2011年5月30日月曜日

1年間で1200人のボランティアを継続的に派遣

日経ビジネス2011年5月30日号を読んだ。


この号の特集は「九州」。九州は1割経済と言われるほど、実は日本の中でも経済的影響力が大きい。総面積11.1%、人口10.3%、域内総生産8.7%、小売業年間販売額9.9%、都道府県歳出額11.0%・・・などなど。

普段しっかりと見ない地域について深く勉強できることはありがたい。自分の会社にも九州地方のお客様が、少なくない。ただし、仕事に大きく直結できるイメージがわかなかったので全体的に「ふーん、そうか・・・」という感じを持つにとどまった、というのが正直なところだ。

一番、印象に残った記事は≪経営新潮流≫「専門性を生かせるか?」だ。東日本大震災の被災地支援を行う企業の様々なカタチを紹介している。三菱商事では、1年間で1200人の社員をボランティアとして派遣するそうだ。会社が宿泊費や交通手段など全て手当をし、社員のボランティアを積極的に促すというアプローチだ。

どんなにひどい災害であっても、時間が経つと、メディアにもなかなかとりあげられなくなり、また、人の記憶からもどんどん消えていく・・・瞬間的の即効性よりも、永続性・・・この意義は大きいに違いない。

日本中の全ての企業が、できることをする・・・これが復興の足音が聞こえるのを早めるのだと感じた。

2011年5月24日火曜日

子供達に借金を残すべきか、残さないべきか??

今月(5月)は、中央公論、正論、WILL・・・どれを買うか色々と迷ったが、震災や原発の直接的な話よりも”経済”の話に力点をおいているように見えたVOICEを読むことにした。


■子供達に借金を残すべき、残さないべき??

10兆円・・・いや、20兆円とも言われる復興に必要なお金をどうやって調達するかの議論が目立つ。「日本は不景気だ。不景気の時の増税はあり得ない。国債を発行するなどして、まかなうべきだ・・・(竹中平蔵氏)」といった主張があるかと思えば「安易な国債発行で対応すべきではない。復興費を国債でまかなうことは、将来世代虐待に他ならずそれは避けるべき(河野龍太郎氏)」といった主張もある。

頭の悪い私には、どちらも正しい主張に見える(きっと正解・不正解などないからなのだろう)。ただ「負担者を将来世代にするのか、今の世代にするのか」・・・議論が、あたかもこのどちらかを選ぶしかないような問いかけに、すり替えられてしまっているような気がしなくもない。多少、違和感を覚える。

実際「いやいや、増税や国債発行などせずして、明日にでも20兆円は調達できる(みんなの党 江田憲司氏)」という主張をする人がいる。

物事の本質をみるためには、もっともっと勉強が必要になりそうだ・・・。

■取りあげられない成果

「被災したけれども、迅速な判断と対応で危機を乗り切った」・・・こういった企業は、既に多くのメディアに取りあげられてきた。しかし「普段から、そもそも被災しないように活動してきたので、大きな事故にならなかった」・・・こういった企業は、実はあまり取りあげられていない。地味だからなのか。

そんな企業を紹介しているのが、VOICE6月号の遠藤功氏が執筆した”「民の国」の強さを信じよう”という記事だ。記事では、震度7もの激震に襲われたにもかかわらず、工場が大きなダメージを受けることなく早期に操業を再開した宮城県栗原市にあるスウェーデンのグローバル企業、サンドビックの瀬峰工場を紹介している。遠藤氏は「平時の現場力」とたたえる。

この工場の「平時の現場力」の源泉は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)にあったそうだ。具体的には、モノが落下してこないように普段から整理したり、機具を止めたり・・・そういった活動が、数を多くの企業を見てきた著者をして「群を抜いて凄かった」と言わしめている。

メディアにはこうした成果もぜひ積極的に取りあげて報道してもらいたいと思った。平時の現場力、危機発生時の対応力・・・この両方の成功事例を共有して、”日本力”の底上げが図れれば・・・と。

2011年5月23日月曜日

書評: 暗渠の宿

”私小説”という言葉がある。恥ずかしながら、最近までその言葉の意味を知らなかった。これは文字通り、私事(わたくしごと)の小説という意味で、作者が自ら体験したことを基に書かれた小説をさすのだそうだ。

今回手を出した本は、まさにこの”私小説”であり、中央公論における著者の掲載記事を通じて知った。

「暗渠の宿」
西村賢太 新潮文庫 362円


■不思議なネットリ感の強い小説

この本は、1人の男(=作者自身)の私生活を描いたものであり、何の変哲もない物語・・・と言えなくもない。ハリウッド映画や最近の探偵小説などに毒されたわたしは「何か大きな展開がこの後に待っているのか!?」「どういったオチが待っているのだろう」などとついつい期待しながら読んだものだが、その期待はいい意味で裏切られた。いい意味で・・・というのは、最後まで本が惹きつける力を失わなかったという点につきる。

うまく表現できないのだが、この小説にはネットリとした・・・なんていうか蛇にからみつかれたかのような拘束力がある。1つには私小説ということもあり、内容が非常に身近に感じられる人間くささのある話だからだろう。そしてもう1つには、(平凡な言葉しか思い浮かばず恐縮だが)描写が非常に上手だからだと思う。なんというか・・・ふと気がつくと、小説の中で描かれるシーン1つ1つが、自分の頭の中に克明に浮かんでいるのだ。表現力が素晴らしい。「小説家であれば表現力があるのは当然」とご指摘を受けるだろうが、何というか、この著者の文章には昔の人(三島由紀夫や太宰治など)といった人達と同じにおいを感じるのだ。

文章に重みがある。一見、何の変哲もない”とある男”の私生活の話でありながら、その男の底なし沼のような心理の深淵を覗くような感覚が・・・リアルに伝わってくる。

『・・・うん、まかせといて。もう向こうで座っててよ。』
『まだ、2人の間に遠慮が取り切れていない時期だっただけに、これに私は一応引き下がって新品の食卓についたが、それでもそこからクビを廻し背後の台所の様子を窺ってみると、彼女は三口のコンロをフルに使い、鍋と薬鑵とフライパンとの塩梅の合間に具材を刻むなど、一見手際よく作業を進めてはいるようだった。しかし肝心の麺は茹で始めが早すぎた分、当然できあがりも一足早く、女は先にその湯気を放つどんぶりをテーブルに運んできた後、また台所に戻ってフライパンにかかりっきりとなる。』


■強烈な個性に圧倒された

当然、このような小説を書く人はどんな人物なんだろうか・・・と興味がわいてくる。そんなとき、偶然、ゴロウ・デラックスという深夜番組(SMAPの稲垣吾郎君と小島慶子さんが司会をしている)の記念すべき第一回目のゲストとして西村賢太氏が出るという話を聞いて、どうしても我慢できず、見た。

小説で語られるような言動をする男が本当にいるのか!?・・・そんな疑念を持ちながらテレビを見たが、ずばり、私小説で語られる男を地で行く人である。色々なこと(特に、学のある人)に非常に強いコンプレックスを持ち、自分のやりたいことを素直に追求する人・・・そんな人である。総じて、非常に興味深い。

番組の中で、いきなり「緊張するんです」と言いながら、ワンカップ大関を飲み始めたり、休憩中に「小島慶子の印象はどうですか?」とプロデューサーに聞かれて「ムカつきますね」と素直に答えるところなど、端的に西村氏の人物像を表している。



■西村氏の文章を通じて色々な世界を覗いてみたい

自らの体験をネタにしながら・・・というのは、どんな類の小説であれ多かれ少なかれあることだろう。が、ほぼ完全に自身をネタにしながら書く私小説は、ネタがつきないものなのだろうか・・・と変な心配をしてしまいたくなる。過去の多くの著名の小説家は「何も書けなくなった」という悩みに陥り、自殺にはしった人も多かった(?)と記憶している。

西村氏はどうか? 強烈な個性を持つ作者の個性と、描写能力を持ってすれば、当面、問題はなさそうである。特に、一瞬にして描かれた被写体の裏側を覗いている気にさせる特異な能力は、どんな話をも、興味深い対象と化してしまうのだろう。

