に引き続き、恒例の個人的書籍ランキング・・・2012年の表を作成してみた。全43冊。

どうして、この43冊を読むにいたったかだが、たいていの場合、雑誌やラジオがきっかけになっているものが多い。たとえば「ふしぎなキリスト教」は、月刊VOICE・・・だったか、どこぞの雑誌で書籍ランキングが出ていてそこの一位に輝いていた本だ。また、道尾秀介の「背の眼」は、雑誌「男の隠れ家」で知った。なお、友人・知人のススメで知った本もある。数えてみたら5冊がそうだった。

ランキングは極めて個人的な意見に基づくものだが、たいていの場合、「もう一度読みたいと思うか?」「面白く読めたか?」「学びがあったか?」といった観点にひっかかるものが上位にきている。

【2012年に読んだ本一覧と個人的ランキング】
タイトル
著者
Best 10
ザ・ゴール(The Goal) エリヤフ・ゴールドラット
2
犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ
 
南極越冬隊タロジロの真実 北村泰一
 
舟を編む 三浦しをん
 
ザ・ゴール2(It's Not Luck) エリヤフ・ゴールドラット
5
「正しく」考える方法 齊藤了文、中村光世
 
体制維新 - 大阪都 橋下徹、堺屋太一
 
ドキュメント宇宙飛行士選抜試験 大鐘 良一、小原建石
 
井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 井上ひさし
10
50歳を超えても30代に見える生き方 南雲吉則
 
ふしぎなキリスト教 橋爪大三郎、大澤真幸
3
小島慶子 女子アナ以前 小島慶子
 
日本でいちばん大切にしたい会社 坂本光司
 
歪笑小説 東野圭吾
9
佐川萌え 坂口ゆり
 
「IT断食」のすすめ 遠藤功、山本孝明
 
「超」文章法 野口悠紀雄
 
挑む力  世界一を獲った富士通の流儀 片瀬京子、田島篤(共著)、野中郁次郎(解説)
 
人間の基本 曽野綾子
6
ハーバード白熱日本史教室 北川智子
 
ルポ若者ホームレス 飯島裕子
 
石橋を叩けば渡れない 西堀栄三郎
1
人を見ぬく技術 桜井章一
 
数学物語 矢野健太郎
9
大前流 心理経済学 大前研一
 
子どもの心のコーチング 菅原優子
 
この1冊ですべてわかるコーチングの基本 コーチ・エイ 監修:鈴木義幸
7
清州会議 三谷幸喜
 
目からウロコのコーチング 播磨早苗
 
日本企業に今大切なこと 野中郁次郎、遠藤功
 
逆境を超えてゆく者へ 新渡戸稲造
 
戦国の軍隊 西股総生
 
神去なあなあ日常 三浦しをん
 
「勉強しろ」と言わずに子どもを勉強させる法 小松公夫
 
伝える力 池上彰
 
これが週間こどもニュースだ 池上彰
8
進化する教育 大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局 編著
 
なぜフォークの歯は四本になったか ヘンリー・ペドロスキー
 
背の眼 道尾秀介
 
南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~ 加藤和子
 
セブン-イレブン終わりなき革新 田中陽
10
個を動かす 池田信太朗
10
奇跡の教室 伊藤氏孝
4

さて、読書&書評の習慣をつけるようになって約2年が経過した。おおよそ2年で100冊のペースだ。全てではないが、日経ビジネスや月刊VOICE、ハーバード・ビジネス・レビューなど、読んだ雑誌について思ったところも、できる限り反映するようにしている。これらをトータルすると、数百冊くらいはいってるのではなかろうか。

以前は、数ヶ月経つと読んだ本の中身をすっかり忘れていたが、こうやってブログにつけるようになって、読んだ本のほとんどをはっきりと覚えることができている。読みっぱなしにせず、自分の中で十分に咀嚼しアウトプットしてきた成果だろう。まとめる能力も向上したと思う。

