2013年12月30日月曜日

書評: 「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法

「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法
著者: 鈴木 博毅
発行元: マガジンハウス

レビュープラス様から献本いただきました


■KYにならないためのすすめ

誰しも「KYな人(=空気が読めない人)」とは言われたくない。少なくとも「空気が読める人」くらいにはなりたいもの。本書は「空気を読める人」になりたいという人はもちろん、「空気を変える人」になりたいという人の望みをかなえる指南書である。ところで、そもそも「空気」とは何だろうか。

・空気が読めない
・空気に飲み込まれる
・空気を変える
・空気を支配する

本書では、こうした表現にも使われる「空気」を「ここで”それは検討しません”という暗黙の了解(ルール)のこと」と定義している。つまり、「空気が読めない」とは、「暗黙のルールが何かがわからない」、「空気を変える」とは「暗黙のルールを変更する」となる。本書を読んで「暗黙のルール」を理解し、ひいてはそれを自由自在にコントロールできるようになる術を学ぼう・・・というわけだ。

■空気を支配できれば、全てを支配できる

本書を読みはじめると、とにかく本書・・・いや「空気の動かし方」一つで世の重要なこと全てをカバーできてしまうという気にさせられる。事実、本の帯には「人間関係を新しい視点で捉えられるようになる」、「スポーツや試験で勝負強くなれる」、「会議やプレゼンを段取りよく進められるようになる」、「婚活や合コン、結婚生活がうまくいくようになる」、「リコール対策が迅速にできる組織になれる」・・・などと書かれている。私たちが日々直面する様々なシーンに活用できると本は唄っているのだ。

で、そんな素敵なワザを、どのように指南してくれているのか? 著者は、いわゆる「空気」を4パターンに分けることができるとし、それぞれのパターンについて攻略方法を解説している。なお、そのパターンとは次の4つである。

・問題への「問い」を設定することで生まれる「空気」
・体験的な思い込みに固くこだわることで生まれる「空気」
・検証、測定による偏った理解に固執して生まれる「空気」
・選択肢を限定してしまうために生まれる「空気」

パッと見ると難しく思えるが、この4パターン・・・何か共通点があることに気がつかないだろうか。そう、良く観察してみると・・・「思い込み」・・・という共通キーワードが浮かび上がってくる。つまり私なりに分かりやすくまとめさせていただくと、「空気」は「思い込み」の産物であり、そしてこの「思い込み」は、上記4つのいずれか(たとえば過去体験など)がきっかけで生まれるものであり、そこを特定した上で攻略できれば怖いものなんてない・・・そう著者は言っているのだ。このような論理で攻められると、確かになんとなく「空気を支配できれば、全てを支配できる」という気になってくる。

■好き嫌いが分かれる本

さて、本書に対する率直な感想だが、正直、評価は難しい。どちらかと言えば、私にはあまり感動がなかった。ただ、Amazonをはじめ、結構な数の書評家たちから高評価を得ているような感じなので、きっと好き嫌いが分かれる本なのだろうと思う。

ちなみに、私になぜ感動が少なかったのか。1つには、本を手に取った直後こそ、「空気」という切り口を斬新に感じたものの、読み進めるにつれ、「あれ!?なんか似た切り口の本があったな」と気がついたからだ。そう、書きっぷりこそ異なるが、「間(ま)」をテーマにしたビートたけしの著書「間抜けの構造」と、イメージが重なる部分が少なからずあるように思ったのだ。

また、もう1つには「空気を動かす術を学ぶことで世の中の多くの問題を解決できますよ」という著者のアピールは確かに魅力的だと思ったが、無理に「空気を動かす術」で全てを語ろうとし過ぎた感があり、かえってわかりづらく感じる部分があったからだ。著者が「思い込み」を生じさせる4パターンのうちの1つとして挙げている”問題への「問い」を設定することで生まれる「空気」”が良い例だ。これは「モノゴトの上辺だけを見て課題設定をするのではなく・・・その裏に隠れた真の課題を見つけだそう」・・・と、こういう意図なのだが、この考え方は、いわゆるイシューベースアプローチと呼ばれる有名なものだ。大前研一氏の「質問する力」でも出てくるし、先日読んだ「イシューから始めよ(安宅和人著)」でも言及されている。こうしたテーマをなにも、無理に「空気を動かす術」というテーマのもとに書かなくても・・・という気がしたのだ。

散々な辛口を書かせていただいたが、先述したようにおそらく好き嫌いが分かれる本なのだと思う。つまり、私のようにこういった類の本を何冊も読んでいる人には、向いていないのだろう。逆に、普段からあまりこういった啓発本を手に取ったことがない人であれば、私のようにひねくれた見方をすることもなく素直に楽しめて読めるのだと思う。


2013年12月21日土曜日

書評: 消費税が日本を救う

賛否両論ある話題は、片方の意見だけを聞くと、正しい判断ができない。やはり、両方の意見を聞かないと・・・。そして、賛否両論ある話題の1つと言えば「消費税」だ。先日は「消費税のカラクリ」という反対派の人の本を読んだ。そんなわけで今回は、賛成派の人の本をば・・・。

消費税が日本を救う
著者: 熊谷 亮丸
発行元: 日経プレミアシリーズ


■消費税賛成の理由をとことん語る


内容は、ご推察のとおり。消費税賛成を唄う本だ。著者の熊谷亮丸(くまがいみつまる)氏は、大和総研のチーフエコノミスト。為替アナリストとしてあの有名な「ワールドビジネスラテライト」レギュラーコメンテーターを務めているとのこと。要するに、有名かつ人気あるその道の専門家が書いた本というわけだ。

無謀と知りつつ、著者の主張をあえて一言にまとめさせていただくと「日本の借金は限界に来ているから、税収を増やすのに効率的・効果的な消費税を導入するべき」となる。

日本の借金が限界に来ている理由について、たとえば著者がどんな発言をしているかというと、「日本の借金を背負ってくれている日本国民自体の財布が危険水域に到達しつつあること」、「実際に破綻したギリシャや破綻しそうになったスペイン、ポルトガルに共通する双子の赤字が、日本にも差し迫っているということ」などを述べている。また、消費税を効果的・効率的な手段と考える点については、「実際は比較的、景気変動に左右されにくい税制であるということ」、「若者より裕福といわれながら税を納める機会の少ない高齢者からもお金を徴収できるという点で公平性が強いこと」などを理由に挙げている。これらは一例だが、著者は、こうした発言に対して様々な角度からデータを集め、論拠を用意している。

もちろん、本書の中では、消費税反対派が一般的に取り上げる理由(「益税・損税」や「景気への影響」問題など)に対しても、しっかりと反論を行っている。

■本書の魅力はどこにある?

本書の魅力は3点ある。1つ目は、消費税賛成派の意図のほぼ全てを、おそらくはこれ一冊読めばカバーできるという点だ。本書が、消費税に賛成の理由、また、消費税反対派に与しない理由・・・について幅広く触れていることは既に述べたとおりだ。

2つ目は、この本が2012年6月に出版された本であるという点だ。そう、自民党への政権交代が行われたのは2012年12月なので、6月と言えばまだ民主党政権下の時期。暗いニュースばかりが広がり、野田前首相は消費税アップに躍起になり・・・そんな時期だ。安倍首相になり、円安が進み、株価が15000円を超え、東京オリンピック開催が決まり・・・さて、政権交代前に書かれた予想が、この状況下にいたってどこまで当たっているのか・・・そう考えると、おもしろく読める。ちなみに、わたしは、結構当たっているように思うのだが。

3つ目は、消費税の本にしては、そこそこ分かりやすいという点だ。私にはちょうどいいレベル感だ。大事な箇所は太字+下線が引かれており目立つような配慮がなされている。各章のおわりには、必ず「その章で訴えたかったこと・重要なこと」を約1ページの中にまとめてくれている。ただし、わかりやすいと言っても、池上彰さんほどのレベルではないので、そこはご注意いただきたい。

■本書を持ってして読者なりの答えが導き出せるか?

本書の意義はなんだろうか。至極一般的な結論で恐縮だが、いろいろな物事をより深く考えられるようになった・・・という点だろう。ただし、「消費税増税の是非」に関しては、自分なりの答えを導き出す・・・というところまでにはいたらなかった。

いろいろな物事を深く考えられるようになった・・・一例を挙げよう。たとえば本書読了後に、たまたま読売新聞に掲載されていた消費税増税に関する論説を目にしたときのことだ。そこでは確か、経済学者(飯田泰之氏)が「消費税を上げると景気に影響がでるから、このタイミングでの消費税増税は望ましくない」という発言をされていた。ところが前出のとおり、本書では「消費税アップは景気に影響が出るという証拠はない(=景気への影響はほぼない)」と唄っている。というわけで消費税増税賛成派と反対派の意見のすれ違いの1つはここにあるのだな・・・と改めて気づいたわけだ。どっちが正しい・正しくない云々は別にしても、まず、こうした専門家の発言に、少なからず、自分の脳みそが反応できるようになれた・・・というのはまことに本書のお陰である。

では、本書を読むことで「消費税増税の是非」に関して自分なりの答えが出たか?・・・というと、正直、そうは言えない。前の段落で取り上げた一例「景気への影響のあるなし問題」に代表されるように、賛成派・反対派・・・どっちの主張にもまだ疑問がいっぱいあるからだ。ちなみに、「消費税増税の是非」についての答えはまだ出せないが、「消費税の是非」については是だと改めて思った次第だ。「消費税のカラクリ」の主張はもっともだが、やっぱり得られるメリットのほうが大きいように思う。

さて、このように本書を読めば、自分の納得できる答えが必ずしも見つかるわけではないが、少なくとも、その答えを見つけるための最初の一歩として一役買ってくれる本であることに間違いないだろう。


【消費税という観点での類書】

2013年12月13日金曜日

書評: 消費税のカラクリ

2014年4月から消費税が8%になる。その後、順当にいけば、すぐに10%になる。無関心ではいられないハズだ。

消費税のカラクリ
著者: 斎藤 貴男
発行元: 講談社現代新書



■消費税アップ、いや、消費税そのものに反旗を翻す本

「(消費税について)訳知り顔の講釈が、街のあちこちから聞こえてくる。問題は、そう語りたがる人々が、消費税という税制の本質を少しでも理解できているのかどうか、という点だ。一人一人に問いただすことはできないが、一般の主要な情報源であるマスコミが、いつの間にか消費税増税派ばかりになっていた事実だけは明白である。」

そんな書き出しからも容易に推察されるように、本書は消費税アップに強く異を唱える本だ。消費税のアップ・・・いや、アップどころか消費税そのものの悪い部分・・・それも世間一般にはあまり広く知られていない負の側面に対して、スポットライトを当てている。

■税収アップの手段としての有効性に疑問を投げかける


「視界が開けた感じがする」・・・それが本書を読み終えたときのわたしの素直な感想だ。それは本書の論点が、今まで目にしてきたメディアのそれとは大きく異なるからだ。

メディアのそれと、どう異なるのか。一般的な消費税の論点は、税率や税率アップのタイミングに終始する。とりわけ、ここ最近は「消費税アップは必要不可欠だ。問題はそのタイミングだ」というように時期を問題にした論戦が多い。2014年度からの消費税アップに賛成する人たちの多くは「このままでは現在の福祉水準を維持することができなくなるから」とか「日本の世界に対する信用問題につながるから」とかといったものだ。逆に消費税アップに賛成しない人たちの多くは「長いデフレからようやく脱却する足がかりをつかみ始めたのに、その芽を摘み取るなんてありえない」というものだろう。しかし、本書の論点はそこではない。本書は、税収アップの手段としての消費税の有効性に疑問を投じているのである。消費税の有効性・・・これこそが著者が本書の中で首尾一貫して掲げている論点であり、本書最大の特徴でもある。

なお、著者が消費税を「ダウト!」と叫ぶ理由にはおもに2つある。1つには、そもそも消費税は、税率アップ=税収アップとは言いづらい、極めて非効率な手段であることを挙げている。「消費税は、国税のあらゆる税目の中で、最も滞納が多い税金なのである」というクダリを読んだときに、私自身少なからずびっくりしてしまった。そして2つ目には、消費税は、大企業を保護し中小企業をイジメる不公平な環境を生み出すものであることを理由に挙げている。なるほど、中小企業は日本の強さの源だ。日本国全体の企業数の99.7%、従業者数の7割、付加価値額(製造業)の5割強を占めており「日本経済の基盤そのものを形成している存在」といっても過言ではない。消費税が、そんな中小企業イジメにつながっているという点は決して見過ごせるものではない。

■消費税に少しでももの申したいなら・・・

ユニークさが際立つ本書だが、決して奇をてらった的外れな本ではない。論拠がしっかりしており説得力がある。そんなわけで、社会問題に興味がある人は言わずもがな、消費税アップの是非に何らかの意見を持つ人であれば、その意見の誤りをただすためにも、意見の質を上げるためにも、ぜひ、読んでおきたいところだ。

なお、誤解のないように言っておくが、別にわたしは本書の宣伝を通じて世の皆さんに消費税に反対してほしいという考えを持っているわけではない。実際のところ、わたし個人的には、本書を読み終えた今でも「消費税アップはやむなしかな」という考えを持っているくらいなのだから。

ただ、本質を知らずして意見するのはあまり健全でないように感じてしまうわけで・・・本質を理解し、それに基づいて自分の意見を持つ人が増えれば、それだけで社会は少しずつ良くなっていくような気がするのだ。いかがだろうか。


2013年12月4日水曜日

書評: イシューからはじめよ

「マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書」「ハーバード、マッキンゼーで知った一流にみせる仕事術」「マッキンゼー式 世界最強の仕事術」「マッキンゼー流プレゼンテーションの技術」等々、最近、マッキンゼーを冠にした出版が急激に増えてきた。マッキンゼーブランドここに極まれり・・・といった感がある。正直言うと、同じような性質の本をやや見せ方を変えて発売しお金をとるやり方に反抗心を覚える一方で、商売が上手だなとも思う。こんなこといいながら私も結局、複数の本を買っちゃってきたわけだし・・・。 

イシューからはじめよ
著者: 安宅和人(あたかかずと)
発行元:英治出版 



■コンサルタントの王道ワザ、イシューベースアプローチの伝授本

本書は、超一流コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーにプロのコンサルティング流儀を学んだ著者が、そのノウハウを懇切丁寧に解説している本だ。ここで言う「プロのコンサルティング流儀」とは、イシューベースアプローチとも呼ばれるものだ。今までに経験がない、情報がない、そんな未知の問題に直面したときでも、効果的効率的に最善のアウトプットを出すためのワザだ。

このアプローチを使えば「日本にマンホールはいくつあるか?」「日本に走っている電車の数は?」など!!!???と思える質問でも、論理的に・・・しかも高速に、制約条件下での最適解を求めることができる。これらはもちろん極端な例だが、「シカゴで売っているピザの枚数は?」などといった突拍子もない質問に答えられるようにしよう!ということではなく、イシューベースアプローチをビジネスシーンに適用して仕事の生産性を上げようじゃないか・・・というのが、このワザの・・・いや、本書の狙いである。

■イシューベースアプローチ講座があればテキストになり得る!

