2018年2月15日木曜日

書評: お金2.0

直前に読んだのがビットコインの本だったので、お金つながりで手に取った。

「あー、これだよこれ。自分もなんとなく感じていて、でもうまく言葉にできなかったものってこれだったんだ」

それが本書を読み終えた時に最初に持った感想だ。
じゃぁ、それが一体何かと言えば、私流の言葉で表現すると次のような疑問に対する答えだ。
  • なぜゴールのないゲームにこそ人はハマれるのか?
  • 一見無意味に見えるけど、人が何かにハマる行為がお金に変わる理由って何なのか?
  • ベストじゃないがベターと言われ続けてきた資本主義の次のステージは何なのか?

著者はこう答える。

ゴールのないゲームにハマれるのは、それが人の脳を刺激するポイントを全て抑えているからだ、と。 具体的には、ヒエラルキー、コミュニケーション、インセンティブ、リアルタイム、不確実性が伴うと自律性と永続性を帯びるという、、、やや難しい表現だが、まぁ要するに、ゴールがあるかどうかはさしたる問題じゃないのだ。

また、一見無意味に見える行為がお金にかわる世の中になりつつあるのをうまく説明できないのは、モノの価値を「お金」で語ろうとするからだ、と。金銭的値段がつくものが必ずしも価値があるのではなくて、テクノロジーのおかげで価値あるものに金銭的値段がつくようになってきただけのことだ。つまり本来のあるべき姿に進もうとしているわけだ。

私自身、何とは無しに感じていたことで、決して斬新な話ではないが、今の世の中に起きている価値観のシフトを、著者は見事に言語化してくれていると思う。

わかりやすい平易な言葉で書いてくれており、また過去の偉人の格言を引用する文章には著者の教養の深さを感じるし、それがまた本書の信頼度を上げていると思う。強いて難点をあげるなら、やや抽象的な表現が多い点だろう。 本書の価値を下げるものではないが、具体的な話がもっとあるとなお良かった。

まとめると本書は、我々が今後、何を価値の尺度において、個人の人生や、会社の経営を目指すべきか、、、そのキャリブレーションをしてくれるもの。そう思う。

私個人は経営者として、これまでも常に「自分たちの付加価値は何か」を問い続けてきたが、より一層の自身への問いかけと社員への教育が必要だと感じた。
 

 
 

2018年2月13日火曜日

書評: いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン

(8ヶ月ぶりの投稿...。だいぶ活字から離れてましたが、また徐々に)

ビットコインがまた世間を賑わせている。ブロックチェーンは注目すべき技術だ。良くも悪くも、そう思う。

書籍:  いまさら聞けない ビットコインとブロックチェーン
著者: 大塚雄介

本書は、ビットコイン、いや仮想通貨になぜ人が注目しているのか、その基礎技術であるブロックチェーンとは何かについて、そのイロハを解説している。例えば次のようなことだ。
  • 仮想通貨の生まれた歴史
  • その存在意義
  • 使われている仕組み(公開鍵、暗号鍵、ハッシュ、ブロック、マイニング、承認)
  • 仮想通貨の種類と特徴
  • ウォレットやアドレスの仕組みなど
わかりやすい。最初に感じたことだ。ブロックチェーンの本は、最初のホワイトペーパー(9ページ程度のもの)を始め、いくつか読んだことがあるが、わたしのレベルにはこの本が最も理解しやすかった。

具体的には例えば、著者は「仮想通貨を、ゲームで登場する通貨が現実世界で売り買いできるようになった類だ」と表現する。ただし、そこに有限(希少)であること、勝手に偽造できないことが加わって、通貨らしいというか兌換紙幣らしい形を整えているという説明はなんだかしっくりくる。他の人とポイントを交換できないPASMO/SUICAのそれとも、航空会社のマイレージとも違うのもわかる。

同時に本書を通じて基礎技術の考え方を理解することで、「ブロックチェーン論文を書いた人やその実現にこぎつけた開発者の連中は天才だ」...そう唸らずにはいられなかった。今の法定通貨のように日本銀行やFRBなど中央銀行管理する中央集権型ではなく、分散型思想に基づいた設計。法定通貨の造幣に当たるマイニングが必要となるような機能。分散型ではマイニング(造幣)をする人が必要だが、そこに動機が働くような報酬の仕組み。技術革新を考慮した4年に一回の報酬レートの変更。発行に自動的に上限が設定されるような仕掛け。こうした世の中にインパクトをもたらす技術が、国や企業の力に頼らず生まれてきたという現実に驚きを禁じ得ない。

ところで本書で得た知識などをもとに冷静に仮想通貨を観察してみると、なるほど将来、我々の生活に影響を与える技術であることに間違いはなさそうだ。ビットコインそのものが成功するかどうか、、、失敗するという識者も少なくないので、そこはわたしにはわからないが、形を変えても残っていく技術だと思う。

であるならば、なおさら時代の趨勢に乗り遅れないよう、こうした技術について勉強しておくべきではなかろうか。本書には、仮想通貨に将来性があるのか、自分たちの世界にどう影響を与えそうか、考える機会をもらった。 できれば、こうした本と同時にYouTubeなどでも色々な識者が、発言しているのでそうしたらものも観ると、なお自分なりの意見が持てるのではないかと思う。