さて、この西村賢太氏・・・「苦役列車」という小説で芥川賞を受賞したそうだ。近いうちに、ぜひ読んでみたいと思う。

2011年5月20日金曜日

ツイッターの副作用

2011年5月20日、アディダス社の社員が、店舗に来店したお客様(有名人)についてツイッターを使って情報を流出させたそうだ。

最初のわたしの感想は「またか・・・」といったものだ。去年から今年にかけて、こういった類の事故が相次いで起きている。

2010年12月には、勝間和代さんが三つ星レストランのスペイン料理店で食事をした後に、そこで働く店員がツイッターで以下のようにつぶやく事故が起きている。

『今日勝間和代が来た。でも完全に浮いてた。軽く挙動不審だったしね。やっぱり大嫌いな有名人TOP3に入るわ』

また、2011年1月には、都内にある高級ホテルのレストラン従業員のアルバイト女子大生が有名人カップルの来店情報をツイッター場で暴露。ホテル側が「多大なご迷惑とご心配をおかけいたしました」と陳謝する騒動があった。

『稲本潤一と田中美保がご来店○○○まじ顔ちっちゃくて可愛かった・・・今夜は2人で泊まるらしいよ。お、これは・・・(どきどき笑)』

そして、今回、アディダス社の社員がつぶやいた内容は以下のようなものだ。

『そういえば今日マイクハーフナーが来た。ビッチを具現化したような女と一緒に来てて、何かお腹大っきい気がしたけど結婚してんの(^ω^)??」、「帰化したからハーフナーマイクかwアシュトンカッチャー劣化版みた
いな男が沢尻劣化版みたいな女連れてきたよwとりあえずデカイね、ホントにwww」』


しかも驚くべき事に、このマイクハーフナーという人、Jリーグで活躍するサッカー選手であり、アディダスの契約選手だそうだ。自社がスポンサーになっている選手をこんな形でおとしめるとは・・・(本人が、すぐにこのつぶやきに気づいたのは言うまでもない)。

わたしは、つぶやきの内容を見た瞬間は「まさか、こんな暴言を吐くような非常識な人はいないだろう」と疑っていたのだが、今日、アディダス社はこの件についてお詫び文をウェブページに掲載した。

アディダス社が掲載したお詫び文

つまり、ほぼ事実であったことが証明されたわけだ。

事例に挙げたいずれのケースも、つぶやいた本人は「まさか、本人には伝わらないだろう」といった想像力を欠いた楽観的な思いがあったのだろう。本人達は、影で悪口を言ったつもりだろうが、ソーシャルメディアを馬鹿にしちゃいけない・・・公での悪口となってしまった。

ソニーなど大手では社内にソーシャルメディアの利用方針なるものを配布し「ソーシャルメディアを使ってやっていいこと、いけないこと」の教育を進めているようだが、「人の口に戸は立てられない」という諺もある。まだまだ、似た様な事件は増えるだろう。

2011年5月19日木曜日

電車内で携帯電話・・・えんえんと16時間!!

アンダーソン・クーパー氏のAC360という番組をほぼ毎日見ているのだが、その中でリディキュリスト(Ridiculist:馬鹿な人の造語)というコーナーがある。

そのコーナーでは、「こんな信じられない人がいた!」というその人物の馬鹿っプリを取りあげるのだが、本当に色々な人がいるものだと驚かされる。今日は特に笑ってしまった。

なんと電車に乗って、カリフォルニア州のオークランドからオレゴン州のセイラムまでの”16時間、えんえんと携帯電話で話し続けていた女性”が逮捕されたそうだ。静かな車両で、1人大きな声でしゃべり続けていたため、まわりの人もさすがにキレたらしく、この女性(”セル・フォン・レイディ”とCNNではニックネームをつけていた)に注意したらしいが、あきれたことに乗客と口論をしながらも、逮捕される直前まで電話での会話をやめなかったそうである。

しかも逮捕直後の彼女のコメントは「すごく馬鹿にされた気分だわ」・・・とのこと。

ニュースキャスターは、16時間もあれば映画が何本も見れると揶揄していたが、ここまでの神経の図太さにあきれを通り越して、尊敬の念すら抱かせる・・・。

いやぁ、すごいね。

The RidicuList: Cell Phone Lady – Anderson Cooper 360 - CNN.com Blogs

2011年5月16日月曜日

日経ビジネス2011年5月16日 「揺らぐ日本ブランド」


特集≪揺らぐブランド≫では、「日本製?だから何」と題して、放射能汚染をきっかけに、中国で改めて日本製品の付加価値というものが試されているという記事が紹介されている。また、≪特集≫「ロボット大国日本の虚構」 原発で日本製が活躍しないワケでは、これまでに事故対策に向けて政府予算が投じられてきたにも関わらず、福島第一原発事故では活躍できていないのか、にスポットライトが当てられている。

さて、そんな中、今回取りあげたいのは以下の2つの記事だ。

■≪時事深層≫ソニー、トヨタの二の舞も

ご存じの通り、ソニーが情報漏洩事故を起こした。その数、実に1億件。日本の全人口に匹敵する勢いだ。ソニーは、事故が発覚してから、社外に対して正式公表を行うまでに6日間の時間を要している。また、米公聴会での証言要請を断ったとされている。こうした一連の事故後の対応が、トヨタのそれに酷似することを理由に、今後のソニーの対応に懸念を示す記事だ。

この記事を読んで思うところが2つある。1つは、企業における事故発生時の危機対応の体制整備のますますの必要性だ。情報漏洩を100%完璧に防ぐ・・・というのは、そもそも「個人データを持つな」と言っているのと同じ事で、不可能だ。であるとするならば、不運にも事故が発生して情報漏洩事故が起きてしまったときに、何を調査し、何を、どのタイミングで、社外の誰に、誰が報告するのか?・・・こういった事柄について、平時からある程度、準備し、(なおかつ訓練して)おくことが望ましい。こうした備えは、通常、地震や津波といった天災系に対して行われることが多いが、事故発生時のインパクトや発生頻度を考えれば、当然、企業がとっておきたい対策の一つである。

そして、もう1つ思うところは、日本企業の情報セキュリティ対策の手綱を再度、引き締める必要があるだろう、という点だ。「何を当たり前のことを」と感じる人がいるかもしれない。しかし、東日本大震災という未曾有の危機後、どうしてもこういった側面がおろそかになりがちである(これはソニーやスクウェア・エニックスが、どうの、といった話ではないが)。

東日本大震災以後、多くの企業で、やれリモートアクセスだ、やれデータの分散化だ、などなど次なる大災害に備えて、リソースの分散化に力点が置かれている。これは事業継続の観点からは正しい発想だ。だが、情報セキュリティを高めるアプローチと、事業継続能力を高めるアプローチは相反するところがある。情報セキュリティ対策は、(できるだけ情報を分散させない)集中管理、事業継続対策は(できるだけ情報を分散させる)分散管理と言った色を持つ。

「頭隠したら尻が出てしまった。尻を隠したら頭が出てしまった」ということがないように気をつけたい。

■≪実践の奥義≫大震災対応のBCP 10日間で工場を移す

東日本大震災の影響で、富士通の工場が被災。BCPを発動して、福島でのデスクトップパソコンの生産を島根工場に移した・・・事例記事だ。年2回の演習が功を奏したこと、自社工場の被害状況把握に手間取り代替生産の号令をかけるまでに、当初の予定よりも2日間遅れてしまったことなど、今後、他社が対策を練る上で参考となる情報が掲載されている。

2週前の日経ビジネス5月2日号の中でも、富士通の山本社長が触れていたことだが、とりわけ目立った課題が「いかに速やかかつ正確にサプライヤの調達能力を確認できるようにするか」という点。1次サプライヤの被害状況確認までならまだしも、その向こうの2次・3次サプライヤの被害状況となると、自社と直接取引しているわけではないので、そう簡単には確認できることではない。また、数も膨大になる。今回の震災では、このサプライチェーンの”チェーン”が長く、また複雑に絡み合っているため、思わぬボトルネックが発生し、製品を納期できない、という事態が発生している。

私の身の回りでも「飲料を確保できているがそれを詰めるボトルが不足している」「ボトルはあるが、貼り付けるラベルがない」「ボトルは問題ないが、キャップがない」「キャップはあるが、運ぶ手段がない」など、様々な混乱が起きていた。

災害時には、自助(自らを助ける)、共助(地域や仲間で助け合う)、公序(国に助けてもらう)という3つの観点で対策の網を張り巡らせることが必要とされるが、サプライチェーンの世界では、まさに自助だけではだめで、共助の強化が必要になる。今後の大きな課題であることは間違いない。

====(2011年5月28日追記)====
今度は、5月27日にホンダが、カナダのホンダ車ユーザ約28万人の個人情報を流出させたとのニュース。流出したのは名前や住所、車両番号が中心で、クレジットカード等の機微情報は入ってないとのこと。2月下旬にサイトへのアクセスが急増したことで流出が発覚。3月に調査を始め、顧客に注意を呼びかけると同時にサイトを閉鎖していたとある。ホンダは昨年末にも米国で、外部の委託業者を通じ約490万件の個人情報が流出させているし、セキュリティが甘いと思われ、狙われやすかったのかもしれない。それにしてもソニーがいかに多くのデータを流出させたか改めて思い知らされる。28万人も十分すごいが、ソニーの1億件には遠く及ばない・・・苦笑。

再び繰り返そうとしている過ち

さて、みなさん。事業継続計画(BCP)という言葉をご存じでしょうか?

