2018年8月26日日曜日

書評:送り火

月間、文藝春秋をほぼ毎号読んでいるので、第百五十九回芥川賞受賞作である「送り火」を読むことができた。高橋弘希氏の作品である。

送り火
著者:高橋弘希


主人公の歩(あゆむ)は、父親の仕事の関係で転校を繰り返す小中学生時代を送っていた。そして今度は、東京から津軽地方に引っ越してきた。学校ではすぐに友達ができ、晃、稔、内田、藤間とつるむようになる。晃がリーダー格だが、歩は、晃の言動の違和感に気づく。仲間内で罰ゲーム付きゲームをやっていると、晃は常に稔が負けるように仕向け、稔が罰ゲームを受けている姿を楽しんでいる一方で、内田や藤間が稔を侮辱したり意地悪をしたりしたときには、稔を馬鹿にするな!とキレる。歩は意地悪をするなどといったことはせず、上手く立ち振る舞っていたが・・・。(あらすじ)

晃に歪んだ感情を感じつつも、それにしたって中学生はそんな面もあるだろう・・・と、サスペンスやホラーでもなく、何気ない中学生の日常を読み進めていたのだが、物語は衝撃的なシーンで終わる。「えっ、ここで終わり!?」というのが読み終えた直後の率直な感想。だが、噛めば噛むほど味がでるスルメのように、、、反芻してみると、ジワッ、ジワッ・・・とこみ上げてくるものがあった。

「えっ、ここで終わり!?」が、読み終えて30分後には「あー、こういうのあるわ、ある、ある。」というのが感想に変わった。そして、晃や稔が持っていた感情や、性格というものが初めて腑に落ちた。

シンプルな物語の中に、シンプルじゃない人間性を見事に描ききっている。しかも、印象に残るストーリーで。

 

0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...