最後に余談だが、本の著者が関係する会社でも事故が起きた。だが、私はニュートラルに本だけを見て本の判断したつもりだ。



 

2017年6月11日日曜日

書評: 恐怖の地政学

え方が下手くそだと言われる学校の先生に共通しているのは、「なぜ、なんのために、それを覚えなければいけないのか?」・・・それを具体的に説明しないまま、ただ「重要だ。覚えなさい。テストに出るぞ」とばかり言うからだ。事実、私も高校の数学は本当にきつかった。サイン、コサイン、タンジェント・・・について、「この数式がいったいなんの役に立つのか?」・・・実は今に至っても理解できていない。

そういった過去の痛手も手伝って・・・「なぜ、それが重要か?」を説明してくれる本があると、心の底からむさぼり読みたくなる。今回、まさにそのような一冊に出会えたといっても過言ではないだろう。

恐怖の地政学 ~地図と地形でわかる戦争・紛争の構図~
出版社:さくら舎
著者:T・マーシャル(甲斐理恵子訳)
●世界の地政学
本書は、世界の地政学を紐解いた本だ。ここで言う世界とは、主として世界で紛争が起こっている、または、緊張関係にある地域のことを指す。具体的には、中国、ロシア、日本、北朝鮮、アメリカ、西ヨーロッパ、中東、インド、パキスタン、ラテンアメリカ、北極圏のことだ。また、地政学とは、文字通り、地理的な観点から政治を紐解く学問のことだ。たとえば、四方を多くの国々に囲まれるスイスは、“中立”を国家ブランドとして掲げて生き延びてきた。このような説明をすることが地政学だ。

●理由が鮮明に頭に思い描ける世界紛争の意味
こうした地政学を使って世界の戦争や紛争について、わかりやすく面白く語ってくれているのが本書だ。「わかりやすく面白く」とは、「地理的な話」と「政治的な話」のみならず、そこに歴史も絡めて説明してくれているからだ。「へー、そうなんだ」「えっ、そんなことになってるの?」とブツブツ言いながら読んでいる自分に気づく。

そもそも私は地理というものが大っ嫌いだった。アルミニウムの原料であるボーキサイトの輸出国がどこだとか、産油国がどこだとか、ゴビ砂漠がどうだとか・・・カタカタの地名を覚えさせられた記憶があるが、まぁ、自分にとってはあたかも意味を持たない記号を丸暗記していたかのようだった。

ところが、アフリカの発展を遅らせた一因は、マラリアで、地形的な特性からマラリアの懸念が少ない南アフリカは発展してきただとか、ウクライナのセバストポリはロシアの手が届く、ロシアにとって唯一の不凍港(ウラジオストクですら四ヶ月間は凍結してしまうらしい)でありそれがクリミア紛争につながっていった理由なのだとか、ヒマラヤ山脈がもたらす地形的な優位を欲したがため、中国はチベットを意地でも手放したくなかったとか、水の少ないエジプトにとってナイル川の恩恵は大きく、実際、都市はほぼナイル川から数キロ以内のところに作られており、でもそこに流れ込む水源を実はエチオピアが握っているのだとか・・・。もしかしたら、学校の先生も少しはそのように教えてくれていたのかもしれないが、私にとってはすべてが新鮮で目からウロコの話ばっかりだった。
ナイル川流域に集中する都市(Googleマップより)

●地政学のことを馬鹿にしていた
地政学を使って、よくパーソナリティがラジオなどで政治を説明してたりするが、いつも話半分でしか聞いていなかった。世界をそんなかんたんに語れてたまるか・・・と思っていたせいだと思う。万が一語れたとしても、本当に断面的なことにしか過ぎないと考えていた。

だが、山脈、湖、海、河川・・・結局、世の中で起きている事象に大きく影響をあたえるのは地理的な条件だということが、嫌というほどわかった。もちろん、地政学がすべてを語れるわけではないということに変わりはないが、それでも知って置かなければ正しい世の中の動きを語れないというのもまた事実だ。

●受験勉強にもってこい
学生時代にこんな本があったら、もっと地理を楽しく勉強できたのに。政治や歴史を楽しく勉強できたのに・・・。そう思わずにはいられない。だから、これから受験勉強をする人には、社会を楽しく学ぶ良いツールになるのではないかと思う。

また、グローバル化が進む現代において、他国の文化や風土、意識・・・と自国のそれとの違いを正確に知ることは・・・それがビジネスを推進する社会人にとって良いツールにもなるだろう。


もし、本書に5点満点で評価をつけるとしたら、間違いなく5点をつけたい。

 

2017年6月4日日曜日

書評: IoTの衝撃

業のリスクマネジメントのコンサルティングをやっていると、結局のところ重大リスクは2つに大別できることがわかる。企業がどこへ向かうべきかという戦略リスクの話と、戦略実行を邪魔するリスク話だ。今日紹介する本は前者に関わる話だ。前者の戦略リスクでは、例えばフィルムカメラからデジタルカメラに需要・技術変化が起きる中で、業態を変更させ見事の生き抜いた富士フィルムが思い起こされる。

さて、今流行りのIoT(Internet of things)を、この戦略リスク視点で捉えて見たくはないだろうか。なお、IoTとは「あらゆるものがインターネットにアクセスする可能性を持つ状態になること」と定義されている。テーマをIoTにおいた時、どんなリスクが考えられるのか、いや、そもそもどんな環境変化が予想され、どんな世の中になって行くのか? 企業の取り得る選択肢にはどんなものがありえるのか?