事業継続計画(BCP)とは、事故や災害などに直面し、事業活動が中断するような事態に陥ったとしても、しっかりと人命を保護し、引いては速やかな事業復旧を行えるようにする・・・そのために平時に策定しておく行動計画(書)のことです。通常、何事もリスクに対しては、リスクを根源から絶ってしまう(例:盗難対策なら、盗難そのものを発生させないように予防策をとる、など)という考え方が主流ですが、BCPの特徴は「・・・でも、発生してしまった場合に(例:でも、盗難されてしまったとしたら)どうするのか?」を考えることにあります。

さて、東日本大震災以後、

『これまで作ってきた事業継続計画(BCP)は失敗だった・・・なぜなら、想定していた被災規模を遙かに超える地震が起きたから・・・。だから、今後のBCPはもっと大規模な被災想定を考慮して・・・』

このような発言をされる専門家の方がいらっしゃいます。

わたしは、想定の精度を上げようとする姿勢は良いことだと思いますが、これまで”作ってきたBCPを失敗”と決めつける発言に対しては、首をひねりたくなります。少なくとも、今回の東日本大震災からの最大の学びの一つは、(すごく当たり前なことですが)「そもそも想定は、滅多に当たらない」ということだと思います。それなのに、また「想定は当たる前提」のBCPを一生懸命に作ろうとしている・・・。

想定の精度を挙げつつ、当たらないことも前提に柔軟に動けるような体制を作っておく・・・そのヒントがハードとソフトのバランスをとるということではなかったか・・・。

そう思えてならないわけです・・・。

2011年5月15日日曜日

書評: 「突然、僕は殺人犯にされた」

今回読んだのは、この本だ。

「突然、僕は殺人犯にされた」 ~ネット中傷被害を受けた10年間~
著者:スマイリー・キクチ(竹書房) 1,300円


水道橋博士(小島慶子のキラキラ)や、荻上チキ氏(コラム・チキチキ塾)がTBSのラジオ番組で紹介していたのを聞いて知った。著者であるスマイリー・キクチ氏はお笑い芸人であるが、おそらく知らない人が多いと思う(残念ながら、私も知らなかった)ので、以下に簡単なプロフィールを載せておく。

「1972年1月16日生まれ。東京都足立区出身。1993年お笑い芸人としてコンビ”ナイトシフト”を結成。1994年、コンビ解散後、1人で活動中。漫談や韓流スターの物まねなどの芸風。趣味を活かし、雑誌などで連載中。」

■10年間にわたる誹謗中傷との戦いを記録した本

ネット上での誹謗中傷をきっかけとして、それがどんな実害につながり、それを打ち消すのにどれだけ苦労をしたか、どれだけ想像を絶する現実が待っていたか・・・約10年間に及ぶ記録をまとめた本である。

インターネット上で「あいつは最低だ」とか「あいつなんて死んでしまえばいい」といった過激な発言をする誹謗中傷は後を絶たない。多くの場合はストレス発散ができて満足するのか、時間の経過と共にそうした話題が自然消滅する。

しかし、中にはいつまで経っても忘れ去られず、そうした誹謗中傷が、(あたかも)”真実の話”であるかのように語られはじめ、実害につながるケースもある。そう、まさに風評被害である。スマイリー・キクチ氏のケースはこれにあたるが、その程度と期間が半端ではない。一応、この風評被害の概要だけ触れておくと以下の通りである。

風評: スマイリー・キクチ氏は凶悪殺人犯の1人である
対象の殺人事件: 東京都足立区綾瀬の女子高生コンクリート詰め殺人事件
風評被害を受けた期間: 10年間
実害: テレビ局への抗議電話、殺害の脅迫、集客
主な相談先: 弁護士、警察、ハイテク犯罪対策総合センターなど

【ネット上には今でも風評の足跡が残っている】


ところで、この本を読んで驚いたことが3つある。

1つは、犯人を捕まえる役割を担う”警察の縦割り行政の弊害の大きさ”である。10年間も解決に時間がかかった背景には、キクチ氏が相談しても、なかなか、まともな相手をしてもらえる警察官に会えなかったことがあるだろう。

2つ目は、容疑者を起訴する役割を担う”検察庁のあまりのいい加減さ”である。いい加減さを端的に表す例として、本ではキクチ氏と検事との間に以下のようなやりとりが会話(一部)が紹介されている。

(検事)『本人達も反省をしてしますし、謝罪があったので・・・(不起訴に・・・)」
(キクチ氏)『すみません、今、謝罪があったとおっしゃいましたが、誰からも謝罪なんて来てないんですけど、それはどういう意味ですか?』
(検事)『えっ、「供述調書」にはすぐ謝罪をするとあったので・・・』


”村木厚子元厚生労働省局長に対する無罪判決に関わる事件”のように最近、検察のいい加減さが目に余るニュースが多いだけに、氏のこうした訴えは間違いなく事実であろうと思える。非常に、不愉快な話だ。

3つ目は、誹謗中傷をする人達が、ふたを開け(捕まえ)てみれば”極めて普通の人”であったという事実である。一般の主婦、先生・・・など。こうした人達に共通して言えることは”犯罪意識の希薄さ”である。本人達に罪悪感はない。むしろ「こんなことくらいで・・・」と思っているに違いない。私は、そういう点ではこの誹謗中傷は”学校のイジメ”と何ら変わらないと思う。ただ、インターネットを介したイジメであるだけでに、時間も距離も選ばず、誰もが参加でき、また即座に正体がばれないだけに、余計にタチが悪い。

■明日は我が身

「こうした話は、何だかんだでレアケースなんじゃないの?」

そう思う人がいるかもしれない。確かに、スマイリー・キクチ氏の事件の特徴だけで見ればそのような見方もできる。史上まれにみる凶悪犯罪の事件に紐づけされてしまったこと、風評を促す(個人的には悪意があったと思うが・・・)記述をした書籍が出版(北芝健著「治安崩壊」)されてしまったこと、そして何よりもスマイリー・キクチ氏が適度(中途半端)に有名であったこと(あまり有名人だと、どこかのメディアで正式に取りあげられ、あっという間に終息していく可能性が高いだろう)、こういった3つの偶然が重なり、風評被害を助長したようにも思える。

しかし、これを単なる誹謗中傷・・・風評被害・・・という言葉で片付けるのではなく、一種の”イジメ”として見たとしたらどうだろうか? イジメは、国内どころか世界中のいたるところで社会問題になっている。イギリスやアメリカでは、ネットで受けた中傷(”Cyber Bullying”と呼ばれる)をきっかけとして自殺者が増えている、という。日本でも、学校裏サイト※なるものが存在し、子供の間でネットを使ったイジメが横行しているという。

先述したように、インターネットネットは、時間も距離も選ばない上に、匿名性が高いため、対象者の年齢・性別を問わずイジメが横行しやすくなったと言えるだろう。

自分が・・・いや、自分の子供が、身内が、知り合いが、いつこういう事態に巻き込まれるか分からない。

※学校裏サイトとは、その学校に通う生徒達が、学校の公式サイトとは別に、同じ学校に通う生徒間での交流や情報交換を目的に立ち上げた非公式なサイトのことである。こうしたサイトには通常、部外者によるアクセスは制限されており、こうした綴じられた先生や親の目の届かない空間の中で、イジメを行うことも多いと言われている)

■私たちは社会の現実を知り、覚悟を持ち、対処方法を知っておく必要がある

さて、この本・・・約300ページからなるが、巻末には35ページにわたる「ネット中傷被害にあった場合の対処マニュアル」を特別付録がついている。なにしろ「警察に行けばすべて解決してくれる」という他力本願で済むような事象ではないだけに、氏の10年間の体験を通じた対処ノウハウは、実践的で価値が高い。