講義を受けているような感じで読み進めることができる・・・というのが本書最大の特徴と言えるだろう。もしイシューベースアプローチという名の講座が大学にあるならば、この本を教科書にしてもいいかもしれない。プロのコンサルタントが書いた本ということもあり、章構成はきわめて合理的な建て付けになっているから、章1つ1つがちょうど講座一回分になるイメージだ。

序章: この本の考え方 ~脱「犬の道」
1章: イシュードリブン ~「解く」前に「見極める」~
2章: 仮説ドリブン① ~イシューを分解し、ストーリーラインを立てる~
3章: 仮説ドリブン② ~ストーリーを絵コンテにする~
4章: アウトプットドリブン ~実際の分析を進める
5章: メッセージドリブン ~「伝えるもの」をまとめる~

加えて、本書が講座教科書に適しているように見えるのは、著者がイェール大学の脳神経科学で博士号(PhD)をとった背景が寄与している面もあるだろう。ほぼ全ての講義ポイントにおいて、著者の主張を裏付けするため、何らかの事例が引き合いに出されているが、マッキンゼー時代や、大学院時代に学んだ脳科学の知識・経験に基づくものが少なくない。ややもすると、多少アカデミック色が色濃く出る場面があり、抵抗感を生じさせる場面があるかもしれないが、多くの場面において、そうした事例が極めて明快かつ論理的であり、説得力がある。

『インパクトがあるイシューは、何らかの本質的な選択肢に関わっている。「右なのか左なのかというその結論によって大きく意味合いが変わるものでなければイシューとは言えない。すなわち、「本質的な選択肢=カギとなる質問」なのだ。 科学分野の場合、大きなイシューはある程度明確になっていることが多い。僕の専門である脳神経科学の場合、19世紀末における大きなイシューのひとつは「脳神経とはネットワークのようにつながった巨大な構造なのか、それともある長さをもつ単位の集合体なのか」というものだった。』(本書 イシュードリブンより)

■多くの類書・・・さてどれを選ぶ?

さて、こんな特徴を持つ本だが、どういった人向きだろうかとハタと考えてしまう。というのも、冒頭で触れたように、イシューベースアプローチを解いた本は、タイトルこそ違えど、たくさんあるからだ。

結論を言えば、もし、イシューベースアプローチを解いた類いの本をこれまでに読んだことがなくて、「上記特徴を持った本が自分は好きだ」という人なら、買い!だろう。言い換えると、イシューベースアプローチを解いた本は、本書を含め、コンサルティングのプロが書いた本ならどれか一冊を読めばそれで十分なのではないかと思う。なぜなら、技術の習得において、文字から得られるレベルには限界があるからだ。本書評の最後は著者自身の次の言葉で締めくくりたい。

『結局のところ、食べたこともないものの味はいくら本を読み、映像を見てもわからない。自転車に乗ったことのない人に乗ったときの感覚はわからない。恋をしたことのない人に恋する気持ちはわからない。イシューの探究もこれらと同じだ。「何らかの問題を本当に解決しなければならない」という局面で、論理だけでなく、それまでの背景や状況も踏まえ、「見極めるべきは何か」「けりをつけるべきは何か」を自分の目と耳と頭を頼りにして、自力で、あるいはチームで見つけていく。この経験を1つひとつ繰り返し、身につけていく以外の方法はないのだ』(本書 おわりに より)



【一流のコンサルタントが使うワザを学べるという観点での類書】
マッキンゼー流入社1年目 問題解決の教科書(大嶋祥誉著)
質問する力(大前研一著)
マッキンゼー流 図解の技術ワークブック


2013年12月1日日曜日

書評: 爆速経営 新生ヤフーの500日

最近の話だが、本当に偶然、ヤフージャパンの本社を訪れる機会があった。受付を通り抜けると、眼前に現れるる会議室のガラス窓には大きく”爆速”と書かれていた。それがとても印象的だった。ヤフージャパンは老舗とはいえない会社だが、創業は1996年。昨日今日に、立ち上がった企業ではない。にもかかわらず一歩足を踏み入れると、とてつもない活力を感じる。最近、 ヤフオクの出店無料化をブチあげるなど、メディアをもにぎわせている。この会社に、一体何が起こっていると言うのだろうか?

そんな疑問を持った矢先に、これまた偶然、手元に届いた一冊の本・・・。

爆速経営 新生ヤフーの500日
著者: 蛯谷 敏
出版社: 日経BP社
レビュープラスさまからいただきました

■ヤフー生まれ変わりの謎に迫った本

本書は、宮坂社長率いる若手経営陣達が、決して悪くはない・・・いや、むしろ立派な経営状態だった組織に、何を理由にどんな大胆なメスを入れ、どうやって大きな変革を起こし、そして、結果を出したかを、描いたものだ。著者の蛯谷氏が、2012年4月の宮坂氏のCEO就任から2013年末頃までの約1年半にわたって続けた取材に基づいている。

ところで、このようないわゆる”経営者物語”には、 2種類ある。1つは、経営者本人が書くもの。柳井正ファーストリテイリング会長兼社長が書いた「一勝九敗」DeNAの元社長、南場智子氏の「不恰好経営」などはこれにあたる。もう一つは、本人以外の者が第三者目線で描いたもの。先日読んだソフトバンク孫正義社長の「あんぽん」ローソン社長の新浪剛史氏を描いた「個を動かす」がそうだ。本書は後者だ。

■スーパーマンではないがスーパーな結果を残す宮坂社長が読者にもたらすもの


DeNAの南場智子氏の本は素晴らしかったが、本書も負けず劣らず秀逸だ。第三者目線で書かれているにもかかわらず、経営陣たちの熱気がムンムンと伝わってくる。紙の上に書かれた文字を追っているだけなのに、情熱を感じた。学びもたくさんあった。

私にとって最も興味深かったことは、印象に残った言葉の多くが、実は主人公の宮坂社長自身が発したものではなく、宮坂社長が他の経営者からもらい、感銘を受けたものばかりであるという事実だ。思うに、これは宮坂社長の立場が、私のような凡人とシンクロしやすかったからではなかろうか。本書を読むに、宮坂社長の前任者である井上前社長は、一言で言えば天才でありスーパーマン的存在であったようだ。これに対して著者は、宮坂社長を「実直さ」と「親しみやすさ」、そして「執着心」の3つの言葉で表現している。宮坂社長の存在を私たち読者の立場に近い、と公言するのはおこがましいとは思うが、少なくとも柳井ファーストリテイリング会長や、南場DeNA元社長、あるいはヤフー井上前社長に比べると、むしろ我々読者に近い親しみのおける存在と言えるのだ。

だからなのか、本書を読んでいると、いつも以上に、自分にもできそうだ。自分でもやってみるべきだ、やってやろう!という気にさせられる。幾つか例をあげておきたい。

新生ヤフーの経営陣をどうするかで宮坂社長が悩んでいた時に、仲間が名著「ビジョナリーカンパニー」から引っ張ってきた言葉・・・「大事なのは、誰をバスに乗せるかである」そして、宮坂社長が現場にできるだけ権限を与えるようになったきっかけとして挙げた言葉・・・「永守さんは、経営者には2つの要素しかないと言うのです。 1つは、いかに多くの意思決定をするかということ。もう一つは、いかに早く挫折を経験するかと言うことです」いずれも単純だが含蓄のある言葉だと思った。言い換えれば、当たり前に聞こえるほどシンプルだが、実は私も含め、実践できていない人が多いというふうに感じたのだ。

さらに、ヤフージャパンの新しい”信条”を組織に定着化させることを考える場面で登場した言葉・・・「Facebookから良いアドバイスをもらったのは、会社の価値観を作るんだったら、人事評価にそれを持ってこないと定着しないということでしたちょうど自分も会社で信条を作り上げ定着化させようとしていたところでだったので、本当にハっとさせられた。単純と思われるかもしれないが、早速自分の会社でもこれを実践しようと試みているところだ。

■経営に携わる人たち、経営の立場を目指す人たちに

さて、最後に、冷静に本書の評価をまとめたおきたい。他の類書にも言えることだが、本書は決して奇抜なことを紹介してあるわけではない。新生ヤフーの経営陣達に、何かとてつもないユニークさを期待して読むとがっかりするだろう。

ただ、先に挙げた私自身の例からおわかりいただけるように、ヤフー経営陣たちと、立場がぴったりと当てはまる読者であれば、間違いなく、とても面白く読める本だ。すなわち、会社の経営、もしくは経営になる幹部の立場にある人、また、これから起業しようとしている人・・・には、強くおすすめしたい本である。

「巨漢だったヤフーがたった500日で、ここまで変われたんだ、だから僕らも変われるはずだ。」

きっとこう思わせてくれるハズだ。それが本書最大の価値である。


【一定の成功を収めた経営者を・が描いた本という観点での類書】
セブン-イレブン終わりなき革新(田中陽著)
個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~(池田信太朗著)
不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~(南場智子著)
ユニクロ帝国の光と影(横田増夫著)
一勝九敗(柳井正著)
あんぽん ~孫正義伝~(佐野眞一著)


2013年11月17日日曜日

書評: 不格好経営

本書を読んで、南場智子という人間に惚れた。はっきり言うが、これまで色々な本を何冊も読んできたが、このように感じることは滅多にないゾ。

不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~
著者: 南場 智子(なんば ともこ)
発行元: 日本経済新聞出版社


■DeNA(ディー・エヌ・エー)の起業物語

本書は、オークションサイトやショッピングサイトを運営する株式会社DeNA(ディー・エヌ・エー)の創設者にして元社長、現在は同社取締役を担う南場智子氏が書いた、言わば”会社起業振り返り物語”だ。彼女が1999年に起業を決心してから、ディー・エヌ・エーを立ち上げ、社長の立場で東奔西走・活躍し、諸事情により役職を退くまでの密度の濃い10年間を振り返っている。

コンサルティング会社マッキンゼーを辞めて、ディー・エヌ・エー社立ち上げにいたった経緯や、資金集め・社名決めですったもんだした話、システム開発での大トラブル、競合他社に自社の広告を載せてしまった話、モバイルビジネスへのシフト、野球チーム買収、コンプライアンス問題、旦那の病気など、テーマはわんさかある。著者本人も認めているが、よくもまぁ10年の間に、これだけ色々な経験を詰め込んだものだ・・・と関心するほどだ。

■南場智子の言葉には勢いがある

本書の特徴は、2点ある。1点目は著者自身が述べている”とりわけ失敗体験に焦点を当てて書いた本である”ということだ。

『私はビジネス書をほとんど読まない。こうやって成功しました、と秘訣を語る本や話はすべて結果論に聞こえる。まったく同じことをして失敗する人がゴマンといる現実をどう説明してくれるのか。だから本書の執筆にあたっては、誰か遠い他人の仕業とおもいたいほど恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴ることにした。』(本書 まえがきより)

ただしこの点については、特徴の1つではあるが本書最大の魅力とは言い難い・・・ということを付け加えておく。わたしの読書経験から言えば、たとえば柳井会長の「一勝九敗」や、渡邉美紀(ワタミ創設者)さんの「青年社長」、鈴木敏文セブン-イレブン創業者の「セブン-イレブン終わりなき革新・・・あるいは孫社長の半生を描いた「あんぽん」など・・・実は成功体験より苦労体験に触れている本の方が多いといったからだ。