この趣旨を満たすべく書かれたのがこの本である。

HARVARD BUSINESS REVIEW
IoTの衝撃(競合が変わる、ビジネスモデルが変わる
出版社: ダイヤモンド社



IoTがどんな環境変化が予想されるのか? 具体的には例えば、「IoTが台頭してくると、企業収益を圧迫する可能性がある」と書いてある。なぜなら、単なるモノでしかなかったものが、通信できるようになるわけで、当然、生産コスト、すなわち固定費が上がるようになる。固定費が上がると価格を下げるために物量が求められる。競争は激化し、企業は従来の価格の中でコストを吸収しようとする。故に利益率が下がりやすくなる、といった論理思考である。

また、「収集したデータは誰のものか?」といった論点を取り上げている。最近、IoTを通じて収集した個人データを活用して付加価値を生み出すビジネスをしている企業が急成長を遂げているが、こうしたビジネスを展開している彼らにとっては、データが誰に帰属するかという問題は、死活問題になりうるテーマだ。

私も一昔前までは、IoTって、単にパソコン以外のモノ...例えば家電とか、車とか、ロケットの装置とか、色々なものが通信できるようになるだけじゃないか。「それのどこがすごいことなのか」、なぁんて思ったものだが、それは一般大衆の考え方。モノが繋がるということがどんなイノベーションを起こすのか、本書を読むと、その可能性の広がりに自分の浅はかさを思い知らされる。

モノが繋がるということは色々なことがコストをかけずに見える化できるということだ。見える化できると、効率化が進む。お客様へのチャージの仕方も変わる。典型的なのは自動車保険だ。燃費の悪い走りをしていたり、乱暴な走りをする人を特定できるようになり、保険料もそれに応じて変えられるようになる。IoTを使ってなんの情報を吸い上げ、何を見える化し、何を売るのか、どうやってチャージするのか? ビジネス戦略に影響を与える地殻変動といってもいい変化をもたらす。

ところで、本書は、ゼロから書かれたものではない。実はこうしたIoTに関するHARVARD BUSINESS REVIEWの過去記事の中から、売り切れ人気特集を書籍化したものである。だから、読みごたえのある記事だけが集められている。

このように話すと、パッチワーク的なつながりの薄い記事の寄せ集めと思う人もいるかも知れないが、それは杞憂だ。似たような構成で違和感を感じた書籍は多数あったが、本書に限って言えば、 あまりデコボコ感を感じなかった。またマイケルポーター氏を始めとする有名な著名人の記事なので難しいかと言えば、全然そんなことはない。私の中では読みやすい部類に入るほうの本だと思った。

というわけで、企業の戦略を考える立場にある人たち、経営陣、経営企画室や、企業のリスクマネジメントを考える部門の人たちには有益な本じゃなかろうか。最近は、健康管理を目的とした体調をトラッキングするデバイス・・・たとえばフィットビットなど、身の回りにIoTの将来を彷彿とさせる商品も増えてきた。イメージしやすいし、読むには絶好のタイミングだろう。

最後に余談だが、IoTの記事に関しては、先日、NewsPicksで読んだ(ただし、有料記事)「堀江さん、要するにIoTって何ですか?」は分かりやすかった。本当に興味がある人はぜひ本書とともに読まれたい。


【参考情報】
【動画付き】堀江さん、要するにIoTって何ですか?(NewsPicks)

2017年6月3日土曜日

書評: 伸びる会社は「これ」をやらない!

●部下の管理の仕方を語った本
本書には、社長の振る舞い方、部長や課長の振る舞い方をはじめとした組織の運営方法が書いてある。部下の管理の仕方のありがちな誤った認識について、何社も見てきた著者の経験から解説している。

たとえば具体的には次のようなものだ。

・プロセスを評価するな、結果を評価しろ
・社員から社長の評価を聞くな
・社長が直接部下の相談に乗るな
・経営理念を社員全員に理解させるのをやめろ

上記のほか、こうしたポイントが30余り書かれている。

・・・

伸びる会社は「これ」をやらない!
著者:安藤広大
出版社:すばる舎


●経営者や管理職の人は読む価値あり
さて、読んでみて・・・どう思ったか。結論から言うと、読んでよかったと思う。面白かった。気づきもあった。ゆえに、私と同じように経営者の立場ないし、管理職の立場にある人なら一度目を通しても損はないと考える。


しかし、「伸びる会社はこれをやらない」・・・なんていタイトルの本・・・なんかいま世の中に出ている大半の本がそんな感じで同じことを別の表現で言い合っているだけじゃないの?・・・そんな声が聞こえてきそうだ。事実、私も読み始めは懐疑的だった。実際、読んだ瞬間に頭をよぎった本もあった。元LINE社長の森川亮氏の「シンプルに考える」という本だ。森川氏の本は、世の中で常識的に謳われていることをほぼ真っ向からシンプルに否定している。たとえば、森川氏の本を開くと「ビジョンなんていらない」といった文字がいきなり飛び込んでくる。安藤氏の「経営理念を社員全員に理解させるのをやめろ」なんて、森川亮氏のそれと表現の仕方が似ているではないか。でもそれは、本の書き方が似ているだけのことだ。言っていることは全然異なる。この例について言えば、森川氏の「ビジョンはいらない」は「社員がビジョンに縛られて、変化に対応できなくなるデメリットのほうが大きい」という主張であるのに対し、安藤氏の主張は「理念なんて決めると、みんなそれに基づいて勝手にどんどん意思決定してしまい、ルールが瓦解する」といったものだ。

