2011年12月4日日曜日

書評: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語

今週はこの本を読んだ。

タイトル: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語
著者: 林 良祐(はやし りょうすけ)
発行元: 朝日新書
発行年月日: 2011年9月30日 (720円)

■開発者の生々しい苦労話が満載

”ウォシュレット”というのはTOTOの登録商標だそうだ。その誕生は、1980年にまで遡る。

『ウォシュレット開発がスタートして、まず立ちはだかった壁があった。どこにお湯を当てれば良いのか、すなわち、肛門の位置はどこか?」ということだ。そんな数値データなんてあるわけがない。開発チームは社内に協力者を求めた。・・・』

世界中に知られるようになったウォシュレットだが、開発に携わった張本人が、その歴史全てを”生々しく”語ってくれている。

「電気と水の共存をどうやって可能にさせたのか?」「1回20リットルも必要だったものが水洗をどうやって4.8リットルまで減らせたのか?」「全く文化の違うアメリカにどうやって入り込めたのか?」など、様々な疑問に答えてくれる。

■思わず仕事に役立つ知識も

かなり興味本位で買った本ではあるが、実は私の仕事に思いがけず役に立った部分もある。私は、リスクマネジメントコンサルタントであり、企業のリスク軽減またはリスクが顕在化した際の効果的な対応方法について、その仕組の導入をお手伝いしている身だ。当然、そんなリスクの1つに地震があるが、企業のビルで地震などにより断水が発生したときに、貯水槽にどれくらいの水が残っているのか、どうやってトイレまで水g運ばれているのか、一人あたりどの程度の水量を使うものなのか、などを考えなければならない場合がある。

この本はそんな疑問にも答えてくれる。著者によれば、それこそ節水よりも綺麗に流すことが至上命題であった昔のトイレでは高価なもので1回に20リットル近くの水を必要としたそうである。それが現代では、技術力を駆使して1回あたり4.8リットルですむところまできたそうだ。

ちなみに、偶然だがちょうど2日前の新聞(2011年12月2日付けの日経新聞朝刊)に「TOTO、トイレの水1リットル節約 1回3.8リットル、国内最小に」の文字が踊っていた。

■TOTOのチャレンジ精神に乾杯

ところでTOTOの技術力は世界に誇るべきものだ。今更、語るまでもない。ただ、私がこの本を読んで改めてTOTOがすごいと思ったことがある。それは、創業早くから世界に目を向けていた経営陣の意識の高さだ。日本企業は1億2千万人という、ある意味中途半端に心地よいマーケットで安穏としてしまう内弁慶な傾向がある。そんな中にあって、TOTOの目は常に世界に向いていたことが分かる。

1917年に大倉和親氏が初代社長となったとき、小倉工場の定礎の辞で「欧州の製品を凌駕し、世界の需要に答えていく」と述べたそうである。

また、今でこそロゴマークは"TOTO"と文字をかたどったものになっているが、最近まで”世界にはばたけ”という思いを込めて地球や大鷲をモチーフにしたロゴを使っていたようだ。


■日常に”笑み”をもたらす機会を

日常生活に完全に溶けこんでしまっているので、正直、この本を手に取るまで”トイレ”を意識したことなんてなかった。食事中に積極的に話すような話題でもないので、人と会話のテーマにもなりにくいといったせいもあるだろう。

しかし、日常生活において、これほどなくてはならないものはない。技術が注がれる意義も大きい。著者に言わせると、世界の6リットル便器が4.8リットルに替わると、年間2億立方メートル(ダム1つ分の大きさ)の節水と12万トンのCO2削減が見込めるそうだ。

トイレには、開発者の並々ならぬ情熱と努力が注がれている。

そして、この本を読んでからというもの、トイレに入るたびに思わず笑みをこぼしながら便器を眺める自分がいることに気がつく。


【関連リンク】
TOTO(企業の公式HP)

========ウォシュレットが機械遺産に========
日本機械学会は、生活の発展や社会に貢献し、歴史的に意義のある「機械遺産」に、温水洗浄便座「ウォシュレットG」など5件を新たに選んだと発表した。(2012年7月23日 日経新聞朝刊より)

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