2013年は、電子書籍を利用しつつ、ぜひとも読書の幅を広げていきたい。

2013年 あけましておめでとうございます


明けましておめでとうございます。奈良県天理市で2013年新年を迎えました。

大晦日はちょうど0時に就寝し今朝は6時に起床。そして初ジョギングを決行。奈良市の初日の出は7:03分とあったので、その数分前から、野原が見渡せる場所で待ち構えてました。2012年の初日の出は曇り空で見ることができなかったので、今年こそはぜひに・・・と気合いっぱい。

ところが天理は山に囲まれいてる盆地。なかなか日の出が拝めず、太陽が出てきたのは7:45! なんと40分以上も待っていたことになります。

いやぁ~、とっても寒かったです・・・が、苦労して見ただけに感動もひとしお。今年も良いことがたくさんありますように・・・。

2013年初日の出@奈良県天理市 午前7:45頃

2012年12月30日日曜日

書評: 奇跡の教室

「すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなります」

奇跡の教室 ~エチ先生と奇跡の子どもたち~
著者: 伊藤氏貴
出版社: 小学館


今でこそ超名門校だが、当時まだ公立校の滑り止めでしかなかった灘(なだ)。冒頭の言を発した教師は、この学校で薄っぺらい文庫本「銀の匙(ぎんのさじ)」一冊だけを3年間かけて読むという型破りな国語授業を行った。教え子たちは、灘に私立初の東大合格者数日本一の栄冠をもたらす。そして今、東大総長・副総長、最高裁事務総長、神奈川県知事、弁護士連合会事務総長・・・要職につき各界で活躍している。伝説とまでうたわれるようになったその教師の名は、橋本武 (2012年で満100歳)。

  • 橋下武先生は、本当にそんな授業を行ったのか?
  • 具体的に、どんな授業内容だったのか?
  • なぜ、そのような授業を行ったのか? 
  • そして、なぜ、結果を出せたのか? 
  • 教え子たちは、今、何を思うのか?
本書には、こうした疑問全てに対する答えがつまっている。

冒頭の言をはじめ、本書には生徒を教える教育者として、あるいは子を育てる親として、ハッとさせられるメッセージが数多く登場する。それが本書の魅力の1つでもある。

『"自分が中学生の時に国語で何を読んだか覚えていますか?私は教師になった時に自問自答して愕然としたんですよ。何も覚えてないって。』

『国語はすべての教科の基本です。”学ぶ力の背骨”なんです-』

『私は”教え子”ということばで卒業生を呼んだことはない。教師と生徒との関係の限界を知っているつもりだからである。』

しかし、何と言っても本書最大の魅力は、教育の本質をとらえた橋本武先生の教育手法の紹介だろう。一冊の本をとことん味わい尽くす・・・本書は、そんな橋下武先生の教育スタイルをスローフードならぬスローリーディングと呼ぶ。スローリーディングと言っても、単にゆっくり読むのではなく、そこに登場する言葉、情景、心情・・・文字の一言一句を大切にし、丁寧に観察し、”追体験”することを指すのだ。たとえば、主人公が金太郎飴を食べている描写があれば、実際に生徒にも金太郎飴を食べさせ・・・同じ状況を味わいながら読み進める、といった具合である。

ところで、スローリーディングを知るにつけ、ふと、思う。成果を伴った教育というか学問というか・・・そういったものには、一つの共通点があるなと・・・。

「ハーバード白熱日本史教室」の北川智子先生は、日本史の授業で、単に文字を追わせるだけでなく、当時の音楽を聴かせたり、地図を自ら作らせてみたり・・・アクティブティーチングと呼ぶそうだが・・・そういった手法を使って、五感をフル活用し歴史の追体験をさせる。

NHK番組プロフェッショナル仕事の流儀でも採りあげられ、日本中の教師から注目されている菊池省三先生は、小学生に1つのテーマを与え、自ら調べさせ考えさせ、ディベートをさせている。また、普通であればやらされ感いっぱいの運動会において、生徒自身に運動会での踊りの振り付けを創作させるなど、生徒に考えさせる機会をとにかくたくさん演出している。