そして忘れてはならないのが、この本が、こうした事件との戦いの話を通じて、我々を取り巻く社会が以下に不完全か・・・いかに理不尽なことが多いのか・・・について、改めて教えてくれる本だ、ということである。

自分たちの身は自分たちで守らなければならない。そのためには社会の現実を知り、覚悟を持ち、対処方法を知っておくこと・・・これが非常に重要なことだ、と思う。

2011年5月14日土曜日

Googleのブログがシステム障害で20.5時間のダウン

うむむ。Googleにしては珍しい・・・。タイトルに記したとおり過去20.5時間にわたり、システム障害のためこのブログ(Blogger)がダウンしていた。おかげで何も投稿できず・・・。

メンテナンス作業中に一部のデータが壊れ、ブログ(Blogger)のシステム障害を引き起こしていたとのこと。障害解決の過程で、一時的にユーザのブログデータについて、5月11日時点の古いものに戻すなどの作業をしたともある。20.5時間が経過した今では、”ほぼ通常通りに戻っているはず”・・・Googleはアナウンスしている。

しかし、私のブログで一カ所、明らかに直っていないところがある。

ブログ全体のタイトルだ・・・。「全速力の軌跡 起業編」と言うタイトルを「全速力の軌跡」に直し、その下につづく文章も修正してあったはずなのだが、古いものに戻っている・・・。

これは直るのかなぁ。まぁ。何にせよインパクトが少ないのは不幸中の幸いだけど。

週刊ダイヤモンド2011年5月14日号「震災に強い街」


週刊ダイヤモンド2011年5月14日号の特集は「震災に強い街」だが、もっとも面白く読めたのは(特集ではなかったが)≪News&Analysis≫だ。

■供給能力の底力を発揮した企業、発揮できなかった企業

イオンやイトーヨーカ堂、CGCグループや日本生活協同連合会のように震災直後でも、一定の供給能力を保つことができた企業がある一方で、震災1ヶ月後でも調達に苦労した企業(西友など)があった。「この差は何故なのか?」・・・この核心に迫った4ページにわたる記事だ。

集中や分担によるバイイングパワーのアップ、平時からの決め事・・・など、これら企業がうまく動けた理由を色々と挙げているが、基本はやはり”普段からの備え”ではないだろうか。普段からこうした危機にどう動くか、どうリスクをヘッジするか、そういったことをある程度考えておかなければ、迅速な動きは無理だろうなと思った。

■特集「震災に強い街」について

さて、話を戻して特集「震災に強い街」の話だが、その内訳はざっと以下の通りだ。
  • Part 1: 大震災の教訓
  • Part 2: 大震災のリスク
  • Part 3: 安全・安心の街
  • Part 4: 街の復興
以下、一部について簡単な感想をば・・・。

  ≪Part 1: 大震災の教訓≫
東日本大震災で、多くの犠牲者が出る中(2011年5月12日現在、死者行方不明者:24,834人)、多くの命が助かった街が複数ある。そうした事例にこれからの課題解決のヒントを求めようとしている記事だ。

  •  他の街よりも高い防潮堤(15.5メートル)を築いていた岩手県普代村  
  •  低い防潮堤(3メートル)ながら高台に住むことを徹底してきた大船渡市綾里白浜地区  
  •  避難経路と訓練を徹底してきた岩手県岩泉町、大船渡市  
  •  徹底した教育で対応した学校(私立釜石東中学校、私立鵜住居小学校)

 これは今号の中でも比較的興味深く読めたが、本質的なポイントはこれまで他の雑誌で紹介されてきたことと変わらないと思う。多くの人が助かった秘訣・・・それは、つまりハード(物理的な対策)とソフト(人的対策)の関係だ。ハード8割なら、2割はソフトでカバーしなければいけないし、ハード3割ならソフト7割でカバーしなければいけない、ということだ。

  ≪Part 2: 大震災のリスク≫
実は、この記事が今号を買ったきっかけである。コンビニでパラッと見たときに、日本の主要都市における液状化や震度予測、水害マップについて結構綺麗にまとめられていたので、思わず買ってしまった。災害における被害予測データなどは、内閣府や国土交通省※、各地方自治体などでインターネット上で簡単に入手することができるが、なかなか、パッと一覧でみることができるようなスマートにまとまったサイトはない。 

ただし、この記事が仕事や家庭において素晴らしく役に立つ・・・というものではない。あくまでも個人の興味を満たすためだけのものだ。改めて自分の住んでいる地域、親戚や知人の住んでいる場所が立地的にどうなのか、ぼーっと眺めてしまった、という感じだ。

 ※例えば、国土交通省では「ハザードマップポータルサイト」なるものを公開している。

  ≪Part 3: 安全・安心の街≫
ダイヤモンド社お得意のランキング系の記事(震災に強い街ランキング)が載っている。各地方自治体においてどの程度の防災対策が取られているか、被害想定をどこまでしているか、財力はどこまであるか、などといった観点でランキング化したものだ。

ただ、申し訳ないが、個人的には数字や色がゴチャっとしていて意味がわかりづらい。とりあえず自分のいる横浜市を見て「ふーん、普通だな・・・で?」・・・そういった感想しか出てこなかった。 


Part4については特に感想はなし。今号については、こんな感じ。

2011年5月9日月曜日

日経ビジネス5月9日号「不動産ショック」

日経ビジネス2011年5月9日号のテーマは「不動産ショック」。まだまだ震災に強く関係する記事が中心だ。自分なりに様々な雑誌に目を通しているつもりだが、毎回、初めて聞く話が何かしら出てくる。


大規模な電源設備を予め備えていたおかげで被害拡大を食い止めることができた企業として、キリンビールや、エルピーダメモリ、コマツなどが紹介されている。特にエルピーダメモリの11万2千キロワットの出力を持つ広島工場のコージェネ設備を写した写真は圧巻だった(さりげなく三菱のマークが目立っていたりする・・・笑)。

また、東北リコー社長の話 ≪実践の奥義≫大震災対応のBCP「想定外の断水を克服」を興味深く読めた。3月12日に開いた対策会議で操業停止を決めるも、電話が輻輳して利用できなかったため、自宅にいる社員にどうやって伝えるか苦労した話は、なるほどな、と思った。

他にも今回の号では色々とタメになる記事があったが、ここで個人的に取りあげてきたいのは以下の2つだ。

  • ≪リポート≫企業の災害対応に新潮流 「被災地支援が事業を磨く」
  • ≪渦中のひと≫西久保愼一 スカイマーク社長の告白「不透明な運賃をぶち壊す」

■≪リポート≫企業の災害対応に新潮流 「被災地支援が事業を磨く」

このリポートでは、震災から何週間か経って多くの企業が被災地支援から手を引きはじめる中、大きな貢献を続ける(あるいは、つい最近まで続けていた)企業にスポットライトを当てたものだ。

・すかいらーく・・・被害者ゼロまで炊き出しを続ける
・三城ホールディングス・・・めがねの提供に一手間かける
・エイチアイエス・・・埋もれたニーズに応えるプラン

こうした活動は、短期的な視点を持っていては実現できないものだ。なぜなら、短期的には莫大な費用がかかるからだ。事実、すかいらーくはこうした活動に3億円前後の費用がかかると見積もっている。この記事で、わたしが思い起こされるのは、先日、5月5日子供の日に訪問・インタビューさせていただいた仙台の企業だ。この企業では工場の8割が津波によって流されるも1週間後には片ハイながら、事業を再開している。その企業の常務が強調されておっしゃっていたのが、共助(助け合い)の重要性だった。

『被災時には、本当にたくさんの方に助けていただいた。』

当然、自分がどうしたら助かることばかりを考えていては、いざというときに誰も助けてくれない。常務は次のようにも述べている。

『日頃から、ネットワークを大事にしていたお陰もあると思う。外部委託しなくていい業務でも、あえてお願いして関係を築く努力をしてきた部分もある。それが本当に生きた。それがなければ、いくら立派なハード(BCP文書)が整備されていても事業は再開できなかっただろう。また、被災したときには、自分たちは何が地域や被災者に対して何ができるのか・・・こうしたことも真剣に考えて、実行できるようにしておかないといけないと思う』

NHK解説委員の山崎氏が書いた「地域防災力を高める」でも同じように共助に重要性を指摘している。本に寄れば、阪神大震災では、要救助者3.5万人のうち2.7万人(約80%)が近隣住民などにより救出されたそうだ。

もちろん、単なるボランティアでは企業がつぶれてしまいかねない。将来的には企業の利益につながり、短期的には被災地域の貢献にもなる・・・こうしたウィン・ウィンの関係を築く努力をすることが今の企業には求められているように思う。

