2015年8月17日月曜日

書評: 火花

リアルが凝縮されている、と感じた。

火花
著者: 又吉 直樹
出版社: 文藝春秋



私ごとだが、3ヶ月ほど前から偶然、月刊文藝春秋を読むようになった。iPad版デジタル媒体として購入したのだが、これがなんとも読みやすい。なぜだか分からないが、とにかく私にとっては読みやすいのだ。書店で目にしたときには数ページめくっただけで、買うのがためらわれたのに・・・。

ともかく、そのお陰で文藝春秋を読む習慣ができて、2015年9月号もいつもどおり読んでいた。

読んでいたところ・・・又吉直樹氏の「火花」が掲載されていることを偶然、知った。どうせ、全部ではなくその一部だけが掲載されているんだろう・・・と思いながら、「どれ、数ページくらい目を通してやろうか・・・」とページをめくり始めた。すると、めくる手がとまらない。一部しか掲載されていないだろうと思っていたページも途中で途切れない。あれよあれよ・・・と、「火花」の世界にとりこまれ、気がついたら全ページ読み終えていた。そこには作品全部が載っていたのである。全くの覚悟なしに、不用意な状態で読みはじめて、しっかりと読み終えてしまう・・・読み終えさせてしまう・・・その事実からだけで、作品力が伺いしれるのではないかと思う。

「火花」には、漫才師としての成功を目指す主人公の徳永・・・そんな彼がひょんなことから師弟関係を結んだ師匠の神谷。両人ともにまだ売れていないが、芸能世界で成功することを目指して頑張る人間模様が描かれている。主人公徳永目線で描かれているので、自分がまるで芸人生活を送っているかのような感覚で読める。どうやら、芸人業界特有の慣習というものがたくさん存在するらしく(たとえば、どんなに売れて無くても後輩には先輩がおごらなければいけない、など)、そんなわけで主人公目線で芸人世界を体験できるわけで、読んでいると全てが新鮮にうつる。

本書を読んでまっさきに思いついた言葉は、“リアル”という言葉。何がリアルって、情景描写がリアル。ちなみに、著者本人曰く、「情景描写は少なめに押さえたつもりだが、まわりからはそれでも多い」と指摘されたそうだ。人間は、本当にくだらないことばかりをやってしまうところがリアル。不条理なことが少なくないと思える世の中と、人間の喜怒哀楽とが、実は見えないところで絶妙なバランス感覚でつながっているなとときおり感じさせる瞬間があるところがリアル。

それにしても不思議なのは、リアルであることになぜこうも引き込まれてしまうか・・・である。どんな理不尽なことも、つらいことも、楽しいことも・・・全てを受け入れて、生きていくのが人間だと・・・それを知ることで、読んでいる自分ももっと何が起きても驚かなくなれる・・・など、度量が大きくなれるのではないか・・・と期待してしまっているのだろうか。そして、前を向いて生きていかな・・・と励まされるのだろうか。

事実してはっきり言えることは、著者が惚れる太宰治の本を改めて読んでみたくもなったし、著者の次回作にも是非目を通したくなった。それが本書を本で私が感じた本音である。


書評: プロフェッショナルシンキング 未来を通す思考力

ビジネスマンの知的好奇心をくすぐる本だ。

プロフェッショナルシンキング
~未来を見通す思考力~
監修:大前研一、編:ビジネスブレークスルー大学、著:宇田左近、平野敦士カール、菅野誠二
出版社:東洋経済新報社

※レビュープラスさまからの献本です

一企業のみならず、日本人全体が“戦略的思考力”に弱いとは、私自身、日々感じるところだ。たとえばISOマネジメントシステム規格(ISO9001、ISO14001、ISO27001など)は、ほとんどがイギリス発だ。ところが、その規格を最もとりこんで使っている国は日本だ。欧米はルール作りにたけており、日本はルールの運用にたけている・・・そう言うこともできるが、悪く言えば、日本はルールを作ろうとするのではなく、(どんなに不利なルールであっても)与えられたルールの中で戦おうとばかりする・・・。野中郁次郎氏が著書「失敗の本質」の中で、先の大戦において日本の戦略は無きに等しかった・・・と結論づけたが、悲しいかな、その傾向は70年経つ今もそれほど変わっていないように見える。