まぁ、第一印象がどうだったか・・・や、比較する本が妥当なのか・・・といったことはともかく、少なくとも私にとっては新たな気づきを提供してくれた本であることに間違いはない。

●自分の背中を押してくれた一冊
では実際にどんな気づきを得たのか?と言われれば、「プロセスを評価しない結果を評価しろ」といった点かな。なお、ここで言う結果評価とは、測定可能な目標設定を行い、それが達成できたかどうかで評価しろ・・・そういう意味での結果評価を言う。当たり前のことではあるが、わかっていても、結果評価を徹底できてない。見ている部門が営業部門だけだったらいくら売上を上げたか・・・などわかりやすい指標が使えるが、今は間接部門も見ているため、数値目標の設定が難しく、やや曖昧さを残してきた。だが、本書を読んで、改めてその大切さを認識した。また、「学びは獲得しに行くものである」という著者の主張も心に響いた。教育については本当に苦労してきたが、懇切丁寧な教育プログラムを組めば人が成長する
か・・・というのはどうもそうではないらしい・・・と思うところがあったからだ。自分の仮説を後押ししてくれた気がする。

●すべてを鵜呑みにせず、上手に使うべし
・・・というわけで、色々極端な小見出しをつけた文章がズラリと並ぶ本であり、喧嘩を売っているようにも見え、ある意味、それが読者の関心を引きつける本ではある。ただ、誤解のないように言っておくと、タイトルこそ、キャッチーで、「ん?なんだよ、それ?そんなわけないだろ」と思わせぶりなところがあるが、読んでみると、あぁ、そういうことね、それならAgreeだ、と思えることが少なくない。したがって、読み方には気をつけたほうがいい。中身をしっかりと読んで本質を理解しておかないと間違った認識が独り歩きすることになる。たとえば、「社長が直接部下の相談に乗らない」というポイントがあるが、「では、一切話しかけるのをやめよう」・・・というのは、著者の意図とは異なる。そういったことにはぜひ気をつけたい。

しっかりと内容を読んで、本質に納得がいったものだけとりいればいい。それが本書の活用方法だ。


2017年4月29日土曜日

書評: 仕事にやりがいを感じている人の働き方、考え方、生き方

人生も40代半ばにさし掛かり、色々な人と話す機会を通じて、人の仕事に対する価値観って色々あるな・・・と感じている。たとえば、「仕事はつらいもの。だから、必要最小限に抑えるにこしたことはない。仕事が楽しいなんて感じたことないし、楽しくしようとも思わない」と昔同僚だったAさんは僕にそういった。「死の怖さを紛らわせるために、必死で働く」と言ったのは、幻冬舎社長の見城徹氏だ。では私は?といえば、「仕事は人生の一部。だから、楽しくやりたいしやるべきもの」と考えている。

そんなわけで、仕事に対する価値観って三者三様なのだ。だから私は自分の考えを他人に押し付けるつもりもないし、尊重するように意識してきた。

そんな風に考えていた私の懐に、偶然飛び込んできた一冊の本がある。


仕事にやりがいを感じている人の働き方、考え方、生き方
著者: 毛利 大一郎
出版社: 幻冬舎

偶然・・・と書いたのは、私が個人的に登録している献本サイト・・・レビュープラスさんからの献本だったからだ。ちなみに献本されて書評を書くからって、わざと持ち上げるつもりはない。いつものように思ったことを素直に書かせていただく。

●著者が尊敬できる10人の尊敬できる人の生の人生、生の声

著者が尊敬するという10人たち。その人たちにインタビューをし、彼ら・彼女らの仕事に対する考え方、そこから派生する人の生き方について生の声をまとめた本だ。

そこから何が得られるというのか? 私が感じたのは次の2点だ。

1点目・・・腐らず立ち直るためのきっかけ
紹介されている人たちは、いずれも途中で大きな苦労や挫折を経験した10人だ。奥さんを脳腫瘍で失った人、仕事で目が出ずニートになった人、開発しても開発しても売上につながらない人、お客様から三行半をつきつけられた人などなど。そんな人たちがそのとき何を思い、そしてそこからどうやって立ち直ったのか・・・本書を読むと、その追体験をすることができる。

2点目・・・自分の仕事に対する価値観を考え直すきっかけ
「仕事にやりがいを感じている人」ということに共通点を持つ10人だが、では完全に仕事に対する考え方が一致しているか、というとそうでもない。人それぞれ、経験を通じた想いがある。「仕事は人生の一部だから、楽しくやりたい」「仕事も大事だが、仕事だけが人生じゃない。家庭も大事。両方を大事にしたい」・・・などなど、本書に登場する人たちが考える仕事に対する価値観も三者三様だ。本書を読めば、こうした人達の考え方と自らの仕事に対する価値観を照らし合わせることができる。