■≪渦中のひと≫西久保愼一 スカイマーク社長の告白「不透明な運賃をぶち壊す」

この記事は地震とは関係ない。厳しい飛行機業界において、日本のLCL(ローコストキャリア)として息を巻く西久保愼一社長へのインタビュー記事だ。スカイマークでは、超巨大飛行機で有名なA380を活用し、国際線のビジネスクラスに、低価格フライトを持ち込もうと計画している。

『・・・ビジネスクラスはまだまだ高い。JALやANAの欧州や米国の路線では、正規運賃だと70万円以上の場合が多い。ビジネスクラスの座席空間は確かに広ですが、それでもエコノミーの2.5倍程度。しかし価格では6~9倍の差があります・・・(中略)・・・ビジネスクラスで30万円前後、プレミアムエコノミーで15~20万円を考えています・・・』

これは上手い!と思った。なぜなら、このサービスは私のような海外渡航の多いビジネスマンをターゲットにしているのだと思うが、まさにその当人であるわたしが「ぜひ使いたい!」と思ったからだ。ビジネスクラスは確かに高い。かく言う私もビジネスクラスには乗ったことはない。いつもエコノミーか、運良くアップグレードしてもらったプレミアムエコノミーを利用している。スカイマークのこのターゲッティングは機能するのではないか。

もちろん大手2社は指を口にくわえてぼーっと見ているわけにはいかない。ANAもLCL会社(A&F・Aviation(エーアンドエフ・アビエーション))を設立したという話だ。ただし、価格競争が激化することは間違いないだろうから、LCLの別会社を設立して闘うとは言え、大手2社の利益率は中長期的に下がっていかざるを得ないだろう。

ところで今回のような震災においては、大手2社が臨時フライトを出すなど、有事対応力を見せた。価格競争で三社が疲弊して、不測の事態に対応できる体力がなくなってしまわないように留意することも必要だ・・・なぁんてことを思った。

2011年5月8日日曜日

商評: 劇落ちくん


”劇落ちくん”という商品がある。今日、友人に教わって初めてその存在を知った。ドイツ生まれの商品でメラミンスポンジと呼ばれる素材らしい。

その名の通り、落ちる、落ちる。

今日の今日まで、いくらやっても落ちなかった白壁についた汚れ、ソファーの染み、床の汚れ・・・全部、落ちて、超感動。いや、ものすごく感動しているのは、私と言うよりも妻の方か・・・。今、横で取り憑かれたように掃除をしまくっている。


やみつきになりそうだ・・・。正直、ここまで感動した商品は久しぶりである。劇落ちくんには、類似品が多数でているようだ。ちなみに以下は、コーナンで販売されているバッタもん・・・という言い方は正しくないかな、劇落ちくんを真似て発売されたメラミンスポンジの後発商品である。効果は同じ印象だ。

日経トップリーダーの取材


正直・・・あまり自慢できた話ではないが、記録として残しておきたいので、あえてここに書いておくことにする。

リスクマネジメントコンサルタントをやっている関係上、3月11日の東日本大震災以後、取材を受けることが多くなった。その中に日経トップリーダーという雑誌があるのだが、計画停電というテーマで掲載された(今回は、本当にほんの少し・・・)。

当たり前のことではあるが、計画停電対策で考えるべきは、以下の3つだということを述べた。

・停電しなかったときに向けての対策(節電対策)
・計画停電が起きたときの対策(計画停電対策)
・計画停電が機能しなかったときの対策(突発停電対策)

今朝の日経新聞では「浜岡原発の停止により、東京電力が100万キロワットを西から融通してもらうことが難しくなった」と掲載されていた。いよいよ今年の夏に向けて、電力がどうなるか分からない。いずれの場合でも慌てることのないよう、事前に考えておきたい。

商評: ハリナックス8枚タイプ


日経新聞の生活欄でこの商品を見つけて、購入を即決。以前から4枚を針なしで綴じることができる商品が出ていたのは知っていたが、あまり実用性を感じていなかった。しかし、今度出た商品は8枚タイプだ。これはいけるゾ、と思った。

商品を手にするまで、どんな仕組みで綴じるのかはよく知らなかった。なんとはなしに、圧力で紙同士をくっつけさせるのだろうか・・・なぁんてことを想像していた。

ところが実際に商品を使ってみてビックリ。なんと、紙を切り込み、中に織り込んで、挟み込む・・・という非常に器用なことをやってのけるのだ。日本人らしい、細かい発想だ。

実際に紙を綴じてみた。


表側


裏側

実は、私がコンサルをさせていただくお客様の中には「ホチキスでとめた資料は持ち込まないでください」という要望をだされる方もいらっしゃる。これは別にエコのため・・・ということではなく、食品を扱っている会社のため、万が一を考えて、小さい異物を混入させたくないという配慮からのお願いである。

このようなお客様にも、その威力を大いに発揮できる嬉しい商品だ。

====2011年8月1日(追記)=====
このアイテム、父への誕生日プレゼントとして贈ったのだが、「どうも穴が美しくない」という感想が返ってきた。会社の仲間にもそういった旨を話したところ、「同意する」との答えが。どうやら、気に入っているのは私だけのようだ (^_^;)

2011年5月7日土曜日

書評: ユニクロ帝国の光と影

英語に"Devil's Advocate(デヴィルズ・アドヴォケット)"という言葉がある。これは、何かについて議論をする際に、マジョリティとは別の視点から物事を検証し、より洗練された答えを導くために、故意に反対側の立場に立ち意見する人のことを指す。ディベートでのキープレーヤーだ。

以前、このブログでも書いたが欧米ではこうしたディベートが盛んで、メディアの報道姿勢もこれに沿ったものが多い。どんなテーマであっても、賛成派の意見を伝えるだけではなく、反対派の意見も伝えようとする。たとえば、CNNではエジプトのムバラク政権を追い込もうと反政府側が勢いづいていた時期に、反政府側と政権側の両方の主張を拾って公平に伝えようという姿勢が見られた。

まさにこれと同じ理由から、今回、読むことにしたのが次の本である。

「ユニクロ帝国光と影」 横田増夫著
文藝春秋出版(1,429円)


ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が執筆した『一勝九敗』を読んだのは今年3月だ。柳井氏のことを理解したつもりではあったが、所詮、1冊の本から氏を見ただけに過ぎない。別の角度から眺めることで、より本当の柳井氏・・・そしてユニクロ帝国とは何たるかを知ることができる。そんなわけで、たまたま足を運んだ本屋の店頭にあったこの本を見つけて迷わず買った次第である。

この本のカバーに書かれている文句が、まさに中身の全てを集約しているような感じだ。

「なぜ、執行役員が次々と辞めていくのか」
「なぜ業績を回復させたにもかかわらず玉塚元一氏は辞めさせられたのか」
「なぜ中国の協力工場のことを秘密にするのか」
「柳井正の父親による●●とは何なのか」
「誕生の地、宇部からユニクロ躍進の秘密を握る中国へ」
「そしてライバルZARAの心臓部スペインへ」
「グローバルな取材であぶり出す本当の柳井正とユニクロ」


■Devil's Advocate(デヴィルズ・アドヴォケット)を演じる著者の横田氏

「ユニクロ帝国の光と影」と題されているが、基本的には”影”の部分に多くの焦点を合わせた、まさにDevil's Advocateを演じている本だと言えよう。柳井氏やユニクロに対する一方的な賞賛に「ちょっと待った!」をかけ、あらためて読者が自分なりの視点で考えなおす機会を与えてくれる本である。

いくつか例を挙げたいと思う。

【ユニクロ中国工場問題】
著者の横田氏は、長時間労働を理由に「ユニクロが一方的に中国工場で働くワーカーを搾取しているのでは」という疑問を投げかけている。氏は実際に現地まで足を運び、ユニクロの製造ラインで働く社員や工場長から得た不満の声を紹介している。また、ユニクロと非常に似ており何かと比較されがちなGAP(ギャップ)の製造ラインで働く社員にもインタビューを敢行し、各会社での声の違いを指摘している。

このような話を聞くと「なんだ、柳井氏という大富豪が誕生した裏には、こうしたひどい搾取が存在するからなのか。こんなビジネスモデルはすぐにメッキがはがれる」と思わされる。しかし、ここでふと思うわけである。「いや、待てよ。搾取しているのは、工場のオーナーかもしれないじゃないか。いや、それよりも何よりも、そこまでユニクロがひどい取引条件をつきつけてくるというのなら、つきあいをやめればいいじゃないか。でも、インタビューを行った工場の多くはユニクロと10年来のつきあいを続けている。なぜなんだ?」と。