だからこそ、私は“戦略”について、日本人みんなが、もっと勉強し、もっと考えるようになればいいと思っている。

そして、まさにその“戦略”について語った一冊が本書である。これは事業戦略を考えるのに有効な思考方法について、ポイントを解説している本だ。但し、厳密には戦略立案そのものというよりも、その土台となる未来予測・・・この捉え方に焦点をおいている。大前研一氏が「大前研一 日本の論点2015-2016」をはじめ、数々の著書の中で、これからの日本社会の進むべき道について考えを共有してくれているが、まさにああいった際の未来予測につながるテクニックを紹介している本と言えるだろう。

戦略・・・というとすぐにフレームワークという言葉を思いつく人もいるだろうが、本書は、役立つフレームワークを「いかに数多く提供できるか」に力点をおいたものではない。また、著者が経験から編み出した一つの確固たるアプローチをステップバイステップで紹介する本も良くあるが、そういった類いのものでもない。ある意味、その中間に位置する本と言えるだろう。「未来予測」に役立つ特に役立つであろう代表的なフレームワークをとりあげ、実際の企業を使った分析を披露しつつ、フレームワークの活用方法や有効性について解説してくれている。

フレームワークがたくさん紹介されていても、実際にはそれを使えるようになることが重要なわけで、その点を考えれば、本当に使えそうないくつかに焦点を絞ってくれている点には実は有り難い。ちなみに本書には6C分析というフレームワークが登場するが、これは私はあまり使ったことがないものだったので、参考になった。

ところで、編者のところにビジネスブレークスルー大学とあることから、プロモーション(勧誘)本ということになるわけだが、世の大半はそういったことを目的としたものばかりだし、仮に、それが目的だとしても、役に立つかどうかが重要なハズだ。その点では、本書においては勧誘するようなウザったい文言はほぼ皆無だし、かつ、解説も上辺だけの薄っぺらい内容で終わっていないので、それなりに評価できる。

総じて、難解すぎず、オタク過ぎず、分量多すぎず・・・適度にバランスがとれている本だ。そのためか、読み終えった後は、なんか役立ちそうなことを学べたな・・・という適度な高揚感があった。今自らが携わっているいくつかの事業について、再度、見直しをかけてみようかな・・・とか、今後、新規に企画しようとしている事業を企画する際に、本書のことを少しは思い出してみようかな・・・と感じた事実は正直に認めておきたい。冒頭で触れたように日本人は戦略的思考に弱い。過去に似た本を読んだことがあっても、こうした類いの本はバンバン読んでおきたい。


【戦略という観点での類書】
失敗の本質(野中郁次郎ほか)
戦略の本質(野中郁次郎ほか)
戦略プロフェッショナル(三枝匡)

2015年8月14日金曜日

運動を促進する最強ツール

気分転換に書評以外の記事を一つ・・・。

ジョギングを始めて、もう5年が経つ。さすがにもうそろそろ飽きてくるところだが、最近、ますます調子がいい。近所だけでなく、旅行先でもバンバン走り/歩きまくっている。理由は、面白いツールを知ったお陰だ。3つある。

1つは、ブルートゥースイヤフィン。PLT M70というPlactronics社 の製品だ。この種のものでは比較的バッテリーが長持ちするし、外界の音を完全にシャットアウトしないので安全面からアウトドア向きである。使い始めて半年以上になるが、ここまで重宝している製品は正直、私の中ではめずらしい。


2つ目は、ブルートゥース万歩計。 MISFIT社のSHINE だ。これは最近買った。ボタン電池式だが、バッテリーはなんと1年近く持つ。防水でお風呂にもそのまま着用して入れる。シンプルイズベストを具現化した製品と言っていいだろう。高機能ではないが、充電いらずでずっとつけていても気にならない。加えて、睡眠時間を計測している機能は、体調管理に結構役立っている。


