2018年8月6日月曜日

書評:天才はあきらめた

「山里亮太の脳内」そのもの。読み終わった直後は、疲労感。だが、そこには大きな学びもあった。

天才はあきらめた
著者:山里亮太
朝日文庫


■山ちゃんののし上がり半生
南海キャンディーズの山里亮太、山ちゃんが、お笑い芸人として有名になるまでの半生を綴った本だ。山ちゃん曰く「天才じゃない自分」・・・そんな自分がどうやって「劣等感の塊」を武器にして、のし上がってきたか、これまでの心の内を描いている。後半、彼自身が書きなぐった生々しいノートの写真も掲載されている。

「忘れるな!!必ず復讐する!!」
「バイト先で”お前は売れない”と言ってサインを破り捨てたジジイ、売れた後、絶対にサインは断る...」

■天才?凡才?
そもそも私が、この本を買おうと思ったのは、彼を番組で見ていて、お笑いの天才だと思ったからだ。お笑いの天才が、「自分は天才じゃなく、凡才だ」とのたまわる。何を言うかと。それが逆に私の興味をそそり読みたくなった。

確かに読み始めは、タイトルも「天才(になること)はあきらめた」となっているし、文中、「コンチクショー!」と叫び続ける場面が多いので、山ちゃんは凡才なんだ。凡才が天才に勝つためにここまで努力しているんだ・・・という印象を持たされる。だが、最後まで読み切って改めて感じるのは、彼の根性・努力の凄さ。「生まれながらにしての笑いの天才」ではないかもしれないが、間違いなく「努力の天才」だと思う。私の中ではイチロー選手を彷彿とさせる。

彼が世界が、熾烈を極めた戦いを繰り広げる「お笑いの世界」であるからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。山ちゃんが壁にぶつかり落ち込む場面を数多く語るが、それは彼が駄目なのではなく、彼が戦っているフィールドが半端なくシビアなのだということ。実際、昨日まで後輩だったコンビが、ある日、突然売れっ子になる。しかもそれを誰もがわかる順位という形で見せつけられる。これだけハードな世界があるだろうか。

■ポジティブシンキング術の一つの形
山ちゃんの生き方は、よく考えればいわゆるひとつのポジティブシンキング術である。

彼はこういう。「腐るのではなく全てをパワーに変換する。何か嫌なことがあったらこの”変換”を真っ先に頭に置く。」  そういえば先日見たインタビュー記事で、こうも言っていた。「でも、そうやって僕が嫉妬している時間は、嫉妬されている人のウイニング・ランの時間なんですよ」※
※「良い嫉妬」こそ、凡人が成長する武器だ by NewsPicks

ちなみに、私が個人的に学んだことがもう一つ。それは彼の次の言だ。「最後のゴールはなにかを見つけて逆算するという行為は、すごく大事だとこのとき気づいた」。彼の人生そのものが、これが正解であることを如実に語っている。

■本音満載。疲れるが、読み応えあり
この本がすごいのは、ここまで書くか・・・というくらい、彼のダークサイドな部分を白日のもとにさらしていることだ。単に、劣等感を感じた場面だけではない。過去に彼が組んだパートナーにしたひどい仕打ち・・・端的に言えば、ハラスメントのような行為・・・も全て隠さず吐露している。

そういった意味では、正直、疲れる本でもある。疲れる・・・疲れるが、それだけ本音に迫っているということがわかるし、そこで彼が語る学びは重みがある。ただし、一つだけ気をつけてほしい。本書を読めば、誰もがみんな成功できる。そういう本ではない。なぜって、彼のような努力をできるのはおそらく一握りだからだ。


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