2点目の特徴・・・これこそが本書最大の魅力だと思うが・・・「他人の仕業とおもいたい」と彼女が形容するほどの失敗に対する彼女なりの総括が、気持ちいいくらい”単純明快”であることだ。これは、南場さんのバックグラウンドが超一流会社のコンサルタントであったことも寄与しているのだろう。彼女の発言はロジカルなだけでなく、哲学というか魂というか信念というか、生き様に何かこうしっかりとした一本の筋がとおっており、感じたこと・思ったことを、常にブレない視点で、シンプルな言葉を使って、はっきりと言い切っているのだ。

『しかし、DeNAを立ち上げてすぐに、会社はロジカルな人間だけでは少しも前に進まないことがわかってくる。事実、マッキンゼーのエース(自称)3人が1年で黒字化させますと宣言して会社をつくり、実際は4年も赤字を垂れ流したわけだ。コンサルタントの言うことは信用しないほうがいい。』

『ビジネススクールに行くことで人脈ができるのでは、ともよく訊かれるが、そうも思わない。逃げずに壁に立ち向かう仕事ぶりを見せ合うなかで気づいた人脈意外は、仕事で早くに立たないと痛感している。』(第七章 人と組織より)

■偶然の一致か必然の一致か

そんな本書だが、個人的感想を言わしてもらうと”ひさしぶりに気分が高揚した”感がある。また、冒頭で触れたように著者の南場智子氏をとても魅力的な人物だと思った。

その理由は先述したとおりだ。加えて、起業時に経験している内容がわたしのものとすごく似ていたから、という理由もある。やや余談になるが、たとえば、南場さんがコンサルタント出身であり、MBA経験者であるということ。格は全然異なるが、私もそうだ。また、南場さんが起業してまだ間もない頃、寝起きする真横にサーバをおいていつでも再起動できる体制をとって寝ていたということ。わたしも、奈良でISP起業に参画したときは同じ経験をしている。さらに、社内で過激なダイエット競争を繰り広げていたという話。実は自分自身がダイエット競争に参加してたわけではないのだが、同僚が目の前で、全く同様の”やり過ぎ!”とも思える熾烈なダイエットバトルを行っていた。最後に、人の採用に関して、とある大きな誤解から、大切な人との間に大きな摩擦を生じさせてしまったという話。これも全く一緒の経験がある。

質と規模において南場氏のそれと比べるべくもないが、自分と驚くほど似た経験を持つことに、ものすごく親近感を覚えてしまうのだ。そのせいで本書については客観的な評価ができていないかもしれないので、その分は差し引いて評価していただいて構わない。

■失敗を追体験できる貴重な教科書

本書は当然、会社の経営者・・・とりわけ起業に興味がある人なら読むべきだ。起業について学びたければ、さっさと起業して自らが失敗経験をするのが一番いいわけだが、人生には終わりがあり、失敗を重ねられる回数にも限りがある。だからこそ、こうした先人たちの体験をフル活用すべきだと思うのだ。だから、読むことをお勧めする。

なお、時間に余裕があるのなら、他の起業家たちの本との読み比べをしてみてはいかがだろうか。そのほうが、起業家たちの特徴が際立つし、そこに新たな”気づき”が生まれることも少なくないからだ。たとえば、ファーストリテイリングの柳井さんの本を読んでいたときは、良くワンマン経営と揶揄されるように、柳井さんばかりが読者の視野に入る印象だった。が、南場さんの本では、南場さん本人だけでなく、固有名詞で語られる強く頼もしい仲間が頻繁に登場する。両起業人の信条の違い、アプローチの違いの現れなのだと感じる。かと思えば、起業時の金銭面での苦労や、人の採用における苦労なんかは、両者ともに非常に似ていたりする・・・。このように色々な気づきを得ることができる。

とにもかくにも、まずは失敗の追体験本として、南場智子氏のディー・エヌ・エー起業物語を対象に選んでみてはいかがだろうか。わたしのイチオシ本だ。


【著名な経営者の体験を描いた本という観点での類書】

2013年11月10日日曜日

努力は運を支配する

日経ビジネス2013年11月11日号を読んだ。以下、感想。


現行法では東電を破綻処理した場合、賠償より社債の償還が優先される。
(原発対策、「国主導」の行方より)

(感想)これが国が東電破綻の道を選択しない理由だそうだ。が、結局は、都合の良い言い訳に聞こえる。現行法を尊重して、社債の償還を優先させて、仮に賠償が滞った場合には、国がその分を負担する・・・とすればいいだけの話では?・・・と思ってしまう。いずれにしても、要するに、全ては”国のやる気次第”だと思うのだが。やはり、その覚悟ができていないのか。


『立花が懇意にしていた三井住友銀行取締役にしてラグビー日本代表監督だった宿澤広朗は、生前こんな言葉を残している。”努力は運を支配する”。立花は来年も”日本一”でそれを証明するつもりだ。』
(日本の革新者たち 立花陽三より)

(感想)努力は運を支配する・・・いい言葉だ。


『2013年のイノベーターはこんな人・・・エナジャイザー(チームを鼓舞する力)、インテグレーター(組み合わせで革新する力)、ビジョナリ-(ゴールを設定する力)、ソーシャル・チェンジャー(社会を変える志)、ノン・ギバー・アッパー(あきらめない心)
(イノベーション生む5つの力より)

(感想)2013年の・・・という冠がついているが、この5つの力は、今回雑誌で取りあげられた日本人たちだけでなく、日本の外でも、いつの時代でも、イノベーションを生むのに必要なもの、と思う。振り返ってみれば、今年9月に読んだ『静かなるイノベーション(ビバリー・シュワルツ著)』で登場した社会起業家たちにも当てはまる。個人的には、「ゴールを設定する力」「あきらめない心」がこの5つの中でも重要なのだと感じる。「何かをやり遂げたい」という気持ちが、チームを鼓舞するだろうし、社会を変える志につながるだろうし、ほかの全てにつながるんじゃないかと思う。



2013年11月9日土曜日

書評: 戦略プロフェッショナル

こんなことを言う人がいる。

『日本で成功する人の一般的なパターンは、20代でたくさん恥をかき、30代で一度は自信過剰になって失敗し、40代では謙虚に努力して、50代で花開く、といったところではなかろうか。これが米国の場合だと、10年以上も前倒しの速いスピードで駆け抜けるスターがたくさんいる。それがあの国の魅力をつくっている。日本でも、これからは若い世代からそうしたパターンをたどる人が多くなってくるだろう。』

本ブログのタイトルにもなっているように、わたし自身も、人生をかなり全速力で駆け抜けてきたつもりだったが上には上がいる、と驚かされる。冒頭の言を発っしたのは、自らも非日本流のスピードで駆け抜けてきた三枝匡(さえぐさただし)氏だ。三井石油化学、ボストンコンサルティングを経て、MBA(スタンフォード大学)を取得し、30代にして、赤字会社再建やベンチャー投資など3社の代表取締役を歴任した経歴を持つ。本日は、その三枝氏が書いた戦略本を紹介したい。

戦略プロフェッショナル ~シェア逆転の企業変革ドラマ~
著者:三枝匡
発行元:日経ビジネス文庫


■シェア逆転の企業変革ドラマに見る戦略指南書

本書は、企業における戦略的アプローチの実践を、物語調に示した指南書だ

主人公は、日本有数の鉄鋼メーカーに勤めるMBAあがりの36歳、広川洋一。広川の会社は、新事業開発部の活動を全社的に広げて脱鉄鋼の戦略をさらに展開しようという想いがあった。そんな矢先、会社は、一見、本業の鉄鋼とは無縁に見える米国発医療機器販売の代理店販売を行っている会社、新日本メディカルに出資を決める。広川が勤める鉄鋼会社から全体の売り上げからすれば微々たるものだったが、それよりもなによりも、新日本メディカルの成長が芳しくない。物語は、広川は、そんな新日本メディカルに常務取締役として出向を決意したところから始まる。いったい新日本メディカルの何が悪いのか、そもそも勝機はあるのか、そして広川は会社を建て直すことができるのか・・・。

・・・物語のあらすじはざっとこんな感じだ。

■あの「ザ・ゴール」を彷彿とさせる本

この「戦略プロフェッショナル」の類書は?と聞かれれば、エリヤフ・ゴールドラット氏の「ザ・ゴール」を挙げたい。経営理論を、物語形式で伝えるところが、まさにそっくりだ。読み物語形式でありながら、技術理論をしっかりとカバーしており、興味をもって集中して読める良さがある。具体的にはたとえば、目標設定の話だとか、セグメンテーションの話、プライシングの話・・・などが登場するが、とてもわかりやすい。

なお、「ザ・ゴール」の場合は、隅から隅まで小説の体をなしており、ともすればビジネス書と気がつかないほど、良く練り込まれたストーリーが秀逸だった。そんな「ザ・ゴール」と本書が異なるのは、ストーリーそのものがほぼ1つの”実話に基づいている”という点と、物語の章の合間合間に「戦略ノート」と呼ばれる解説が差し込まれている点だろう。実は、こうした著者の解説が意外に馬鹿にならない。物語と解説の両方があって初めてわれわれ読者の腹にストンと落ちる・・・そんな感じだ。

「朝礼暮改がある会社は決して悪いことではない。むしろ、元気の裏返しでもある」という言。「社員への礼儀作法とか社内の清掃への感覚がお粗末な会社は成績もともなっていないことが多い」という言。「失敗の疑似体験をするための前提は、しっかりしたプラニングです」という言。「元来が人間志向の(人間性・包容力に重きをおく)人は戦略志向に、戦略志向の人は人間志向にと、互いに同じ壁を反対側に超える努力をしないと経営者として明日への成長がないようだ」との言。

このように・・・心に響いた著者の言葉を挙げればきりがない。

■追体験を通じた戦略理論の学習

まとめると本書は、”MBAで習う戦略論の数クラス分の授業を一冊に集約させた本”と言うことができる。ただし、MBAで使うケーススタディ教材とは一線を画する。MBAで扱うケーススタディにはほとんどの場合、結論が描かれていないが、本書には物語としての結論・・・主人公の広川洋一がどうなったかの結論がある。これは前者が、生徒同士が自らの意見をぶつけあう・・・ディスカッションを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるのに対し、後者は読者が主人公、広川洋一の人生を追体験することを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるためだ。

すなわち、MBAで身につけるような戦略理論を、一人からでもスパっと学習できる・・・これこそが、本書最大の意議であるように思うのだ。そんな意議に共感できる人はぜひ。


【物語を通じて理論を学習できるという観点での類書】
書評: ザ・ゴール(The Goal)
書評: ザ・ゴール2 (It's Not Luck)
書評: V字回復の経営(三枝 匡)

2013年11月4日月曜日

本当に尊大になっていないか?

『(会社が伸び続けている)秘訣と呼べるものはありませんが、挙げるとすれば2つ。会社の調子がいい時に経営者自身が尊大にならないこと、そして問題を先送りにしないで早めに手を打つことです。』 (編集長インタビュー 藤田晋サイバーエージェント社長 課題は全部「合宿」で潰す、より)

(感想)
結果を残してきた社長さんみんなが口を揃えるのが、まさにこの藤田晋社長の言。会社の大きさも残してきた実績も、比べるべくもないが、我が社も会社の歴史から言えば、比較的順調な時期と言える。つまり、今のまさにこの順調な時期が、これまで以上に謙虚な姿勢を持って、ことに臨まなければいけない時期である、とも言える。「本当に尊大になってないか? 問題を先送りにしてないか?」と自分に問いかけると、それを全く否定することはできない、と思うのである。忙しさをいいわけに、手をつけられてないことがたくさんある。

来年から・・・いや、明日から、いや、今この瞬間から改めて態度をいれかえて、ことに臨みたい・・・そう思った。

日経ビジネス2013年11月4日号

2013年11月2日土曜日

書評: 死の淵を見た男

かの東国原(ひがしこくばる)氏は、宮崎県知事だった時、鳥インフルエンザ問題に直面した。現場に足を運び、自ら現状を把握し、指示を出していった。周りの評価は高かったようだ。他方、管元首相。3・11にて福島第一原発の事故に直面した。やはり、自ら現場に駆けつけたが、そのときの評価はさんざんなものだ。危機時にトップ自らが現場に足を運ぶ・・・ここに共通点を見いだせるが、評価は真反対。この違いはいったい何なのだろうか。もちろん、「県のトップと国のトップでは立場が異なる」・・・そう、一蹴してしまうのは簡単だが、わたしはここに”学び”があるような気がしてならない。それを知るためには、やはり当時、現場で何が起きたのかを次の本を通して、正確に知るべきだと思うのだ。

死の淵を見た男
著者: 門田 正隆
発行元: PHP研究所

■福島原発・・・報道されなかった裏舞台を描いた本

東日本大震災で起きた福島第一原発の事故。事故を収束させるための一連の活動の中で起きた騒動は、まだ記憶に新しい。あのとき、報道の裏側で、いったい何が起きたのか? 福島第一原発の現場で必死になって闘った人たちは? 彼らの家族は? 周辺に住む住民は? 駆けつけた自衛隊員は? 首相官邸にいた人々は? 東電の経営陣は?・・・そのとき何を考えてどう動いたのか? 本書は、東日本大震災が起きた2011年3月11日から約9ヶ月後の2011年11月頃までの時間軸の中で、福島第一原発の事故が悪化の一途をたどっていく状況とそのときの人間模様を物語調に描いた本である。