3つ目はハードではなくゲームアプリ。Google社(つい最近スピンアウトした模様だが)が出している陣取りゲーム、Ingress(イングレス)。舞台は、リアルに全地球。陣取りをするために、特定の地点まで実際に足を運ぶ必要があるため、これにハマると、やたらと遠くまで足が伸びるようになる。



















お陰で、毎朝、走る/歩くのが楽しい。気がつくと2時間近く外をウロウロしてる時がある。


2015年8月11日火曜日

書評: 孫正義の焦燥

“焦燥”を読んで、やや“安心感”を覚えた。

孫正義の焦燥
著者: 大西孝弘
出版社: 日経BP社


ソフトバンク社長孫正義氏の2014-2015の動向にフォーカスし、そのときの背景や孫正義氏本人の心情について描いた本だ。孫正義氏本人へのインタビューはもちろんのこと、本人が尊敬しているという数少ない経営者の一人、ファーストリテイリング柳井正会長兼社長や、日本電産永守重信会長兼社長、その他、ソフトバンクグループを支える主要関係者へのインタビュー内容が反映されている。

そもそもなぜ私が本書に手を出したかと言うと、最近、孫正義氏のプレゼンスが少なくなったなと感じていたからだ。スプリント買収以後、アメリカの方にずっと行っていることが多いせいかもしれない。以前は「そんな時間どこにあるんだ!?」と思ってしまうほど、ツイッターでもつぶやいていた孫正義氏だが、最近はめっきりといった感じ。日本随一の経営者が今は何を考えて行動してるんだろうかと気になっていたところに本書の次のような帯が目に飛び込んできたのでつい買った。

・アメリカから撤退するのか
・脱原発なのに東京電力と連携のワケ
・ニケシュは孫正義2.0になれるのか
・ロボット「ペッパー」発売延期の深層
・ヤフー「爆速経営」失速の主因
・足取りが重いのには理由がある
・「五番街のマリーへ」に込めた思い

で、早速読んで見たわけだが、「おー、孫さんの生き急ぎ姿勢はまだまだ変わってないなー」というのが第一印象。年取って、なお、攻め続ける姿勢に安心したと同時に敬服の念を抱いた。私が安心した・・・というのも変な表現だが、やはり、日本を代表する経営者に、世界を代表する経営者になって欲しいという勝手な期待をのせているからだろう。

この意味で、本書を買って一番良かったと思えることは、孫さんや柳井さんなど、全速力で疾走するパワーに触れられたこと。経営手法だとか、新規事業立ち上げのノウハウだとか、そういったヒントは別にないが、ビジネスの先頭の方を走る経営者の息吹に触れることができて、自分も頑張らなきゃと・・・そこだけは強く思わされた。さすがに全く同じマネはできないが、自分の人生のゴールをもう少し高めに設定しないといけないかな。

ただし、やや冷静に本書を見返してみると、知らなかった情報が満載・・・というものでもない。たとえば、本の帯には「アメリカから撤退するのか」とあったが、その問いかけに対し、本書を読んでみても結論が出ているようで出ていない感がある。それは本を読む前に抱いていた感情と一緒だ。また、「ヤフー「爆速経営」失速の主因は?」という問いかけに対しても、特にはっきりした答えが書かれているようには感じなかった。もちろん、知らなかったことも書かれているが、本の帯に書いてある真相全てに迫れると思うのは過度な期待だ。

自分の人生観が、孫正義とどれだけ違うのか、それを埋めるためにはどれだけのスピード感が必要なのか・・・そのギャップを知りたい人、あるいは私のように少しでもやる気をもらいたい人に向いた本だと思う。


【孫正義氏に関係ある類書】
あんぽん ~孫正義伝~
爆速経営 新生ヤフーの500日

2015年8月7日金曜日

書評: データの見えざる手

新しい世界観を提供してくれる本だ。

データの見えざる手
~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則~
著者: 矢野 和男
出版社: 草思社


