2011年8月14日日曜日

書評: やめないよ

「あの人は、なぜ、そんなんに頑張れるんだろう?」

みなさんは、そう思ったことがないだろうか?

わたしは、もちろん、ある。高橋尚子選手しかり、室伏広治選手しかり、野茂英雄投手しかり。そして、今回、読んだ本の著者、三浦知良選手しかり・・・。

タイトル: 「やめないよ」
著者: 三浦知良  発行元: 新潮新書
発行年: 2011年1月20日 (740円)

三浦知良選手は、1967年生まれ。選手としての平均寿命が30歳前後と言われるサッカー界において、43歳になる今もなお活躍しているが、辞めるなんてこと気はこれっぽっちも無いようだ。

「僕の中では、どこでどんなふうに引退しよう、ていう設計図はまったくない。・・・(中略)・・・そんなことも考えずに、ただ今日も一生懸命やる、明日も一生懸命やる、それだけなのだ。」

■30歳、そして40歳からの適応力

この本はカズが「サッカー人として」というタイトルで、日本経済新聞に隔週で連載したコラムを一冊にまとめたものだ。38歳から43歳にかけて現役選手としてサッカーをプレーする中で、彼が感じたことを書き綴ったものだ。

【目次】
第1章 勝ちたい力 2006
第2章 不惑の力 2007
第3章 続ける力 2008
第4章 戦い抜く力 2009
第5章 明日を生きる力 2010

まっすぐな本だな、というのが第一印象。斜に構えて綺麗にまとめようとせず、自分の考えや思ったことを素直に語っている。くわえて、(自身も”あとがき”の中で認めているが)このコラムを書き綴った5年間の中で、カズの環境的・肉体的・精神的な移り変わりが、読者にはっきりと伝わってくる。

先日、羽生善治名人の「40歳からの適応力」という本を読んだが、このタイトルは実は、このカズの本にこそ相応しいタイトルなのではなかろうか。

「今までの節目を振り返ると、30歳のころにサッカー選手として一番焦りがあった。体が動かない、衰えてきたということを急に感じたから。どう対処すればいいかもわからなかった・・・(中略)・・・つけすぎた筋肉をそぎ落として、量より質を意識した練習に切り替えていく中で、32歳のころにようやく楽になった・・・(中略)・・・今はそのときのような急速な衰えは感じない。もちろん見えない部分では少しずつ力が落ちているはず。それを食い止めようと日々努力している。たとえ若々しくはなくても、生き生きとした選手でいたい。」

30歳半ばから上の人が、この本を読むのが一番、面白く読めるのでは、と思う。

■モチベーションの源泉は、いかに愉しめるか

「カズ選手は、なぜそんなに頑張れるのか?」

カズは本の中で、この点について明瞭完結に答えている。「サッカーを愉しんでいることに尽きるのだと思う」と。

ふと、ここで堀紘一氏(戦略コンサルタント)の言葉を思い出す。堀氏は、”精神的・肉体的なハードさ”から、誰もが例外なく6~7年で第一線から退いていく中にあって65歳を越える今に至ってもなお現役コンサルタントとして活躍している人だ。そんな彼が仕事を続けていられる理由について、著書「コンサルティングとは何か?」で、「この仕事が心から大好きだから続けられるのだ」と語っていた。

ただし、カズの本からは、頑張れるのは、単に受け身としての「サッカーが愉しいから!」ということだけではなく、「サッカーを愉しもうとしているから!」という前向きな理由も伝わってくる。本の帯には、こう書いてある。

「上を向いている限り、絶対にいいことがあるんだ」

言わば究極のポジティブシンカー、三浦知良の考えが一杯詰まった本だ。




関連リンク:
BOA SORTE KAZU! (三浦知良オフィシャルサイト)
40歳からの適応力(羽生善治)
40歳からの教科書(モーニング編集部&朝日新聞社)

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