お金がなく学校に通うこともままならなかったが、教育者の助けなく、自ら似たようなことを実践し、結果を出した若者もいた。「風をつかまえた少年」で有名になったウィリアム・カムクワンバ少年だ。彼は、自転車のライトをつけるモーターに興味をかきたてられ、廃材を利用して自分で実験し、図書館に足を運び独学で発電の仕組みを調べ、ついには風力発電を作り上げてしまった。

そう、これら全てのケースに共通するのは興味を持ち、自ら調べ、自ら体験し、自分の考えを見つけるというプロセスが発生している点である。橋本先生のスローリーディングは、まさに生徒にこのプロセスを踏ませる最も有効な手段の1つであるに違いない。しかも、今からはるか70年以上も前にその重要性に気がついて実践していたというのである。ゆうに還暦を迎える生徒達は、今も立派に生きている。

”奇跡の教室”・・・本書を読めばこの言葉が嘘ではないことがわかるはずだ。


【”教育”の本質に迫るという観点での類書】

2012年12月29日土曜日

書評:「セブン-イレブン終わりなき革新」&「個を動かす」

今回は、コンビニエンスストアにスポットライトを当てた二冊の本について、まとめて書評を書いてみたい。

セブン-イレブン終わりなき革新
著者:田中陽
発行元:日経ビジネス人文庫


個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~
著者:池田信太朗
発行元:日経BP社

  ■セブン-イレブン終わりなき革新

セブン-イレブンの全てを書いた本だ。創業者であり現代表取締役会長でもある鈴木敏文氏のこの”会社に対する想い”セブンが今日の地位を築くまでの”苦労・進化の歴史”・・・この両方をたどることで、セブン-イレブンの哲学と業界ナンバーワンたらしめる強みに迫っている。

この本の魅力は、一冊で、おおよそセブン-イレブン・・・いやコンビニ業界・・・いや小売業のことが理解できてしまう、という点にあるだろう。なぜなら、小売り業の最先端を突っ走っていると言っても過言ではない業界でナンバーワンをはるセブン-イレブンの強みを知ることは、小売業における一つの理想像を知ることにもつながるからだ。セブン-イレブン関連の本はたくさん出ているが、我々一般人がセブン-イレブンを適度に理解するにはこれ一冊あれば十分な内容だ。

では、本が言及するセブン-イレブンの強みとは何か? 

幾つかを参考までに紹介すると、例えば、常に”顧客ありき”を前提にした単品管理・・・この軸をぶらさない姿勢がある。また、鈴木敏文氏の常に諦めない粘り強さ・・・が印象的だ。国内にコンビニエンスストアという業態がまだなかった時代に第一号店を立ち上げるまでの苦労、従来はあり得なかったメーカーの垣根を超えた商品開発協力体制の構築の話は、素直にすごいと思った。法規制やしがらみを打ち破ってのATMマシン設置にこぎつけるまでの話は、フィクション小説さながらに興奮した。さらに何と言っても、タイトルにもあるように、常にイノベーションを追い求める姿勢だ。POSシステム導入にはじまり、ふっくらしたおにぎりの開発、商品棚の改善、店舗の24時間化など、挙げれば枚挙にいとまがない。

こうした努力は数字に如実に表れている。コンビニ一店舗あたりの日販が、セブン-イレブンで66万9千円、ローソンが54万7千円、ファミリーマートが53万千円だそうだ。

最初に、本屋で見かけて「少しくらいは何か役立つことが載っているかな」と何とはなしに手にとった本だったが、良い意味で大きく期待を裏切ってくれた本だ。

個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~

先の本がセブンーイレブンの全てを描いた本だとすれば、こちらは新浪剛史氏率いるローソンの全てを描いた本である。

「セブン-イレブンって、実は見た目以上に強いんだなぁ。他社は勝ち目なさそうだなぁ。」

「セブン-イレブン 終わりなき革新」を読み終わったときは、そう思った。しかし、この「個を動かす」を読むと「いやいや、何の何の。ちょっとでも隙あらばトップを奪いとるよ」・・・そんな力強さが伝わってくる。