わたしの頭の中では、そのような思考が働いたのだが、本を読み進めると終わりの方にではあるが「なぜユニクロとのつきあいをやめないのか?」という疑問に対する答えが載っていた。それを読むにつけ、いよいよ「横田氏のような疑問を投げつけるのは妥当なことではあったが、その疑問の答えとして、ユニクロが搾取しているというのは言い過ぎではないか?」と自分なりに結論づけるわけである(もちろん、これはあくまでも私の結論であり、読む人によって考えが異なるかもしれない)。

【店長の年収問題】
横田氏は、本の中で次のように述べている。

『柳井氏が「いい人材を確保するためにアパレル業界の水準を上回る給与を払っています」というが、果たしてその金額はユニクロの店長の長時間労働とその膨大な仕事量とにみあっているのかという疑問が残る。』

横田氏がそう主張する背景の1つには、柳井氏が著書『一勝九敗』の中で「店長は平均でも1,000万円以上とることができ」「3,000万円の年収も可能」と書いてあるくせに、そうした年収をもらう店長にインタビューできた試しがないということ、そして、実際にみな口を揃えて長時間労働にならざるを得ないと答えていること、実際に店長の業務マニュアルに規定された業務量が膨大であること、にある。

私自身この指摘が気になって、再度『一勝九敗』を読み直してみたが、柳井氏が著書の中で「店長は平均でも1,000万円以上とることができる」という誤解を与えるような表現をしたことは事実である。また確かに、業務マニュアルに規定されているという勤務内容を見ると、長時間労働にならざるを得ない印象を持たされる。あわせて、ユニクロの店長は離職率が高いという事実も気になる。さらに、年収一千万円もらえるスーパースターと呼ばれる店長が1999年の制度スタート時点の16人に比べむしろ減っている(現在は約11人)というのも気になる。

この点については説得力のある指摘だと思った。確かに、アパレル業界の水準を上回る給与であるならば、離職率がもう少し低くてもいいのではないか?・・・そう思ってしまう。ただし、気をつけたいのは「あぁ、やっぱりユニクロは悪い会社なんだ」と結論を急いでしまうことである。年収に見合った労働時間でないことと、そこで働く人がみんな不幸せかどうかということは、また別の問題である。横田氏がインタビューできたのはユニクロを辞めた人ばかりであるので、現役でまだ働き続けている人にインタビューすればまた違った答えが得られるかもしれない。

と、わたしが実際にこの本を見てどのように感じたかを見てきたが、いずれにしても、どのような結論を下すかは読者自身だ。この本はそのきっかけを与えてくれているに過ぎない。「ユニクロを糾弾している本」ではないことに留意したい(もちろん、横田氏の文体は、週刊誌のような、一方的に誤解を与えるようなものがところどころにあるようには感じるが・・・)

■徹底的な調査を行っているところはさすが

ところで、著者のジャーナリスト魂には頭が下がる。横田氏は『アマゾン・ドット・コムの光と影』を書くにあたって、アマゾンの物流センターで半年間実際に働いたそうである。同じように、今回のこの本でも書くにあたって、できる限りの調査を行っている姿勢が伝わってくる。

・雑誌や書籍(『一勝九敗』、『失敗は一日で捨て去れ』、日経ビジネス、週刊ダイヤモンド・・・その他書ききれないほど多数)
・柳井氏の出生地への訪問
・ユニクロで働いた従業員へのインタビュー
・ニトリ社長へのインタビュー
・中国工場でのインタビュー
・ZARAでのインタビュー
・柳井社長へのインタビュー、など

ここまで徹底取材を重ねて、ユニクロ、いや柳井氏に対する検証を行った書籍を私は知らない。だからこそ、彼が投げかける疑問の多くが、妥当性を帯びているものであることを実感できる。

■柳井氏、そしてユニクロの成功の謎を知りたいという人に

これは”あくまでも私の私見”であることを前提とした上で、私が『一勝九敗』『ユニクロ帝国の光と影』をとおして見た柳井氏像は以下のようなものだ。

・経営が誰よりも好きな人
・経営の才覚に長けた人
・ユニクロを自分の子供として見ている人
・誰よりも高い目標を掲げ、強力な実行力が伴う人
・自身を客観的に評価できる人
・人を育てることが苦手な人
・人を褒めることが苦手な人
・まじめで誠実な人

みなさんはどう感じるのだろうか。

さて、柳井氏は2009年「日本の富豪40人で61億USドル(約5,700億円)で日本人首位となったそうだ。2010年には柳井氏の念願のニューヨーク進出を果たしている。まさに快進撃を続けている・・・そんな企業である。

そんな企業を作り上げた柳井氏の人物像を知りたい・・・そう思うのは私だけではないはずだ。


2011年5月5日木曜日

震災2ヶ月後の仙台にて

前にも触れたが、私はリスクマネジメントコンサルタントである。お客様が大きな事故・災害に遭遇しても、従業員の命を助け、ひいては事業を速やかに復旧させることができるように、どのような備えをしておけばいいか、支援するのが仕事の1つだ。

当然のことながら、今回の震災を次に活かさなければならない

5月5日こどもの日、とある会社様の暖かいご協力のおかげで、大変貴重な機会を得ることができた。この会社は「ガイアの夜明け」でも取りあげられたお客様だが、工場の8割が今回の津波によって流されるという大きな被害を受けた企業である。にもかかわらず、被災1週間後には、部分的でありながらも、操業を再開させるという快挙を成し遂げたのである。今は、自分たちの会社・・・そして、コミュニティ全体の完全復旧に向けて、社員一丸となって日夜頑張っている。


3つあったはずのタンクのうち2つが流された跡

大被害を被ったにも関わらず、どうやって復活の足がかりをつかむことができたのか、そのヒントを得るためにわたしは現地に向かった。

いずれ別の形で、今回の”学び”についてまとめる予定なので、あえてここには細かい話の内容を書かないが、1つだけ間違いなく言える(と心から感じた)ことは、この会社が早急に操業再開にこぎつけることができたのは、”決して偶然ではなかった”ということだ。

ところで、5月5日の日経新聞朝刊では「堤防といった物理的対策だけに頼る、いわゆる”ハコモノ防災”には限界があることが証明された」と言う記事が掲載されていた。このように今、世間ではしきりに、大災害に対しては「ハード面(物理的な対策)・ソフト面(人的対策)」のどちらか1つだけ整備されていても駄目で、両方揃っている必要がある・・・と叫ばれている。少なくとも今回お話を聞かせていただいたこの会社様は、その両方がバランスのとれた組織であることが、非常に良くわかった。

企業が苦難に直面しても、常に前を向いて歩みを進めることができるよう、ここでの”学び”を、日本全国・・・いや、全世界に広めたい、と心から思う。


宮城県仙台市若林区にて

===追記===
わたしも3年間ほど、仙台市多賀城に住んでいたことがある。今回、この地区を見て回ったが、私が通っていた学校などは高台にあったため、被害を受けていなかった。安心した。

===追記(2011年6月12日)===
我が社のホームページに、本件に関しての”学び”を記事として掲載させていただいた。興味ある方は、ぜひご一読あれ。

想定外を乗り越えたBCPの軌跡~オイルプラントナトリ http://bit.ly/kg9FrU

2011年5月2日月曜日

日経ビジネス5月2日号 「消えた外国人労働力」


日経ビジネス2011年5月2日号のテーマは「消えた外国人労働力」~日本人だけで職場は守れるか~。東日本大震災から2ヶ月近くが経とうとしているが、相変わらず記事の9割は地震絡みの話だ。同じ5月2日の日経新聞朝刊には”労働力”ではないが留学生について、似たような記事が踊る・・・。留学生、「日本離れ」~新学期に再来日せず入学辞退・・・。

ただし、私の性格がねじ曲がっているせいなのか、例によってスポットライトがあたる記事にあまり興味はわかなかった。今回、興味を引いたのは以下の記事だ。
  • ≪危機対応の研究≫ 新幹線、50日で復旧
  • ≪技術&トレンド≫ シェールガス、世界で採掘ブーム始まる
  • ≪特集≫リーダーが語る復興
■≪危機対応の研究≫ 新幹線、50日で復旧 