●どこにでもいそうな身近な10人・・・それが本書の最大の特徴

本書に取り上げられた10人は決して、雲の上の存在ではない。自分と同じ生身の人間であり、身近に感じられる、いわゆる普通の人たちばかりだ。たとえば、これが孫正義やビル・ゲイツの話であれば、尊敬はできるが、すごすぎてマネをすることは到底無理という結論に至るかもしれない。また、「日本でいちばん大切にしたい会社」という本があるが、そういった本で紹介される人たちはそれこそ本当に苦労もしているし、その分大きく成功し、本当に立派な会社を切り盛りしている。だが、あそこで紹介されている人たちも、やはりやや遠くの存在に感じるかもしれない。本書で紹介されている10人は、(こんな言い方をしたら本当に失礼だが、わかりやすく言えば)ごく平凡な人たちだ。だが、自分たちなりの生き方を見つけ、それに向かって一生懸命生き、充実した毎日を送っている人たちだ。

このような人たちの話だからこそ、読み手にとっては身近に感じることができ、大きなやる気につながるのではなかろうか。

●平易な文章・・・それがまた印象的

正直、著者の文章力は決して高いとは思わない。なんというかこう10人の事例を、メリハリなく、とつとつに語っている感じだ。読み始めた最初・・・「この本大丈夫か?」・・・とそこに違和感を感じたが、最後まで読んでみると、かえって変な装飾や演出がない面が新鮮であり、朴訥であり、著者自身の良い人間性が伝わってくる感じがして・・・結果的にはプラスだったと思う。

●これから社会を切り開く若者たちに

20代から30代の人たちがターゲットだと思う。最近は新卒で就職してもすぐに辞めてしまい・・・果ては大きな挫折につながっていく人が少なくないと聞く。そういった人たちが仕事をどう捉え、どのような生き方をすることができそうなのか・・・先輩たちの声を聞くことは何らかの良い気づきを与えてくれるのではないだろうか。

 

2017年4月16日日曜日

書評: 「一見さんお断り」の勝ち残り経営

発想力とは、既にあるものではあるが、今までにやったことのなかった組み合わせを行うこと・・・すなわ新たな化学反応を起こすことで生まれる。40代も半ばに近づき、自分自身の過去の発想のトリガーを考えてみると、やはりそうだった。だから、一見、風変わりで、役に立ちそうもない情報こそが、貴重な宝に見えてくる。

「一見さんお断り」の勝ち残り経営
~京都花街お茶屋を350年繁栄させてきた手法に学ぶ~
著者: 高橋秀彰
出版社: ぱる出版


さて、「京都のお茶屋」と言われて、みなさんはいかがだろうか。私にとっては、

「一見さんお断り」
「格式が高いが値段も高い」
「知らない作法がありお客側も学ばなければいけないことがあり面倒くさそう」
「知らない世界だから一度は経験してみたい」

こうしたことが頭に思い浮かぶ。つまるところ、何も知らない。京都のお茶屋・・・そしてその企業経営・・・無縁の私には当然ピンと来ない。

しかし、だからこそ、本書に手を出したというわけだ。

本書は、企業経営に役立てることを狙いとして、「一見さんお断り」を掲げる京都花街の経営をビジネス視点で紐解いたものだ。そんな伝統の世界を語る著者は何者なのか。京都花街に足繁く通う一ファンであるが、単にそれだけなら本書はいわゆる“オタク本”になってしまう。本書をビジネス本たらしめる理由は、著者自身がお茶屋の経営を取り入れて、ビジネスを成功させた実績があるということだろう。公認会計士事務所経営で「一見さんお断り経営」を貫き、今の確固たる地位を確立させたそうだ。

そもそも「一見さんお断り」の勝ち残り経営とはどんなものか? 売り込み営業も、お金をかけたプロモーション活動もしない、カタログや料金表もつくらない、現金払いではなく掛け払いにする・・・など、なるほど一般企業人からすると非常に逆説的な経営ばかりである。普通の企業であれば、受動ではなく、能動的に動き、仕事を取りに行く。ソフトバンクを見てみるがいい。しょっちゅう我が家に電話がかかってくるし、コマーシャルには一流のスター(スマップやジャスティン・ビーバー)を起用する。カタログや料金表がない・・・そして、掛払いを率先して勧めるレストランなんて庶民にはありえない。売掛金をできるだけ減らすこと・・・現金回収はビジネスの大原則だからだ。

なぜ、これまで間逆なのか。そもそもの企業戦略が違うのだ。一般的な経営は、品質だけでなく、どれだけ生産性や効率性をあげることができるか・・・の視点で戦略が立てられる。だが、京都の花屋の戦略は、「顧客満足度の徹底的な追求」・・・この一点だけである。だから、たとえば先の掛け払い問題にしても、「なじみ客が連れてきたお客様の目の前で、支払い処理を行うなど無粋なことはせず、一旦お店側で建て替えておき、後日、請求する」というプロセスに落ち着いたのである。

顧客満足度だけを徹底的に追求する・・・というのは怖いことだ。そこに生産性や効率性という視点が抜け落ちると、利益が出ないと考えてしまうからだ。事実、私の会社でも、「顧客満足度の向上を」と訴えると、現場の人間はついつい採算度外視で顧客のために時間を使ってしまう。会社はボランティアではないし、そもそも継続できなければ顧客満足を提供し続けられないから、そこに生産性や効率性というキーワードが必要になる。