ビッグデータがもたらした発見、もたらすであろう発見について、著者自身が長年にわたって研究し得た成果をもとに解説している本だ。ビッグデータとは、文字通り膨大な量のデータを扱うことである。これまでは得ることのできなかった、そしてさばききれなかったとてつもないデータを、技術革新のお陰で収集・分析することができるようになった。その結果、今までは見て取れなかった法則性を見いだすことができるようになったのだ。どれくらい膨大かというと、人間が1日の中で、いつ起き、いつトイレにいき、いつ食べ、いつ体を動かし、いつ仕事し、いつ睡眠をとっているか・・・これを24時間、365日、何年・十年にもわたり採取し、それを何百・何千・何万人分を対象者に集めるようなデータ量のことである。

そんなビッグデータを語った本書だが、読むことで何を得ることができるのだろうか? 大きくまとめると次のようなことだ。

●技術進歩の状況
●ビッグデータの意義、意味
●ビッグデータに学んだ人間の活動の法則
●ビッグデータに学んだ仕事の有効性・効率性を向上させるテクニック

こうした点を語るにあたっては、著者本人がビッグデータの技術研究を先鋭的に行ってきた人であることから、抽象論に終始せず具体的な実証実験結果をたくさん紹介している。したがって、単なる“わかりやすい本”ではなく、“面白くて、わかりやすい本”と言えるだろう。

ただし、どうしても統計的な話・・・たとえば、正規分布といった言葉やポアソン分布といった言葉が登場するので、数学アレルギーのある人には一瞬躊躇する場面があるかもしれない。私も決して、数学好きではないので、「ジェネレーターってなんなの(本書に登場する)?あまり面白くないなぁ」といった瞬間があった。私は、さっさと読み飛ばした。だが、本の総量から見れば、それはごく一部だ。

さて、実際に本書を読み終えて、ぱっと私の口をついてでたのは“衝撃的”という言葉だ。今までには思いもよらなかった新しい世界を知ることができたからだ。具体例を1つだけ紹介しておく。

「人間には1日の活動総量のうち、激しく動ける時間、普通に動ける時間、だらだら動ける時間に当てられる配分率(予算)がきまっていることが分かった」という事実には驚いた。著者は、明確な実証データを持ってこれを解説している。分かりやすく言えば、1日の中で「だらだらする(物理的に手を動かさない)」時間にも限界があるというわけだ。しかも、物理的に手を動かさない・・・つまり、デスクワークのような仕事も「だらだら」すると同義だと著者は言う。

これから何が言えるのか? ここからは私なりに導き出した答えの一つだが・・・たとえば一日の大半をデスクワークしてた人ばかりが集まるセミナーをその日の夕方に開催するとしよう。このセミナーを(まったく手を動かさない)座学形式中心に行うとどうなるか。おそらく参加者は集中力も伴わないし、何も頭に入らない可能性が高くなるということだ。なぜなら、すでに一日の中で、だらだらできる時間(言わば“だらだら予算”)を使い切ってしまっているからだ。あるいは、あまり外で活発に遊ばない子供がいたとしよう。その子が、午前中、家でだらだらと遊んだり、テレビを見て時間を過ごしてしまうと、午後、机に向かって勉強することは極めて困難になるに違いない。すでに“だらだら予算”を使い切っているからだ。親は良く「涼しい午前中のうちに勉強しておきなさい」と言うが、結果として間違っていない指示と言える。ただし、午前中に勉強した方がいい理由は「涼しいから」ではなく「“だらだら予算”にかぎりがあるから」というのが正しい。さらに言えば、どうせゲームをさせるなら、任天堂Wiiのような手を動かすゲームをやらせたほうがマシとも言える。そうすることで、だらだら時間(予算)を使わなくて済むからだ。

・・・というように、本書を読むと、著者がビッグデータに学んだという人間の法則を知ることができ、なおかつ、それを踏まえて、自分なりの新たな発見が広がるのだ。それ以外にも紹介したいことがいっぱいあるが、それこそ本書を読むべきであり、ここでの紹介は差し控えておくことにする。