セブン-イレブンよりも後発・・・加えて、ダイエーが三菱商事に譲り渡したときは、負の遺産もたくさんあったローソン。ローソンの強みは全都道府県にプレゼンスがあったという点。セブングループに比べ、売上も資金力も遠く及ばないローソンが、自社のこうした弱み、強みを認識した上で、独自の戦略を打ちたて、熾烈な戦いに挑み続ける・・・そんな姿勢が描かれている。その姿勢は極めてオリジナリティに溢れている。

本書の特徴を1つ挙げるとすれば、ローソンをより良く知るために、ローソンのみならず、セブンーイレブンの特徴について幾度と無く言及している点だろう(「セブン-イレブン 終わりなき革新」は、他社との違い・・・というよりも、あくまでもセブンーイレブン自身についての言及に終始している)。事実、比較のため「セブンーイレブン終わりなき革新」からの引用が数多く見られる。

三菱商事で学んだ現場ありきの実行力・・・そして、ハーバード・ビジネス・スクールのMBAの知識・技術・・・いい意味での頑固一徹なリーダーシップ力・・・新浪氏の魅力がひしひしと伝わってくる。

■二冊を合わせて読むのがベスト

両書を読んで浮き彫りになるのは、同じコンビニ・・・業界一位、二位を占める会社であり、見た目は同じような商売に見えるが、実は、両社が”似て非なるもの”・・・であるということだ。フランチャイズという形態、顧客第一主義・・・それ以外の点では何から何まで違うといっても言い過ぎではないのではなかろうか。これは本当に驚きの事実だった。

セブンーイレブンが本部の強烈なガバナンスの元で店舗運営をしているのに対し、ローソンはできる限り店舗運営を地域に任せている。セブンーイレブンが商品発注を店舗の人判断に任せているのに対し、ローソンはITを駆使して自動化させようと試みている。セブンーイレブンが同じエリアに大量出店するドミナント戦略をとっているのに対し、ローソンは広範囲に出店する戦略をとっている(あるいは、とってきた)。

ビジネスは生き物、ビジネスは戦い、ビジネスはやりよう・・・両書を読むと、いや、両社を知ると、それを実感させてくれる。それが、とてつもなく魅力的で面白い。興味がある方には、ぜひ、この二冊を読み比べることをオススメしたい。


===コンビニ商品力で格差(2013年1月11日追記)===
日経新聞2013年1月10日付け朝刊によれば、コンビニエンスストア大手5社の2012年3~11月期決算がそろったとの報。それによれば、
1. セブン-イレブン・ジャパン 4,679 / 1,450 (売上高/営業利益)
2. ローソン 3,722 / 534
3. ファミリーマート 2,571 / 361
4. サークルKサンクス 1,193 / 169
5. ミニストップ 955 / 45

だそうだ。際立つのは、セブンとローソン、ファミマ3社が増益、残り2社が減益ということと、セブンの営業利益の大きさだ。今後が注目される。

2012年12月23日日曜日

なぜ今、古事記なのか

VOICE2013年1月号を読んだ。

  ■なぜ今、古事記なのか

「なぜジャパン・エキスポで古事記なのか」の記事。吉木誉絵(よしきのりえ)さん・・・が、今、注目されているとのこと。なんでも日本の古事記をベースにしたステージ演出が日本のみならず世界で、評価されているらしい。この記事のヘッダーには「アメリカ留学を経て、日本の神話に見せられた若き歌姫が、古事記編纂千三百年の節目に挑んだ大プロジェクト」とある。 記事中、彼女が”古事記”に注目した理由について触れられているが、それが印象的だった。 

