2018年8月16日木曜日

書評:わかったつもり

本屋さんの棚を端から端まで、ざざざざぁーっと見ていた。なんとなくそのタイトルに惹かれて手にとったのがこの本だ。

わかったつもり 〜読解力がつかない本当の原因〜
著者:西林克彦
出版社:光文社新書


 そもそもなぜ、本書に惹かれたのか。それは自分自身が「わかったつもり」と格闘する場面が日々あるからだ。例えば、仕事の現場で何かを人に教えるとき。自分は難解な事柄をわかりやすく人に伝えるのが得意なほうだと思っているが、講師として現場に立つ際に「わからなかった点はないですか?」「少しでもわからなかった箇所があったら、おっしゃってください」と尋ねると、みんな「ないです」とか、「大丈夫です」と答えてくる。私だって理解するのに相当の時間がかかったものだから、一発で理解できるはず
はないのに。そう、みんな「わかったつもり」になっているのだ。みんなを「わかったつもり」にさせてしまっているのだ。どうしたら、そうした状況を打破できるのか、ずっと悩んできた。

そして、読んでみて・・・「霧が晴れてきた」

本書は「わかったつもり」とはどんな状態なのか、どうしてそのような状態に陥るのか、どうすればその状態から抜け出せるのか、について論理的に解説している。心理学の領域にも踏み込んでいる。ただ、誤解のないように言っておくが、決してアカデミックな難解な本ではない。むしろ、実践的な本だ。

実際、我々に「わかったつもりの状態」を何度も体感させてくれるところはお見事と思う。いくつもの例文を挙げ、読者を「わかったつもり」の状態を陥らせてくれる。そして、そこから「本当にわかった」レベルに行くためのヒントを見せてくれる。

ここでヒントとは、文脈やスキーマといったキーワードのことだ。詳しくは本書を読んで見てほしいが、スキーマとは認知心理学で用いられる言葉で「ある事柄に関する、わたしたちの中に既に存在しているひとまとまりの知識のこと」だそうだ。本書の表現を借りて、もう少しだけ説明すると次のとおりだ。

「布が破れたので、干し草の山が重要であった」

例えば、このような文章だけを見ても「???」となるが、ここに「パラシュート」という言葉を示されるとなんとなく意味が見えてくる。人か物体かわからないが、とにかく落下速度が大きくなり、地上に激突してしまいそうな状況が見えてくるようなイメージが見えてくる。このときの「パラシュートを使う場面であること」が文脈だ。そして「パラシュートは、落下速度を落とすもの。ただし常に完璧に衝撃を吸収するわけではないもの」「干し草は柔らかく衝撃を吸収してくれる性質がある」といった知識が総動員される。この知識セットが、スキーマだ。

著者は言う。文脈やスキーマを正しく捉えられていなかったり、誤解していたり、錯覚していたり、あるいは全く考えられていなかったり・・・。こうしたキーワードを取り巻く色々な状況が、「わかったつもり」を作り上げてしまうのだ、と。

そして、本書のお陰で、明日から早速、こうした点を意識してみようという気になる。

そのような意識になれたのも、本書が「わかったつもり」や「本当にわかった」状態を体感させれくてからこそだと思う。とても勉強になった。


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