ビッグデータ・・・どうせそんな言葉は一時の流行で、いずれすたれるのでは?ITリテラシーが高い人が理解しておけばいい言葉では?・・・本書を読むと、どうもそうではないらしい・・・ということが本当に良く分かる。


2015年8月4日火曜日

書評: 「自分」の壁

「自分」の壁
著者:養老 孟司
出版社:新潮社

■本書の趣旨
“自分”って何だろう? “自分”がなかったら、何が起きるんだろう? ・・・みなさんは考えたことあるだろうか。著者の養老孟司氏は、なんと幼少の頃からそんな疑問を持っていたそうな・・・。そんな彼が、行き着いた境地とは・・・。

『(生物学的に自分とは)結局のところ、「今自分はどこにいるのかを示す」矢印くらいのものに過ぎないのではないか』(本書より)

著者は、“自分”をこう定義する。「・・・くらいのもの」という著者自身の表現からも分かるように、“自分”を意識することはそれほど重要なことではないのではないか・・・というのが、著者の長年の経験からの想いである。だから、個性を出せとか自分探し、などといったことを押しつけるなという。無理に押しつければ、他者のことを考える意識が薄れ、(極論だが)それは自殺につながるし、社会問題は他人事になり、無関心が増えていくのだと。

■本書に対する私の印象
中身はさておき、本書に対する読了中・読了後の第一印象は・・・「やや読みづらいなぁ」というものだ。やはり本書の紹介をしていた武田鉄矢さんが「バカの壁」よりもだいぶ読みやすかったとおっしゃっていたが、私の集中力が弱いのか、それとも無知過ぎるのか・・・、個人的にはなかなか本書に入り込むのが難しかった。だから、読みにくい本は全くもって苦手という人にはお勧めしない。

逆に多少、難しくても大丈夫・・・という人であれば、一読する価値はある。人生経験豊富な養老孟司さんの話だけに、きっと自分が年を取ったときに感じることが書かれているのだろうと思えるからだ。“自分が”という意識を引っ込めて物事をとらえたら、新しい境地にいけるかも・・・なんて。みなさんも、一度、本書を読んで日頃当たり前のように思っている“自分”というものを見つめ直すと新たな世界が広がるのでは??


2015年6月23日火曜日

書評: 子供の頭を良くする勉強法

え!? なぜ読んだかって? そりゃー、子育てしてる親としては色々とインプットして損はないかなと・・・。

著者: 伊藤 真
出版社: ベスト新書


子供をどのように育てれば、人生の成功者になれるのか・・・著者自身の経験を踏まえ、そのテクニックを紹介した本だ。人生の成功者っても色々とあるだろ・・・と突っ込みが入りそうだ。こうした類いの議論は、多種多様な価値観を持った人達が世の中にいる中で難しいと思うが、著者は逃げずに定義している。曰く、「自分が幸せだと感じられることと同時に、社会に貢献ができる人」「人から求められる仕事ができる人間になれたという実感を持てた人」とのこと。

では、そんな偉そうなことを語る「著者自身の経験はいかに?」となるが、弁護士だそうだ。弁護士になるまでに相当な苦労をした・・・ということだけは容易に想像できる。弁護士業以外にも、ロースクール立ち上げを試みたり、色々とご経験をなさっている方のようだ。氏の成功・失敗経験から、強く感じた「成功者を育てるためのポイント」があったのだろう。本書には、そんな氏の思いがたくさんつまっている。

ざっと238ページ。あっという間に読める。頑張った時には、しっかりと感情豊かに褒めてあげましょう! 目標意識を植え付けよう! 習い事漬けはやめましょう! “考える力”をつけるため、“なぜなぜ”と思う気持ちを醸成しよう!等々。はなまる学習会の塾長であられる高濱正伸氏も同じようなことを言っていたし、目標意識をしっかり持たせることで、立派に成長させた友人を実際に知っているだけに、あぁ、きっと、正しいことを言っているんだな・・・というのは理解できる。