『お風呂好きな性質や勤勉さ、箸やご飯茶碗などは自分の食器が決まっていること、話し合いで争い事を解決しようとする性格など、わざわざ意識していなくても外国人から必ず日本人の特徴としてあげられるそれらの気質は、古事記に神々の気質として起源が書かれていたのである。勉強すればするほど、古事記が無意識的に日本人のなかで、共通に存在している不思議な感覚を覚えたのだった』

「日本の外に出てこそ見えてくる”日本人らしさ”」、「千年超えてなお変わらぬ”日本人らしさ”」、「古事記という神秘的・伝統的な書物に投影される”日本人らしさ”」・・・、なんだか日本人であることを誇らしげに感じてしまうのは自分だけだろうか。同時に、古事記を良く知らない自分が恥ずかしい。

■中央銀行の質と量?

「日銀がインフレターゲットを設定するのは必要なことだ」「いや、それだけでは不十分だ」「いや、不要だ」などなど、色々な専門家が喧々諤々。たとえば、江田健二氏(みんなの党)は、インフレターゲット設定を推奨しているが、池田信夫氏はインフレターゲット設定だけでは不十分という論を展開している。両者がそれぞれの論を支える根拠の1つとして挙げている点が(ともに事実を述べてはいるが)、(アタリマエのことではあるが)それぞれに都合の良い部分を使っているので、面白い。

『現にいま、イングランド銀行、スウェーデン中央銀行といった先進国の多くの中央銀行で、インフレターゲット政策が採用されている』(みんなの党 江田健二)

『インフレ目標というのは、中央銀行が物価上昇率に一定の基準を設けて、それを守るように金利を調整する政策だが、日銀もFRBもECB(欧州中央銀行)も採用していない』(経済評論家 池田信夫)

いや、面白い。

VOICE2013年1月号

2012年12月22日土曜日

書評: 南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~

南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~
著者: 加藤和子
出版社: 郁朋社



この本は、西郷隆盛(さいごうたかもり)と彼に深く関わった人々の人生を描いた歴史物語だ。

西郷隆盛と名乗るようになる遥か前のまだ24歳・・・そう、彼がまだ吉之助(きちのすけ)と呼ばれていた頃、切腹同然の罪を犯す。吉之助を失うことを”著しい損失”と考えた藩は、切腹の代わりに、当時侵略先として検討していた台湾で密偵役をこなすよう命を下す。琉球からの流れ者と偽り、とある台湾漁民と家族同然の仲になるが、そこの娘と恋仲になり妻として娶る。妻は身籠るが出産間近のタイミングで、藩命により吉之助は薩摩へ帰投することになる。残された妻子・・・とりわけ妻は、嘆き悲しむばかり・・・。産後の肥立ちも悪かったためか、ついには亡くなってしまう。

このように・・・物語は学校では習わなかった悲しい史実からいきなり始まる。

私のつたない記憶をたどると、西郷隆盛と言いえば・・・

「体の太い人」「銅像になってる人」「薩長同盟」「(最後は暴走気味に)西南戦争で負けた人」

といったことしか思い浮かばない(もし事実と著しく異なっていたとしても、それは私の教養不足のためであり容赦願いたい)。しかし、この本を読むと、おそらくは体型や薩長同盟に関すること以外、何1つ彼に対する知識が正しくなかったことがわかる。また、彼が台湾はおろか、奄美大島にもこれほど深い関わりを持っていた人とは知らなかった。さらに、そもそも隆盛という名が正しい名前ではなかった・・・ということも驚きだった。

サブタイトルの「西郷家、愛と悲しみの系譜」・・・これはパッと見、昼のメロドラマのタイトルのようで、この本に対して腰が引けなくもない(正直、私は最初の一ページを開くのに時間がかかった)。が、この本にはまさしく愛と悲しみがあふれている。読んでいると胸が張り裂けそうになるシーンも多々ある。

