日本人、という言い方はステレオタイプ的でよろしくないかもしれないが、私自身日本人なので許していただきたい。私を含め、日本人に感じるのは「正解を教えてください」という問いかけが多いことだ。実際に、仕事先でもそういった問いかけをいただくことが少なからずある。先日もTV番組を見ていたら、就職面接に失敗した女の子が「模範解答を教えてください」という質問をしていた。そう、我々には圧倒的に「考える力」が足りないのだ。しかし、世の中には、圧倒的に「考える力」を持っている人達もいる。今回紹介する書籍の著者も間違いなくその一人だと思う。
本書は、日清の二代目社長である安藤宏基氏が、自身の経験から「経営者たるや」を語った本である。創業者は、言わずもがな、チキンラーメンやカップヌードルの祖、安藤百福(あんどうももふく)氏だ。安藤宏基(あんどうこうき)氏は、その次男であり、創業者の後を付いた二代目社長だ。そんな宏基氏が、日清の社長として舵取りをすることになったとき、どのようなことに苦労したのか、どうやって失敗・成功したのか、どういう新年に基づいて経営をしてきたのか・・・について余すところなく語っている。
経営者が自分の成功談を語る本は星の数ほどあるが、この本が特徴的なのは、創業者ではなく、二代目社長がペンをとったということだろう。だから、二代目社長が創業者ととことんぶつかる話や、偉大な創業者から受け継いだ会社をさらに伸ばすためにどのような工夫をしたか、という話は新鮮に写る。
本書を読んで、真っ先に感じたのは(偉そうな言い方はご容赦いただきたいが、あまりにも失敗している二代目を知っているので余計驚いたのだが)安藤宏基氏が親の七光りでは全くないということ。いや、それどころか、圧倒的な「考える力」を持っている人だということだ。その凄さに畏敬の念を覚えた。直感的に、セブンアイホールディングスの前会長、鈴木敏文氏ともイメージが重なった。鈴木氏も、セブンイレブンをここまで大きくする中で、とことん考え、アイデアを自らだし、信じたことには反対を押し切ってでも推進し、成功させてきた。本書でも、従業員がイノベーションを起こすよう、あの手この手で組織改革や仕掛けの話について触れられているが、やはりここぞというときに安藤宏基氏の頭脳と実行力が光って見えた。
感じたことのもう一点・・・それは、著者の言葉が、これまでに私が耳目にしてきた光る功績を残してきた著名人の言葉とおおいに重なる部分があるという点だ。重なった部分は言わば、成功者の共通要素と言い換えることもできるのではなかろうか。では、それはどのようなことか。いくつか例を挙げておこう。
共通点1)『創業者は、利益とは結果であって、それを目的としてはならない。会社はよい仕事をしたからもうかるのである。もうけ主義とは違う、といつもいっていた』
この点に似たことを、DMMの亀山会長が、彼の後釜にまだ34歳の猪子さんを選んだときのことを次のように言っていた。「面白いなと思ったのは、彼が”会社にとって一番大事なのは社会への影響力であって利益ではないと言ったことです」。熊谷GMOインターネット社長もやはり次のようなことをおっしゃっている。「ころになって、お金は最後で、あくまでも結果でしかないという風でないといけませんよね。利益は必要だけれども、お金も必要なのだけれども、それは結果でしかないというような精神状態になることが、経営者にとって非常に重要ではないかなと思います」と。
共通点2)『創業者の発想はだいたいにおいてシンプルである。いろいろな可能性や起こりうる事態を想定はするが、同時にあいまいな発想はどんどん切り捨てていく。すると問題の本質が見えてくるのだろう。』
なんとなくだが、かの故スティーブ・ジョブズ氏も同じような哲学を持っていたように思う。
共通点3)『あるとき、瀬島さんが、経営者は常に最悪のことを考えておくように。準備をしている人間はいざというときあわてない。私はふだんからオフィスや車の中に縄梯子を装備している、と危機管理の大切を話された』
これは著者自身が言ったというよりも、著者が関心したこととして挙げた師の一人である瀬島氏から学んだ言葉だが、「石橋を叩けば渡れない」の著者、西堀栄三郎氏の言葉を思い出した。西堀栄三郎氏は、南極観測越冬隊の一員だった人だが、氏は本の中で、「不測の事態に立ち向かうための有効策は、常に冷静沈着でいられるようにすることであり、そのためには”モノゴトは決して思い通りには起こらない“という事実を認識しておくことである」と語っていた。
共通点4)私も、少なくとも全ての管理職と、名前と顔は覚えておける程度の距離感を保ちたいと思っている。そのため、毎年春に三百人近い管理職全員の管理職面接を行っている。業務の合間を縫ってやるのだが、一人に最低30分はかける。全員終わるのに三ヶ月かかる。
これは人づてに聞いた話だが、リクルート創業者、江副浩正氏は、全国の営業マンが受注する都度、お祝いのFAXをその担当者一人ひとり宛に毎回、欠かさずに送っていたそうだ。大事だと感じることには手間を惜しまない・・・点が似ていると感じた。
共通点5)ブランド・マネージャー制度は「経営者の育成機関」
ブランド・マネージャーとは、製品群別の事業責任者を言うが、こうした機能軸ではなく、製品・サービス、いや事業軸で責任者をはっきりさせる組織改革は、先日、読んだ三枝匡氏の指摘、「日本企業で経営者が育たないのは、優秀な人財を機能別効率化の世界に放り込んだまま、晩年になるまで「創って、作って、売る」の全体経営責任を経験させないからである」を思い起こさせた。
このように、本書を読んでいると、「むむっ!」と思わされる場面が多かった。実際、写真のとおり、読んだ後の本に付箋がたくさんついている。
とは言え、次のように感じる人もいるに違いない。「所詮、世の中の、二代目社長にしか響かない本なんじゃないの?」と。答えはNOだ。安藤宏基氏が触れているポイントは、上でも既に例を挙げたとおり、二代目であろうが、三代目であろうが、そういったことに関係なく、どれも重要なことであることがわかるはずだ。二代目特有の「創業者とよくぶつかった」という話も、どんな立場にあろうが経営者同士がどれだけ本音でぶつかりあえるかが大事なはずで、特別な話ではない。
私は良い刺激をもらえた。
【成功した経営者という観点での類書】
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