しかし、天邪鬼な性格の私には、ここで違和感が芽生える。そんなに“立派そうな子”を育てることって本当に正しいことなのだろうか・・・と。百歩譲って、目標意識など本書に書かれたことは、子供が成功者になるための必要条件かもしれないが、十分条件でないんじゃないかなと。そんな悶々とした気持になっているときに、本書の最後の方で、著者の次のような言葉が登場する。

『生真面目な人こそ人のせいにしよう』

最初は、「は!?」と思った。いきなり何をいうのかと。要は、逃げ道を用意しときなさいということであるが、次の瞬間、なぜ違和感があったのかが分かったと同時に、なるほどなと思った。そう、著者の言うこと(少なくとも前半の話)はイチイチ息苦しい感じがしたのだ。なにか立派すぎる。逃げ道がない・・・。

“考える力”をつけさせるために「常に、それはなぜなんだい!?」と子供に問いかけ続けてきた知人が、「子供が高校生くらいになって鬱になった」という話をしていたのをふと思い出した。さらに先日、NHKの番組、100分で名著「荘子(そうじ)」の回で、「やむをえずの思想」が大事という話を思い出した。これは、無理に目標や計画を立てずに、必要に迫られたら動けばいいじゃないか・・・という話で、目標設定や計画設定は、今のストレス社会を作っている要因の一つでもある・・・という指摘だった。

つまり、著者の言いたいのはこうなのだ。本書で紹介されている色々なテクニック・ポイントを押さえるのは大事だけど、最後に“心の逃げ道を用意しておく”のだけは忘れるなよ・・・と。これで色々なことが腑に落ちた。

さて、腑に落ちたが、本書のような本はゴマンとある。先述したはなまる学習会の高濱正伸氏の本もこの類いだ。そんな中、あえてこの本を読む価値があるのか?と問われれば、私は類書だからこそ、読む価値があると答えたい。最近、特に感じるのだが、人間はすぐに色々なことを忘れる。重複する部分が多かったとしても、忘れているポイントは呼び覚まされるし、改めてすり込まれる。そして、重複しない部分や意見の異なる部分は、それは自らが「正しいことは何だろう!?」とさらに深く考える良いきっかけとなる。だから、この本を買って良かったと思うし、子供がまだ子供である限りは、1年後・2年後、また似た本を見かけたら、買うだろう。


【類書】

2015年6月15日月曜日

勝つ人と負ける人との差

以下の2つの会社が対照的だ。

●牛タン専門店・ねぎし(ねぎしフードサービス)
●うどんミュージアム(一班財団法人うどんミュージアム)


ねぎしフードサービスは、カンブリア宮殿で見た。過去の反省から、人材育成が全てのカギととらえた根岸社長。出店ペースがどんなに遅くても(34年間で34店舗のペース)、人材育成を妥協しないで成長してきた。

うどんミュージアムは、日経ビジネス(2015年6月15日号)の“敗軍の将”で見た。アイデアは斬新で、最初の一店舗目の出だしは堅調。立ち上がったことを見届け、開店の4ヶ月後には新規事業活動で海外へ。その間、店が混乱し立ちゆかなくなったとある。挙げ句の果てに店の売上金を持ち逃げする社員まで現れだした、とも。

これは外食事業における話だが、つまるところ、人材育成が大事なのはどの業界も同じだ。なぜって、会う人会う人、みんな「うちは人が大事だよね」と言うから。

上記2社の結果の差は当たり前のように見えるが、だからといって、ねぎし社長のように「君の会社は、人材育成に一切の妥協をしていないでやっているか!?」と問われれば、果たして、胸をはって「はい」と答えられそうにない。

気づくことや感心することなら誰にでもできる。だが、アクションにうつせる人は一握りだ。そしてそれが勝つ人と負ける人との差なのだろう。

2015年6月9日火曜日

書評: リーダーのための!ファシリテーションスキル

これも、Amazon電子書籍半額セールに乗じて衝動買いした本だ。やっぱり、たまには衝動買いもした方がいいなー、何がどう転ぶか分からないなー・・・とは、読み終わっての正直な感想。