西郷隆盛に興味がある人はもちろん、明治維新に興味がある人、奄美大島に興味がある人・・・そして歴史に興味がある人・・・そんな人達にお勧めの本である。

【歴史物語という観点での(私が読んだ)類書】
この命、義に捧ぐ(門田隆将著)

2012年12月8日土曜日

書評: 背の眼

正直、ミステリーものはあまり好きじゃない。

現実世界を描きながら、現実っぽくない・・・その中途半端さが好きになれない。たいていの場合、複数の殺人が起こる。そしてたいていの場合、主人公はその(またはそれに近い)場面に出くわす。一人の人間が殺人に出くわすことって、人生に一度あるかないかだろうに・・・。

そんな自分の気持ちに背き、次の本に手を出した。素直に面白いっ!と思った。

背の眼
著者: 道尾秀介
発行元: 幻冬舎文庫



手を出したきっかけは、雑誌「男の隠れ家(2012年12月号)」での彼の記事を読んだことだ。そこには道尾秀介氏自らが設計を手がけた書斎が紹介されていた。一日きっちり10ページ・・・無理のないノルマを自分に課し、リラックスと集中・・・朝7時から夜6時まで小説を仕上げる。若手ながら次から次と賞を受賞・・・確か、そのような話だったと思うが、そんな素敵な空間&彼の才能
から描き出される世界観は、きっと読者にも何か素敵な気分を分け与えてくれるに違いない・・・そう思ったのかもしれない。

■白峠村を舞台にしたミステリー小説

「背の眼」は、ミステリー小説だ。ちなみに、ホラー・サスペンス大賞特別賞を受賞している。ネタバレしない程度にあらすじを紹介しておく。

作家業を営む道尾(みちお)は、久しぶりの旅行にでかける。行き先に選んだのは白峠村。この村を訪れた際、偶然、児童失踪事件の話を耳にする。その矢先、宿泊先近くの河原で、不気味な謎の声を聞き、慌ててその村を逃げ出してしまう。恐怖体験が頭から離れなず困った道尾は藁をもすがる思いで、霊現象探求所を運営する旧友、真備庄介(まきびしょうすけ)のもとを訪れる。そこで目にしたのは、被写体の背中に人間の眼が映り込む四枚の心霊写真。彼ら全員が撮影数日以内に自殺したという。そしてなんとその、白峠村周辺で撮影されたものだという。失踪、謎の声、心霊写真、自殺、白峠村・・・これは単なる偶然か・・・それとも・・・。


■ヒーローの存在と読めない展開

さて、なぜおもしろいと思ったのか・・・。

1つは、”強いヒーローを見たい”という欲求を満たしてくれるからだ。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ、東野圭吾のガリレオ・・・彼らのような聡明さを持つ存在が、この作品では真備庄介にあたる。小説の最初の方で、道尾を”ワトスン”にみたて、真備があたかもシャーロック・ホームズになったかのように推理を披露するシーンがある。実は、デタラメの推理で冗談として挿入されている場面だが、作品内での二人の立場を描写するのに、これほど的確な喩えはないだろう。

もう1つは、ストーリー性だ。とても処女作とは思えない良く練られた作品だ。いくつものパズルのピースが、最後に、カチリとはまっていく・・・その流れに心地よさすら覚えた。加えて、(これがミステリー小説において最も重要なことなのだと思うが)最後の最後までストーリーが読めない。この小説の中に出てくる”霊”という存在をどのように捉えるべきか・・・どう捉えるかで、読者の推理のあり方も全て変わってしまう。すなわち、最後まで迷う。

■憎らしいほどの才能

ところで、”ワトスンくん的立場”で小説に登場する道尾は、作者の道尾秀介氏自身のこと・・・は自明だが、現実世界での作家としての能力は”ワトスンくん”・・・というよりも、”シャーロック・ホームズ”・・・と思わずにはいられない。