ただし、物語調と言っても、事実を脚色するような書き方をしているわけではない。

『私はあの時、ただ何が起き、現場が何を思い、どう闘ったか、その事実だけを描きたいと思う。』(死の淵を見た男 「はじめに」より)

これは本書の冒頭にある著者の言葉だが、容易に推察されるように、本書は当時の状況を読者にわかりやすく伝えるために当事者中心の視点で描かれてはいるが、文中に登場する会話などは、聞いた事実がほぼそのまま反映されたものと思われる。

■2つの”凄まじさ”

本書を読み、頭にパッと浮かぶのは”なんと、凄まじいことか”という想いだ。ここには2つの意味がある。

1つは”現場力の凄さ”という意味での凄まじさだ。管元首相のことが色々と取り沙汰されてきたが、誤解を恐れずに言えば、結局のところ、当時のトップが管首相であってもなくても、(多少の違いはあったかもしれないが)あの現場の人たちがいたかいなかったか・・・それが全てだったんじゃないかと思う。それほど現場力は凄まじいものだったと感じるのだ。実際、「注水」だとか「ベント」だとか・・・当時、東京にいた首相官邸や東電の対策本部にいたお偉いさんたちが、現場に指示をだそうと必死に動いていたようだが、本書を読むと、東京側で考えつくことは全て、現場でも早々に検討されていたことが良くわかる。つまり、指示がなくても彼ら・彼女らは立派に動けていたのだ。

もう1つは”なんと過酷なことだったのか”という意味での凄まじさだ。海外からはフクシマフィフティと言う言葉でたたえられた現場の人たち。自らの命をも省みず、家族・・・いや、日本のために、必死で闘った人たちのことだ。本書を読むと、彼ら・彼女らに降りかかった肉体的・精神的な負担が、いかに過酷なものだったのかが、はっきりと伝わってくる。胸をえぐられるようだ。

『(現場を仕切る責任者として)何人を残して、どうしようかというのを、その時に考えましたよね。ひとりひとりの顔を思い浮かべてね。・・・(中略)・・・極論すれば、私自身はもう、どんな状態になっても、ここを離れられないと思ってますからね。その私と一緒に死んでくれる人間の顔を思い浮かべたわけです。・・・(中略)・・・こいつなら一緒に死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、と、それぞれの顔を吉田(所長)は思い浮かべていた。』(死の淵を見た男・・・「第15章 一緒に死ぬ人間とは」より)

ちなみに、こうした現場の過酷さを知るにつけ、やはり原発は廃止すべきなんじゃないかと思った。目に見えている以上に多くの犠牲を払っているのだとしたら・・・原発事故に最悪の事態を想定したとき(たとえば関東一帯が居住不能になる・・・など)、それを受け入れられる覚悟があるのだろうか?と疑問に思うのだ。受け入れられる覚悟がないなら、私はやってはいけないと思う。

■原子力の恩恵を享受する人たち全員が読むべき本

原発の恩恵を享受する国民一人一人が、原発廃止の是非を判断する前に、当時報道されなかった”見えなかった犠牲”というものを知るために本書を手に取るべきだということはもちろんだが、加えて、組織のトップこそ、ぜひ読むべきだと思った。

なぜなら、本書を通じて、災害時における組織のトップのあり方を理解することができるからだ。災害時には現場こそが一番機能する・・・これは9・11からも、3・11を描いた本書からも見て取れるが、組織のトップがその事実を改めてしっかりと理解しておくことで、自分のあるべき真の役割を見いだせるのではないかと思うのだ。たとえば私なら、トップは結局、「現場がより円滑に機能できるように後方からサポートをしてあげること・・・決して邪魔をしない・・・それにつきる」という答えを出すんじゃないかと思う。そうやって考えると、冒頭に触れた東国原元知事と管元首相の評価の違いの理由も見えてくる。現場を混乱させないように休暇という体をとって、単身現場に乗り込んだ東国原元知事と、一国の首相という体のまま現場に乗り込み、現場の手を止めさせたという管元首相。まぁ、この考察が正しい、正しくないは別にしても、こうした思考をめぐらせることは、非常に大事なことだと思う。その意味でも、本書の意議は大きいと思うのだ。


2013年10月29日火曜日

納得のいくスマフォ用ヘッドフォン

いやー、ここにたどりつくまでに時間がかかった。なにかって? 自分が納得のいくヘッドセットを見つけるまでの道のりのことだ。

自分はPodcastやラジオ、音楽などを移動中に聞くことが多いからヘッドセットは必需品だ。ただ、ヘッドセットの種類にこだわり始めた一番のきっかけは、iPhone用(5s)のケースをフリップ型(下図参照)のものに変えたこと。このフリップ型を採用したのはつい最近だが、これが割と便利。カード2~3枚程度なら入れておけるから、いちいち、改札をとおるときにポケットから財布を出さなくても、フリップケースのついたスマフォを手に持っておけば、かざすだけで簡単に通過できる。もちろん、iPhoneを損傷から守ることにもつながる。また、机の上に、見やすい角度で立てることもできる。他方、唯一の難点が、裸の状態のときに比べ、通話がしにくくなること。ケースをいちち開いて手に持って話すことになるので、この動作がなかなか面倒くさい。


そこでひらめいた。そう、ワイヤレスヘッドセットだ。それもブルートゥース型。ワイヤレスなら、スマフォを持ち帰るときやポケットから出すときにケーブルの絡みを気にすることから解放される。さらに、ヘッドセットの仕様によっては、着信したときに、フリップカバーすら開かずにヘッドセットについたボタンを軽く押すだけで、通話を開始できるのだ。

そこで調べに調べた。自分のニーズにマッチしたモノはないかと。そこでたどり着いたのが、Platronics社のBackBeat Go2という製品。ソニー製など他の製品をみまくったが、この製品が一番シンプルで、操作性も良さそう・・・そう結論づけた(※わたしは別にPlatronics社のまわし者ではござんせん)。

早速、注文。先日、届いたので使ってみた。


ひと言で言うと、とても満足。ケーブルが絡む煩わしさから解放され、携帯電話を持ちながら話す手間から解放され、その結果として、フリップ型カバーをつけたスマフォのデメリットから解放された。右耳のイヤフォンの下に小さいコントローラーがついているが、そこにマイクがついているようで、フリーハンドで話す際にも、そこで声を拾ってくれる。ビジネスシーンで使ってみたが、十分に耐えられるクオリティだ。8台まで登録が可能で、わたしは主としてスマフォとPCに接続して使っているが、接続・切り替えも極めて簡単だ。なんで、早くこのタイプの製品に気が回らなかったと、後悔しているほどだ。

難点を言えば、音質とバッテリー。音質は、やや安めのケーブルタイプのヘッドセットといった感がある。音が軽い。音楽を純粋に音で楽しみたい人には厳しいだろう。なお、私は音楽もラジオも聞いているが、そこまであまり気にならない。また、バッテリーだが、USBなので、簡単に充電できるが、サイズを小さめに抑えるために充電量を犠牲にしているようだ。最大4.5時間。

念のため、メリット・デメリットをもう一度、以下にまとめておく。

【メリット】
・ケーブルが絡む煩わしさから解放される(ケーブルが短く収まり、かつ、携帯電話とつなぐ必要がなくなるため)
・完全フリーハンドで通話ができる
・一般的なUSBケーブルを使っての充電なので、わりと簡単に充電ができる
・フリップ型スマフォケースのデメリットを除去してくれる

【デメリット】
・バッテリーの持ちがやや悪い
・音質がやや悪い


    


====充電ケーブルもナイス====
使ってみて2週間近くが経過。やはりバッテリーがもう少し持ってくれると嬉しい(まぁ、許せる程度ではあるが)。また、同梱の充電ケーブルがわりと便利だということに気がついた。写真のように、イヤフォンとスマフォの充電を一緒にできるようなUSBソケットになっている。(2013年11月4日追記)


2013年10月27日日曜日

自らを家の外に閉め出してしまった事件

先日、財布をなくした・・・わけだが、その約2週間後の今日、待ってましたとばかりに次の事件が起きた。いったい、どうしたことだろう。厄年のせいか・・・。

自分で自分のことを自宅から閉め出してしまった。

我が家の自宅の鍵は、利便性を追求して、ホテルのようにオートロック式になっている。つまり、開け方によっては油断をすると、自動で閉まってしまうため、中に入れなくなってしまうのだ(ちなみに、ホテルと違い、電動カギを使って扉を開けて外に出たときには自動で閉まるが、マニュアルで開けて外に出た場合には、自動では勝手に閉まらないようになっている)。

今の家に住むようになって、2年超・・・。平穏無事に過ごしてきたが、ついに今日・・・やってしまった。こういうときに限って、窓は全てしっかりと閉まっている。そう、残された道は一つ。鍵屋に電話して開けてもらうこと。

幸い、携帯電話だけは手元にあったので、鍵屋をググって、すぐに電話。そして、1時間後・・・。鍵屋さんが到着。どうも、うちの鍵は難易度の高い?タイプのものだったらしく、壊すしかないとのこと。そして破壊料は、1つあたり25,000円。扉には鍵が2つついていたので合計5万円。うーん・・・。ほかに選択肢はないようだ。

加えて、新しい鍵に取り替えるのに、1つあたり20,000円。つまり、破壊料と新しい鍵の取り付け料で合計9万円。一瞬の油断が、9万円の損失・・・。ああぁ、財布をなくしたときのような喪失感が私を襲う。

鍵屋さん、鍵を破壊中
もう、今年の嫌な出来事は・・・これが最後になって欲しい・・・。

財布を落とした事件

実は、2週間ほど前、財布をなくした。中には、現金7万円と身分証明の類、クレジットカードの類が全て入っていた。

  • 現金7万円
  • 身分証明書の類
    • 免許証
    • 保険証
  • カードの類
    • クレジットカード兼キャッシュカード1枚
    • クレジットカード2枚
    • JR東海のICカード
    • ANAのマイレージカード
    • JALのマイレージカード
    • SUICA/PASMOの類
    • 会社のセキュリティカード
  • その他
    • 会社に経費精算する領収書
    • 会社のEmergencyカード
    • お守り

ポジティブシンキング術にも限界があることを知った。どう思考をめぐらせても、気分の落ち込みを止めることができなかった。

カード類を止めるのには、ものすごく苦労した。特にオートチャージ機能がついたPASMOは曲者で、なんと電話一本では止められない。PASMOとひもづいているクレジットカード会社(ちなみに東急のカードで、クレジットカード自体は紛失していない)に連絡したら「それは駅の窓口に行け」という。仕方なく大雨の中、窓口に行ったが、「免許証か保険証などの身分照明がないと止められない」という。「いずれも財布の中だったので、紛失してしまってありません。クレジットカード会社みたいに口頭ベースの本人確認でせめて停止処理くらいなんとかなりませんか?」と言ったところ、何処かで聞いたことがあるようなフレーズがこだまする。「規則ですから」。

結局パスポートを取りに自宅に戻ってなんとか停止。直後に駅員さんが「クレジットカード会社に言わないと、カードも同時に止まっちゃう可能性あるから電話して」と指摘を受ける。さっき電話した時にはカード会社の人は駅に行けと言っただけでそんなこと言ってなかったのにな」と不満を抱えつつ、再び、カード会社に電話。無情に「ただいま電話が大変混み合っています。」の自動応答。10分経ってようやく繋がって、事情を説明したところ「いや、カード会社側では何も処理する必要ありません」とのこと。止めるのを待たせるってどういうこっちゃ!三菱UFJもAMEXもCEDYNAもそんなことなかったのに・・・( ;´Д`)

クレジットカード機能付きキャッシュカードも、当然だが、別々の窓口のかけて同じような本人確認をして時間をかけて止めなきゃならない。カード数枚の紛失だが、数倍にに膨れ上がることを改めて知った。

・名前は?
・生年月日は?
・住所は?
・電話番号は?
・紛失か?盗難か?
・無くした時間は?
・無くした場所は?
・最近カードを使ったのはいつ?
・警察に電話した?

ちなみに、それだけ苦労して処理した財布だが、今朝、車の運転席の右下に落ちていたところを発見した。事件起きてもう2週間近くが経過するが、まだまだ、再発行処理に奔走中・・・(´Д` ) もうこんな経験はこりごりだ。

・・・と思っていたのに、2週間後の今日・・・ふたたび事件は起きた・・・。さて、それは・・・。

2013年10月14日月曜日

コーポレートガバナンスの強化がイノベーションを生み出す!?


