2011年12月26日月曜日

書評: イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!

書籍の増えた本棚を見ながらやや悦に浸っているとき、ホコリをかぶった本を一冊見つけた。大きな声では言えないが、随分と前に父から「君なら結構、興味持って読めるんじゃないか。読んでみろよ。」と渡された本だった。

イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!
著者: 渡辺幸一
発行元: 河出書房新社
発行年月日: 2008年9月20日


■外から見て初めて浮き彫りになる日本社会のおかしな部分

「どうして、日本の電車には痴漢がいるのか?」
「どうして、メイド喫茶が流行るのか?」
「どうして、若者はすぐキレるのか?」
「どうして、外国人に弱いのか?」
「どうして、駅の階段の登り下りに困っている人に手を差し伸べないのか?」

これらの疑問は日本の社会現象を反映したものだ。ところが、こうした問いかけはイギリスには当てはまらない。同じ島国なのに何故か。この本は、日本・イギリス両国の違いにスポットライトを当て、日本の問題とこれからについて提言した本である。

■著者の学識と実体験が生み出す鋭い考察

『・・・イギリスでは、先に入った人が後続の人のために開けたドアを押さえて待っていることが、一種のマナーになっている。その場合も後続の人ははっきり「サンキュー」と言う。私が日本に帰った時、こうしたイギリスの習慣が自然と出て、デパートであとから入る人のためにドアを押さえて待っていたことがあるが、後続の人たちは無言で通り過ぎただけで誰一人として「ありがとう」と言わなかった。・・・(中略)・・・イギリス人の市民意識とは、地域社会の構成員として、権利と義務の両方を負っているという意識である。』

日本で40年間、イギリスで18年間暮らしてきた著者ならではの体験談が豊富に語られている。そして、単なる体験談にとどめず、著者の隣人や知人・友人あるいは、過去に日本について語った文化人類学者や作家、思想家の考えなど、様々な観点を交えながら、答えを導き出している点が面白い。

ちなみに、私もイギリスで5年間ほど生活(うち2年間は学生生活)をした経験があるので、著者の言わんとしていることは良く分かった。たとえば、先述したマナーの話についてなど読んで「そうそう、そうだった、そうだった」といちいち頷いてしまった。

■”イギリスかぶれ”と思うなかれ

「イギリスはこんなふうにできているのに、日本はこうなってしまっている」・・・こんな言い回しが繰り返しでてくるとどうしても(著者同様、海外経験をしてきたわたしですら)思うことがある。

「イギリスに長く住んできたせいか、少しイギリス贔屓になり過ぎてないかい!?」と。

ただ、われわれ読者がこの本を心地よく読めるかどうかは別として、「日本人に生まれたことを誇りに持っている」あるいは「日本に良くなってもらいたい」という著者の発言は、偽らざる気持ちだと思う。そうでなければ、イギリスに住みながらにして、俳句をたしなむこともないだろうし、こうした本を書くこともないはずだ。

■”海を渡りたい”と思わせることにこの本の意義がある

著者の主張は明快かつ論理的で、実際に同じように海外経験をした者からすると合点のいくことも多い。しかし、一方で疑問も残る。

「おまえさん、それをいっちゃぁー、おしめーだよ」

と責められることを覚悟で言わせてもらえば、著者の主張は、外から日本を見ることができた者であるからこそのものであって、海外経験をしたことのない人がこの本を読んで「著者の主張が腑に落ちた」となることは、なかなかないのではないだろうか。

そういう意味では、読者に「あーしよう、こーしよう」といった著者の主張を理解させることよりも「うーん、そうか。これはとにかく一回、日本の外に出てみなければダメだな」と思わせることに、この本の意義があるような気がしてならないのは、わたしだけだろうか。

【関連リンク(日本よ頑張れ!的な本の紹介)】
 ・一勝九敗



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