喫茶店で、何度も頷きながら、一気に読破してしまった。
石橋を叩けば渡れない。
著者: 西堀栄三郎
出版社: 生産性出版
■タロ・ジロ物語のモデルになった西堀栄三郎氏の貴重な学び
この「石橋を叩けば渡れない」では、西堀栄三郎氏の人生論が紹介されている本だ。
ところで、西堀栄三郎氏のことを知らない人のために、少し触れておきたい。彼は、映画「タロ・ジロ物語」のモデルとなった人物の1人だ。「タロ・ジロ物語」とは、不運が重なり、鎖につながれたまま南極に取り残された樺太犬15頭の物語である。このうち13頭は死んだが、南極越冬隊は2頭(タロとジロ)と1年後に奇跡的な再開を果たす。
このときの第一次南極観測隊越冬隊隊長が、ほかならぬ西堀栄三郎氏である。何もかもが未知の世界で、隊員達をまとめあげ、過酷な環境で一定の成果を残しつつ、一冬を無事に越させた・・・その張本人だ。
■心に染みる体験談
本書の最大の特徴は、西堀氏の主張1つ1つに添えられた、わかりやすい”たとえ話”だ。そして、”たとえ話”には、氏自身の生々しくも面白い体験談が数多く使われている。
たとえば、氏は本の中で、不測の事態に立ち向かうための有効策は、常に冷静沈着でいられるようにすることであり、そのためには「モノゴトは決して思い通りには起こらない」という事実を認識しておくことである、と語っている。
この主張を裏付ける具体例として、南極越冬に向けた食料準備の話を取りあげている。これが面白いのだ。
緻密な計算に自信を持つ栄養の専門家の「計算通りの食料準備を進めよ」の指示に対し、「モノゴトは決して思い通りには起こらない」・・・と考えていた西堀氏は、内々で指示の二倍の食料を準備させたそうである。
『私は、食料準備係に・・・(中略)・・・数字は二倍にしておけよ」といったのです。』
『ところが、(南極に向けて)出発してから、案の定、もう思いもよらないことが次から次と起こってきます。インド洋を渡っている最中に、どうもくさいぞくさいぞと誰かが言うものですから、調べてみたら・・・(中略)・・・(冷蔵庫に入れ忘れたためにそれらが)みな腐っているというんです・・・(中略)・・・これで先生のお献立はまずダメになってしまいました。』
『私は始めから「思いもよらんことが起こるぞ」と覚悟していたものですから、ちっともおそれることはないわけです・・・』
と、彼の主張は、終始、こんな感じなのである。
■リーダーシップやマネジメント力が求められる人にこそ読んでほしい
「南極観測を経験したからって、それだけで役立つような深い人生論を語れるの?」
そんな疑問を持つ人がいるかもしれない。しかし、実は西堀氏の経験は南極観測だけじゃない。
『私は若い頃から、人間というものは経験をつむために生まれてきたのだ、という幼稚な人生観を持っています。』
これは氏が冒頭で述べている言葉だが、本書を読むと、氏がいかにこの考えを実践してきたかが良く分かる。経験の広さ・深さには、ただただ、感心させられる。
「今から40年以上も前の本が今のビジネスに役立つの?」
こんな疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、これも答えはYESだ。
ピーター・ドラッカーの本が、今日の数多くの成功者の愛読書になっていることからも分かるとおり、本質をとらえた本は何年たっても色褪せないものである。たとえ話がわかりやすい分、ある意味、ピーター・ドラッカーの本よりも、役立つかもしれない。
ちなみに、わたし自身は、本書を通じて「人の育て方」や「不測の事態への対応力の付け方」、そして「創造性の身につけ方」について学んだ。特に「人の育て方」については、最近、個人的に悩みっぱなしのテーマであっただけに、一筋の光明が見出すことができた。
今年出会った本の中で間違いなくイチオシの本だ。
【関連書籍】
・南極越冬隊タロジロの真実
【”生き方を学べる”という意味での類書】
・人間の基本
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