2018年8月5日日曜日

書評:失敗の研究 〜巨大組織が崩れるとき〜

雪印、理研、ロッテ、三井レジデンシャル、GM、そごう、化血研、東洋ゴム、ベネッセ、マクドナルド、カネボウ・・・

過去に大きな失敗をした組織に何が起こっていたのか・・・取材を通じてその事実を明らかにするとともに、そこに見て取れる共通要因について筆者なりの考えをまとめた本である。

失敗の研究 〜巨大組織が崩れるとき〜
金田 信一郎



細かく観察していくと、それぞれの組織で起きた事件の背景や内容は異なる。が、しかし、そこにはなんとはなしに共通要因も見て取れる。そして、筆者の細かい分析を読み込まずとも、そこにある事実を読むだけで、なんとなくその共通要因を認識できる。本書を読むと、誰もが陥る可能性のある企業失敗の要因の深淵を覗き込んでいる感覚になれる。

そこには、責任の所在が曖昧、現場を見ない経営、潰れないという慢心、利権の誘惑、風通しの悪さ・・・いろいろなキーワードが浮かび上がってくる。

とりわけ、「責任の所在が曖昧」というキーワードは、印象深く残った。なぜなら、自身の経験則でも身近に感じることができる問題点だからだ。たとえば、私が過去に従事したプロジェクトでを事故を起こしたときというのは、「あの人に任せていたんだけど・・・」とか、「いや、私は忙しかったんで体制には名前が入っていたけれど、実際はそこまで見ていなくて・・・」みたいな当事者意識のなさに起因することが多い。

では、本書が取り上げた実企業ではどうだったのだろうか。たとえば、雪印は1955年と2000年に似たような事故を起こして倒産と相成ったわけだが、当時の組織は複雑で、レポートラインもぐちゃぐちゃ・・・誰が意思決定したかわからないような状態だったという。マンション傾斜問題を引き起こした三井レジデンシャルでは、三井不動産に建設を丸投げし、そこには様々な下請け企業が関与していた。工事体制が複雑なのはある意味、雪印の組織図の話に似ている。スタップ細胞問題を引き起こした理研でも、小保方さんを始めとする研究者全員に少しずつ当事者意識が欠けていたのではないかという話だった。

小さい企業でも大企業でも、一緒だ。そう思った。

さて、ここでは一例として「責任の所在が曖昧」・・・を中心に取り上げたが、筆者はそれ以外にも他の共通要素についても述べている。それについては本書を読んでもらえればいいと思う。同じ轍を踏まないようにするためにも、そこまで深く考えず、身構えずに、この本を読むだけ・・・それだけで、リスク感度があがることは間違いない。

企業経営者は「成功のための自己啓発本」を読むのもいいだろうが、たまにはこうした企業の失敗事例・・・を一読すべき本だろう。そこには企業の大きいも小さいもない。


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