普段、常識だと思っていたことを疑ってみる・・・大事なことだ。冒頭で触れたような化学反応を起こすために普段触れていない情報に触れてみる・・・大事なことだ。本書を勧めるとしたらこの点だろう。

本書に否定的な点はないのか? 一つ挙げるとすれば、「一見するとユニークな世界に見えるが、冷静に考えると、意外にユニークではない。つまり、そこまで新鮮ではない」という点だろう。京都のお茶屋は私のようにその世界を知らない人も多いし、確かにユニークな視点ではあるが、客観的に見ると、昨今の口コミ重視経営と言えなくもない。京都のお茶屋でなくとも、ミシュランをとった寿司屋・・・すきやばし次郎のような高級レストランもある意味、似たような哲学を以てやっている。その他、世の中で讃えられる中小企業・・・にもこうした哲学を持つ会社は少なくない。

結局、「徹底的に顧客満足度を追求するスタイルを貫く」という形で差別化を図る戦略をとるのか、「薄利多売を通じた安値」で差別化を図る戦略をとるのか・・・企業経営の大戦略に関わる話なのだと思う。

そう考えると、「これから会社を立ち上げるんだ」とか、「いま、値段よりも品質・・・その一点で差別化を図るんだ」という戦略を考えている会社の人であれば、「何か、不足している観点はないか?」の答えを京都のお茶屋ビジネスに求めることは妥当だろう。逆に、「我が社は、吉野家のようなビジネス戦略でいくんだ」と決めた企業が本書を読んでも、参考にできる点は少ないだろう。

いずれにしても、最近、このように常識と逆のことをアピールする本・・・多いよね。以前、LINEの元社長、森川亮氏のが書いた「シンプルに考える」という本を読んだときも、そこにはやたらと、みんなが常識と思ってやっていたことと違う経営方法が書かれていた。「経営理念をつくらない」とか、「給与はみんなわかるようにする」とか・・・。読み手も、全てをうのみにするのではなく、しっかりと自分の頭でかんがえて読むことが求められる時代だとおもう。

2017年3月25日土曜日

書評: 新・所得倍増論

本のことを一番わかっているはずの日本人にではなく、外国から来た人に自分の国の良さを教えてもらう。あるいは課題を指摘してもらう。おかしな話だが、冷静に考えれば、外から来た人たちのほうが色眼鏡なし、かつ、新鮮な目で、日本のことを観察できるからなのかもしれない。思えば、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)もそうだった。

著者: デービット・アトキンソン (David Atkinson)
出版社: 東洋経済新報社

そして、今回、イギリスで生まれ、イギリスで学び、ばりばりのアメリカ企業であるゴールドマンサックスに務め、一定の地位に上り詰め、海外をこれでもかというほど経験してきたデービッド・アトキンソン氏が、日本を斬っている。ただ、冷酷に斬るのではなく、日本を愛する者として(現に彼は日本に住み続け、小西美術工藝社の社長を担っている)愛のムチをふるってくれた。

彼は、他の先進国と日本の違い・・・とりわけ一人あたりの国民総生産(GDP)に着目した比較を通じて、日本の経済がなぜ停滞しているのか、なぜデフレが続いているのか、これからどうしたらいいのか・・・について、明快に解説している。なお、趣旨はつぎのようなものだ。

『明らかに日本国の生産性が低い。しかも、今後人口は減っていく一方。言ってみれば、質も量も右肩下がり・・・となれば、日本経済が沈降していくのは当たり前じゃないか。量をどうにかするのは難しいかもしれないが、質ならまだ改善する余地があるし、その潜在パワーを日本は十二分に持っている。みんなその事実に目を向けよう。そして、日本を変えていこう。』

話は横道に逸れるが、(本当に失礼な話だと思うが)私はゴールドマンサックスとか、金融関係に務めている人があまり好きになれなかった。お金を右から左に動かし、儲ける。リーマンショックの引き金を作った中心人物だし、真に世の中に立つかどうかもわからないビジネスをしている人たちを嫌悪すらしていた。全くの偶然だが、数年前に、同じカレッジを卒業し、同じ日本に住んでいる仲間の一人として、同窓会的イベントがあり、著者の自宅に招待されたことがある・・・が、そのときですら、あまり好きになれないな・・・という気持ちを持っていた(いまとなっては本当に情けない話だし、反省しているが)。だが、その後の彼のテレビでの言動はもちろんのこと、今回のこの著書を読むことで、彼に対して本当に尊敬の念を抱くようになった。かなわないな・・・と思うし、凄すぎて、嫉妬すら覚えてしまう・・・。

私が普段から感じてもやもやしていたものを、はっきりとわかりやすく客観的データをもとに解説してくれている。何より、彼の日本に対する愛情を感じたし、彼の指摘は本当に的を射ていると感じた。

たとえば、私はずっと以前から「平均労働時間がヨーロッパでも短いと言われるフランスのほうが、残業ばりばりで働き虫と言われる日本に比べ、国民一人あたりのGDPが高いと知ったとき・・・俺たち日本人は、一体全体何やってるんだろう」と思っていた。フランスが41,181ドルで24位、イギリスが41,159ドルで25位、日本は38,054ドルで27位だ(ちなみに1位は、カタールの132,099ドル、アメリカは55,805ドルで10位)。