リーダーのための!ファシリテーションスキル
著者: 谷 益美
出版社: すばる舎



「対話を促す、それがファシリテーション」・・・そんな出だしから始まる。私流に書けば、そこにいる人たちを巻き込み、化学反応を起こし、一方的な座学では得られない、一人思考では決して得られない、アウトプットを出す・・・それを促すのがファシリテーションだ。本書は、このファシリテーションを成功させるための勘所や、各種テクニックを懇切丁寧に紹介している。ちなみに、とても読みやすく、私は1時間ちょっとで読破した。


どんな分野の、どんな課題にも、有効な解決手段の一つになりうる・・・私はこのファシリテーションが大好きだ。だから、数年前、ファシリテーションスキルを追求してみようと思った時期がある。そのときに5~6冊、ファシリテーション関連の書籍を大量購入したが(書評は書くにいたっていないけど...)、正直、あまり得るものがなかった。なんとなく本書の方が好きだな、と思う。その理由は、ひと言で言えば、具体性だろう。「すぐに役立つ知識はすぐに役立たなくなる」・・・とおっしゃる池上彰さんには怒られそうだが、これは明日から使えるぞ!と思ったテクニックがいくつかあった。

ホワイトボードのちょっとした使い方にはじまり、参加者がより前のめりになるテクニック、盛り下がりがちな場面を打破するテクニック、100人以上でもできるワールドカフェなど・・・、分かってはいるつもりだったが、あぁ、そこまで意識してできていなかったな、そのテクニックはまだ使ったことがなかったな・・・と思えるものがあった。自分もある意味、我流だからね。

さて、本書を読んで、ぜひ、してみたい!と思ったことが実は3つある。1つは、私の仕事で予定されているワークショップに、本書で紹介されていたテクニックを、早速、取り入れることだ。仕事がら、毎週のようにワークショップがあるので早速活用して、自分流にさらに進化させたい。

2つ目は、ファシリテーションスキルをはじめ、プレゼンや営業スキル、文書スキルなど、業務で求められる様々なスキルの、さらなるデジタル化への挑戦だ。自社内で、これまでも属人化しがちなスキルを文字に落とし込もうと努力してきたが、本書を読んで、まだまだやれることがある・・・と思い知らされた。

そしてそして・・・著者自身にも興味がわいた。ぜひ、とも会ってみたい。彼女のファシリテーションを体感してみたい・・・とまじめに思っている。


【スキル指南書という観点での類書】

2015年6月8日月曜日

書評: プリズム

プリズム
著者: 百田 尚樹
出版社: 幻冬舎文庫



百田尚樹氏の小説だ。主人公は、既婚で32歳の梅田聡子(うめださとこ)。子供に恵まれず、外に出て働くことを決意。物語は、彼女が、とある裕福な家庭・・・岩本家での家庭教師面接を受ける場面から始まる。家庭教師の対象は、小学五年生の修一。その父は、洋一郎。そして、母は雅子。ごく普通の家族構成だが、実は岩本家にはさらにもう一人、男がいた。なぜか、会うたびに異なる人物に見える。まるでそんな男などいないかのような家族の振るまい。何気なく出会ったこの不思議な男をきっかけに聡子の生活は、大きく変わり始めていく・・・。


本書は、解離性障害・・・いわゆる“多重人格者”をテーマにした恋愛小説だ。多重人格者の話はこれまでにも色々な形で耳にしてきたが、私個人的には、本書を読んだ後でも、まだどうも信じられない。これは仕方のないことだ。まさに“百聞は一見にしかず”で、人格が変わる本人を実際にこの目で見てみないと、他人が書いた描写からでは判断しようのないことだ。

だが本書は、小説という形を通じて、多重人格者がどのような症状を持っているのか、どのような悩みを持っているのか、まわりにどのような影響を与えるのか、そして、どのような治療を受けるのか・・・など、全てを克明に描いている。まさに、解離性障害とはなんたるか・・・についての啓発・啓蒙小説とも言えるだろう。百田尚樹氏のことだから、おそらく、徹底的にこの症状について研究し、ニュートラルな立場から、描こうと努めたのだと察する。その意味では、架空の話でありながら、リアリティ感があり、読み手をひきつけることには十分成功している。