2013年10月7日号
ソフトバンクが徹底的にこだわっているのは、「社員と全く同じ環境を体験してもらうこと」。学生には社員と同じように社員証や業務用のタブレットを配布し、営業部門に配属された学生には名刺を持たせて企業訪問にも同行してもらう。経営層が集まる会議に参加し、議事録をまとめた学生の1人は「僕がこんなところにいてよかったのでしょうか」という感想を漏らしたほどだ。(企業と学生のシューカツ革命-1 ”3年いないの退職を絶つ”より)

感想)
やっぱりそこに行き着くかぁ~という想い。我が社も若手社員の雇用を検討中だが、会社を知ってもらうためにはどうしたらいいだろう、採用される側と採用する側のギャップを埋めるためにはどうしたらいいだろう・・・と考えている。同じようなことを考えたが「同行させてもワケがわからないだろう」とか「お客様の印象が悪くなるかもしれない」など、できなり理由ばかりが頭をもたげていたが、こういった事例を聞くにつけ、見習わなきゃイケナイ部分もあるなと強く思った次第。


2013年10月14日号

インターネット上で、米ハーバード大学や米マサチューセッツ工科大学(MIT)など、世界の著名大学の講義を配信している「エデックス」によって、ホセインさんの「お茶の間留学」は可能になった(ネット講義配信の衝撃より)

感想)
このエデックスは、MOOC(ムーク)と呼ばれるウェブサイト上での無料講義配信の1つらしい。ネット環境さえあれば、どこからでも受講できるとある。純粋に興味がわいた。ぜひ受講してみたい。


なぜイノベーティブな経営者が企業の中から出てこないのか。それはコーポレートガバナンス(企業統治)が機能していないからです。(オリックス宮内義彦の経営教室より)

感想)
コーポレートガバナンスが強いと、規則ばかりが先行し、企業としての効果的・効率的な動きが抑制され、イノベーティブな動きにつながらない・・・という印象が強かったので、この宮内CEOの発言が新鮮で目にとまった。宮内氏曰く、日本の経営者はプレッシャーが少ない、というのである。プレッシャーが少ないから、「何かを生み出さなければならない」という想いが生まれにくく、結果的に競争力を失っていく・・・というストーリーだ。でも、どうだろうか。たとえばGoogleは、週のうちの2割を自分の好きなことにつかっていいという20%ルール(今はもう有名無実化しているらしいが、少なくとも、以前はこれでイノベーティブな発想をしていたのは事実だ)は、これとは逆の発想だ。やはり結局は程度の問題ではなかろうか。適度のプレッシャーと適度のゆとりと・・・。スポーツの世界でも、ビジネスの世界でも、その両方があって初めて、イノベーティブな動きができるのではなかろうか。

2013年10月12日土曜日

書評: 選択の科学

選択の科学 ~コロンビア大学ビジネススクール特別講義~
著者:シーナ・アイエンガー(櫻井祐子訳)
出版社: 文藝春秋


■「選択」という行為の研究の集大成本


「ぎりぎりまで寝てようか。いや、今起きるか。」「今日のランチはカレーにしようか。ラーメンにしようか。」「顔を洗ってから歯を磨こうか、歯を磨いてから顔を洗おうか」「ここで部下に助け船を出そうか、もう少し我慢しようか」・・・このように、我々が意識・無意識のうちに行う「選択」という行為には、実は何かしら見えない法則があるんじゃないか。いやあるはずだ。そして、それが(選択の自由を持つことを大事にする傾向が強い)アメリカの強さの源になっているんじゃなかろうか。そう信じ、幅広い分野にわたり20年以上もの研究を続けてきた著者が、その成果をまとめた本だ。

とは言え、ただの小難しい研究本ではない。副題に「コロンビア大学ビジネススクール特別講義」とあるように、著者の研究内容と成果を、誰もが興味を持って読み、そして良く理解できるように、我々が大学時代に見た教授のテキストとは比べものにならないくらいわかりやすく、上手に、まとめられている。

■「選択」という行為に、かくも多くの発見があるのかという驚き


本書を読んでみて感じるのは、とにかく新鮮な発見が多い、ということだ。「選択」という身近な行為に、かくも奥深い発見があるのかとただただ舌を巻く。

1つ例を挙げよう。わたしは「運命は自分で切り開くもの。だから人に選んでもらった人生より、自分で選んだ人生の方がきっと幸せになれる」・・・そう単純に信じていた。著者は、この点についてある実験を行った。恋愛結婚と親同士が決めた者同士の結婚とで幸福度調査をしたのだ。新婚のケースでは、恋愛結婚をしたカップルのほうが幸福度数が高かったが、結婚から10年以上経ったカップルでは、これが逆転した、という。この結果を聞いたからといって「恋愛結婚より許嫁同士の結婚のほうがいい」とは思わないが、「許嫁同士の結婚は、ナンセンス」と考えることが、ナンセンスだ、と気づかされた。

もう1つだけ例を挙げよう。わたしは「何かを選ぶとき、その選択肢が多ければ、それにこしたことはない」と単純にそう思っていた。たとえば車を買いたいと思ったとき、選べる車種が多ければ多いほど、自分の用途に見合ったモノを発見できる可能性が高くなるハズ・・・とそう思うからだ。著者は、この点に対して、あるスーパーで実験を行った。店頭に数種類のジャムを並べた場合と、数十のジャムを並べた場合とで、顧客の対応にどのような違いがでるのかを観察したのだ。その結果はどうだったのか。非常に興味深いものだった。ぜひ、本書を読んで欲しい。

数々の偏見をとっぱらってくれること請け合いである。

■著者が引き合いに出す例示の数々


驚きの多さもさることながら、本書の魅力をさらに引き立てているのが、著者の紹介する実験話や例示の多さだ。動物や人間に行った実験の話はもちろんのこと、政治、社会、文学、歴史、数学、人間科学など・・・実験やたとえ話は、ありとあらゆる分野に及ぶ。お陰で、400ページ近い本だが、飽きることなく読むことができた。

動物忍耐力実験の話、幼稚園児の反応実験の話、マシュマロお預け実験の話、今の100ドルと将来の120ドルの実験の話、延命治療の選択・決定の話、ミネラルウォーターと水道水の話、コーラとペプシの話、アルゴアとブッシュ元大統領の選挙戦の話、宗教がもたらす影響の話、動物園の動物の寿命の話、京都でお茶に砂糖を入れてくれと頼んだときの店員との押し合いへし合い事件の話、大和銀行の11億ドル損失事件の話、シンデレラやタージマハル、ロミオとジュリエットの話。ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」の話。ピクサー映画「ウォーリー」の話、ポーカーゲームの話・・・などなど、これだけ列挙しても、著者が本書の中で引き合いに出す例示のごくごく一部だ。

著者が、とんでもない量の文献を読み、実験し、研究を続けてきたことが良く分かる。しかも、これを全盲の著者が成し遂げたというのだから、畏敬の念を禁じ得ない。

■人間心理を愉快に学びたい人たちへ


というわけで、本書を読むと「選択」という1つの行為の裏に隠されたアメリカの強さ・・・いや、人間心理というものを、愉快に、学ぶことができる。

人間心理に触れることができるという点に鑑みれば、会社でマーケティング活動をしている方々、教育者の立場にある人たち、つまり、先生やコンサルタント、あるいは部下を持つマネジメントの方々、そして日々多くの判断を求められる子を持つ親たち・・・そういった人たちであれば、単に面白い本・・・というだけでなく、視野を広げ、何かを得る一冊になるだろう。


【講義という観点での類書】

2013年9月29日日曜日

シリコンバレーですら、90%の人が新しいものに反対する・・・

日経ビジネス2013年9月30日号の特集はビッグデータ。以下、特集に関係ある・なしに関わらず気になった記事をピックアップ。


『(東京メトロの)2013年3月期の売上高営業利益率は23%。鉄道会社ではトップクラスだ。高収益体質で知られるコマツや「ユニクロ」のファーストリテイリングを上回る。』(東京メトロ、再燃する「上場」期待より)

感想)
営業利益率23%って・・・とんでもなく高数値だ。上場企業の利益率を調べてみたら、たとえばソフトバンクが22.1%、漢方薬で有名なツムラで21.9%程度だ。23%という数字の高さがうかがい知れる。交通手段はいってみれば生活必需品なわけだし、よっぽどのことがない限り、この数字は続くわけだ。そこまで競争原理の働かない市場ゆえ、動機は薄いだろうが、逆に、もっとサービス向上にお金をかけられる・・・いや、かけるべきではないだろうか。ちなみに、上には上がいるものだ。上場企業の営業利益率トップは極東証券の57.4%、国際帝石の57%、グリーが52.3%、カカクコムが49.9%、キーエンスが46.1%・・・。経常で見たらもっと変わるだろうが、それにしても凄い。


『清川を支えたのは、古原からアドバイスを受けて聴講したグーグルのエリック・シュミットの言葉だ。ベンチャーの誕生を歓迎するシリコンバレーですら、90%の人が新しいものに反対する』(清川忠康 めがね販売の常識を覆すより)

感想)
企業アイデアが多くの反対されたら、逆にそれはチャンスだと考えるべき・・・とは良く言ったものだ。清川氏の記事を読んでいると、この言葉を地でいく印象だ。起業を目指す人にとって、とても重要なケーススタディになると思う。


『ハウステンボスの抱える問題は3つありました。1つ目は規模の大きさです。東京ディズニーランド(TDL)と同じくらいの投資をしていましたが、お客さんが来る地域から計算すると、TDLには関東の2000万人者市場規模があるのに対し、ハウステンボスは福岡まで入れても200万人。10分の1ですよ。それなのに、TDLの1.6倍の敷地面積をもつこと自体が間違いでした・・・(中略)・・・あとはイベント力です・・・(中略)・・・イベントはオンリーワンかナンバーワンの企画をやるしかありません。いろんなイベントを仕掛けて、それでお客さんを増やしただけ。あんまり難しくないから話したくないんだけど』(澤田 秀雄エイチ・アイ・エス会長、ハウステンボス社長 アジア大航海時代が来る より)

感想)
「ハウステンボスは、色々な人が努力してもダメだったのだから、今更エイチアイエスが頑張っても難しそう。」・・・くらいにしか思っていなかったが、澤田社長の言を聞くと明瞭完結。まさにこれが”現状にもとづく有効な戦略”ってやつと言えるのだろう。こうした戦略論が、なぜ、エイチ・アイ・エス以前に生まれなかったのか。澤田社長が圧倒的に有能だから、ということなのか。前の組織が硬直化していたからなのか。その理由をぜひ知りたかった。


たった99ドル(約9900円)であなたの遺伝情報を解析します」今年8月、全米でこんなテレビコマーシャルが始まった。提供するのは遺伝子解析を手がける米シリコンバレーのベンチャー、23andMe(23アンド・ミー)だ。検査キットに唾液を入れて送ると、4~6週間で遺伝病のリスクなどの分析結果が分かる』(遺伝子解析が激安に より)

感想)
ただ単にWow(わぁお)という気持ち。法的問題がネックで日本ではまだこうしたサービスが行われていないらしいが、個人的なリスク管理の一環として、始まったら飛びついちゃうかも。この商売を始めたら、その会社はとんでもなく儲かるだろうなー。

書評: 静かなるイノベーション

静かなるイノベーション ~私が世界の社会起業家たちに学んだこと~
著者: ビバリー・シュワルツ(藤崎香里 訳)
出版社: 英治出版


■What's this book about?(何の本だろう?)

社会人または、これから社会人になろうとする者に、人生の新たな選択肢を示してくれる本だ。その選択肢とは"社会起業家(ソーシャルアントレナーシップ)"だ。

社会企業家とは、本書の言葉を借りれば、公正を重視し重要な社会変革を起こすためにシステムを破壊してつくりかえる人々のことだ。一瞬、「政治家のことか?」とも思うが、”起業家”という言葉がつくことからも分かるように、もっと簡単に言えば、世の中をより良くするための活動をビジネスとして成り立たせてしまおうという人々のことだ。お金が絡めば勢いがつくし、それによって半永久的な活動となりやすいからだ。従来、「世の中に役立つことをしたい」という人は、活動家や提唱者、医者や人権弁護士、教授、研究所、学者などになるという道を選んできた。そこに現実的な選択肢が加わった。それが社会起業家なのである。ちなみに、わたしがMBAを習得した2005年頃には既に”社会起業家”という言葉が登場していたが、当時は今ほどの注目度はなかった。ところが2008年~9年頃から「先輩が行った大学院では、社会起業家についてどんな学びを得られるのか・・・教えてください」と頻繁に聞かれるようになった。社会起業家は、まさにトレンドといえるのだろう。

とはいえ、社会起業家が何であるのか、まだイメージがわきづらい。まして、どうやったらなれるのか、わからない。著者もまさにその一人だったようである。そんな著者が、世界最大の社会企業ネットワークを持つアショカグループの存在を知った。そこで、社会に大きな変革をもたらすことに成功している人たちがたくさんいることを目の当たりにしたのである。彼らを突き動かしたモチベーションは何なのか。そこに共通点はないのか。本書は、世界中で大きな成功を収めたアショカフェロー18人に直接インタビューを行った結果がまとめられている。

■What's so good about it?(この本の何がいいのか?)