また、先日、ツイッターか何かでビジネス記事を読んでいたとき、FACEBOOKの営業利益率が50%を超えると聞いて、企業格差に愕然とした。僕らもよく知っているLINE社が、30~40%。ヤフーも同じような感じだ。これは100万円の利益をあげるためには200万円の売りを上げればいいという意味だ。たとえば、食品関係のとある会社では、営業利益率が1%だ。これはすなわち、100万円を設けるためには1億円を売り上げなければいけないという意味だ。「業種が違うからだろ」といわれるだけかも知れないが、こうした利益率の違いは、実際の羽振りの良さの違いにも現れる。ITサービス会社や、やはり利益率が高い製薬業界は営業利益率が高く、それに比例するかのように羽振りもいい。営業利益率50%の企業がいる一方で、1%の企業がいる・・・。この格差が持つ意味は何なのだろう・・・とずっと悶々としていた(実際、ツイッターで次のようなことを、自らつぶやいていた)

https://twitter.com/sawanosuke/status/829297077805056000

そして今回、本書を読んで、こうしたもやもやが晴れた。詳しくは本書を読んで欲しいが、要するに生産性の違いだ。そして、生産性に違いを生じさせる大きなカギの1つがITなのだ。本書のお陰で、改めてはっきりと目が覚めた。なんとなく・・・ぼんやりと感じていたことが、確信に変わり・・・結果として、その確信を、自分のビジネスにどう活かすべきか・・・考えがまとまった。その後押しをしてくれた著者に感謝したい。

生産性が謳われ・・・働き方改革が叫ばれる昨今だが、そういったキーワードだけに躍らされるのではなく、自分たちに何が欠けていて、それぞれがそれぞれの立場で、どんな方向を目指すべきか、そのために何をすべきか・・・本質に目を向けることが大事だ。本書はそのきっかけとなってくれるだろう。


2017年3月20日月曜日

書評: 三の隣は五号室

久々の小説だ。小島慶子さんの呟きでこの本の存在を知って読んだ。尊敬する彼女の進める本なら、きっと面白いだろうと。

著者: 長嶋有
出版社: 中央公論新社


ユニークな本だ。今までこのようなスタイルの小説を読んだことはない。どうユニークかって?  

私は、北川智子氏の「ハーバード白熱教室」を思い出した。北川氏は、ハーバードも歴史授業で定点観測の視点をとりいれていた。特定の(限定した)地域の歴史が時間経過とともにどのように変わって言ったのかを追いかけるのだ。その定点観測対象が地域ではなくアパートに変わったようなもの、それが本書だ。舞台となる第1藤岡荘の5号室を、何年にもわたって定点観測した小説なのだ。アパートの歴史、アパートに住んだ人たちの歴史、その人たちの意図しない繋がり、それらを小説という形で見事に描いている。

なるほど、藤岡荘に限らず、人の住まいには歴史がある。賃貸ならなおさらだ。そこには想像しきれないほどのストーリーが詰まっている。本来なら知り得ない住人のストーリーを小説の力を使って、体験させてくれる。

ただし、ユニークではあるが、楽しんで読めるかどうかは好みは分かれるところだろう。登場人物は多いし、アパートの描写も多い。こうした描写に想像力を掻き立てられる人は没入するだろうし、そうした想像が苦手な人は入り込むのに苦労するかもしれない。私は後者だったが。

2017年3月12日日曜日

書評: ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学

MBAに行ったのが10年前。直後に起業した。自ら経理をやり、最初の仕事を取るのに苦労した。リーマンショックも経験した。大企業との契約も勝ち取った。失敗体験も成功体験もたくさんした。その中でMBAはどんな存在だったか。

自分の名刺にMBAを刷り、信頼を得るのに役立った。本を書く際やコンサルする際の情報の整理分類ツールとしてフレームワークが役立った。お客様を理解する際の財務データの読み方が役に立った。自社のマーケティングを考える際には、MBAで学んだマーケティングの視点を持つのに役立った。会社が成長して環境が変わる中、経営者自身が変わることに失敗し、会社を台無しにたケーススタディを数多くやっていたおかげで、その変化を感じ取ることができた。世界で活躍するMBAの同級生にたまに会うことで、刺激をもらえることも生きる糧になっている。

しかし、同時に限界も味わった
  • 最初の一件目の仕事の獲得
  • 全速力で走りながらの人の採用
  • 全速力で走りながらの人材育成
  • 組織が大きくなる中でのルールや意識の定着化
  • 生業にしている“リスクマネジメントサービス自体”の付加価値の定量化
ビジネスを経営する上で、上記のような困難に立ち向かうにはMBAだけでは難しかった。自分はまだまだだな・・・と思った。そんなときに目にした本がこれだ。



本書を開くと、そこには確かに私が知らない内容がかかれていた。フレームワーク、リーダーシップ、CSR、ダイバーシティ・・・キーワード自体は良く聞くものだが、プラスアルファの話が一連の説得性あるデータにもとづき、わかりやすい説明でまとめられている。

たとえば、トランズアクティブメモリーに関する話。なお、トランズアクティブメモリーとは、組織の記憶力のこと。組織の学習効果、パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが“他のメンバーの誰が何を知っているのか“を知っておくこと」だという。これについて、実験がなされていて、メールでもなく、電話でもなく、直接対話によるコミュニケーションの頻度が多い組織でこそ、最も良い結果が得られたという話・・・私は全然知らなかった。

