2012年1月21日土曜日

書評: 南極越冬隊タロジロの真実

タイトル: 南極越冬隊タロジロの真実
著者: 北村泰一
発行元: 小学館文庫
発行年月日: 2007年3月1日

過去に南極物語(映画)を観たことがある人なら「なんで今更?」と思うかもしれない。しかし、この本の発行年月日を見てもらえればわかるが、この本は比較的最近に出版されたものだ※

さて、今回はいつもと少し違ったスタイルで書評を書いてみたい。題して、「南極越冬隊タロジロの真実を読むべき3つの理由」である。


理由その1) 寒さ・暑さを吹き飛ばしてくれる!

南極は寒い。アホみたいに寒い。気温で言うと寒いところではマイナス50度にもなる。そんな寒さにまつわる話が次々と出て来る。

『つい素手で、熱いものも冷たいものも直接持ってしまう。十分気をつけていたのだが、出発して三度目から手の全指先が痛み出した。それが4日目には白くなり、5日目の今日は水泡さえ出だした。』

寒い冬に読んでいると「自分の今の寒さはたいしたことないよな」と思えてくる。暑い夏に読んでいると「うぅー、身も心も凍りつきそう」と思えてくる。心の体温調節をするには持って来いの本ではないだろうか。

理由その2)知識欲を満たしてくれる

宗谷
NHKの映像や映画なぞを見て南極についてなんとなく理解していたつもりではあったが、この本を読んで改めて全く何もわかっていなかったということに気付かされる。

たとえば砕氷船(さいひょうせん)の話。日本から南極への移動は砕氷船を使い南アフリカのケープタウン経由で行われる。こうした砕氷船・・・特別立派そうに見えるが、通常の船とは構造が全く違うのだそうだ(単に船の先端が尖っているのかなと適当に思っていたのだが)。分厚い氷にはさまれた狭い海を進んでいかなければならないため、船全体を左に右にかなりの角度まで傾けて自由自在に曲がれるような設計になっているらしい。その傾きたるや、一般的な客船では17度も揺れると料金を払い戻すと言われている中、宗谷(そうや)は平均20~30度、最大で方舷63度の横揺れになったそうだ。想像しただけで気持ち悪くなってくる。
ホワイトアウト(上下左右全てが真っ白な世界)

またたとえば、南極では冷蔵庫が必須アイテムという話。素人的には「どう考えても冷蔵庫なんていらないだろう」と思えるのだが、そうではないという事実が驚きである。

「南極にいても暑いと思うことがある」話、「犬には人間のような心がある」話、「ホワイトアウトの恐ろしさ」の話などなど・・・自分に知らなかったことが本当にワンサカ出てくる。ページをめくるたびに興奮する度合いが増すのが分かった。

理由その3)真実を知ることができる

この本の解説者も触れていたことだが、実は日本の南極観測について書かれた本はそのほとんどが作家による出版物である。つまり第三者の作家による取材の結果としての出版物であり、やや創作的な感が否めない。そんな中にあって、この本の著者は実際に南極越冬隊に参加した張本人(南極越冬隊の中では犬係を務めていたそうだ)の手によって書かれたものである。装飾などありようもない。

明らかに映画では描かれていなかった場面が数多く出てくる。たとえば先に「犬には人間のような心がある」と触れたが、心底、そう信じさせてくれるシーンも数多く出てくる。

人間であれば真実を知りたいという欲が出るのは当たり前である。この本はその一端を十分に満たしてくれる本ではないかと思う。


あっという間に読める本だ。値段も決して高くない。「映画を観たことあるし、古い話だし・・・」と一蹴せず、ぜひ読んでほしい一冊だ。


※1982年12月に教育社より刊行された『南極第一次越冬隊とカラフト犬』と『文藝春秋』2004年3月臨時増刊号特別版「犬のいる人生犬のある暮らし」より、”生きていたタロとジロ”、そして・・・<秘話>初めて明かす、リキの遺骸、十年後発見の事実”の文章をもとに、書き下ろした作品である。



===(2012年1月23日追記)===
今日のニュースに「南極観測船しらせが昭和基地接岸を断念」の記事が出ていた。普段なら見過ごすところだが、この本を読んだばかりだけに目に止まった。当然、”しらせ”は宗谷(そうや)よりも新しく、2009年に新造されたもので、厚さ1.5メートルの氷を割りながら航行できる世界でもトップクラスの砕氷船だが、そんな船を持ってしても昭和基地にたどりつけない、という事実が驚きだった。何十年も前に南極で宗谷(そうや)が受けた苦労がどれだけ大変なものだったか、思い知れる・・・。

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