2011年12月17日土曜日

書評: 風をつかまえた少年

今年読んだ本の中で間違いなく一番お勧めの本だ。

風をつかまえた少年 ~14歳だった僕はたったひとりで風力発電を作った~
著者: ウィリアム・カムグワンバ、(協力者: ブライアン・ミーラー)
発行元: 文藝春秋 (2010年11月20日発行)

とあるラジオ番組で池上彰氏が「ぜひお勧めしたい本」ということでとりあげていた2冊のうちの1冊がこれだった。ちなみに、もう1冊とは藻谷浩介氏の「デフレの正体」だ。

■図書館に通い独力で風力発電を作った少年の奇跡

この本は、南アフリカはマラウイに生まれた男の子が、貧しくて明日の食い扶持もままならない中、また学校に通うこともできない中、たった一人NPOの図書館に通いながら風力発電を作り上げた話だ。

男の子の名前はウィリアム・カムクワンバ (William Kamkwamba)。本は彼の6歳の記憶から始まる。

『ぼくは6歳だった。道で遊んでいると、牛追いの少年の一団が歌を歌い、踊りながらやってきた。ぼくたち家族はカスング市近くのマスィタラ村で農業をしていた。』

風力発電を作った天才少年の話を期待して読み始めたのだが、始めは”風力”の”ふ”の字も出てこない。いや、何かを発明するとかそんな呑気な状況ではなく、今日一日を生きる延びるためにどうするのか、そんな厳しい話が綴られていた。2001年12月(今からほんの10年前・・・つい最近の話だ)、主人公が14歳のときにマラウイ全土を襲った飢饉における彼の話は、思わず目を覆いたくなるようなものだった。中でも、わたしが衝撃的だったのは次のようなくだりだ(凄惨さが伝わるのでぜひ取り上げておきたい)。

『食べ物が少ない時期に状況がさらに悪くなる。そのため、赤ん坊につけられる名前は、生まれた当時の状況や両親がいだいた恐怖を反映していることが多い・・・(中略)・・・たとえば、スィムカリーツァー(どうせ死ぬんだ)やマラザニ(とどめを刺してくれ)、マリロ(葬儀)にマンダ(墓石)にペラントゥニ(すぐに殺せ)といった名前だ・・・(中略)・・・父さんの兄さんもその一人だ。祖父母に、”自殺”という意味の”ムズィマンゲ”と名付けられた・・・』

この世の中にこれ以上劣悪な環境は果たして存在し得るのか?と思えるくらいな状況下で、主人公は好奇心を持ち、学校に通えず持て余した時間を図書館での読書にあて、独学で風力発電を作り上げた。これは嘘のようだが本当に本当の話だ。

彼のような凄い人間をわたしは他に知らない。きっと世の中の他の人も同じように感じたからこそ、今日、わたしたちの手元に彼の本があるのだろう。

■丁寧で素直な描写がただただ心を打つ


世界中にその名を知られるようになった主人公。彼のこれまで約20年弱の間に起きた話について、本人が振り返る形で描かれている。

わたしは、恥ずかしながらこの本を読むまでマラウイはアフリカにある・・・それ以外のことは何も知らなかった。しかし、主人公の描写・気持ちが素直に描かれているからだろうか。私が知らないはずのとてつもなく広い大地、厳しい環境、そこで生活する貧しい人々、それらがわたしの頭の中に広がった。もちろん、そこで大きな発見にうち喜ぶウィリアム少年の姿も・・・。

『父さんの自転車をいじっていて、リード線がライトからはずれているのに気づいた。それでも車輪をまわしていると、そのリード線の先端がたまたま鉄のハンドルに触れた。火花が散った。それを見て、僕はふとあることを思いついた。』

■教育・学習・・・その原点がここにある

「何故かを知りたい」、「家族を助けたい」、「何かを作りたい」。ウィリアム少年の思いは膨らんだ。そして彼はNPOの図書館で学び、夢を実現させた。「変なものを作ろうとして、あいつは頭がおかしくなったんじゃないのか」。周りが彼を変人扱いする中、父親は息子を信じ、ただただ暖かく見守った。

自分で学ぶ(学習)、学習を手助けする(教育)とは何か、その原点がこの本に集約されているような気がした。この本は、いや、ウィリアム・クワンバは、世界中の人々に夢と希望、勇気・・・そして興奮を与えてくれた。

この本に出会えたこと、彼の存在を知ることができたことを心から感謝したい。

【関連リンク】
ウィリアム・クワンバ (William Kamkwamba)のホームページ





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