単に知らなかったことがわかった・・・だけではなく、実際の仕事でも活かせそうだ。このトランズアクティブメモリーの話は、社内における情報共有のあり方についてヒントになったし、CSR(社会的責任)の効能に関する話は、私がリスクマネジメント活動を推進するにあたって、お客様への説得材料に活用できると感じた。最近の多くの組織が採用するブレインストーミング手法の功罪の話も、コンサルティングをどのように行えばいいか・・・のヒントになると思った。

ところで、「知らないことが載っている」=「ビジネススクールでは学ばないものか」という数式が成り立つかどうかについてはやや懐疑的だ。著者は、「最先端の経営学は、それを研究する側のモチベーションの問題もあり、なかなか学習材料になるレベルまで落ちてこない」と言う。著者の言い分もわかるが、私は、ある程度は、教壇に立つ教授次第だと思うのだ。

また、当たり前ではあるが、「知らないことが載っている」=「知りたいことが載っている」というわけでもない。自ら起業し、会社を経営する中でぶつかる壁や疑問に関する答えが、そこにすべて書いてあるわけではない。そこは注意する必要がある。

いずれにせよ、役立つ情報がかなり載っていると感じたし、強い魅力を感じたのは間違いない。本書を読むことで、実際の仕事を後押しするヒントが得られたし、自分がリーチ出来ていない情報の存在に気づけたのは収穫だった。「学習材料になるレベルまで落ちてこない最先端の経営学を、読者がわかるレベルまで落とし込んで紹介してくれた」・・・という点で、意義は大きい。この著者の本に続編が出るのであれば、追いかけてみたいと素直に思った。

戦略(人事戦略、事業戦略、を考える人(経営企画、コンサルタント(発想の源泉))なんかに向いている本だと思う。


2017年3月5日日曜日

書評: 日本人の9割が知らない遺伝の真実

一流のアスリート同士の戦いを見ていると・・・・たとえば、世界陸上でいまだ100M 10秒を切れない日本人選手を見ていると、「生まれながらの資質」ってのがあるんだろうなぁ・・・と思わずにはいられない。

他方、アスリート個々人と自分を比較するとき、違う感情が湧くことがある。野球のイチロー選手、サッカーの本田選手・・・一流ではあるが、みんな「努力の天才」なんだな・・・って思うのだ。その思いの裏には「自分も、もし頑張れる人間であったならば、同じレベルとは言わないまでも、近いレベルになれていたかも」というおこがましい考えがあるのかもしれない。つまり、生まれ持った身体能力の違いというよりも、努力の差なのだと。

「生まれながらの差なんだ」という考えと、「努力の差なんだ」と言う考え、・・・果たして、結果に差をもたらす要因としては、どちらのウェイトが大きいのだろうか。


出版社:SB新書


「日本人の9割が知らない遺伝の真実」の著者、安藤氏によれば「生まれながらの素質」が、要素として極めて大きいらしい。どうしてそんなことが言えるのか? まさにそれこそが、本書がもたらす重要なポイントの1つだが、著者の専門である行動遺伝学・・・双生児や養子の膨大なデータにもとづいて分析を行うことで、解を導きだしたのだ。

分析の原理はこうだ。一卵性双生児と二卵性双生児の遺伝子の共有率の違いを利用するのだ。一卵性双生児の場合は、双子間の遺伝子が同じである率は100%。これが二卵性双生児の場合はその半分、50%だ。両者を比較すると、類似性は2:1。つまり、遺伝子がすべてを決めるというのなら、一卵性双生児と二卵性双生児の類似度の相関性は、常に2:1が成り立たなければならない。たとえば、一卵性双生児の場合の双子の指紋の類似性は98%であり、二卵性双生児の指紋の類似性は49%だそうだ。この両者の関係性は2:1。指紋の違いを生じさせるのは、遺伝子以外の何者でもないということの証だ。

同じような比較を、指紋だけでなく、性格や知能など、幅広い分野で分析し、導き出した答えこそが、「家庭環境以外の要因」が極めて大きい、というものである。「家庭環境以外の要因」とは、すなわち、「遺伝」と「家庭外の環境(例:たとえば外で誰と出会ったか、など)」のことだ。その要素が、我々・・・少なくとも、私が思っていたよりも遥かに大きかったという事実は新鮮だった。

本書には、こうした分析の方法やその結果が詳細に綴られている。そして、こういう事実(人は生まれながらにしてみんな大きく異る)をしっかりと前提においたとき、社会均一の教育制度ではなく、能力制へ変えるべき・・・など、今の世の中の仕組みを改善すべきではなかろうか・・・という著者の提言へとつながっている。

会社で部下を育てる際、「なぜ、この人は、これが苦手なんだろうか」「天才でもなんでもない自分ができるくらいだから、この人にも、同じ環境を与えればできるはずだ」などと思うことはよくあるはずだ。しかし本書を読めば、「適材適所」「悪いところではなく、良いところを伸ばしてあげよう」などという声が、いかに正しい考え方であったか、そして「早く人材の適性を見極めてあげることがいかに大事か」ということがよく分かる。

事実を受け止めどう考えるかはその人次第だが、改めてその事実を冷静に知るという第一歩のために、親、先生、リーダー・・・人を育てる立場の人は、読んでおいたほうがいいだろう。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...