社会起業家をテーマにした本は数多くある。Amazon.co.jpで検索したら、700件以上もヒットがあった。そんな中で本書が特徴的なのは、世界最大の社会企業ネットワークアショカグループで大きな成功を遂げているメンバー達に直接インタビューを敢行した結果が反映されている点だろう。ドイツで人々が所有する電力会社を作り上げたウアズラ・スラーデク、グアテマラの農村への物流革命をもたらす小規模委託販売モデルを作り上げたグレッグ・ヴァン・カーク、新しい仕事を創出することでペルーの町を美しくする仕組みを作り上げたアルビナイ・ルイス・・・など、文字通り、世界中で成功した人たちの生きた事例を読むことができる。

そして、もう1つ特徴的なのは、本書の構成だ。事例を5種類に分類し、それをそのまま章立てとしている。具体的には「時代遅れの考え方をつくりかえる」「市場の力学を変える」「市場の力で社会的価値をつくる」「完全な市民権を追求する」「共感力を育む」という5つだ。この分類は、読者が「どんな社会起業家になれるか?」を考える際のヒントになる。社会起業家に共通するものとして、身近な生活に感じた不満がきっかけになっていることが多いと本書は指摘するが、たとえば私に置き換えて考えてみると「通勤電車の混雑具合、孤独死、自殺・・・」などがパッと思いつく。ではそれらがこれら5つの章のどれに当てはまるのか・・・それを見つけてページを開くと、そこには具体的な事例が載っている。こんな感じでヒントになるのだ。

それと意外に気がつかないことだが、敢闘賞だと思うのが翻訳だ。和訳された文章というものは一般的に堅苦しく、どこか、ぎこちがない。内容が内容だけに、読みづらくなるのが常であるが、本書の本の文章はスムーズで、読みやすかった。

■To whom do you recommend this book? (で、誰にお勧めの本なのか?)

いいことばかり書き連ねたが、留意点も挙げておきたい。別の視点から見れば、社会起業家の事例が載っているだけの本・・・と言えなくもない。(どんな本を読むときにも当てはまることだが、本書を読むときは特に)何の意識もせずただボーッと読んでいると、頭には何も残らない可能性がある。一回目は軽く流し読みするとして、二回目からは、自らのケースを当てはめて読むといいだろう。自分が感じている社会の不満などを列挙してみて、それが本書のどの章立てに当てはまるかを考え、自分ができる身近なことってなんだろうかと考えてみる・・・。そうすると、本書が生きてくる。

というわけで、人生に選択肢を増やしたい人、社会起業家に強い興味がある人にはぜひお勧めしたい。また、会社の中に起業家マインドを醸成したいという人・・・会社で本書を配るというのもアリかもしれない。


2013年9月21日土曜日

雑誌「韓国を叱る」を読んで

今回は月刊VOICE2013年10月号から。印象に残った言葉、文章を、以下にクリッピング。


『(高橋)是清という人物はものすごい数の失敗をして、そのたびに学びを得て乗り越えています。』
(高橋是清に学ぶ「命懸け」の出口戦略 幸田真音より)

感想)
高橋是清・・・昔、学校で習ったけど、実はほとんど覚えていない。この記事を読んで、40歳にして突如、この人物に強い興味がわいた。ちなみに、記事中に出ていた「明治五年に太陰暦から太陽暦に変更した理由」・・・っていうのが、なんか突拍子なくて面食らった。ちなみに、その理由とは「それによって月数が一つ減ることになり、役人の人件費(月給制)を一ヶ月分削減できたから」だそうΣ(゚д゚;)


『いま、現代自動車の社員の平均年棒が約900万円ですね。トヨタより多く、生産性はトヨタよりずっと落ちるのに、8月20日から二日間、賃上げ要求のストに入った。このあたりがおそらく韓国経済のターニングポイントだと思う。』
(中国属国化で自滅する韓国 屋山太郎&室谷克実より)

『サムスン電子の利益は、あまりにも「スマートフォン依存」になってしまっている・・・(中略)・・・サムスン電子の売り上げ(利益ではない)が韓国のGDPに締める割合は、20%に達しているのだ。現在の韓国は、「サムスン電子が販売するスマートフォンの売り上げ」に国民経済が左右されてしまう、異様な構造を持つに至ったのだ。』
(サムスン共和国の崩壊が始まった 三橋貴明より)


感想)
ぶっちゃけ感じたのは「他人の芝は青く見える」ということ。もともと、韓国はパッと見、勢いある国というイメージが強く、(今でこそ勢いがでてきたがつい最近まで)日本は、勢いがない国というイメージが強かった。しかし、ふたを開けてみれば、どこの国もそれなりに大きな問題を抱えているんだな、と。いや、日本と韓国のケースでは、むしろ、韓国の方が大変そうですらある。韓国は、日本以上に、財閥がものすごく力を持ち、限られたごく一部のものばかりが得をする社会になっている・・・といいつつ、その代表格であるサムスンが資本の過半数を外国勢に握られている・・・わたしが朴大統領だったら、何ができるんだろう。


『政治犯の場合は(日本・韓国間の)引き渡し対象から除外されるわけだが、「ソウル高裁は「放火犯」にすぎない劉容疑者について、”靖国神社をたんなる宗教施設でなく、過去の侵略戦争を正当化する政治秩序の象徴とみなした犯行で、政治的大義を実現するために行われた」と指摘し、劉容疑者を「政治犯」と認定したのである。』
(サムスン共和国の崩壊が始まった 三橋貴明より)

感想)
感情論を抜きにして、放火はダメだと思う。明らかに犯罪。人の命を奪いかねない。政治的解決手段として人命を奪う行為を容認するのは、どう差し引いても納得がいかない(ちなみに、私は韓国人が好きだし、友達もいっぱいおります・・・)。


『私は元中国人だから知っていますけど、ある意味で中国ほど韓国を嫌う国はありません。中国人の日本に対する「嫌い」という感情と、韓国に対する「嫌い」という感情はまったく異なります。日本への「嫌い」は過去の「歴史問題」いわゆる「軍国主義」に対するもので、抽象的なものです。一方で、韓国に対する「嫌い」はより具体的なモノで、はっきりいってしまえば、韓国人が「嫌い」だということです。中国の半日には、日本に対するある種の尊敬やコンプレックスも含んだ複雑なところがある。一方で中国は朝鮮半島国家を完全に見下しています。』
(中国も呆れる熱狂ファシズム 呉善花&石平 より)

感想)
全く知らない事実に気づかされた・・・ということでとりあげた。本当なのだろうか。今度、中国の友達にあったら聞いてみたい。世の中のこと、隣国のこと、理解できているようで、実は本当に何も知らない自分に気づかされる。


『消費税引き上げの代償として財政出動するのは最悪で、なぜなら、自民党議員に象徴されるように、財政支出にたかりたい利害関係者はこのチャンスを待っているからだ。ほとんどの支出は無駄なので、それなら減税をした方がよい。消費税引き上げ率を抑え、消費者にカネをもたせるべきだろう。政府が無理をして捻出する財政支出で生じる需要よりも、質の高い需要となるからだ。』
(消費増税延期論は単なるポピュリズム 小幡績 より)

財政出動は最悪・・・というこの記事の理由には賛同したい。東日本大震災の復興増税の流用事件を忘れてはいけない。こうした財政出動により落ちてくるお金を自分たちのところにひきよせるのが得意なシロアリさんたちがたくさんいる。それが日本の景気刺激にどうつながるのか。まぁ、1万歩譲歩したとして、自堕落なシロアリさんたちがその金を得たとして、国内でお金をしっかりと使ってくれれば(最終的には他のひたちにお金がまわり・・・良いのだろうが、それが海外旅行などを通じて、日本の外に流れているばかりだとしたら、あるいはひたすら貯金になっているのだとしたら・・・それはもう・・・悲しくて悲しくて・・・。

月刊VOICE2013年10月号

2013年9月16日月曜日

物流コストを引き上げる大きな要因

日経ビジネス2013年9月16日号の特集は「アベノリンピクスの行方」。ただし、やや後付け感が否めず、どちらかというと、もう1つの特集「物流」の記事が面白かった。


今、物流コストを引き上げる大きな要因となっているのが、再配達の増加だ。Amazonでは徹底した効率化でスピード物流に磨きをかけてきたが、唯一、コントロールしきれず流れが滞る場所がある。それが、購入者の受け取り時だ。(「独走アマゾンの執念 王者と組んだ王者」より)

感想)
Amazonや楽天が、当日配送エリアの拡大にしのぎを削るなど、物流スピードも来るところまで来たか・・・といった印象を持ったが、記事が指摘するように消費者の受け取りがボトルネックになるとは、確かにそのとおりだ。数年前からヤマトが、女性の配達ドライバーを増やすことで、警戒感の強い女性が居留守を使わずに荷物を速やかに受け取ってくれるような工夫をしている・・・という番組特集を観た記憶があるが、なるほど、ああしたことも、まさにこの指摘を克服するための取り組みだったというわけだ。記事では、解決策としてコンビニ受け取りを拡大させる・・・とあったが、コンビニもスペースは限られるし、さらなる工夫が求められるのだろう。

日経ビジネス2013年9月16日号

2013年9月7日土曜日

商品やサービスの背後にあるもの

日経ビジネス2013年9月9日号の特集は、「スクエア・インパクト」。スクエアとは、会社の名前だ。モバイル端末で、簡単に決済できる仕組みをゼロ円で導入できるサービスを提供している。創業者のジャック・ドーシーCEOは、ツイッターの発明者でもある。


ツイッターもスクエアも、コミュニケーションと顧客体験に焦点を当てているところで哲学が共通している。スクエアは単なる決済サービスを提供するだけの会社じゃない。ツイッターが140文字でコミュニケーションをシンプルにしたように、店舗と顧客のコミュニケーションを単純化するためにスクエアがある・・・(中略)・・・スクエアの「魂」はソフトウエアやサービスの背後にあるものであり、コピーできるものではない。(「特集 スクエア・インパクト 魂はコピーさせない」より)

感想)
ソフトウエアやサービスの背後にあるもの・・・この表現がすごく心に残った。ごく平凡に表現すれば、経営理念やミッションみたいなもの・・・もっと平凡に言えば、会社が目指す究極の目的・・・といえるだろうか。スクエア社ではこれが明確であり、かつ、しっかりと共有できている・・・それがジャック・ドーシーCEOの魂というものではなかろうか。ツイッターやモバイル決済はその魂から生まれたイチ手段に過ぎず、スクエア社に真に根付いている”魂”さえしっかりしていれば、顧客に受け入れられるモノを作れる・・・そういうことじゃないかと思った。

「世界中の情報を整理しアクセスできるようにするという」使命をかかげるGoogleにしても、「自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供する」という使命をかかげるディズニーにしても、本当に強い会社は、その「背後にあるもの」を大事にしており、品質の高い経営理念やミッション・・・言わば、目に見えないひもで、経営とスタッフ一人一人をしっかりと結びつけているのだと感じた。我が社に足りないものだ。


僕は以前、ソニーにいました。・・・(中略)・・・「ソニーの持つ技術がこう入っているから他社に勝てる」というプレゼンが求められました。もちろんその視点の大事さは知っています。でも、差別化にこだわるが故に、ユーザの顔が見えなくなる場合もある。僕はユーザーが求めるものの中で、「良いものをいち早く出す」というシンプルなことがビジネスとして非常に意味があると思っています。(「失敗なくして運は来ない 森川亮 LINE社長インタビュー記事」より)

感想)
差別化と顧客ニーズ・・・結論から言えば、どちらも必要なわけだ。ただし優先順位のつけかたが問題なのだろう。そもそも差別化と顧客ニーズ・・・見てる方向が異なる。差別化は競合を意識したものだし、顧客ニーズは顧客を意識したものだ。差別化・・・すなわち、競合他社を意識し過ぎると、本当に顧客が欲しいものを見失う・・・そういうことなのだろう。

日経ビジネス2013年9月9日号

===2013年10月14日追記(スクエアとユニクロの提携)===
2013年10月14日号の日経ビジネスに、ユニクロがスクエアに急接近の記事が・・・。店舗の機動力向上と小スペース化・・・が採用の理由とのこと。特に機動力向上という観点では、店員一人一人をレジ化することにより、混雑時にお客様が行列に並ぶストレスから解放できる=機会損失を減らせる・・・ということだが、さて、どれだけの効果があるのか、興味がわく。確かに並ばないのは有り難いが、それが理由で買い物をあきらめる・・・ってのはそんなにあるものなんだろうか。ぜひ、効果のほどを知りたい。

2013年9月6日金曜日

書評: 井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業3 悪人英雄論

井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業3 悪人英雄論
著者: 井沢元彦
発行元: PHP研究所


■歴史の裏教科書 第3弾


本書は、シリーズ3作目。何のシリーズかというと、歴史学という見地のみならず、宗教学や考古学、言語学など複合的かつ斬新な見地から、日本史をひもとき解説してくれるシリーズだ。シリーズ第3弾にあたる今作は、題して「悪人英雄論」。日本の歴史に登場する誰もが知る・・・英雄と謳われた人、悪人と謳われた人たち・・・を井沢元彦の流儀でぶったぎった本である。

具体的に登場人物の名を挙げると、天智天皇、持統天皇、中臣鎌足と藤原不比等、藤原仲麻呂と道鏡、平将門、源頼義と頼家、源頼朝と義経、後醍醐天皇、足利尊氏、足利義満、北条早雲、斎藤道三、毛利元就、である。この名前を見ただけでも、本書が日本史の中のどのあたりの時代をターゲットにしているか、自分が興味を持って読めそうな本か・・・ある程度、判断がつくだろう。

■日本史の点と点を線にしてくれる魅力は相変わらず


前々作前作の書評でも触れたが、本書最大の特徴は、我々が学校で習ったときには点でしかなかった歴史上のイベントを、みごとに線でつなげてくれる点にある。この特徴は本書でも健在だ。具体例を挙げてみたい。以下は、学校の歴史教科書に登場する解説文だ。足利義満が造った金閣寺についての解説文だ。