実は、この本の「あとがき」に裏話が載っているのだが、ホラーサスペンス大賞特別賞をとるためにとった戦略の話からはじまって、道尾秀介氏が短期間でいとも簡単に小説を仕上げてしまう話、そして今作品で打ち出した狙い・・・など・・・読者のみならず、小説の審査員の心理を的確に読み当てる彼の洞察力には、驚嘆するばかりだ。小説を読んだあと、ぜひとも、この「あとがき」を読んでほしい。

今でもミステリー小説は、相変わらずあまり好きではない。しかし、道尾秀介氏の作品なら、残りの作品もぜひ読んでみたい。「男の隠れ家」の記事に働いた私の直感は間違っていなかった。


2012年12月4日火曜日

コミュニケーションのあり方

VOICE2012年12月号をようやく読み終えた。後、6日で1月号が発売されてしまう・・・(;´Д`)


■再生JALの心意気(さかもと未明)

さかもと未明さん・・・色々な方の非難を浴びることを覚悟の上で、書きます・・・こう切り出した上で、JALに乗った際に近くにいた赤ん坊の鳴き声がうるさくてうるさくてたまらずブチキレた話をしはじめた。「お客様に迷惑がかからぬよう、個室を作るとか、乳児は乗せないとか、工夫ができないものか?」との提言。

この記事に端を発して、さかもと未明さんが色々な人からバッシングを受けているようだ。「さかもと未明は常識が足りない!!」など云々かんぬん・・・。

さかもと未明さんの気持ちはわかるが、赤ん坊は宝物。彼ら彼女らに関しては我々はもう少し許容の度合いを広げてもいいのでは?・・・と思う。この件にかぎらず、今の社会には(私を含め?)心の余裕がないというかなんというか・・・混雑している電車に赤ん坊を連れて乗り込んでくる母親を見て、ケアしてあげようと思うどころか、あちこちから舌打ちが聞こえてくるありさま。この余裕のなさが非常に寂しい。そもそもプッシングマンと呼ばれる駅員さんは「もっと奥につめてくださいっ!」と叫ぶより、「もうこれ以上乗らないで下さい!」と制する方が人間らしいと思うのだが・・・。

さはさりながら、さかもと未明さんに対するバッシングはやや度を過ぎているような気がしないでもない。女性週刊誌にまで、さかもと未明の文字が踊る。当件、「物議を醸し出している・・・」とか「論議を巻き起こしている・・・」とニュースは語るが、叩かれ方がほぼ一方的で・・・意見の中身よりも彼女の人間性を否定する口撃が多く、そもそも議論自体成り立っていない印象を受ける。ディベート慣れをしてない日本の悪い風潮かもしれないが、意見自体が存在することを真っ向から否定してしまう・・・バッシングの行き過ぎにはいささか、気分が悪くなる。

■悩めるリーダーはSFに学べ(押井守、夏野剛)

押井守氏は映画監督。なんといっても攻殻機動隊が有名だ。夏野剛氏は、ハイパーネット取締役副社長だ。二人の対談の中で「コミュニケーション」について語った印象的な箇所がある。

(押井)コミュニケーションには2つの側面がある。一つは、現状を維持するためのコミュニケーション。近所付き合いする、会社で同僚と関係を築く、恋愛関係や夫婦関係を保つ、といったものです。もう一つは、異質なものと付き合いためのコミュニケーション。会社は学校での会議、国同士の外交、恋愛や結婚の初期段階で必要な交渉などのことです。
 ネット社会では個人がむきだしになるあまり、本質的な問題について真剣に「議論」することなどできない。そして、前者だけを「コミュニケーション」と考えてきたの日本社会です

(夏野)日本人のいうコミュニケーションは、「周りと仲良くやること」。だから、周りと摩擦を起こす人のことを「コミュニケーションが取れない」といいますが、まったくの間違いですね。

 この発言で「なるほどな」と思ったのが、「SNSやツイッターなどのネットツールが、いずれアナログ的なコミュニケーションのあり方を置き換える」という風潮があるが、この論を前提にするとそれは難しい(あるいはできない)のだ、ということ。ネット社会では個人がむきだしになるかぎり・・・。いやはや、”むきだしになる”とは何とも言い得て妙だ。