健常者であったとしても、酒が入れば人格が変わる人はたくさんいるし、ストレスのたまり具合で躁鬱が激しく変化する人もいる・・・解離性障害という者の真偽は別にしても、「人間誰しもプリズムのような精神状態を持っているではないか。似たようなものではないか」・・・という登場人物の言葉は、私のような疑い深い人間に対する百田尚樹氏の皮肉にも聞こえるが、それがまた百田尚樹氏の独特なテクニックであり、この作品の魅力につながっているのだろう。


【百田尚樹氏の別の小説】

2015年6月7日日曜日

書評: シンプルに考える

つい先日、Amazonで電子書籍の半額祭りに出くわした。そのときに、ざーっとタイトルを斜め読みする中で購入した一冊だ。LINEの元社長・・・ということでそれなりに興味がわいたのだ。

シンプルに考える
著者: 森川 亮
出版社: ダイヤモンド社



どうだろう・・・。読み始めて読み終わるまで、かかったのは1時間弱だったろうか。速読できる人なら、十数分で読めるかもしれない。


本書は、LINEを成功させた森川元社長のビジネス成功の哲学「シンプルに考える」を徹底的に説いた本である。シンプルとは何か? 具体的には、「会議をしない」「目標や計画を設定しない」「情報共有しない」「教育をしない」・・・などなど。ただし、これだけ聞くと何か挑発的に聞こえなくもない。事実、私も読み始めは「いや、いいたいことは分かるが、言い過ぎでは!?」などとブツブツつぶやきながら読んだものだ。

ところが、本書を読み終わって数時間後、冷静になって振り返ってみると、色々なことが腑に落ちてくる。要するに彼が言いたいことは、「本質を見失い、手段におぼれるな!」ということだったのだろう。ビジネスを成功に導くためには、シンプル・・・だけど徹底的に考え抜け・・・顧客目線にたって・・・。それだけである。しかし、それだけ・・・のことがなぜか難しい。「差別化」「情報共有」「人材教育」など、魅惑的なキーワードがつい口を突いて出るが、それすらも顧客を喜ばせる・・・ことを考えれば手段の一つに過ぎない。でも、いつの間にか、そうしたキーワードによっていく中で、本筋を見失ってしまう。

じゃぁ、どうすれば?となるわけだが、「だから、シンプルに考えればいい、って言ってるだろ!?そうした手段におぼれるな。顧客が見ている方向を一緒に見ろ!徹底的に・・・」という森川氏の声が飛んできそうだ。そういえばちなみに、先日読んだ「海賊と呼ばれた男」のモデルになった出光佐三(いでみつさぞう)氏も、自分の人生の軸になったのが、「とにかく徹底的に考え抜く」ということだったと語っていた。「考え抜く」はビジネス成功のキーワードなのかもしれない。

私も、いま新規ビジネスの立ち上げのために活動しているのだが、今一度、この哲学を胸に、向き合い直してみようと思う。思えば、ビジネス立ち上げに当たり、色々な人にアポをとって、業界内の色々な人の声を聞いてはいるが、肝心のユーザの声を拾えていたか・・・というと、自信を持ってYESと言える状態ではなかった。本当にそんなちょっとした活動の変化で、結果が大きく変わるのか?・・・そう思ってしまいそうになるが、実際、変わるのだろうと直感的に思う。我が人生を振り返ってみても、自分の想像中心で進めた事業は、思ったほどの成果をあげなかったことが多い。

具体的な成功手法・・・をことこまかに書いてある指南書・・・というよりも、どちらかというと哲学書に近いのではと思う。やれMBAだ、やれ国際規格だ、やれ●●分析手法だ・・・と私のように頭でっかちになりがちな、手段におぼれがちな人の頭の目を覚ますには、ちょうど良い本だ。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...