『義満が京都北山の山荘(のちの鹿苑寺)にもうけた金閣は、1層(初層)が伝統的な寝殿造、2層が和洋の仏堂、3層が禅宗様式という建築様式で、この文化の特徴をよく示していることから、室町時代初期の文化を北山文化とよんでいる(日本史B 改訂版)三省堂122ページ)』

正直、年くった今読んでも、お世辞にも「おー、すごいっ!」とか「へぇー!」という感想は出ない。せいぜい「金閣寺ね。あー、あの黄金の。おれわりと好きだな・・・」くらいだろうか。学生時代、文意を理解することよりも、ただイベントを丸暗記しようとしていたことしか記憶にない。足利義満、金閣寺、北山文化・・・というキーワードを必死で暗記していたような気がする。

この解説が、井沢元彦にかかるとどうだろう。彼は次のようにひもとく。「なぜ、金閣寺を3層違う様式で建築したのか。そこには足利義満の隠れた想いが反映されている。1層の寝殿造りに住むのはもともと天皇だ・・・貴族だ・・・すなわち朝廷勢力だ、2層の仏堂は武家造りを表している・・・すなわち武士、3層の禅宗様式は中国人の禅僧・・・ただし、中国人とは中国で生まれたかどうかなどDNAのことではなく、中華の思想・・・世界の中心・・・という意味での中国(中心)人・・・のこと、つまり、これは足利義満自身を指す。つまり、金閣寺は、足利義満がすべてのトップに君臨したいという彼の野望の象徴そのものである。」・・・とこんな感じである。金閣寺の公式ホームページの歴史解説を読んでも、このような解説は出てこない。あくまでも井沢氏の持論にとどまる話なのかもしれないが、「3種類の様式で造られている。北山文化だ。足利義満が建てたんだ」と教えられるよりも、はるかに印象的で、ものすごく魅力的だ。もっと当時の歴史を知りたい・・・心が動かされる。これが、本書・・・いや、本シリーズの魅力なのだ。

■かめばかむほど味が出るスルメ本


一点、注意点を挙げるとすれば、読むのにややエネルギーがいる、という点だろうか。歴史に家系の話はつきものだ。天皇が登場するならなおさらである。また、昔の人の名前には似たものが多い。そこに輪をかけるように、もともと聞き覚えの薄い天皇や武将の名前も登場するので、著者のいわんとすることを正しく理解するために、何度もページをひっくり返して、家系図と解説を確認しながら読むことになる。だから、一気に読み進めるのが難しい。

一方で、そうしたハードルを乗り越えると・・・つまり、著者の趣旨を理解できると、ぱっと目の前が開けたような発見がある。ある意味、かめばかむほど味が出るスルメ・・・と同じ楽しみ方ができるとも言える。1回目は、”ちなみに・・・”的な解説文はどんどん読み飛ばし、理解できる範囲でさらっとながして楽しみ、2回目はさらに深く読み込む・・・そんな読み方もアリだと思う。実際、私もそうした口だ。

■誰が読むべきか


「悪人英雄論」と題しているものの、前作前々作と類似した年代を切っているので、内容には重複する箇所もある。たとえば、「後醍醐天皇と楠木正成をつなげた思想とは」というテーマが第2弾に登場するが、これと同じ話は第3弾にも登場する。裏を返せば、シリーズのどの本から手をつけても、話を理解できるようになっている、とも言える。なので、歴史本に少しでも興味がある方は、まず自分が興味を持てそうな一冊を手にとり、もし、それでハマったなら、残りの2冊に手を出す・・・そんな本書・・・いや、本シリーズにはそのようなアプローチが最適だろう。

なお、勝手な推測だが、著者がときおりこきおろす歴史専門家・・・彼らからすると本書の内容には反論したいところもたくさんあるのではないかと思う。ただ、井沢元彦氏の解説は説得力がある。そして何より面白い。それは先述したとおりだ。賛否両論分かれるのだろうが、わたしは好奇心を刺激してくれる本書を強く推したい。


【面白い切り口で歴史をひもとくという観点での類書】
学校では教えてくれない日本史の授業(井沢元彦著)
学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇編(井沢元彦著)
地図から読む歴史(足利健亮著)
戦国の軍隊(西股総生著)

2013年9月2日月曜日

書評: マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書

マッキンゼー・・・一昔(十年ほど)前なら、日本ではまだそれほど知られていなかった名前だが、今や一つの大きなブランドになりつつある。大前研一や勝間和代など、メディアで活躍する彼らが同会社の出身者であることは周知の事実。雑誌に登場する著名人のプロフィールにマッキンゼーという名前が入っていることも珍しくない。最近では、マッキンゼーを冠した本を目にする機会も増えてきた。エリート中のエリートである彼らのコンサルティングのワザには、大いに参考にすべき点がある・・・そんな印象を持つ中で、目にした最近の一冊・・・。

マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書
著者: 大嶋 祥誉(おおしま さちよ)
発行元: ソフトバンク クリエイティブ(株)

■ビジネスファンダメンタルの指南書


本書は、マッキンゼー出身者である著者(大嶋 祥誉氏)が自身の経験を基に、特に技術面から、ビジネスマンなら誰しも知っておきたいこと、知っておくと必ず役立つこと、を手引きした本だ。

「いくら有名なコンサルティングファームのマッキンゼー出身者が書いた本だからって、自分はコンサルタントをやっているわけではないんだし、それが自分の何の役に立つのか?」・・・そう疑問に思うなら、それは杞憂だ。人間の基本スキルである”見て聞いて読んで話して書くこと”・・・と同様に、どんな業種・業態・規模・役職・部署に所属する人であっても、共通に求められる基本中の基本のワザが紹介されている。そのワザとは、タイトルにあるように”問題解決能力”のことだ。どんな役割の人であれ、日々問題に直面し、それを乗り越えることが求められる。そのためには、何が真の問題かを正しくとらえるために、事実関係を確認・分析をしたり、誰かの理解や協力をもらうために説得材料を用意し、わかりやすくプレゼンをしたり、あるいは上司に承認をもらった計画を確実に履行するためにプロジェクト管理をしたり・・・さまざまな活動が必要になる。

本書では、こうした活動を効果的・効率的に行うためのテクニックを・・・一流コンサルティングファームが昇華させてきた基本中の基本のスキルを・・・マッキンゼー社員も入社一年目に学ぶワザを・・・紹介しているのである。

■問題解決能力を支える基本テクニック


問題解決能力とひと言で言っても、先に触れたとおり、さまざまな技術要素が絡んでくる。そもそもの心構え、課題・仮説設定や仮説検証を行うためのロジカルシンキング能力、それを文書にまとめるドキュメンテーション能力、人に伝えるプレゼン能力、これら活動を間接的に支えてくれるツール(フレームワーク)など、様々だ。こうした要素すべてをバランス良くカバーしているのが本書の特徴だ。

”バランス良く”・・・というところがミソで、フレームワークにしても10個も20個も紹介されているわけではなく、3Cや7S、ポジションマトリックスなど、本当に良く使うであろう4~5つ程度のツール紹介にとどめられている。プレゼン資料のまとめ方についても、何重ものポイントについて触れられているわけではなく、考え方を整理するピラミッドストラクチャーをはじめ、1つ2つの程度の主要ポイントの言及のみにとどめられている。なぜなら、知識武装させることだけが目的ではないからだろう。人は、ややもするとこうした本にテクニックばかりを追い求めてしまいがちである。本書も指摘しているが、3Cや7S・・・など、どんなに立派なフレームワークを使おうが、プレゼンスキルを持とうが・・・一番最初のとっかかりである「どこからどこまでが事実で、どこからどこまでが人(あるいは自分)の意見なのか」を整理する力(雲雨傘の理論)が、しっかり身についていなければ、何の役にも立たないのだと思う。

確かに”内容の濃さ”という観点では、玄人は物足りなさを感じるかもしれないが、そうでない人には、多過ぎず複雑過ぎず難しすぎず・・・ちょうどよい案配と言えるだろう。

■新入社員に読ませたい本


1つだけ気をつけておきたいこととすれば、本書のタイトルにある「入社1年目」というキーワードは、「マッキンゼー社内で1年目の社員がこうした教育を徹底的に施されるよ」というところに由来している点だ。冒頭でも触れたとおり、彼らはエリート中のエリート集団だ。入社1年目・・・あるいは入社前に目を通しておくのが理想的だろうが、こうした類の本を読んだことがない若者であれば、別に、入社2年目でも、5年目でも、手にとってみる価値はあるのではなかろうか。

こういった類の本を読んだことがない方で興味がある方、ビジネスマン初心者や、ビジネスマンでありながらも基礎が弱いんだよな、と思っている方、あるいは新入社員研修を考える人事部門の人々・・・などには参考になる可能性が高い本だ。


【類書】
 ・質問する力 (大前研一著)
 ・「正しく」考える方法(齋藤了文、中村光世著)

2013年8月27日火曜日

今日の気付: 日本酒ブームなのに酒米が生産できない裏事情

WEDGE9月号にて、日本酒の獺祭(だっさい)が売れてるけど困っているとの記事を発見。

『(獺祭)など日本酒の売り上げが伸びているのは)日本酒全体の出荷量は減り続けているものの、醸造アルコールを添加しない米だけで造る、純米酒や純米吟醸(精米歩合60%以下)の増加や輸出ののびがもたらした結果だ。しかし、これ以上の増産となると難しい。というのも、山田錦をはじめとした酒造好適米は、主食用米と同じく「生産数量目標」の内数となっているからだ。要するに生産数量に制限がかけられているのである。』 
(WEDGE9月号 「日本酒ブームなのに酒米・山田錦が足りない」より)

わたくしの感想)
何とも信じがたい。山田錦をもっと生産してくれっ!と酒造メーカーが頼んでるのに、農水省の「生産数量目標」のせいで、作れないとは・・・。農水省は「そもそも、こうなる制度を望んだのは農家だし、酒造好適米を生産していない農家が不利になるので、彼らは制限解除を望んでいない」と主張するが、以前、不利が起こらないように配慮した仕組みをもって喜多方市が、3度、特区申請を出したが却下されたそう。その理由がなんとも滑稽だ。

「当時は本当に需要があるか確認できなかった」から・・・だというのだ。

需要があるかわからないからこその特区申請なのだと思うが、なんとも腰の重い話に悲しくなるばかりである。まぁ、ほかにも実態は、農水省にとどまらず、その他の色々なステークホルダーが反対しているのだろうけれど・・・。

2013年8月25日日曜日

月刊VOICE9月号「中国バブル崩壊に備えよ」について

月刊VOICE9月号は、「中国バブル崩壊に備えよ」が特集テーマ。

『(新聞やテレビが福島第一原発の所長の功績をたたえる一方、津波対策をおろそかにした面もあったという点について・・・)あまりにひどい誤解だといわざるをえません。そうした報道に接するたび、私は吉田さんがかわいそうに思えてならない。そもそも、吉田さんが津波対策をおろそかにした事実はありません。逆に、津波対策についていちばん積極的だったのは吉田所長です。』
(「追悼・吉田昌郎元所長」における門田隆将氏の発言より)

感想)先日、聞いたTBSラジオ「ボイス!そこまで言うか」にて全く同じことを青山繁晴氏が触れていてそのとき青山氏は、「元所長が吉田元所長が3/11が起こる前に、3/11クラスの津波を想定した防潮堤をつくることに反対したのは事実・・・といっておられた。こちらVOICEでの門田隆将氏の発言を聞くと、いったいどちらが正しいのか、あるいは、どこからどこまでが事実で、どこからどこまでが誰の意見なのか・・・わからなくなってしまった。ただし、少なくとも、吉田元所長は誰よりも被害最小化に尽力した人である・・・ということだけは間違いないという印象を持った。


『肝臓を患った50歳の男性がいる。移植以外に手立てはなく、移植しなければあと1年いきられないかもしれないと医師に宣告されている。血液型が適合するのは弟のみ。血液型が適合すれば兄は助かるだろう。ただし、弟には妻とまだ幼い子供がいる。合併症が起きる可能性もあり、死亡例もゼロではないとなれば、家族が心配だ。だが、移植に同意しなかった場合、弟は兄の死に罪悪感を感じるだろう。兄を救えるのは自分だけ、という場合、弟が最終的に臓器提供に同意したとして、それは完全な自由意志と言えるだろうか』
(「生体臓器移植の悩ましさ」にて、”ドナーは決して強制されて決まるものではない”という考えに対しての最相葉月氏の発言から)

考えたこともなかった。自由意志って、形式ばっかり整えても、満たされないものだな・・・そんな簡単に満たせるモノではないのだな・・・と気づかされた。


『中国経済はいま、イノベーションを起こし、新しい製品を創り出さなければならないステージに達しています・・・(中略)・・・共産党政府と密接に結びついた特定の企業の力が強すぎて、新しい製品を創り出すエネルギーになる競争力が確保されていない。これではいつまで経ってもイノベーションは起こせません。将来的に中国経済には、日本が味わった苦難が大幅に増大されたかたちで表れてくると思います』
(「エリートの既得権が国を滅ぼす」の「先進国の後追いは必ず行き詰まる」というダロン・アセモグル氏の主張より)

