2018年8月19日日曜日

書評:伊豆の踊子

ふと、文学作品を読み直してみよう。思い立って、まず手を出した一冊だ。文学作品なので正直、書評というとお恥ずかしい。もはや単なる感想文だ。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」

有名な一説だ。

伊豆の踊り子
著者:川端康成

 驚くべきことに、二十数年前に読んだはずの内容が、頭の中のどの記憶領域を探しても見つからなかった。改めて読んでみて、恥ずかしながら「あぁ、まさにタイトルどおりに踊り子さんたちの話だったんだ」が、最初に口をついて出た言葉だ。

主人公の島村は、伊豆の旅館に何度か滞在。そこで知り合った芸者とのやりとりが描かれている。描写が本当にあった話では、と思えるほどリアルで、当時の伊豆の芸者さんたちがどのような生活を送っていたかがよくわかる。物の本を読んでいると、どうやら実際に著者川端康成自身がその舞台になった伊豆の旅館に泊まり、この小説を書いていたようだし、作中に登場する火事の話などは実際にあった話なのだと当人が語っていたようだ。「なるほどどうりで」と思った。

加えて、描かれている男女の痴話は人類普遍の話で、昨日・今日あった友達の話として語られたとしても、違和感がない。人間は、物理的には進歩しているが、精神的には一歩たりと進歩してないのかなと感じずにはいられない。思わず笑ってしまう。

雪晒し(出典:雪国観光圏より)
文学作品に共通する特徴だと思うが、噛めば噛むほど味が出る昆布よろしく、時間が経てば経つほど、読めば読むほど、味がでていそうなところが魅力的だ。ちょうど今読むと、文中に登場するあまり使われない昔ながらの言葉・・・雁木(がんぎ)、雪晒し(ゆきざらし)、晒屋(さらしや)、縮(ちぢみ)、ハッテ、ラッセル、長襦袢(ながじゅばん)、繭蔵(まゆぐら)に、好奇心をくすぐられる。しかも、調べてみると「雪晒し」などは、今も場所によっては当時の伝統が引き継がれやられているという。ちなみに、雪晒しとは「雪が紫外線を反射することを利用して,晴れた日に雪の上に麻織物・竹細工などを並べて漂白すること」とのことらしいが、本当にやっているところを見に行きたいと思った。

文字で書かれた文章の塊なのに、色々な想いや知識を運んでくれる・・・文学作品の良さを久しぶりに体感した気分だ。


0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...