2012年12月2日日曜日

書評: なぜフォークの歯は四本になったか

散歩途中に、コンクリート道路の隙間に咲いている花を見て・・・

「いったいなぜこんな場所に!?」

不思議に思い反応を示す人・・・、特に何も感じずそのまま歩き続ける人・・・。「バカの壁」 (養老孟司著)によれば、この2人の行動の違いは、それぞれが持つ「感情や興味の係数」の大きさによるという。

さて、みなさんの「感情や興味の係数」はいかがだろうか? ちょっと心配・・・という方にお勧めの本がある。

なぜフォークの歯は四本になったか 実用化進化論
著者: ヘンリー・ペトロスキー (忠平美幸 訳)
発行元: 平凡社



普段、わたしたちが”アタリマエのモノ”として目にする食器、文房具、大工道具、果ては建築物にいたるまで、それらがどうしてその形を持つにいたったのか・・・言わばダーウィンの進化論ばりに・・・但し、動物ではなくモノの・・・を徹底的に研究した本だ。

著者のペトロスキー氏はアメリカの工学者。学者らしいというか何というか・・・彼が最初から最後まで掲げている一貫した主張が「(人間が作る)モノの形は、機能ではなく失敗に従う」である。これをもう少し分かりやすく説明すると、たとえば(タイトルにある)フォークであれば、それに人が期待する役割(機能)は「食べ物をつかみ、安全に口に運ぶ」というものだが、それを満たすことがフォークの目的であれば、なんで何十何百種類ものデザインが存在するのか?とペトロスキー氏は疑問を呈する。「やれ、これがつかみづらい、あれが食べづらい・・・いや、このフォークの形はフォーマルな場には美しくない・・・」というように、モノの形を決めるのは、必ずしも機能ではなく、むしろ失敗(経験)だ・・・そういうことらしい。

著者はこの主張を証明しようと、本全体の9割近を”うんちく的な話”・・・に割いている。ナイフ、フォーク、スプーン、クリップ、ポストイット、ジッパー(チャック)、ジュース缶、マクドナルドのハンバーガー容器、ハンマー・・・世の中で普段わたし達が目にするモノの進化の歴史についての言及だ。こうした”うんちく”こそが、本書最大の特徴とも言える。

ところで、1つ難点を挙げるとすれば、この本は読むのに相当な体力を要するということだ。

読者の理解を助けようと、ところどころに出てくる挿絵はとてもありがたいのだが、残念ながら、取り上げられるモノの数の比して十分な量とはいえない。モノのデザインについて、その細かい部分を文章で描写されても、頭の体操をしたいのならともかく、気軽に読みたい読者にとっては疲労感を増やす要素以外の何者でもない。加えて、著者が終始言及する「ほらね、モノの形は失敗に従うじゃないか!」論・・・こちらについては、どうしても抽象的・概念的な話にならざるを得ず、やはり読んでいると疲れる。

しかしながら、こうしたネガティブな側面も、数々のモノのルーツを教えてくれる本書の魅力には抗えないと思う。それに、小難しい話は読み飛ばせばいい。

ポストイットで有名な3M(スリーエム)社が、元は砥石車やヤスリの製造業者だったという話・・・さらに聖書で読み進めた箇所をおさえておくのにしおりだと良くずり落ちて困るストレスを解消したい・・・という願いがポストイットを生んだという話・・・ほとんど目を丸くしながら読んだ。

読んだ次の日から「感情や摩擦の係数」が急上昇することうけあいだ。

「ふーん、このフォーク、このスプーン・・・このお箸は・・・どうしてこんなカタチに決まったんだろう??? なぜ?なぜ?なぜ?」・・・って。


【モノの起源にせまるという観点での類書】
 ・世界一のトイレ ウォシュレット開発物語(林 良佑著)
 ・舟を編む(三浦しをん著)

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...