中国は近い将来崩壊する・・・と言われて久しいが、その最たる理由として挙げられるのは、やはり共産党の締め付けだ。いまはまだ経済成長が進み、ジワジワではあるが、豊かになっていくのを実感できている間は既存政党をひっくりかえそうという気持ちは起こらないが、成長が止まったとき・・・不満が爆発してひっくりかえる可能性がある・・・というものだ。この話は良く聞いていたが、次の成長のためにはイノベーションが必要なこと、そして、政府の今のやり方がイノベーションを抑制していること、この2点を挙げて中国崩壊に言及する記事は(個人的には)新鮮だった。納得感がある。


『(円谷)社内で「(ウルトラマンティガ・ダイナ・ガイアのいわゆる平成三部作について)一番組当たりの収支をつけていない」という・・・(中略)・・・。ところが、制作費と著者区件収入を対比して精査すると、実際は大赤字でした。作品ごとの収支を管理していないので、出費に歯止めがかからず、経費がどんどん出ていく。』
(「ウルトラマンと中国進出の難しさ」より)

この記事を読んで感じたというより、びっくりしたのは、円谷プロダクションがそんなひどい状況だったという事実だ。また、中国進出の難しさは確かに興味深かったし・・・確かに難しいとは思うが・・・それ以上に、そんなことも予期せずに海外進出しようだなんて・・・失敗するべくして失敗した・・・としか感じられなかった。反面教師の記事にはなったと思う。


『ガダルカナル島から未帰還のパイロットは半分以上が撃墜ではなく、自ら墜落して亡くなったと。なぜか? じつは帰還中、パイロットが疲労のあまり睡魔に襲われ、意識を失ってしまうからです。帰路、横を飛んでいる僚機がすーっと高度を下げていく。零戦には無線がないから起こすこともできない。そうして命を失った戦友の姿を、幾度も見たそうです。』
(ゼロの懸けた祖父たちの思い」渡辺昇一氏と百田尚樹氏の対談から百田氏の発言より)

感想)当時の指揮官や軍部を非難する根拠には枚挙にいとまがないが、「なんなんだろう・・・このむなしさはいったい」といった想いばかりがこみ上げてくる・・・。

2013年9月号月刊VOICE

書評: 日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方

突然だが、わたしが外国系企業で働いていたときの一場面を述べたい。

日本人の部長が日本人の部下を、大声で叱っていた。怒りが収まらなかったのか、果ては机の上にあったティッシュペーパーをまるめて投げつけていた。その光景は他の従業員からもガラス越しに見てとれた。それを見ていた1人の外国人従業員は次の日に退職届を出してきた。自分もパワハラを受けたのと同然、こんな企業で働きたくない、という理由だ。

これは日本人がグローバル企業で働く際に起きるトラブルのほんの一例に過ぎない。そして、こんな事態に陥らないための虎の巻がここにあるレビュープラス様から献本いただきました)

日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方
著者: 北山 公一
発行元: 日本実業者出版


■グローバル企業で働く上での処世術


『口べたで日系出身企業の私が、15年間のグローバル企業勤務で必死になって身につけた、人を動かす「主張」の技術』・・・帯にはこうある。本書を表すのにこれ以上的確な表現はない。200ページ弱からなるこの本には、グローバル企業での処世術が書かれている。なお、グローバル企業という言葉はやや曖昧なので補足しておくと、より正確には、外国人が多く働く環境・・・すなわち、外資系、外国系、あるいは外国に進出した日本企業の支店や子会社といった方がいいだろう。

そんな本書の中身だが、具体的にはたとえば、「結論ファーストを徹底する」という項がある。ここには、グローバル企業で働くなら、「”結論を先に行ってから理由づけをする”癖を身につけるべし」とのアドバイスが書かれている。また、「上司の指示を疑い、積極的に意見せよ」の項。ここには、「グローバル企業の上司は、部下からの意見があることを当然のことと考えているゆえ、積極的な意見を述べることが重要視される」ことなどが書かれている。

■誰もが100%経験することが書かれている


本書の特徴は、2つだ。1つは、非常に易しく読みやすい本であるという点。文中、グローバル企業に多いというマトリックス組織図の解説が入るが、難しいと言ってもせいぜいこの程度で、何の前知識がなくても読める。事実、わたしは1時間で読み終えてしまった。

そして特徴の2点目。グローバル企業で働く日本人なら、絶対に誰もが経験することばかりがカバーされている、という点だろう。私自身、外資系・外国系企業で働いたことがあるが、この本に書かれていることは全て経験している。冒頭で挙げたわたしのパワハラ経験が、まさにその証拠だ。本書にも同様に「”日本流”で叱るとパワハラ扱いされることも」という項で似たようなことが述べられている。

ただし、こうした特徴は本書の魅力であると同時に興味を失わせる理由にもなっている。どういう意味かというと、外国人が働く環境に勤めるのが初めての人には、まずもってこの本に書かれていることを間違いなく経験するわけだから、「どんな心構えで臨めばいいかを学べる」という点で本書は魅力的なのだ。一方で、そういう環境で少しでも働いたことがある人なら、(わたしのように)既に経験したことばかりが書かれているという点で、本書の意議は低いと評せざるを得ない。

■グローバル企業に初めて勤める人に


しかるに結論だが、グローバル企業(≒外国人が働く環境)で働いた経験がある人には本書は新鮮味がないだろう。本書を手にとるべき人は、グローバル企業で働くことに強い関心がある人、これから勤める予定がある人・・・たとえばグローバル企業に就職が決まった学生諸君や、グローバル企業の子会社社長として出向が決まった人など・・・であれば、参考になるだろう。きっと、冒頭に挙げたわたしの事例に登場する上司も、この本を事前に読んでいたら、従業員の1人がやめてしまう・・・という失敗を犯さずにすんだのかもしれない。


2013年8月13日火曜日

アメリカ(ケンタッキー州)&カナダ海外出張記

2013年のお盆の時期に海外出張が入った。約1週間弱のケンタッキー州&1日カナダ滞在になる。東京→シカゴ→シンシナティ(ミシガン州)→現地へ、という経路だ。

2013年8月11日(日)

東京からシカゴへのフライト内で出たJALの朝食。今、大人気のクマもんセットが出だ。つい最近、情熱大陸で、クマもんの親、クリエイター水野学氏の特集を観たばっかりだっただけに、びっくり。

なお、8月のお盆の時期にもかかわらず、シカゴのこのときの気温は18度だった。
シンシナティ空港に到着したのは午後2時半頃。わかってはいるが、日曜日の午前中に東京を出て、16時間近くかけてシンシナティに到着したのに、時間はまだ午後2時過ぎ・・・という事実に、大きな違和感を覚えた。

空港から滞在先のマリオットホテルへ移動。

滞在初日・・・の夜。現地のクライアントにステーキ屋さんに連れて行っていただいた。現地人ならだれもが知っている有名なステーキハウス、マローンズというお店。

どうせ、アメリカの肉はガムみたいなんだろ・・・と思っていたが、どうやらその認識は間違いだったみたいだ。

この店で、カラマリ(イカのフライ)と、オイスターを前菜としてオーダー。メインは、もちろん、ステーキ。

はじめてしったローカルエール。ケンタッキーバーボンビールと呼ぶらしい。アルコール度数は8%と、いっぱんのビールに比べ高い。値段も他のビールに比べるとやや高め。だが、うまい。個人的に気に入った。アメリカでは、いつもサミュアルアダムスばかり呑んでいたが、もし、手に入るのなら、今度からこれもオプションに入れたい。

2013年8月12日(月)

本日の奇妙な発見。ケンタッキー州の法令なのか、オフィスにはトルネードから避難するためのシェルター設置が義務づけられている。スペースがないので、トイレをそのままシェルターとすることが多いのだとか・・・(笑)。

本日の夕食は、日本食。橘(たちばな)というお店。居酒屋だ。

まぁまぁの値段。味も悪くない。

2013年8月13日(火)

ケンタッキー州にいる間の滞在先は Residence in Marriot。アメリカに来ると、たいてい、マリオットかヒルトンか・・・そんな選択肢になるイメージだ。

さすがアメリカ。部屋はほんっと広い。一泊約100ドル。
今日の天気もなかなか。イギリスと同じで平野がひたすら広がり山がないためか、天気はわりとめまぐるしく変わる印象だ。雨は降っても一瞬で止む。


夜はイタリアン。

アメリカらしくやや大味だが、なかなかイケる。

2013年8月15日(水)

本日のお昼は、タイ料理屋さんへ。

グリーンカレーを食す。辛さはばっちし。甘さは・・・ちょっと甘すぎたかなぁ・・・(あくまでも個人的な意見)。

しかし、これまでの脂ぎった食事と変わった風味にちょっと一息・・・。

ケンタッキー州の滞在最終日。バッファローワイルドウィングスという手羽先?・・・がおいしいアメリカンスポーツパブへ・・・。

サラダやナチョス・・・。

おいしい・・・と噂の手羽先群。ややきつい酢の味にむせたが、なかなかイケる。
夜9:00前の空。たそがれ・・・ってやつだろうか。なかなかなもの。

2013年8月16日(木)

朝から、ホテルのジムでジョギングをした。汗をかいたTシャツを急遽洗濯しなければいけなくなり、ホテルのコインランドリーを訪れた。

こちらのコインドリーは、たいてい25セントを4枚要求してくる。
本日は朝からカナダはトロントへの移動だ。ホテルからシンシナティ空港へ1時間かけて移動。搭乗口にて、自分のフライトを待った。

搭乗口で待っているときに、偶然発見したこと。こちらのペットボトルにも、キャップがおちないタイプのものが発売されている。正直、飲みにくい以外の何者でもない。

トロント空港に13:00に到着。そこからレンタカーを借りて、一路目的地へ。こちらは日中でもヘッドライトの灯火が義務づけられているそうな。対向車がみんなライトをつけているのが分かる。
アメリカ同様、広大な土地を持つカナダも、遙か彼方をみわたせる。一面に広がる雲が印象的だった。

本日宿泊予定のホテルは、Kitchenerのヒルトン系列のホテル。とても綺麗で、なによりみんな親切。もちろん、インターネットなどは無料。

夜は、地元(Waterloo)のイタリアンに。JLB(ジャネットリンズビストロの略)というレストランだ。あの有名なスケータージャネットリンのお店かとおもいきや、どうやらこの店を立ち上げたオーナーの奥さんがたまたま同じ名前だっただけらしい。

とにかくここの料理は全ておいしかった。行く予定のある人にはお勧めだ。

ちなみに、こちらがこのお店のメニュー(参考まで)。

お店のホームページは、こちら

2013年8月17日(金)

アメリカやカナダのホテルの朝食には、たいてい、ワッフルマシンがある。どうしても一回くらいは食べておきたくて、つくってみた。

見かけ以上にボリュームがあり、お腹がすぐふくれるので、気をつけられたし。

本日は、時間的余裕があるため、一路Kitchenerから、トロント市街へ向かうことに。

ちなみに朝は通勤時間帯にぶつかると激混みで要注意。普段は45分くらいの距離だが、渋滞につかまると2時間かかる。わたしのときは、休暇中の人も多かったためか、普段に比べるとややすいていた。朝7時にホテルを出発したが、8:20頃には市街へ到着した。

ちなみにタクシー代は200ドル弱といったところだ。

トロントの中心部には、MBA時代の友人が住んでいる。会わいでか・・・。彼が今年の1月に日本にきたときに会っているので、半年ぶりの再会。

市街地を散歩。真ん中に見えるのは、アルカポネも利用したという酒の工場。実際は、工場と右横の銀行の間を地下トンネルでつないでおき、アルカポネは銀行にお金を持ち込んで、そこでお酒を回収。密輸をしていたという。

トンロントの市庁舎は、過去3回くらい移設している。これが現在の市庁舎。なかなかモダンで素敵。

トロントには、船を使って20分くらいでわたれるアイランドがある。これがなかなかナイスだ。船からトロントを振り返ると、なんとなくマンハッタンにいるかのような雰囲気にさせられる。

お昼を友人のSteveと・・・トロントアイランドにて・・・。一瞬、ホリデーのような錯覚をしてしまうぐらい、穏やかで非現実感漂う和む雰囲気。

ハンバーガーを食す。
アイランドから見たトロント市街。まるで絵のような・・・ "Picturesque" とはこのこと。
なんと、アイランドの中央部には、桜の木々が植えてある。

いったいどんな経緯でだれが植えたのか・・・と思いきや、なんとSteveが率いるNPOにて植えたのだそう。題して桜プロジェクト。

桜プロジェクトをたたえたパネル。

夕方18:00トロント発シカゴ行きのフライトにあわせて、トロント空港へ。ついついアルコールに手が伸びる。
2013年8月18日(土)

シカゴ(オヘア)空港のヒルトンホテルにて一泊。このホテル、なんでもかんでも有料サービス。インターネットは1日20ドル(?)する。予約の仕方が悪かったのか、朝食もついてない。

写真は、ホテルの部屋から見た朝焼け。

シカゴ(オヘア空港)ラウンジ内でもらった朝食。朝からビールを飲むことにやや罪悪感を覚えつつ、一方で、はらわたに染み渡るアルコールに恍惚感を覚える。

これにて、今回の旅行は終了。

あまけ(パノラマ写真)

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...