4月25日には東京-仙台間の新幹線の運行が再開された。3月11日の被災から、44日目のことである。そんな新幹線が実際にどのような被災をし、どのように早期復旧に向けて取り組んできたかの取材結果を5ページにわたって掲載している。取材によれば、3月11日の本震災により実に1,200にも及ぶ箇所が、また、4月7日の大きな余震では、約550カ所が被害を受けたそうだ。にも関わらず、結果的には阪神大震災(約3ヶ月)や新潟意見中越地震(66日)のときよりも早い復旧にこぎつけた。記事には、この裏にあった様々な努力・苦労について書かれている。 わたしは2つの点で驚いた。1つ目は、余震の影響の大きさ。本震か余震か・・・なんて、人間が勝手に作った定義なので、地震を起こす方からすれば知ったことか・・・とったところだろうが、それにしても1ヶ月の間に2回も、地震によって大きな被害を受けるとは・・・。地震で倒壊した建物は少ないと聞くが、高度な技術が集約した新幹線は、さすがに「ビクともしない」とは言えないようだ。 とは言え、復旧のスピードはたいしたものだ。これが驚いた2点目。上述したように、過去の震災よりも被害が圧倒的に大きかったのにもかかわらず、復旧が早く済んだというのは快挙以外のなにものでもないと思う。もちろん、日本の大動脈はもっともっと強固である必要がある。まだか、まだか、と不満を募らせた人もいただろう。だが新幹線の災害対策は、正しい方向へ着実に歩みを進めている・・・。そんな印象を受けた。

■≪技術&トレンド≫ シェールガス、世界で採掘ブーム始まる

”シェールガス(shale gas)”というものあるらしい。その名の通り天然ガスの一種だが、通常われわれが利用するガスに比べ、採掘が難しくコストに見合わないとされてきた。ところがここにきて技術革新が進んだことで、従来よりも安価に採掘することが可能になり、エネルギー業界に激震をもたらしはじめている。2035年には天然ガス生産の46%を占めるのではないか、と予測されているほどだ。福島第一原発の事故の影響で、全世界で原発使用に「待った!」の声がかかる中、火力発電所の原料であるLNG(液化天然ガス)の入手は、価格の面から困難になるのでは?と懸念されていたが、どうやら杞憂の終わりそうだ・・・とのこと。 とにかく今回、この記事を読んで”シェールガス”という言葉をはじめて知った・・・ことが収穫・・・かな。 ちなみに、日本国内にこのシェールガスが存在するか、というとそういうことではないらしい。しかも、火力発電所の燃料・・・ということで、クリーンエネルギーを促進するものではないようなので、そこは注意が必要だ。

■≪特集≫リーダーが語る復興

YKK AP、NTTドコモ、NTTデータ、NEC、富士通、曙ブレーキ工業の社長が今回の震災を通して苦労したこと、学んだこと、そしてこれからのことを語った記事だ。非常にためになった。

これらリーダー達が語ってくれた”これからの課題”の中で個人的に興味深かったものを挙げておくと

【NTTデータ】
・データセンターの発電機用の重油は3日超用意する
・システムを異なる電力館内のセンターに分散させる

【NTTドコモ】
・電話基地局のバッテリー(3時間)の強化をする
・衛生移動基地局車を現在(10台)の2倍にする
・断線対応のためマイクロ波のネットワークも用意する
・ボイスメールのサービスを検討する

【富士通】
・2次、3次といったサプライヤ供給能力まで調べておくようにする

とりわけ富士通の山本社長の「2次、3次のサプライヤ供給能力まで調べておくようにする」という発言は、サプライチェーンマネジメント全体に関わる話であることから、富士通一社だけの話ではなく、業界全体に向けての発言とも受けてとれる。上流にいる企業おいても、下流にいる企業においても、ますます「事業継続計画(BCP)」が注目されるということだろう。

===(2011年8月8日追記)===
日経ビジネス2011年8月8・15日号に再びシェールガスが取りあげられていた。技術的な可採埋蔵量(単位は立法メートル):

1位中国(36兆1000億)
2位米国(24兆4000億)
3位ポーランド(5兆3000億)
4位フランス(5兆1000億)
5位英国(6000億)
6位ドイツ(2000億)

ポーランド以外は経済で他を圧倒している国ばかりだ。日本に見つからんかねぇ。

===(2012年7月9日追記)===
2012年7月9日号の日経ビジネスに「欧州ガス事情に安堵するロシア」という記事が掲載された。
シェールガスが思ったほど脅威にならない、というのが趣旨だ。背景には、シェールガスの代表的な採掘法(水圧破砕法)が大きな環境汚染をもたらす可能性のあるものとして、ヨーロッパ各国が禁止措置をとりはじめたという事実がある。

しかも推定埋蔵量に誤りがあるという。たとえば、ポーランドでは5兆3000億と言われてきたが、実際にはこれよりも90%少ない3500億~7700億㎥ではないか、とのこと。エクソン・モービルはポーランドから撤退したともある。

どう転がるかわからないエネルギー業界。これからもますます目が離せない。

===(2015/01/25追記)===
昨年の夏、アメリカはテキサス州のサンアントニオに出張する機会があった。そのときに感じたのは、足利義満。シェールオイルの出るテキサス州では、この世の栄華を極めているような・・・そんな金満ぶり。明らかにアメリカ経済は潤っている・・・とそう実感したのだ。振り返れば、3年以上も前の日経記事(上記参照)を読んだとき、「ふーん、そんな技術もあるんだなー。でも、本当に世界を揺るがすほどの技術なのかな」と半信半疑で思ったものだが、いま、完全に強大な影響力を持つ技術になっている。シェアを失う一方のサウジアラビアは怒って、価格安定化の努力を放棄したし、その影響を受けて原油価格が急落し、エネルギーで持っているロシアなどはルーブルが急落中。先日、同じ余波を受けて、採算が合わなくなり、シェールオイル事業を営む一部アメリカ企業が倒産した。ちなみに、2011年に追記した「可採埋蔵量」はあまり現時点での論点にはなっていないようだ。石油を利用する化学会社(たとえばエチレン系など)は、戦い方や戦う土俵をガラリと変えないと生き残れない時代になった。スピード勝負だ。

ますます、目が離せない。

日経コンピュータ2011年5月12日号 「真実のデータをつかめ」

会社で「日経コンピュータ」を購読している・・・(それにつけても日経BP社の雑誌に取り囲まれ過ぎかもしれない(苦笑))。自分はもともとシステムエンジニアだったので、コンサル中心の業務に従事する今でもIT系には強い興味があり、こうした雑誌にもほぼ毎号目を通している。


■リアルタイムデータウエアハウス

2011年5月2日号の特集は「真実のデータをつかめ」。ITの世界では、ストレージの大容量化をはじめCPUの高速化といったハードウエア性能の劇的な向上が、ソフトウエアの進化とあいまって、経営者の欲しい情報がよりスピーディによりわかりやすい形での提供を可能にしてきた。特集では、「真実のデータ」を即時に利用者に届けるリアルタイムデータウエアハウス(リアルタイムDWH)について、北陸コカコーラや双日の事例を紹介している。

■節電とIT

このほか、やはり東日本震災絡みのネタははずせない。「節電とIT」をテーマにした記事も掲載されている。

記事では、情報システム部門が夏前に実戦可能な節電対策として「1. データセンター事業者に預ける」「2. 西日本・北海道に移設する」「3. 場所は変えずに節電する」といった3つの選択肢を紹介している。

ここで個人的に注意を喚起しておきたいのは、やはり”システム停止を発生させないための対策”も大事だが、”システム停止が発生した場合の対策”も大事、ということだ。これは福島第一原発の事故で多くの人が嫌というほどその大切さを味わったはずだ。節電が功を奏せず停電が起きたときに「どのようなインパクトがあるのか?」「耐えられるのか?」「耐えられないのなら、何か事前に準備しておいたほうがいいことはないか?」そういった(BCP的な)観点で自社のシステムを見つめ直す時間を数時間でもとる・・・これが重要だと思う。

■動かないコンピュータ

今号で一番面白かった・・・(いつも、おおよそ同じ類の記事に反応ばかりしているが)のが、≪動かないコンピュータ≫である。

ここでは資格取得に関わるサービスを提供することで有名なTAC(タック)において起きた事件を紹介している。タイトルは「予備校システムの刷新を注し 開発費の返還求めベンダーを提訴」。内容はざっと次の通りだ。

TACがシステム刷新を注しせざるを得なかったとして、委託先の加賀ソルネットを提訴。TACは5億1300万円の損害賠償を請求。加賀ソルネットは「システムは完成していた」と反論、未回収の2億1000万円を求めて反訴した。』

ITベンダーの人は「またか!?」と思うだろう。ITシステムが高度化・複雑化した世界では、開発プロジェクトは長期にわたり、なかなか、プロジェクト管理もさることながら、顧客の期待値調整を図ることはかなり難しい。スルガ銀行が勘定系システムの開発案件について111億円をIBMに求めた裁判を起こしたことはまだ記憶に新しい(2008年3月のこと)。

ただ、この記事が興味深いのは、受託側である開発会社の加賀ソルネットは実際の開発を更に別の会社に委託していたのだが、そこがプロジェクト期間中に倒産してしまったことである。これがプロジェクトの歯車を大きく狂わせたのは間違いない。記事を読むと、裁判にいたる全過程が説明されているが、裁判に訴える手前の最後の方の両社のやりとりは「どちらが正しい」とかそういった次元の話ではないような印象だ。完全にお互いに対する信頼残高がなくなった状態でプロジェクトを進めようとすれば、負のサイクルに入ったも同じで、どんなに”正しいこと”をやっても、よっぽど歩み寄る努力をしない限り、そのサイクルからは抜け出せない。裁判への道まっしぐらである。

ある意味人間の心理に近い。おそらくこうした裁判はこれからもなくならないだろう。

2011年5月1日日曜日

危険な崖滑り (動画あり)

小学校1年生の息子がどうしても遊びに行きたい場所があると言う。どうやら、先日、友達と遊びに行ってきたことのある場所らしい。「一緒に行こうよ」と言ってきても最初は曖昧な返事をしてごまかしてきたが、

「行きたい、行きたい!」

とあまりにしつこく言うのでついに根負けして昨日、行ってきた。なるほど、行きたがるわけである。思った以上に急な勾配で、かといって、大けがをするほど急角度ではない。まわりではどろだらけになりながら、子供達が滑っていた。どんな感じかと言うと、こんな感じである。


これでは泥だらけにならないほうがおかしい。小さいシートをお尻にしいて滑っている無謀な親子もいたが、言うまでもなく、そんなお父さんのジーパンのお尻は破けそうになっていた。

さて、息子はと言うと・・・3~4回自分で滑った後に、私のところに来た。

「一緒に滑ろう!」

と、まぁ、一緒に遊びに行けば、当然こうなるわけで・・・。

しかし、私もただ滑るだけではもったいない。せっかくなので、どれだけスリルがあるものかと動画を撮影してみた。こんな感じである。


ぴかぴかに磨いてあった革靴が埃まみれ。若干後悔したが、また、行きたい・・・。そんなことをふと考えている自分がいたりする。

書評: 丁稚のすすめ

さて、今回、読んだのはこの本だ。

「丁稚のすすめ」 ~夢を実現できる、日本伝統の働き方~
秋山利輝著 幻冬舎出版(1,400円)


出会いのきっかけは、実は昨年。アメリカ(シアトル)に向かう飛行機の中、シートテレビで何気なしに見た「ガイアの夜明け("ゆとり世代”を鍛えろ!~人間性をみがく魂の人材育成~)」だった。

強烈なインパクトがあった。間違いなく日本・・・いや、世界最高峰の技術を持ちながら、人を育てるプロでもあろうとするその徹底した姿勢。そこに日本で忘れられつつある真の”職人”というものを見た気がした。その場で、すぐに”秋山木工”という名を手帳にメモした。

さて、その秋山木工を経営する秋山利輝氏だが、いったい誰なのか?

『1943年奈良県生まれ。中学卒業とともに、家具職人への道を歩み始め、1971年に秋山木工を設立。氏の家具は迎賓館や国会議事堂、宮内庁、有名ホテルなどでも使われている。スパルタ教育で職人を育てる独特の研修制度でも注目を集めており、テレビや雑誌の取材も多い』

■人間性6割、技術4割

この本は、秋山利輝氏が実践する研修制度・・・徒弟(とてい)制度について、弟子選びにはじまって、仕事上・生活上のルール、弟子への接し方、独立のさせ方・・・その全てを語っているものだ。もちろん、テレビ番組で触れられてはいない内容も多く含まれている。

文中、氏は次のように語っている。

『職人とは”人間性6割、技術4割”だと考えています』と。

職人と言えば、自分の腕で飯を食う人たちのはずだ。なぜ、そこに人間性6割が入り込む余地があるのか?

氏によれば、そもそも”できた職人”とはお客様の前で自分の腕前をスマートに披露できる人なのだそうだ。たとえば、どんなに事前に寸法を測っておいたとしても、設計図どおりに1寸の違いなく作ることができたとしても、お客様先へ運んだときに最初からピッタリとフィットしないケースはゴマンとあるのだそうだ。そんなときでも、慌てず堂々とした態度で、お客様と知的会話を弾ませながら、お客様になるべく仕上げの作業を見せずに短時間でフィットさせるように仕上げる・・・そう、つまりパフォーマーでなくてはならない、と言っている。

これは言い替えると、立派な家具を作ることが職人の目的なのではなく、立派な家具を(いわば”魔法のように”)作ることを通じてお客様に信頼と喜びをあたえる・・・それができるのが”真の職人”ということなのだろう。技術一辺倒の人間ではこれができない、というわけだ。

そして技術を伝えるだけなら本を読んでもらったり一般的な指導で事足りるかもしれないが、人間性を育てるためには寝食をともにしなければ伝えられない、という。それゆえの徒弟制度なのだ、と。

■ルール全てに理由がある

私は徒弟制度というと、師匠が先輩を敬う場であること、そして、理不尽さを教える場であること、といったことを漠然と思っていた。「世の中には理屈の通らないこともあるんだよ」ということをいわんがために、意味もなく無理難題を弟子に押しつけ、苦労させ、世の大変さを分からせる・・・そんなことばかりの世界なのかなと思っていたのだ。

実際、秋山氏が取り入れているルールは厳しいものばかりである。

・朝5時に起床、6時からジョギング
・頭は坊主
・平均睡眠時間3~4時間
・最初の4年間は恋愛一切禁止
・8年後には会社を辞めさせる、など

研修初日には、自己紹介だけでなく、同期の同僚紹介を完璧にできるようになるまで何時間でも続けさせる・・・なんてこともするそうだ。

しかし、本の中ではこうした1つ1つのルールについて、きちんと理由を説明している(もちろん、叱られる本人にその理由を伝えているかどうかはわからないが・・・)。そして、その理由1つ1つがいちいち筋がとおっているのだ。

ちなみに、私が個人的に面白いなと感じたのは、恋愛一切禁止の理由だ。その理由は、最初の4年間は一人前になるために、一心不乱に仕事に集中して欲しいからだと言うが、次のようにも述べている。思わず納得して、うなってしまった。

『輝いているときに恋愛をした方がいい、ということです。自分が輝いているときの方が、相手のことを深く見ることができ、良い関係を築けると思うのです』

■秋山利輝氏の存在を知っている人も、知らなかった人も・・・

秋山利輝氏の存在を知らなかった人には、チャンスがあればぜひ読んでもらいたい本だ。私のようにテレビを見て彼の存在を知っていた・・・という人も、先述したような1つ1つのルールの背景・・・そして、そのような仕組みを作った人物・・・秋山利輝とはいかなる人か?その生い立ちを知ることができるという意味で、この本を読む価値は十分にある(ただし、あっという間に読めてしまうので、中には分量的に物足りなさを感じる人がいるかもしれない)。

そもそも人間性6割、技術4割・・・この考え方は、木工職人に限らず、ほかの多くの人にも当てはまることではなかろうか。

専門家の人には、人に教えることがいかに自分の技術を高めることにつながるかという事実を知ってもらいたい。会社のマネジメントの立場にいる人には、人を育てるということがどういうことなのかを知ってもらいたい。自分の将来に悩んでいる若者には、苦労しているのは自分たちだけではないのだということ、そして秋山木工のようにやる気のある人を受け入れてくれる場があるのだということを知ってもらいたい。そして子を持つ親にも読んでもらいたい。先述したとおり秋山氏は人間性を教育するには寝食ともにする必要があると語った。最も寝食共にできる人・・・それは誰か? 学校の先生でも会社の上司でもない。それは親である。親こそ我が子に、人間性を教える立場に・・・最も身近にいる存在なのである。子に何ができるのか、すべきなのか、そのヒントを得るためにも読んでもらいたい。

本書は、そんな本である。



※(参考)秋山木工のホームページ → http://www.akiyamamokkou.co.jp/

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...